• 作成日 : 2025年11月11日

工事請負契約書がない工事は違法?リスクや対処法を解説

「工事請負契約書がないけれど、このまま工事を進めても大丈夫だろうか?」と不安に感じていませんか。小規模な工事や、付き合いの長い取引先との間で、口約束だけで工事が進んでしまうケースは少なくありません。しかし、工事請負契約書を交わさないことは、建設業法に違反する可能性があり、深刻なトラブルの原因となります。 この記事では、工事請負契約書の重要性から、契約書がない場合の違法性、具体的リスク、そして今すぐ取るべき対処法までを、

工事請負契約書がない工事は違法になる?

工事請負契約書(または法定事項を記載した書面)がない場合、建設業法第19条が定める書面交付義務の違反に該当する可能性があります。

建設業の許可の有無や工事の規模にかかわらず、建設工事の請負契約の当事者には、建設業法第19条に基づき契約書面を相互に交付する義務があります。ただし、違反した場合の監督処分(指示や営業停止など)の主な対象は、建設業の許可を受けた「建設業者」となります。

建設業法で契約書の作成・交付が義務付けられている

建設業法第19条第1項では、以下のように定められています。

建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

引用:建設業法 | e-Gov 法令検索

このように、法律で明確に書面契約が義務付けられています。500万円未満(建築一式工事は1,500万円未満)といった、建設業の許可が不要な「軽微な建設工事」であっても、この書面交付の義務は免除されません。

ただし、災害時の応急工事などやむを得ない事情がある場合は、着工前に交付するという原則に時期的な例外が認められており、事後に速やかに書面を整備する必要があります。

民法の原則より建設業法が優先される

日本の民法では、当事者の意思が合致すれば口約束だけでも契約が成立する「諾成契約(だくせいけいやく)」が原則です。

しかし、金額が大きく専門的な建設工事では、この原則に頼ると「言った、言わない」といったトラブルが後を絶ちません。このような事態から発注者と受注者の双方を保護するために、特別法である建設業法が民法の原則に優先して適用されます。

建設業法第19条では、契約内容を必ず書面にし、署名または記名押印をして相互に交付することを明確に義務付けています。

民法上、契約は口約束でも成立しますが(民法第522条)、建設工事においては、それとは別に建設業法で契約内容を書面にして交付する行政上の義務が定められています。この二つは別のルールと理解することが重要です。つまり、契約自体は有効でも、書面を交わしていないことで建設業法違反に問われる、という関係になります。

法律契約の成立要件適用範囲
民法当事者の意思の合致(口約束でも可)一般的な契約
建設業法書面の作成・交付が必須建設工事の請負契約

なぜ法律で厳しく定められているのか?

法律で契約書の作成が厳しく定められている背景には、主に3つの目的があります。

  1. トラブルの未然防止
    • 工事内容、金額、工期などを事前に書面で確定させることで、「言った、言わない」という曖昧さから生じるトラブルを防ぎます。
  2. 当事者間の権利・義務の明確化
    • 発注者と請負者、双方の権利と義務を明確にし、対等な立場で契約を履行できるように保護します。
  3. 工事の適正な施工の確保
    • 契約内容が明確になることで、手抜き工事や不当な要求を防ぎ、工事が適切に行われることを担保します。

安易に「いつも取引している相手だから大丈夫」「小規模な工事だから必要ない」と判断し、契約書を省略することは、法律違反のリスクを自ら負うことに他なりません。これは、大規模な新築工事だけでなく、個人の住宅リフォームのような比較的小規模な工事であっても同様に適用されます。

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工事請負契約書とはそもそもどのような書類?

工事の内容や請負代金などを明確にし、当事者間の合意を証明する重要な書類です。法律では「工事請負契約書」という特定の名称や様式が定められているわけではありませんが、記載すべき事項(法定記載事項)と、それらを記した書面を相互に交付する義務が定められています。実務上は「注文書・請書」の形式で交わされることもあります。

建設工事におけるトラブルを未然に防ぎ、万が一トラブルが発生した際に解決の指針となるのが工事請負契約書です。建設業法第19条に基づき、建設工事の請負契約の当事者は、契約の締結に際して法定の事項を記載した契約書を相互に交付することが義務付けられています。これは、工事の規模や金額の大小にかかわらず、すべての建設工事に適用される原則です。「言った、言わない」といった水掛け論を防ぎ、当事者双方の権利と義務を保護するために不可欠なものと言えるでしょう。

工事請負契約書を交わさないとどのようなリスクがある?

工事請負契約書を交わさないで工事を進めると、建設業法違反による監督処分や罰則のリスクだけでなく、代金未払いや追加工事の費用負担といった、経営に直接的な打撃を与える深刻なトラブルに発展する危険性があります。

契約書がない状態は、いわば「証拠がない」状態です。これにより、当事者間で認識の齟齬が生じた際に、自社の正当性を主張することが非常に困難になります。

違法性、法律違反による罰則のリスク

工事請負契約書を交わさないことは、建設業法第19条違反に該当します。これに違反した場合、監督処分の対象となる可能性があります。

主な処分は、、法令違反を是正するための具体的な措置を講じるよう指示される「指示処分」です。 「営業停止処分」や「許可の取消処分」は、原則として建設業の許可を受けた事業者に対する処分です。無許可の事業者に対しては、刑事罰や営業禁止の処分といった異なる規律が適用される場合があります。

発注者からの信頼を失うリスク

契約書を省略する姿勢は、コンプライアンス意識の欠如と見なされ、発注者の信頼を大きく損ないます。

適切な契約書を交わさないことは、法的なリスクだけでなく、ビジネスの根幹である「信頼関係」を揺るがす行為です。発注者は以下のような不安や不信感を抱く可能性があります。

  • 「なぜ書面を交わしてくれないのだろう?何か隠しているのか?」
  • 「トラブルが起きたとき、誠実に対応してくれないかもしれない」
  • 「法律を守らない会社に、大切な工事を任せて大丈夫だろうか?」

一度抱かれた不信感を払拭するのは非常に困難です。たとえ工事の品質が良くても、その後の取引が続かなくなったり、悪い評判が広まったりする原因にもなりかねません。誠実な企業姿勢を示す上で、契約書の締結は不可欠なプロセスです。

住宅ローン審査が通らないリスク

金融機関から住宅ローンを借りて工事費用を支払う場合、工事請負契約書は審査の必須書類です。金融機関は、契約書を通じて以下の点を確認し、融資の可否を判断します。

  • 工事の存在と内容の確認:融資が、申請通りの実在する工事に使われることを確認します。
  • 請負代金の総額の確認:融資希望額が、実際の工事費用に基づいていることを確認します。
  • 支払い条件の確認:着工金・中間金・最終金など、工事の進捗に合わせていつ、いくら支払う必要があるかを把握し、融資実行のスケジュールを立てます。

そのため、工事請負契約書がないと、融資の実行が困難になったり、本審査が通らなかったりする大きな要因となります。 多くの金融機関では、正式な申込時や融資契約時には工事請負契約書の提出が必須ですが、事前審査の段階では見積書などで代用できる場合もあります。ただし、最終的に契約書がなければ融資は実行されないため、いずれにせよ不可欠な書類です。

これは、工事を依頼する発注者(施主)が資金を確保できないことを意味し、結果的に請負業者にとっても代金を回収できないという致命的な事態に直結します。

確定申告で経費が認められない・控除が受けられないリスク

工事請負契約書は、税務上の「その取引が事実であることを証明する書類(証憑書類)」として極めて重要な役割を担います。

  • 法人や個人事業主の場合:工事費用を経費として計上する際、契約書はその支出の正当性を証明する根拠となります。契約書は、工事費を経費として証明する重要な証拠です。これがないと、請求書領収書だけでは取引の正当性を示す難易度が上がり、税務調査で経費として認められないリスクが高まります。
  • 個人の場合住宅ローン控除などを受ける際、注文住宅なら「工事請負契約書」、建売住宅なら「売買契約書」といったように、取得形態に応じた契約書の提出が求められます。書類がなければ、控除が受けられない可能性があります。

金銭や工事内容をめぐる紛争リスク

法律違反のリスクに加え、現場では以下のような金銭的・時間的損失につながるトラブルが発生しやすくなります。

デメリットの種類具体的なトラブルの例
工事内容・範囲の曖昧化「これも契約の範囲だと思った」と、追加費用なしでの作業を要求される。<br>・仕様や材料について後から変更を求められ、費用負担で揉める。
代金の未払いや支払い遅延約束の期日になっても代金が支払われない。<br>・請求した金額に対し、「そんな金額で合意していない」と支払いを拒否される。
工期の遅延に関する責任問題天候不順や資材納入の遅れなど、不可抗力による工期遅延の責任を一方的に負わされる。<br>・遅延損害金について、契約上の根拠なく請求されたり、逆に請求できなかったりする。
瑕疵(かし)担保責任の不明確化工事完了後に発見された欠陥について、保証期間や範囲が不明確で対応を拒否される。<br>・どこまでが無償修理の範囲なのかで対立する。
事故発生時の責任の所在工事中に事故が発生した場合の責任分担が不明確で、保険の適用などで問題が生じる。

これらのトラブルは、裁判に発展するケースも少なくありません。しかし、契約書という客観的な証拠がなければ、自社の主張を証明することは極めて難しくなります。

工事請負契約書がないことに気づいた場合どう対処する?

工事の進捗状況に関わらず、気づいた時点ですぐに当事者間で協議し、合意内容を書面化することが最も重要です。状況に応じて、作成する書面の形式や専門家への相談を検討しましょう。

契約書がないことに気づいたら、問題を先送りにせず、迅速に行動することが被害を最小限に食い止める鍵となります。

工事が始まる前の場合

最も理想的な状況です。正式な工事請負契約書を作成し、双方が署名または記名押印してから工事を開始してください。

工事がすでに始まっている場合

すでに工事が進行中であっても、諦めてはいけません。遅れてでも契約書を締結することが望ましいです。もし相手方が正式な契約書の締結に難色を示す場合は、最低限、ここまでの合意内容をまとめた「合意書」や「覚書」といった形で書面を作成し、双方で署名・押印しましょう。 記載すべき項目としては、少なくとも以下の点は網羅してください。

  • 当事者(発注者・請負者)の氏名・名称
  • 工事内容
  • 請負代金の額
  • 工事着手および完成の時期
  • 支払い方法と時期

これまでの打ち合わせの議事録やメール、見積書なども、後の証拠となり得るので大切に保管しておきましょう。

工事完了後、またはトラブル発生後の場合

この段階での対応は非常に難しくなります。当事者間での話し合いによる解決が困難な場合は、専門家の力を借りることを強く推奨します。

  • 証拠の収集
    • 契約の存在や内容を推測できる資料をすべて集めます。
    • (例、見積書、発注書、請求書、領収書、メールのやり取り、図面、仕様書、打ち合わせの議事録など)
  • 専門家への相談
    • 建設問題に詳しい弁護士に相談し、法的な観点からアドバイスを受けましょう。代理人として相手方との交渉を依頼することも可能です。
  • 公的機関の利用
    • 裁判外の紛争解決手続(ADR)として、各都道府県に設置されている「建設工事紛争審査会」の利用も有効な選択肢です。専門の委員が間に入り、あっせん、調停、仲裁によって紛争の解決を図ります。審査会には、国土交通省に設置される「中央建設工事紛争審査会」と、各都道府県に設置される審査会があります。どちらに申請するかは、当事者の建設業許可の区分などによって異なります。

トラブルが発生してからでは、解決にかかる時間も費用も大きくなります。そうなる前に、書面での契約を徹底することが何よりも大切です。

追加変更工事でも工事請負工事は必要?

追加・変更工事の際も、書面による契約の締結が建設業法第19条2項で義務付けられており、必ず必要です。当初の契約内容から工事を追加・変更する際は、変更契約書や変更合意書を交わさなければ、この条項に違反する可能性があります。

口頭での指示や簡単なメモだけで追加・変更工事を進めてしまうと、後から「頼んでいない」「その金額は聞いていない」といったトラブルに発展する典型的な原因となります。

追加・変更工事を行う際は、以下のいずれかの方法で必ず書面を残してください。

  • 変更契約書を新たに作成する
  • 「変更合意書」「覚書」など、追加・変更内容、金額、工期を明記した書面を作成し、双方が署名または記名押印する

軽微な変更であっても、書面を交わす習慣を徹底することが、無用な紛争を避けるための最善策です。

契約書の不備は、会社の信頼を揺るがす大きな問題

工事請負契約書がない状態で工事を進めることは、建設業法に違反する行為であり、絶対に避けるべきです。契約書を交わさないことは、代金未払いなどの直接的な金銭トラブルだけでなく、行政処分によって事業の継続が困難になるという重大なリスクをはらんでいます。

もし現在、工事請負契約書がない案件を抱えている場合は、本記事で紹介した対処法を参考に、速やかに合意内容の書面化を進めてください。そして今後は、工事の規模や金額にかかわらず、必ず着工前に契約書を締結する業務フローを社内で徹底することが、会社と従業員を守るための最善策となります。


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