- 更新日 : 2022年3月30日
併存的債務引受とは?免責的債務引受との違いやメリット・デメリットを解説
併存的債務引受では債権者と債務者の関係に、さらに引受人が加わることになります。実務上行われてきた契約ですが、近年の法改正によってルールが民法上で明文化されています。ここでは併存的債務引受のメリット・デメリットや、免責的債務引受との違いなどについて解説します。
目次
併存的債務引受(重畳的債務引受)とは?
併存的債務引受(重畳的債務引受)とは、「債務者の債務を免脱させずに、引受人が債務者の債務と同じものを引き受ける」契約のことです。近年の民法改正によって条文化されました。
例えば、債権者Aの債務者Bに対する1,000万円の債権について、引受人となる者Cが、債務者Bと一緒に債務者となる契約(併存的債務引受)を結びます。これによって引受人は、債務者と連帯して同一の債務を負担することになります

併存的債務引受の効果を生じさせるには、以下の3つのいずれかを行う必要があります。
- 債権者と債務者、引受人になる者の三者による合意
- 債権者と引受人になる者が契約を締結する
- 債務者と引受人になる者が契約をし、さらに債権者が承諾する
1.は当事者全員による合意があるため当然成立しますが、2.では債務者の意思とは関係なく成立します。これは、債務者にとって不利益がないことと、併存的債務引受が保証と同様の機能を持つことに由来します。債務者の意思に反したとしても、併存的債務引受を成立させることは可能です。これに対し、債務者と引受人となる者が契約をする3.では、債権者の承諾が不可欠です。
併存的債務引受と免責的債務引受の違い
併存的債務引受と比較しつつ、「免責的債務引受」についても確認しておきましょう。
免責的債務引受でも、引受人が債務者の持つ債務と同様の負担をする点は共通しますが、「元の債務者が債務から免れる」という点が大きく異なります。
債権者Aが債務者Bに対して1,000万円の債権を持っている場合、併存的債務引受であれば引受人Cと債務者Bのいずれにも弁済の請求ができますが、免責的債務引受では引受人Cに対してしか請求できません。
「元の債務者が免責され、引受人と共に連帯債務者にはならない」という大きな違いの他にも、以下のような違いがあります。
- 成立要件(債権者と引受人となる者による契約の場合では、債権者から債務者への通知を要する)
- 債務者が独自に反対債権を持っていたとしても、引受人は債権者からの請求を拒めない
- 引受人が債務者に対して求償できない
- 免責される債務に設定された担保につき、引受人が負担する債務に移転ができる(設定した者が引受人以外の場合には承諾必要)
なお、求償に関しては債務者・引受人間で別途「支払請求できる」との合意があれば、引受人から債務者に対する請求は可能です。
このような合意がなかったとしても、債務者の委託に基づく免責的債務引受であれば、委任事務処理費用として償還請求が可能です
併存的債務引受後の連帯責任について
併存的債務引受では、免責的債務引受のように債務者が契約関係から離脱せず、引受人と共に連帯責任を負います。
よって債権者は、債務者と引受人のいずれに対しても全額を請求できます。
債務者と引受人の関係においては、いずれかが弁済をした場合は他方の連帯債務者に対して求償ができます。弁済が全額でなくても、連帯債務者間で定めた自己の負担割合を超えない場合であっても、求償は可能です。
例えば、1,000万円の連帯債務を負担している場合(負担部分は500万円ずつ)において、債務者が300万円を支払ったとします。この場合の支払は負担部分を超えていませんが、支払った債務者は引受人に対して150万円の求償ができます。
併存的債務引受では連帯債務関係が生じるため、その他の連帯債務者間に適用されるルールがその後当事者三者に適用されることになります。
この記事をお読みの方におすすめのガイド4選
この記事をお読みの方によく活用いただいている人気の資料・ガイドを紹介します。すべて無料ですので、ぜひお気軽にご活用ください。
※記事の内容は、この後のセクションでも続きますのでぜひ併せてご覧ください。
電子契約にも使える!契約書ひな形まとめ45選
業務委託契約書や工事請負契約書…など各種契約書や、誓約書、念書・覚書、承諾書・通知書…など、使用頻度の高い45個のテンプレートをまとめた、無料で使えるひな形パックです。
実際の契約に合わせてカスタマイズしていただきながら、ご利用くださいませ。
【弁護士監修】チェックリスト付き 改正下請法 1から簡単解説ガイド
下請法の改正内容を基礎からわかりやすく解説した「改正下請法 1から簡単解説ガイド」をご用意しました。
本資料では、2025年改正の背景や主要ポイントを、弁護士監修のもと図解や具体例を交えて解説しています。さらに、委託事業者・受託事業者それぞれのチェックリストを収録しており、実務対応の抜け漏れを防ぐことができます。
2026年1月の施行に向けて、社内説明や取引先対応の準備に役立つ情報がギュッと詰まった1冊です。
【弁護士監修】法務担当者向け!よく使う法令11選
法務担当者がよく参照する法令・法律をまとめた資料を無料で提供しています。
法令・法律の概要だけではなく、実務の中で参照するケースや違反・ペナルティ、過去事例を調べる方法が一目でわかるようになっています。
自社の利益を守るための16項目 契約書レビューのチェックポイント
契約書レビューでチェックするべきポイントをまとめた資料を無料で提供しています。
契約書のレビューを行う企業法務担当者や中小企業経営者の方にもご活用いただけます。
併存的債務引受のメリット
債権者にとっては請求先となる債務者が増えるため、債権を回収しやすくなるというメリットがあります。保証人が付く場合と近い状態になりますが、保証の場合は主債務者に対して先に請求することが念頭に置かれていることもあり、併存的債務引受には比較的自由に請求先を選びやすくなるというメリットもあります。
弁済の責任を複数人で負うことになるため、債務者にも実質的な負担が軽減されるというメリットが生じます。また、債権者に対する信用力が上がるという意味でもメリットがあります。
併存的債務引受のデメリット
引受人にとっては債務の負担することになるため、その意味ではデメリットがあるとも考えられます。
ただし、引受人は債務を負担した時点で「債務者が債権者に対して持っていた抗弁」をもって、債権者に対抗することができます。
例えば、債務者が債権者に対して同時履行の抗弁権を持っているような場合です。ある物の引渡しと同時にお金を支払うという約束をしている場合は、債権者から支払を求められたとしても債務者は引渡しがないことを理由に履行を拒むことができます。この場合、引受人も債務者に対して物の引渡しがないことを理由に支払を拒めます。
債務者が債権者に対して反対債権を持っている場合は相殺できることがありますが、他の連帯債務者はその負担部分の限度で履行を拒むことができるだけでなく、「契約がすでに取り消されている」「契約が解除されている」「債務が不成立」「すでに弁済があった」といったことを理由とする抗弁もできる可能性があります。
さらに、併存的債務引受を「債務者と引受人の契約+債権者の承諾」によって成立させた場合(上記の3.のパターン)は「引受人が、債務者に対して主張できる抗弁」をもって債権者に対抗することも可能です。
引用:民法|e-Gov法令検索
しかしながら、債務者が債権者に対して持っている取消権や解除権に関しては、そのまま行使することはできません。引受人は同一内容の債務を引き受けるにとどまり、契約上の地位を有するわけではないからです。ただ、債務者が取消権や解除権を行使すれば引受人の債務も消滅する関係にあることから創設的に履行拒絶権を認め、債務の履行を「拒むことができる」という扱いになっています。なお、三者の合意による三面契約をすることで契約上の地位を移転し、解除権や取消権を行使することは可能です。
また、原債務の時効消滅による効果は引受人には及ばないため、原則として引受人はその恩恵を受けられません。
併存的債務引受と免責的債務引受の違いを意識しておこう
併存的債務引受に関しては、免責的債務引受との違いや、引受人が行使できる権限について理解しておくことが大切です。特に引受人となる場合は、債務者と並んで連帯責任を負うことになるため、慎重に判断する必要があります。
債権者側は債権の回収先が増えることになるため、メリットが大きいといえます。ただし、資力のない引受人と免責的債務引受を成立させると回収できなくなるおそれがあるので、債権者も併存的債務引受と免責的債務引受の違いは理解しておくべきでしょう。
よくある質問
併存的債務引受とは何ですか?
併存的債務引受とは、引受人が債務者の債務と同じものを引き受けて、連帯債務関係を生じさせる契約のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
併存的債務引受と免責的債務引受の違いは何ですか?
併存的債務引受では債務者と引受人が連帯債務者になりますが、免責的債務引受では債務者が債務から離脱し、引受人のみが債務の責任を負うことになります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
契約の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
民法541条とは?催告の相当期間はどのくらい?契約解除の手続きをわかりやすく解説
民法第541条は、契約の相手方が債務を履行しない場合に、相当の期間を設けたうえで契約解除を可能にする規定です。具体的に「相当の期間」とは、どのくらいなのでしょうか?本記事では、民法第541条の概要や適用ケース、契約解除の手続き、関連する判例…
詳しくみる諾成契約とは?法的な定義や成立要件、事業者が注意すべき点を解説
諾成契約とは、当事者同士が合意の意思表示をすることで成立する契約です。物の引き渡しのような給付があって成立する要物契約とは違って、意思表示のみで契約が成立します。本記事では、企業の法務担当者に向けて、諾成契約とは何かや法的な定義、具体例、民…
詳しくみる電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律)とは? 条文や要件をわかりやすく解説
電子契約を導入するにあたっては、その法的根拠を理解する必要があります。それは電子署名法および各種の関係法令です。今回は電子署名法の概要や、電子署名の「真正性」を担保する認証業務の仕組みについて解説します。 電子署名法(電子署名及び認証業務に…
詳しくみる商法と会社法の関係は?新旧対照表で改正のポイントをわかりやすく解説
商法と会社法の関係性を理解することは、企業の設立や運営に欠かせません。本記事では、平成17年改正・令和元年改正を中心に、実務で押さえておきたいポイントをわかりやすく解説します。 商法とは 商法(明治32年法律第48号)とは、日本における商事…
詳しくみる著作権法とは?概要と事業者が注意すべきポイントをわかりやすく解説
音楽や美術、小説、映像等の作品は著作権法によって取り扱い方法等が制度化されています。著作権法に基づく権利を害する形で著作物を利用することは許されず、企業活動においても留意しないと損害賠償請求を受けるおそれがあります。 具体的に何に気をつける…
詳しくみる意匠法改正まとめ – 2020年施行と2021年施行を解説!
意匠法は、知的財産権の1つである意匠権を保護するための法律です。時代に合わせて変化を続けており、最新の改正意匠法は2019年に公布され、2020年と2021年に施行されました。 今回は意匠および意匠権を含めて、意匠法の概要についてご説明しま…
詳しくみる


