• 作成日 : 2022年11月4日

行政契約とは?意味や種類をわかりやすく解説

行政契約とは?意味や種類をわかりやすく解説

行政契約とは、行政主体が契約の当事者となり、他の行政主体や私人との間で結ぶ契約をいいます。過去には、行政契約を公法上の法律関係として私人間の契約と区別する考え方がとられることもありましたが、現在では両者の区別はせず、あくまで契約としてその意義や拘束力が検討されています。今回は、行政契約について、その意味や具体例をご紹介します。

行政契約とは

行政契約とは、地方自治体や国などの行政主体が他の行政主体または私人と結ぶ契約を指します。

ひと昔前は、行政契約を公法上の法律関係と扱い、私人間の契約と区別されていました。戦前は行政事件を専門に扱う行政裁判所が特別裁判所として存在し、その名残からこのような区別がされていたのでしょう。しかし、契約である点は同じであるのにわざわざ公法と私法に区別する実益がなく、区別の基準も曖昧であることから、現在では両者は区別されず、あくまで1つの契約としてその意義や拘束力が検討されています。

とはいえ、訴訟の手続の面でみると、行政事件訴訟法4条、39条において公法上の当事者訴訟が規定されており、行政契約を公法と私法に区別する考え方がまったくとられていないわけではありません。たとえば、行政主体を相手に裁判を起こす場合は、行政事件訴訟法や行政不服審査法といった法令が関わってきますので、その点は意識しておく必要があります。

行政主体が契約の当事者であるとはいえ、契約であることに変わりはありませんから、当事者同士の自由意思による合意にもとづいて行政契約は成立します。そのため、行政契約は行政処分のように行政主体が一方的に行う権力的作用ではなく、非権力的作用です。各当事者は対等な立場で契約を締結するので、行政主体が契約の相手だからといって過度に特別視する必要はありません。

行政契約は、主に行政主体が私人と契約を締結する場合と行政主体間で契約を締結する場合の2パターンに分かれ、判例で問題になっているのは主に前者です。

行政と私人での契約

行政主体と私人との間で結ばれる行政契約について、その種類や判例をご紹介します。この類型の行政契約は、日常生活に密接に関係しています。

行政主体と私人間での行政契約の例

この類型の行政契約の身近な例を挙げると、各自治体と住民との間で締結される上下水道供給契約があります。自治体は上下水道を整備し住民に水道を提供し、住民はその対価として水道料金を支払うという契約が締結されています(ガスや電気は民間企業が提供しているため行政契約ではありません)。他にも、市営バスなどの交通機関、市立・国立学校による教育、公民館や図書館等の公営施設、自治体が行うごみ収集なども、身近な行政契約です。
このように、住民に対し一定の物やサービスを提供する行政契約は給付行政における契約と呼ばれます。

また、公共工事を民間の建設会社に発注した際の工事請負契約も行政契約の一種です。行政主体が民間になんらかの業務を発注する際には入札など一定の手続が必要になり(会計法29条、地方自治法234条など)、公平性が担保される仕組みがとられています。また、官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律により、中小企業の受注の機会の増大も図られています。

このように、契約締結前の段階で一般的な私人間の契約と異なるルールが定められてはいますが、締結された行政契約それ自体は当事者間の合意にもとづき成立するので、私人間の契約と特別に異なるものではありません。

判例で問題となった行政契約

判例で問題となった行政契約には、ある自治体と産業廃棄物処理業者が締結した公害防止協定(公害の防止・公害発生後の事後処理を目的として,地方公共団体や住民が,企業との間で結ぶ約束)に関するものがあります。自治体は、この処理業者が公害防止協定で設定された使用期限を超えて最終処理場を利用していたため、処分場の使用の差し止めを求めて民事訴訟を提起しました。処理業者は使用継続の正当性について廃棄物処理法を根拠にしていましたが、最高裁は、この公害防止協定は廃棄物処理法の趣旨に反するものではなく、私法上の契約として、自治体の差し止め請求に法的拘束力があると判断しました(最判平21年7月10日)。

また、別の判例では、「当該契約を無効としなければ随意契約の締結に制限を加える法令の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限り、私法上無効となる」と判断されました(最判昭62年5月19日)。

これら判例のように関係法令の趣旨に照らして契約の有効性を判断する手法は、一般的な契約でもとられているものであり、行政契約が公法であるとの考え方が基になっているのではないことがわかります。

なお、公害防止協定のように、住民や民間企業に義務を課したり権利を制限したりする内容の行政契約は規制行政における契約と呼ばれることもあります。

行政主体間での契約

次に、行政主体間で締結される行政契約について解説します。前述の私人との行政契約と異なり、こちらは法令に根拠が定められています。

行政主体間の行政契約とは

日常生活で行政主体間の行政契約を目の当たりにすることはあまり多くありませんが、実は、各行政主体間での行政契約は数多く締結されています。都道府県、市、区、町、村はそれぞれ別個独立した行政主体であり(たとえば、東京都と渋谷区は別の行政主体です)、国政や地方自治は各行政主体が行政契約を締結し協力しながら行われています。

行政主体間の行政契約の例

行政主体間の行政契約の例を挙げると、地方自治体間での事務委託(地方自治法252条の14)、道路や河川の費用負担(道路法54条、55条、河川法65条、66条)、地方税の徴収の嘱託(地方自治法20条の4)は、自治体間や自治体と国との間で広く行われています。学校教育法40条を根拠に締結される学校事務の委託もポピュラーな行政契約です。法律上の仕組みとしては、行政契約により事務委託がなされた場合、委託元が有していた当該事務に関する権限は委託先に移転することになります。

他にも、地方税の課税に関する協議(地方税法第8条第1項)、普通地方公共団体での区域外での公の施設の設置・利用に関する協議(地方自治法244条の3)といった行政契約も行われています(条文上は「契約」ではなく「協議」という文言が使用されています)。

行政契約は実は身近な存在

行政契約というと難しい言葉に聞こえますが、実は身近なところで行政契約が締結されています。特に、行政主体と私人との間で締結する行政契約は、私たちの生活を支える重要な契約です。

また、行政主体から業務を受注する機会のある企業にとって、行政契約は業務内容にも直結する非常に重要な概念です。自分が締結する行政契約の仕組みや根拠となる法令を確認しておくとよいでしょう。

よくある質問

行政契約とは?

地方自治体や国といった行政主体が契約当事者となり他の行政主体または私人と締結する契約です。詳しくはこちらをご覧ください。

行政契約の種類は?

大きく分けると、行政主体間の契約と、行政主体と私人との間の契約に分類されます。後者は、その内容により給付行政における契約、規制行政における契約などといった分類がされることがあります。詳しくはこちらをご覧ください。


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