• 作成日 : 2022年10月7日

使用者責任の要件は?概要や事例などを解説

使用者責任の要件は?概要や事例などを解説

企業は従業員の行為によって第三者に損害が生じないよう、監視監督する必要があります。従業員個人が行った行為によって第三者から使用者責任を追及され、損害賠償を請求される可能性があるからです。

使用者責任は企業にとって大きな負担であるため、リスクを最小限に抑えられるよう対策を講じる必要があります。

そもそも使用者責任とは?

まず、「使用者責任」とは何なのかを整理しておきましょう。

前提として、企業はさまざまなモノ・ヒトを管理しており、これらに付随する責任を負っています。例えば安全配慮義務や、労働災害を防ぐための対策を講じる責任などです。また社内の安全などを確保するための責任だけでなく、外部の第三者に生じた損害を賠償する責任も負っています。これが使用者責任です。

端的にいえば、「従業員が職務上のミスなどで第三者に損害を与えた場合、その使用者である企業も損害賠償責任を負う」のが使用者責任です。

実際に行為を行ったのは従業員ですが、使用者責任に関する規定が定められていることにより企業も連帯責任を負います。賠償金の支払いを保証する立場ではなく、連帯責任を負う立場となるため、損害賠償請求権を行使できる債権者(被害者)は従業員と企業のいずれに対しても損害賠償を請求できます。

被害者が従業員に対して請求する前に企業に請求してきたからといって、企業は「従業員に請求してからにして下さい」と拒絶することはできません。また、賠償額の半分を支払えばよいわけでもなく、企業が全額を支払う必要があります。

使用者責任が認められる要件

使用者責任によって被害者救済は図られますが、企業としては大きなリスクを負います。そのため、どのような場合に使用者責任が認められるのか、要件を把握しておくことが大切です。

使用者責任について規定している民法第715条の内容を見てみましょう。

第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。
引用:e-Gov法令検索 民法第715条

ポイントは以下5点です。

  1. 使用者と被用者の間に使用関係があること
  2. 被用者が第三者へ加害したこと
  3. 被用者が不法行為の一般的成立要件を備えていること
  4. 被用者による加害が「事業の執行について」なされること
  5. 使用者に免責事由がないこと

それぞれについて、詳しく解説します。

使用関係がある

使用者責任が生じるためには、前提として行為者と企業が使用関係になくてはなりません。
同法第715条第1項にも、始めに「ある事業のために他人を使用する者は」とあります。

ただし、どのようなケースが使用関係にあるとされるのかを正しく知ることが大切です。直接雇用関係にある場合はもちろん、雇用契約を結んではいないものの「実質的に使用関係にある」という場合も、この前提に該当します。

この判断においては、行為者が企業の指揮監督下で動いたかどうかがポイントとなります。そこで、勤務場所・勤務時間の拘束の程度、指示に対し諾否の自由があるかどうか、労務の代替性の有無などに着目して指揮監督下といえるかどうかが判断されます。

被用者が不法行為を行った

従業員等の被用者が行った行為であれば、何でも責任を負うわけではありません。そもそも被用者自身に賠償責任が生じないのであれば、企業側にも使用者責任は生じません。

そのため、被用者が行った行為が不法行為であったといえる必要があります。
不法行為に関する損害賠償責任については、以下のように規定されています。

第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用:e-Gov法令検索 民法第709条

つまり、被用者の行為の背景には「故意」または「過失」がなければならないのです。第三者が損害を被ったとしても、被用者に故意も不注意もなかったのであれば被用者自身は不法行為責任を負わず、企業も使用者責任を負いません。

なお被用者に故意または過失があり、第三者に対する不法行為責任を負う場合は、企業に過失がなくても使用者責任を免れることはできません。

被用者の不法行為が事業の執行について行われた

被用者が不法行為責任を負うとしても、その行為が企業とは関係のないプライベートなものとして行われたのであれば、企業が責任を負う必要はありません。従業員の日常生活にまで企業が介入し、指揮監督を行っているわけではないからです。

そのため、被用者の不法行為が「事業の執行について行われた」といえる必要があります。つまり、仕事に関連して行われた不法行為でなければ、使用者責任を負わないということです。

しかしながら、使用者責任における「事業の執行」の範囲は広く捉えられているため注意が必要です。ある行為が直接的に職務の内容であるとまでいえなくても、第三者から見て職務中の行為であるように見えれば「事業の執行」であると判断されることがあります。

例えば、通勤のための自動車の運転自体は職務行為そのものではありませんが、使用者責任の規定上は事業の執行について行われたものであると考えられます。

また、勤務時間外に被用者が社用車で事故を起こしても、事業の執行にあたると判断される可能性があります。

使用者の免責事項にあたらない

同法第715条第1項の但し書きには、企業が免責される条件が記載されています。

「被用者の選任や監督に関して相当の注意をしていた」または「相当の注意をしたとしても損害が生じるのは避けられなかった」といえるのであれば、企業は使用者責任を負いません。

ただし、企業側でそれを立証しなければならないため、免責されるためのハードルはかなり高いと考えておいたほうがよいでしょう。

使用者責任が認められる具体的なケース

使用者責任が認められるケースは、以下のように多岐にわたります。

  • 交通事故:社用車での事故、マイカーで通勤中の事故などがある。
  • 詐欺:従業員がその立場を利用して第三者を欺いて、損害を生じさせることで使用者責任が発生することがある。
  • 個人情報の漏洩:従業員が顧客情報等を漏洩することで、企業に使用者責任が生じることがある。
  • 従業員同士のトラブル:事業の執行がきっかけとなった場合や、これと密接した行為であれば、社内で起こる喧嘩に関して使用者責任が生じることがある。
  • ハラスメント:従業員がその立場を利用していじめやセクハラ、パワハラなどを行った場合、企業に使用者責任が生じることがある。

このように、さまざまなシチュエーションで使用者責任が生じ得ます。使用者責任が生じる行為については明確な線引きが難しいケースが多いため、注意が必要です。

使用者責任のリスクを軽減するには

いつ企業が使用者責任を問われるかわかりません。そのため、このリスクを軽減するための対策を講じることが大切です。

予防策を講じる

使用者責任に関する予防策としては、「ルールを整備すること」「講習などを通して従業員の意識を高めること」が有効です。

特に企業の所有物の利用方法については、ルールを厳格に定めておくべきです。社用車やその他備品などを使って第三者に損害を与えた場合、業務と関係がない行為でも企業が責任を問われる可能性が高いからです。企業の所有物の利用に関してルールを整備し、勝手に使われないようにすることが大切です。

損害保険に加入する

いつ生じるかわからない使用者責任に備えて、保険に加入しておくことも有効です。「従業員数が多く、管理が難しい」「社用車や備品の利用頻度が高い」など、リスクが大きいと思われる場合は加入を検討するとよいでしょう。

損害保険の内容は商品によって異なるので、第三者に対する損害賠償をカバーできるのかどうか、どのような行為に適用されるのか、よく確認してから加入しましょう。

使用者が被用者に求償できる場合も

使用者責任に基づいて賠償金を支払った場合、その後企業が従業員等に求償できるケースがあります。上記の民法第715条第3項にも、そのように規定が置かれています。

そのため使用者責任を負ったからといって、損害を100%負担することになるとは限りません。法的に求償権が認められているので、従業員の行為が悪質だった場合は従業員個人に請求することも検討するとよいでしょう。

使用者責任に備えて体制を整えよう

使用者責任は従業員の行動に広く適用されるため、リスクを完全に失くすことは困難です。
そのため、自社の業種・業務内容だとどのような事故が起こりやすいのかを想定し、発生する可能性が高いものについては、予防策を講じておきましょう。また、想定外の事故に備えて保険に加入することや、従業員に講習を受けさせて高い意識を持たせることも大切です。

よくある質問

使用者責任とは何ですか?

使用者責任とは、従業員が行った行為について使用者である企業が負う損害賠償責任のことです。詳しくはこちらをご覧ください。

使用者責任が認められる要件は何ですか?

使用者責任が認められるには、不法行為を行った者と企業が使用関係にあり、その不法行為が業務の執行について行われたこと、企業側に免責事項が認められないという要件を満たす必要があります詳しくはこちらをご覧ください。


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