- 更新日 : 2024年8月29日
共同開発契約書とは?雛形を基に記載事項や注意点を解説
分野の違う企業や団体間で、互いの持ち味を生かし、新たな製品や技術を共同で開発することはしばしば行われます。
 共同開発ではそれぞれが持つ情報の共有や完成品の帰属など、事前に協議しておかなければならないことが多くあります。ここでは、雛形とともに共同開発契約書のガイドラインを紹介します。
目次
共同開発契約書とは
共同開発とは、新たな製品や技術、サービスなどを複数の企業や機関(以下「企業など」)が共同で開発することです。それぞれが持つ強みを提供し、相互に補強し合うことで効率的な開発が行えますし、時にはシナジー効果が生まれることが期待できます。また、単独で行う場合よりも研究費用を抑えられるでしょう。
 共同開発とよく似た言葉に「共同研究」があります。両者の明確な違いを説明するのは難しく、「共同研究開発」と呼ぶケースもあります。強いて挙げれば、「共同研究」は最終的に研究結果の報告が目的であり、「共同開発」は具体的な製品などを作り上げることが目的といえるでしょう。
共同開発契約書は互いに協力して開発を進めようとする企業などが、どのように当該開発を始め、進めていくかについて協議を行った結果、合意した内容を文書にまとめたものです。
 ちなみに「共同研究開発契約」となると、まず開発に必要な何らかの研究から始めることになるので共同作業が長期に渡ることが多く、契約条項も膨大になることがあります。
いずれにせよ、契約書における一般条項以外に、知的財産の取扱いや秘密保持など重要な条項も多くあるため、契約書の作成についても丁寧に進めていく必要があります。
共同開発契約書の雛形
共同開発契約書のテンプレートを紹介します。開発の内容や規模、当事者同士の協力方法などによって条項数は増え、より詳細な取り決めについて協議することが求められますが、この雛形は大まかな流れを掴むことを目的としているため、簡素な作りになっています。
共同開発契約書に記載する主な事項
前述のとおり、複数当事者が共同開発を行う際の契約書には、共同開発に特有の記載条項があります。開発は共同で行いますが、あくまでも別の企業としてそれぞれに利益を追求するため線引きは重要であり、記載条項は開発のガイドラインとしても役立ちます。
 共同開発契約書における主な記載事項を見ていきましょう。
共同開発の目的や期間
まずは、どのような製品や技術を生み出すための共同開発なのかを明確にします。
 (例:ビール会社とガラス製品制作会社が共同して泡立ちの良いグラスを作る)
 製品開発のため具体的な期間は、契約書であらかじめ指定しておきましょう。「納得いく製品が出来上がるまで」などとすると、どの時点が「出来上がり」なのかで知的財産などの帰属が変わることがあるため、トラブルを招くことがあります。
 期間を延長する場合は再協議の上、改めて定めましょう。
提供する技術
双方当事者が互いの技術を持ち寄って開発を進めることで課題を解決し、速やかな製品実用化を図ることが共同開発の目的ですから、どのような技術を提供するかを定める必要があります。提供技術の中に一方当事者が独自に有するノウハウがある場合、秘密保持義務についても取り決めておかなければなりません。
 また、自社の技術の提供先を曖昧にしないために、共同開発に参加する者の名簿を明らかにし、開発にかかる役割分担も決めておきましょう。
共同開発費用の負担
負担割合の多寡は成果物の帰属や製品の実用化、ロイヤリティにも関わってくるため、共同開発を行う際の費用負担の割合の取り決めも重要な項目です。設備への投資や開発にかける費用、その他経費などの負担について詳細に定めておきましょう。
開発進捗や成果の報告
特に開発に関しては具体的な結果が求められることが多いため、双方当事者は定期的に進捗状況の確認を行います。
 共同開発とはいえ、双方の担当者が常に一緒に開発に取り組むとは限らないので、担当者同士の情報交換は必要に応じてこまめに行うことが大切です。
知的財産権の取り扱い
新たな製品や技術の開発は、開発過程や生み出された成果物に知的財産権が関与することがあります。
 新たな特許などの知的財産権の申請・登録の責任者や費用負担、権利の帰属先(当事者のどちらか、あるいは開発者個人なのかなど)、ロイヤリティなどをあらかじめ定めておきます。
秘密保持義務
相手側企業の有する情報や成果物に関する情報の漏洩を避けるため、共同開発契約においては必ず秘密保持義務を双方に課します。共同開発業務終了後も、秘密保持義務が継続されることについても明記しておきましょう。
契約の解除
一般的な契約書にも「契約解除条項」が記載されますが、開発内容や当事者間の事情などで特別な解除要件について合意した場合は、それらを書き加えます。
共同開発契約を交わす際の注意点
共同開発契約を交わす際に注意しておきたい事項のうち、代表的なものを紹介します。
製造委託契約などと異なることを確認
共同開発はあくまでも双方当事者が協力し合って取り組むものであり、一方当事者が他方に対して全面的に製品開発を依頼する場合は業務(開発)委託契約となることに注意しましょう。
 契約の形態は準委任契約(民法656条)もしくは請負契約(民法632条)となり、原則として開発のための費用は委託者が負担し、成果物が生み出されれば、契約内容にもよりますが一般的には受託側が別途報酬を受け取ります。委託契約の場合、成果物に関する権利は委託者に帰属するのが一般的です。
製造委託契約は委託者が受託者に製造過程を示し、材料を提供して製品の製造を注文し、受託者が完成した製品を委託者に納めることを約す契約です。請負契約の形態となることが多く、開発行為や双方当事者の共同行為は存在しません。
収入印紙は必要?
印紙税法上、共同開発契約書は課税文書ではないため、契約書に収入印紙を貼付する必要はありません。
 ただし、名目は「共同開発」であっても、契約書の記載内容が実質的に請負にあたる業務委託であると見なされれば課税文書となり、印紙税法が適用されます。
共同開発契約書は作成までの協議を丁寧に
共同開発契約書の雛形は、今回紹介したものを含めてインターネット上にも多くありますが、開発の目的や当事者の協力体制、情報の秘密保持、権利の問題などを踏まえ、将来トラブルが発生しないよう実情に沿った契約を締結する必要があります。専門知識が必要な内容を多く含むため、各種専門家の協力を得て契約書を作成することをおすすめします。
よくある質問
共同開発契約書とは何ですか?
企業などが互いに協力して開発を進める際に、どのように当該開発事業を始め、進めていくかについて協議を行った結果、合意した内容を文書にまとめたものです。詳しくはこちらをご覧ください。
共同開発契約書にはどのような事項が記載されていますか?
共同開発の開発内容や担当者、役割・費用の分担、開発期間、成果物の帰属先、秘密保持義務、知的財産権に関する事項などが記載されます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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