- 更新日 : 2025年3月4日
電子署名とは?仕組み・やり方など、基礎的な知識をわかりやすく解説
電子署名とは、電子化された文書に対して行われる電子的な署名のことを指します。多くのメリットがあることから、電子署名がより一層重要なものとなってきています。
ここでは、電子署名の仕組みやメリットなどについて、詳しく解説します。
電子署名とは
電子署名とは、端的に言うと、紙媒体の書面で行っている署名・捺印を、電子上で行うことです。広い意味では、インターネット・メールを介してデータ上で、契約書に署名捺印を行うことを指すこともあります。
一方で、デジタル庁は電子署名について、「電磁的記録に記録された情報について作成者を示す目的で行う暗号化等の措置で、改変があれば検証可能な方法により行うもの」と定義しています。
引用:デジタル庁「電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)及び関係法令」
つまり法律上では、電子署名とは、作成者本人の確認が行われ、内容の改変のおそれがないもののことを意味していると言えます。
従来の紙媒体での契約では、本人確認や契約書の偽造・変造を防止するため、実印による押印や印鑑証明書を添付し、契約書各ページに割り印をして対応してきました。
電子署名においても同様の法的効力を持たせるために、国は第三者認証機関を設け、電子署名の制度・仕組みを整える法律を定めました。これにより、電子署名は押印や手書きの署名と同様に、信用性・正当性が保証されています。
これからのインターネット社会において、電子署名はますます重要な役割を果たすことになるでしょう。
電子署名と電子印鑑の違い
電子署名と類似した言葉に、「電子印鑑」があります。電子印鑑とは、電子化された印鑑のことです。実際の印鑑の印影をデータ化したものもありますし、電子上で本人識別情報等を含めた印鑑データも含まれます。
いずれにせよ、電子印鑑とは、電子文書で用いられる電子化した印鑑そのものを指しています。これに対して電子署名は、電子上での署名捺印の方法・仕組み全体を示しているものと言えるでしょう。
電子印鑑の詳細についてはこちらの記事もご覧ください。
電子署名と電子サインの違い
電子印鑑以外にも、電子署名と似た言葉に「電子サイン」というものがあります。電子サインとは、電子を用いた本人確認のための方法のことで、電子署名より広義の概念です。例えば、飲食店等でクレジットカードを利用した際に、店側からタブレット端末の画面上にサインを求められることがありますが、これが電子サインの代表例です。
また、動画配信の月額サービスに登録してログインする際、本人確認のためにメール認証することも電子サインの一種です。
電子署名と電子サインとの違いは、第三者認証機関の認証が必要かどうかというところです。電子署名では、法律の下で第三者認証機関が設置されていて、同認証機関による電子証明書を発行することで電子署名への信用性を高めています。
一方で電子サインは、第三者による認証ではなく、契約当事者がサイン(ログイン)する仕組みを取ることで、本人確認を図るものです。
電子サインの詳細についてはこちらの記事もご覧ください。
電子署名とタイムスタンプの違い
電子署名は、文書の作成者が誰であるかを証明し、紙の契約書における署名や押印に相当する機能を有します。一方、タイムスタンプは、その電子文書がある特定の時点で確かに存在していたことを証明するものです。
また、電子署名では文書の作成者と内容の真正性を証明できますが、作成時刻を客観的に証明できません。これに対してタイムスタンプは、国家時刻標準に基づいて特定の時点での文書の存在と内容を証明できますが、作成者を特定できないという違いもあります。
実務上では、電子署名とタイムスタンプを併用することで電子契約の完全性が強化されるため、重要な電子契約においては併用するのが一般的です。
タイムスタンプの詳細についてはこちらの記事もご覧ください。
電子署名の役割
電子署名の重要な役割として、第三者認証機関による認証等の制度により、本人が署名捺印したものであるという証明が可能なこと、署名後の改ざんのおそれがないことの2点が挙げられます。
本人確認
電子署名では、まず、文章の作成者と日時が認証機関において記録として残ります。これにより、文書を本人が作成したもので間違いないことが証明されます。
改ざん防止
電子署名が交わされた文書については、第三者がその内容を変更することができません。もし第三者が変更しようとすると警告が表示されるようになります。これにより、署名後に文書が改ざんされるリスクを回避できます。
電子署名の仕組み
電子署名の仕組みの核となるのが「公開鍵暗号方式」であり、文書のハッシュ値による同一性確認と組み合わせることで、高度な安全性を実現しています。
公開鍵暗号方式とは
公開鍵と秘密鍵は、暗号化技術において対となるペアの鍵です。秘密鍵は所有者のみが保持し、公開鍵は広く公開できます。この2つの鍵は同時に生成されますが、それぞれ異なる性質や役割を持っています。
公開鍵と秘密鍵の違いは、以下の通りです。
公開鍵 | 秘密鍵 | |
---|---|---|
保持者 | 誰でも入手できる | 所有者のみ |
公開範囲 | 一般公開 | 非公開 |
主な用途 | 署名の検証、平文の暗号化 | 署名の生成、暗号文の復号 |
管理レベル | 特別な管理は不要 | 厳重な管理が必要 |
セキュリティ | 漏洩しても大きな問題はない | 高いレベルの漏洩防止対策が必要 |
公開鍵で暗号化されたデータは対応する秘密鍵でのみ復号可能であり、秘密鍵で暗号化されたデータは対応する公開鍵でのみ復号可能です。この仕組みにより、通信の安全性が確保されています。
電子署名では、文書の作成者が自身の秘密鍵で文書を暗号化し、受信者は作成者の公開鍵を使用して文書を検証します。
電子署名の流れ
続いて、電子署名の流れについて解説します。
認証局が電子証明書を発行
電子署名の利用を始めるにあたって、まず利用者は信頼できる認証局に電子証明書の発行を申請しなくてはなりません。認証局では申請者の本人確認が厳密に行われ、完了すると電子証明書が発行されます。
電子証明書には利用者の公開鍵が含まれており、本人のものであることを証明する電子的な身分証明書として機能します。なお、公開鍵について詳しくは後述します。
電子署名の実施
電子署名を行う際、送信者はまず電子文書をハッシュ関数で圧縮し、ハッシュ値を生成します。ハッシュ値とはデータを固定長の不規則な文字列に変換した値(暗号)で、元データの指紋のような役割を果たすものです。
次に、送信者は自身の秘密鍵を使用してこのハッシュ値に署名を付与し、これが電子署名になります。その後、電子署名を付与した文書と電子証明書を受信者に送信します。
電子署名の検証
受信者側では、受け取った電子文書から新たにハッシュ値を生成します。そして送信者の公開鍵を使用して電子署名を復号し生成したハッシュ値と比較し、両者のハッシュ値が一致すればその文書が改ざんされていないことが証明されます。
この一連の検証プロセスにより、文書の完全性と送信者の真正性の確認が可能です。
電子署名のやり方
電子署名は、以下の4つの方法が一般的です。
- Adobe AcrobatでPDFファイルに電子署名する方法
- WordやExcelファイルに電子署名する方法
- メールに電子署名する方法
- 電子契約サービスで電子署名する方法
ここから、それぞれのやり方・流れを紹介します。
Adobe AcrobatでPDFファイルに電子署名する方法
Adobe Acrobatを利用して、PDFファイルへの電子署名が可能です。PDFに署名する際には、Acrobat Readerの「編集」メニューから環境設定を開き、署名の設定画面でメールアドレスと名前を入力してデジタルIDを作成しましょう。
そのうえで、以下の手順で署名します。
- PDFファイルを開き、「ツール」→「証明書」を選択
- 署名を入れたい場所を指定
- デジタルIDを選択しパスワードを入力
- 署名済みファイルを保存
WordやExcelファイルに電子署名する方法
WordやExcelといったMicrosoft Office製品で電子署名をするには、署名を入れたい場所を選択したうえで「挿入」タブから署名欄を表示させましょう。
署名タブに名前や役職、署名の説明など必要情報を入力し、署名欄をクリックして確定させると選択場所に電子署名が表示されます。
メールに電子署名する方法
Outlookなら、メール作成時に以下の手順で簡単に電子署名が付与できます。
- メール作成画面で「オプション」タブを開く
- 「暗号化」グループ内の「署名」ボタンをクリック
- 「メッセージに署名を追加」を選択
- 送信前に署名が付与されていることを確認
- 通常どおりメールを送信
電子契約サービスで電子署名する方法
公的書類など重要な書類の電子署名には、法的効力が確保できる電子契約サービスの利用がおすすめです。電子署名をする方法はサービスによって若干異なりますが、一般的な流れは以下のとおりです。
- 契約書をシステムにアップロード
- 文書内の署名箇所を指定
- 署名依頼先のメールアドレスを入力して送信
無料で電子署名する方法
前の項目で紹介した電子署名方法のうち、Adobe社が提供するPDF閲覧ソフト「Acrobat Reader」であれば、無料で電子署名の利用が可能です。Acrobat Readerは有料プランもありますが、署名機能は回数が限定されていますが無料プランで利用できます。
また、電子契約サービスのフリープランを利用する方法もあります。なお、インターネット上には無料の電子署名ツールが多数存在しますが、セキュリティ面での懸念があるため、重要な契約書には電子契約サービスがおすすめです。
マイナンバーカードで電子署名する方法
マイナンバーカードを使用して電子署名を行うには、公的個人認証サービスを利用します。公的個人認証サービスはマイナンバーカード内の電子証明書を活用し、オンラインで本人確認や文書の改ざん防止を実現する仕組みです。
e-Taxでの申告・納税、特許庁の電子出願システムでの手続き、社会保険関連手続きなどで活用できます。
パソコンを使用した方法
パソコンで電子署名を行うためには、以下を準備します。
- 電子証明書記録済みのマイナンバーカード
- ICカードリーダー
- JPKI利用者ソフト
JPKI利用者ソフトは、公的機関のウェブサイトからダウンロードでき、WindowsおよびMacに対応しています。準備後は、行政手続きサイトやJPKIソフトの案内に従い操作を進めます。
スマートフォンを使用した方法
スマートフォンを利用する場合は、ICカードリーダーが不要で、マイナンバーカード対応のNFC機能を使用します。以下の手順で進めます。
- マイナポータルアプリのインストール
- マイナンバーカードの読み取り
- 署名の実行
手続きに応じて必要な情報を入力し、パスワードを設定して電子署名を実行します。スマートフォンの場合は特別に手配するべきものもなく、より手軽に電子署名を行うことが可能です。
電子署名のメリット
電子署名を利用する具体的なメリットを以下に挙げていきます。特にアフターコロナの社会においては、リモートワークの浸透により、直接紙媒体に署名捺印する従来の形式は廃れ、電子署名の活用がさらに広がることが見込まれます。
契約業務の効率化
紙媒体の契約書の場合、自社内での決済で各部署を回ったり、契約相手方との署名捺印のために訪問や郵送をしたりなど、物理的な書類のやり取りが必要です。しかし、電子署名を用いれば、これらの手続きはすべてオンライン上で行えますので、時間や手間が減り、業務効率化に繋がります。
書類を保管する手間やスペースの削減
紙媒体の契約書は、ファイリングする手間と、ファイルを保管する場所を要します。しかし、電子署名を用いた電子契約であれば、ファイリングする手間が省け、保管スペースを大幅に削減できます。
電子署名を導入するときの注意点
電子署名の導入時には、社内フローの見直しが必要です。また、電子署名の導入について従業員に周知したうえで新しいフローの共有、必要に応じて研修なども行いスムーズな運用ができるようにしましょう。
また、取引先との調整も必要です。一部の取引先は電子契約に対応していない場合や、従来通り紙での契約書を希望する場合があります。そのため、事前に取引先と合意形成を行うことが重要です。
さらに、新たに電子署名を導入する際には、その利用方法や法的効力について取引先にも説明し、理解を得る努力が求められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
署名の関連記事
新着記事
民法90条とは?公序良俗違反となる暴利行為や判例をわかりやすく解説
民法90条は、公序良俗に反する法律行為を無効とする民法の条文です。公序良俗とは「公の秩序」と「善良の風俗」をまとめた総称であり、社会的な妥当性を欠く法律行為は民法90条をもとにその効力を否定することができます。 本記事では民法90条に定める…
詳しくみる個人情報保護法をわかりやすく解説!具体例、違反した場合の罰則、改正内容など
個人情報保護法は、個人情報を取り扱う際のルールを定めた法律です。企業は法律に基づいて個人情報を適正に取り扱う必要がありますが、具体的な内容や度重なる法改正についていけない方も多いのではないでしょうか。 本記事では、個人情報保護法の基本ルール…
詳しくみる個人情報保護法に違反した場合の罰則は?企業や従業員個人へのペナルティを解説
個人情報保護法とは、個人情報の取り扱いについて定めた法律です。違反があった際の罰則規定も定められており、近年の改正により罰則内容が強化されました。 本記事では、個人情報保護法違反があった時の罰則規定について解説します。罰則が科されるケースや…
詳しくみる仮名加工情報とは? 匿名加工情報との違いや具体例をわかりやすく解説
仮名加工情報は、一定の措置を講じて個人情報を加工し、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないようにした情報です。原則、第三者提供が禁止されている点や、他の情報と照合すれば特定個人を識別できる点で匿名加工情報とは異なります。 本稿では…
詳しくみる民法709条とは? 不法行為による損害賠償の要件や判例をわかりやすく解説
民法第709条は、不法行為にもとづく損害賠償請求権について規定している条文です。社会生活を送る上では誰しも他者に対して損害を出してしまう可能性があります。その場合に被害者が加害者に対して損害賠償をすることを認める基礎になるのが、民法第709…
詳しくみる取締役会とは?株主総会との違いや設置義務、議事録作成などの流れを簡単に解説
取締役会とは、取締役が業務執行を監督し、重要な経営判断を行う機関です。企業の意思決定機関には株主総会もありますが、それぞれの役割や権限は異なります。 本記事では、取締役会の役割や株主総会との違い、設置義務、開催手順、議事録作成の流れについて…
詳しくみる