- 更新日 : 2022年3月25日
商事法定利率とは?改正による廃止など
法定利率は、長い間2種類存在していました。商法による商事法定利率と、民法による民事法定利率です。現在は商法が改正され、法定利率の扱いも大きく変化して商事法定利率は廃止されました。ここでは商事法定利率とはどのようなものか、さまざまな角度から解説します。
目次
商事法定利率とは?
借入などを行う際に出てくる「商事法定利率」とは、どのようなものなのでしょうか。似た言葉に「民事法定利率」があり、両者の違いを正しく把握しておく必要があります。ここでは、商事法定利率と民事法定利率について解説します。
そもそも法定利率とは?
法定利率とは法律が定める利率のことで、原則となる民事法定利率は民法第404条で定められています。当事者が利息の算定や遅延損害金の算定に必要となる「利率」を定めていなかった場合は、法定利率が適用されます。
令和2年4月1日の民法改正前(以下、民法改正前)までは、法定利率が商法と民法にそれぞれ定められていました。商法によって定められていたのが「商事法定利率」で、民法で定められていたのが「民事法定利率」です。
民事法定利率との違い
民法改正前に存在した商事法定利率は、商行為によって生じる利率について定めたものです。対する民法改正前の民事法定利率は、商行為以外で生じる利率について定めていました。つまり、民法改正前は、利率の生じる要因によって定めている法律が異なっていたのです。
商事法定利率と利息や過払い請求との関わり
商事法定利率と民事法定利率では、定められている利率も異なっていました。商事法定利率が年6%で、民事法定利率は5%でした。商いによる取引のほうが多くの利益を生み出せると考えられるといった理由で、商事法定利率では民事法定利率よりも高い利率が設定されていたのです。
ここで問題になったのが、過払い金請求です。過払い金を請求する際は(条件によって)利息を含めて請求できますが、その際にどちらの利率を適用するかによって返還される額が変わるからです。過払い金を請求する側(消費者側)は、貸金業は商行為であるとして、利率の高い商事法定利率の適用を求めていました。しかし、最高裁の判例から民事法定利率が採用されました。
商事法定利率の適用範囲
商事法定利率が適用されるのは商行為ですが、具体的にどのような場面で適用されるのでしょうか。「商行為」は商法によって定められている言葉です。作業などによって対価を得る行為(会社員などのように賃金を得るための行為は除く)を指しますが、不動産取引などもこれに該当します。
例えば、新たなビジネスを開始する際に資金を借り入れる場面や、運転資金を借り入れる場面などが、商事法定利率が適用される商行為の例です。このような営業資金の借入では、個人・法人を問わず商事法定利率が適用されていました。
商事法定利率は商法では廃止
令和2年4月1日の民法改正で、法定利率は大きく変わりました。商事法定利率が廃止され、民事法定利率に一本化されたのです。同時に、民事法定利率は年3%になりました(ただし3年ごとに見直されます)。商事法定利率の廃止によって、商行為においても民事法定利率と同じ利率が適用されることになりました。
この時すでに、法定金利が市中金利を大きく上回っている状態が長く続いていました。民法・商法が制定された明治時代以降、法定利率が見直されていなかったからです。市中金利との乖離を解消するという目的もあり、このような改正が行われました。改正後の民事法定利率は3%ですが、この利率は3年ごとに見直されます。
改正法は令和2年4月1日より施行されたため、同日以降に生じる債権が対象になります。
施行日前に契約を締結していた場合、法改正による利率の変化は契約当事者たちの予測に反します。そこで、施行日よりも前に締結された契約や、施行日よりも前に発生した債権・債務などについては、改正前の法律が適用されることになりました。これを「経過措置」と言います。経過措置には、法改正によって廃止された商事法定利率も含まれます。そのため、施行日前に発生した債権は民事法定利率の5%または商事法定利率の6%となり、法改正後に発生した債権は一般的な契約でも商行為であっても法定利率の3%となります。
商事法定利率は商行為における法定利率。現在は民事法定利率に統一
商事法定利率とは、過去の商法が定めていた「商行為における法定利率」のことです。法定利率とは法律が定める利率のことで、契約当事者が利息の算定や遅延損害金などの算定に必要となる「利率」を定めていなかった場合に適用されます。改正前の法律では、商法で定められた商事法定利率は年6%で、民法の定める民事法定利率は5%でした。
法定利率は、令和2年4月1日に施行された改正民法によって大きく変化しました。商事法定利率は廃止され、民事法定利率に統一されたのです。民法の定める法定利率は3%となり、これは3年ごとに見直されます。民法改正前に発生した行為に基づく債権の利率については経過措置が適用されるため、法改正前の利率(商事法定利率6%・民事法定利率5%)が使われます。
商事法定利率や法定利率の改正について触れてきましたが、適用される時期と率など、ケースごとに異なります。関連する業務を取り扱いの際には、ミスのないように利率について正しく理解しておきましょう。
よくある質問
商事法定利率とは何ですか?
法定利率のうち、商行為によって発生する利率について定めたものです。企業の営業資金の借入などが該当します。なお、商事法定利率は令和2年4月1日の民法改正で廃止されました。詳しくはこちらをご覧ください。
商事法定利率と民事法定利率との違いについて解説してください。
令和2年4月1日の民法改正前の行為を原因とする債権の法定利率は、商行為によって発生する債権の場合、商事法定利率の6%となり、それ以外の債権については民事法定利率の5%となります。民法改正以降の行為に基づいて発生する債権については民事法定利率の3%となります(3年ごとに見直しあり)。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)とは? 条文や要件をわかりやすく解説
電子契約を導入するにあたっては、その法的根拠を理解する必要があります。それは電子署名法および各種の関係法令です。今回は電子署名法の概要や、電子署名の「真正性」を担保する認証業務の仕組みについて解説します。 電子署名法(電子署名及び認証業務に…
詳しくみる時効の援用とは? やり方や費用、デメリット、失敗例などをわかりやすく解説
時効の援用は、借金の債務者などが、時効の成立により借金の返済義務などの債務が消滅していることを主張することです。書類を作成して債権者に送付するだけなので、簡単に手続きできます。ただし、時効期間が経過していないのに援用してしまい、失敗するケー…
詳しくみる職務著作とは?定義と要件について解説!
会社(法人)が提供するプログラムやアプリ、冊子などの著作権を、その会社が「職務著作(法人著作)」として有していることがあります。 ここでは職務著作の定義や必要性、ある著作物が職務著作となるための要件、職務著作における注意点などについて説明し…
詳しくみる契約締結日とは?効力発生日との違いなど
契約書には、日付を記入する必要があります。この書き方が原因となって、問題になることもあります。企業活動を継続するにあたって、正しい知識を持って契約書作成実務に取り組まなければ、いつか損害を被る可能性があるのです。 この記事では「契約締結日と…
詳しくみる【2022年5月施行】宅地建物取引業法の改正点は?わかりやすく解説
近年は電子化が進んでおり、さまざまな法律がデジタルに対応できるよう改正されています。宅地建物取引業法についても同様に改正法が施行され、不動産取引の在り方が変わりつつあります。そもそも宅地建物取引業法とは何なのか、どのような法改正があったのか…
詳しくみる下請法の支払期日は60日以内!いつから起算するのか、数え方もわかりやすく解説
下請法では、親事業者は下請代金の支払期日を給付受領日から60日以内に設定する義務があります。しかし「いつから数えるのか」「例外はあるのか」といった点に戸惑う実務担当者も少なくありません。 本記事では起算日の数え方や例外、違反時の注意点を実務…
詳しくみる