- 作成日 : 2023年4月21日
支払停止とは?認められる要件や具体的なケースを紹介
業績が悪化し、債務超過に陥ったとき、最終的に「破産」を検討することがあります。ただ、破産手続を開始するにもいくつか要件を満たさないといけません。特に「支払停止」は重要なポイントです。
どのような行為が支払停止にあたるのか、具体例を挙げて解説していきます。
目次
支払停止とは?
破産の手続に関する「支払停止」を理解するには、破産法の内容を確認していく必要があります。まずは支払停止の定義、そしてこの支払停止が破産手続においてどのような意味を持つのか、説明していきます。
支払停止の定義
破産法上、「支払停止」は、支払能力を欠いたとして、弁済期の到来した債務につき、一般的かつ継続的に弁済できないことを外部に明示的又は黙示的に示す行為をいいます。支払停止は行為であり、状態ではありません。
ここでいう「支払能力」とは、財産・信用・労務による収入のいずれをとっても債務を弁済する能力がないことをいいます。支払能力は、支払意思と現実の資力の2つを要素としています。
また「一般的に弁済できない」とは総債務に対し債務者の資力が足りておらず弁済できないことを指し、「継続的に弁済できない」とは一時的な資力不足で弁済できなくなっているわけではないことを指しています。
破産手続における支払停止の意義
破産手続上の「支払停止」は、破産手続開始原因である支払不能を推定させます。
(破産手続開始の原因)
第十五条 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。
2 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。
破産法第15条第1項では、“債務者が支払不能にあるとき”、申立てを受けて裁判所が破産手続を開始すると規定されています。そして続く第2項で、“支払停止をしたとき支払不能にあると推定する”と規定されています。
支払不能については、下記記事で詳しく説明しています。
支払停止は破産手続が開始できるかどうかに関わる重要な行為です。
支払停止と認められる要件
法的には支払停止と認められるかどうか、その判断基準が明確に定められているわけではありません。ただ“外部への表明”をしているかどうかが重要なポイントです。つまり、内部的な意思決定だけでは支払停止には該当しません。また、単に一部の債権者に対して債務の弁済を拒絶するだけで支払停止は認められません。一般的かつ継続的な支払いができないことを示していないからです。
また、債務者の内部的な言動にとどまる場合も認められません。例えば債務者と弁護士の間で自己破産の方針を決定しただけだと支払停止にあたらないことが判示されています(最判昭60.2.14)。
支払停止と認められる具体例
支払停止が認められる行為の具体例を、「明示的な支払停止」と「黙示的な支払停止」に分けて紹介していきます。
明示的な支払停止
明示的な支払停止とは、例えば「債務の弁済ができなくなったことを通知する行為」を指します。債権者に直接知らせることまでは求められず「自社の事業所に、支払いができなくなったことを記した書面を貼り紙する行為」も明示的な支払停止にあたると考えられています。
「運転資金を削って返済にあてることができなくなったとして、金融機関に対し書面をもって支払いの猶予を求めたこと」が支払停止にあたると判断された例もあります(東京地判平9.4.28)。
黙示的な支払停止
黙示的な支払停止とは、例えば「店舗・事業所を閉鎖したこと」「廃業したこと」「社債の弁済期が到来する前に入金をしなかったこと」などが挙げられます。
また、弁護士が債務者一般に対して、債務整理開始通知を送付した行為が破産法162条1項1号イ及び3項にいう「支払の停止」に当たるとされた例もあります(最判平24.10.19)。
支払停止が認められた後の破産手続
破産の申立をすると、「債務者に破産能力があること」や「破産を妨げる事由がないこと」「申立書等に不備がないこと」、そして「支払不能状態にあるかどうか」がチェックされます。
上に挙げたような行為をすることで支払停止が認められ、その他の要件も満たすことで、裁判所により破産手続開始決定がなされます。この決定を受けると申立人は破産者となり、官報に公告されます。
破産者が有していた財産は破産財団となり、債務者が自由に処分することはできなくなります。代わりに破産管財人がその権限を握り、財産の換価や債権者への配当などを進めていきます(管財事件)。
破産者は破産管財人に状況を説明し、求められれば職務遂行のために協力をしないといけません。また、債権者集会が開かれるので、出席して事情を説明するなどの手続も必要になります。
一方で、財産がほぼ残っていない、債権者数も少なく比較的簡単に処理できる事案であると評価されたときは、破産手続開始決定とともに手続が終結することもあります(同時廃止事件)。
支払停止は外部に示すように行うことが大事
支払停止の有無は破産手続開始の要件にも関わる行為です。判例も参考にし、黙示的であってもかまいませんので、外部に示すようにして行いましょう。内部的な行為にとどまる場合、破産法上の支払停止が認められず、支払不能の推定もはたらかない可能性があります。
よくある質問
支払停止とは何ですか?
支払停止とは、支払能力を欠いたとして、弁済期の到来した債務につき、一般的・継続的に弁済できないことを外部に示す行為のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
支払停止が認められる要件は何ですか?
内部的な評価や方針決定などではなく、債権者等の外部に対し、支払能力を欠いて債務を弁済できない旨を表示することが必要です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
商標とは?登録のメリットや出願方法を解説
商標とは、自社の商品やサービスを他社のものから区別するために事業者が使用する文字・図形・記号・立体的形状・色彩・音などを指します。45種類の指定商品・指定役務から区分を選んで出願し、特許庁の審査で認められると商標権を取得できます。 この記事…
詳しくみる道路交通法とは?事業者が知っておきたい規制や改正をわかりやすく解説
道路交通法とは、交通ルール等をまとめた法律のことです。無秩序に道路を使用すると人を死傷させてしまうこともありますので、法律で共通のルールを設けているのです。 従業員による運転が事故に繋がることもありますので、道路交通法については企業において…
詳しくみる法律系資格一覧!目的別の選び方も解説
法律は社会生活の基盤であり、法律系資格はキャリア形成や専門性向上に大きな意義を持ちます。資格は専門知識の証明となり、就職、転職、キャリアアップの可能性を広げ、社会貢献にも繋がります。 しかし、弁護士、司法書士、行政書士、宅建士など種類は多岐…
詳しくみる期限の利益とは?喪失通知書が届いた際の対応も紹介
契約締結にあたり「期限の利益」が与えられることで、債務者は余裕を持って債務の履行に取り組むことができます。しかし民法の規定により、あるいは当事者間の取り決めにより、期限の利益が喪失することもあります。 そもそも期限の利益とは何か、どのような…
詳しくみる特定商取引法とは?概要や実務上の注意点をわかりやすく紹介
「特定商取引法」では特定の取引に適用されるルールを定め、クーリングオフ制度などにより消費者保護を図っています。 そこで通信販売や訪問販売など、同法で定められた特定の営業方法を行っている企業は同法の内容を理解する必要があります。当記事でわかり…
詳しくみる定期建物賃貸借契約とは?普通建物賃貸借との違いも解説!
定期建物賃貸借契約とは、建物賃貸借契約のうち「あらかじめ定めた期間満了時に更新することなく賃貸借契約が終了する」契約形態のことです。 建物賃貸借契約は普通建物賃貸借契約が一般的ですが、定期建物賃貸借契約は普通建物賃貸借契約とは取り扱いが異な…
詳しくみる