- 作成日 : 2025年11月11日
建設業法の電子契約はグレーゾーン?法改正後の現状と適法に進めるための要件を徹底解説!
建設業界においても、業務効率化やコスト削減の観点から電子契約への関心が高まっています。しかし、建設業法との関連で「適法なのか?」「まだグレーゾーンなのではないか?」といった不安を抱く方も少なくありません。かつては解釈が曖昧な部分もありましたが、建設業法では2001年の改正で電子契約の基礎が導入され、近年は政府見解やガイドラインによってクラウド型サービス等の扱いがさらに明確化されています。
本記事では、建設業法における電子契約の現在の法的立ち位置、もはやグレーゾーンではない理由、そして適法に導入・運用するための具体的な要件や注意点について、専門家の視点から分かりやすく解説します。
目次
建設業法の電子契約はグレーゾーンなのか?
現在の建設業法では、電子契約はもはやグレーゾーンではなく、定められた要件を満たすことで適法な書面交付の代替手段として認められています。法改正とそれに伴う解釈の明確化によって、事業者が安心して電子契約を導入できる環境が法的に整備されました。
契約そのものの有効性は民法第522条2項(契約方式の自由)で担保されており、建設業法上の書面交付義務についても、同法第19条3項の規定とクラウド型電子署名の法的有効性を示した「三省Q&A(2020年9月公表)」により、その法的根拠が明確になっています。
出典:民法 | e-Gov 法令検索
出典:利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により 暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A|三省
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かつて建設業法の電子契約がグレーゾーンと言われた理由とは?
かつて建設業法の電子契約がグレーゾーンと言われていたのは、建設業法第19条1項が契約の締結に際して「書面」を作成し、署名または記名押印して相互に交付することを義務付けていたためです。
この「書面」に電子データが含まれるのかどうかの解釈が、法律上明確ではありませんでした。そのため、電子契約を導入したくても、法令違反のリスクを懸念する事業者が多く、長らく「グレーゾーン」と認識されてきたのです。万が一、書面交付義務違反とみなされた場合、建設業法第28条に基づく指示・営業停止処分などの監督処分や罰則の対象となる可能性がありました。
法改正で変わったこと
2001年(平成13年)の法改正で、相手方の承諾と技術的基準を満たせば、電子的な方法(電磁的措置)が書面交付の代わりとみなされる制度が導入されました。近年、その運用ルールがより明確化されています。
具体的には、建設業法施行規則第13条の4が改正され、契約内容を電子データで提供する際のルールが定められました。これにより、一定の技術的基準を満たした電子データを提供した場合、法律上の「書面」を交付したものと「みなされる」(建設業法第19条3項)ことが明確になり、事業者は安心して電子契約を導入できる環境が整ったのです。
なお、後述の通りタイムスタンプは原本性を確保する有力な手段の一つですが、法令上の必須要件ではありません。
| 改正前(グレーゾーンとされた理由) | 改正後(適法化) |
|---|---|
| 「書面」の交付が義務付けられていた | 発注者の承諾があれば「電磁的措置」(電子契約)が可能に |
| 電子データが「書面」に該当するか不明確 | 電子署名法に準拠した電子署名等で適法性が担保される |
| 法令違反のリスクが懸念されていた | 適法に電子契約を導入できる環境が整備された |
法改正への布石となったグレーゾーン解消制度
2023年の法改正で全面的に適法化される以前、一部の電子契約サービス事業者は「グレーゾーン解消制度」を活用していました。これは、事業者が国の制度のもとで、自社のサービスが適法かどうかを監督官庁(この場合は国土交通省)に直接照会し、回答を得られる制度です。
実際に、複数の事業者がこの制度を通じて「自社の提供する電子契約サービスは、建設業法第19条が求める要件を満たす」という旨の回答を国土交通省から得ていました。この個別の確認が、建設業界全体での電子契約活用の流れを後押しし、後の法改正による全面的なルール明確化へとつながる重要な布石となったのです。
建設業法に準拠した電子契約を導入するための要件とは?
建設業法に準拠した適法な電子契約を行うためには「相手方(発注者)からの事前の承諾」「定められた技術的基準の充足」という2つの要件を必ず満たす必要があります。
これらの要件は、建設業法施行規則第13条の4第2項に具体的に定められており、電子契約の有効性を担保するための重要なルールです。
要件1. 相手方(発注者)からの承諾
電子契約を締結する前に、必ず契約の相手方(工事の場合は発注者)から、電磁的方法で契約内容の提供を受けることについて承諾を得なければなりません。
この承諾は、建設業法施行令第5条の5に基づき「書面または電磁的方法」で取得する必要があり、口頭のみでの承諾は認められていません。
- 承諾の取得方法:
- 電子メールでのやり取り
- Webサイト上の同意フォーム
- 別途作成した承諾書(紙または電子)
- 注意点:
- 承諾を得る際は、建設業法施行令第5条の5に基づき、用いる電子契約サービスの種類や「ファイルへの記録の方式」(例:PDF形式)といった内容を相手方に明示する必要があります。
- 相手方が「承諾しない」と意思表示した場合は、電子契約を強制することはできず、原則通り「書面」の交付(実務上は多くの場合、紙の契約書)をしなければなりません。
- 取得した承諾の記録は、契約書本体と同様に適切に保管してください。
【承諾依頼メールの文例】
件名:【株式会社〇〇】工事請負契約の電子化(電子契約)に関するご協力のお願い
株式会社△△ 御担当者様
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。 株式会社〇〇の〇〇です。
さて、この度の「(工事名)」の工事請負契約につきまして、迅速な契約締結と印紙税等のコスト削減を目的として、電子契約サービスを利用したく存じます。
つきましては、本契約を書面の交付に代えて、電磁的方法(PDF形式の電子契約書)により締結することにご承諾いただけますでしょうか。
大変お手数ですが、本メールへのご返信をもちまして、ご承諾の確認とさせていただけますと幸いです。ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
何卒、ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。
要件2. 3つの技術的基準の充足
建設業法施行規則では、書面の代わりに用いる電子データが満たすべき技術的基準として「見読性」「原本性」「本人性」の3つを定めています。
- 見読性の確保(読めること):パソコンの画面等で内容を明瞭に確認でき、かつ印刷できる状態であること。
- 原本性の確保(改ざんされていないこと):作成された電子データが改変されていないかを確認できる措置を講じていること。電子署名やタイムスタンプの付与は、この原本性を確保するための代表的な手段ですが、法令で必須とされているわけではありません。
- 本人性の確保(誰が作成したか):その電子データが誰によって作成されたかを確認できる措置を講じていること。電子署名法第3条の推定効(※)が働く電子署名を用いるのが最も確実ですが、サービスによっては二要素認証などを補完策として本人性を担保するケースもあります。
(※)電子署名法第3条の推定効とは「真正な成立の推定」とも呼ばれ、本人による所定の要件を満たす電子署名がされた電子文書は、本人の意思によって本物として作成されたものと法的に推定する効力のことです。紙の契約書における実印のように、法的に強い証拠力を持ちます。万が一、契約の有効性が裁判などで争われた際に、契約が本物であると強く推定されるため、非常に重要な意味を持ちます。
建設業界で電子契約を導入するメリット・デメリット
最大のメリットは印紙税をはじめとする大幅なコスト削減と契約業務のスピードアップです。一方で、デメリットとしては導入コストや取引先の協力が必要な点が挙げられます。
電子契約は、物理的な紙や郵送プロセスをなくすことで、多くの企業でコスト削減と業務効率化を実現しています。これは、契約金額が大きくなりがちな建設業界において、特に大きな効果が期待できるためです。
建設業界で電子契約を導入する5つのメリット
- 印紙税の削減:建設工事請負契約書は印紙税法上の課税文書であり、契約金額に応じて高額な収入印紙の貼付が必要です。しかし、紙の課税文書を作成・交付しない電子契約は、印紙税法上の「文書」に該当しないため、印紙税が非課税となります。例えば、5,000円の収入印紙が必要な契約(※契約金額500万円超~1,000万円以下の場合)を月に50件電子化すれば、印紙税だけで月25万円のコスト削減につながる可能性があります。
- 業務効率化とリードタイム短縮:製本、押印、郵送、返送、保管といった一連の作業が不要になります。契約相手が遠隔地にいても即座に契約締結が可能となり、工事着手までのリードタイムを大幅に短縮できます。
- コンプライアンスとセキュリティの強化:電子署名とタイムスタンプにより、契約の改ざんを防止できます。また、契約書の紛失や盗難のリスクも低減され、閲覧権限の設定により内部統制も強化できます。契約締結日や有効期限の管理も容易になります。
- 書類管理コストの削減と検索性の向上:物理的な保管スペースが不要になるため、倉庫代やキャビネット費用を削減できます。また、過去の契約書もキーワードや日付で簡単に検索でき、必要な情報をすぐに見つけ出すことが可能です。
- 多様な働き方への対応:インターネット環境があればどこからでも契約業務を行えるため、テレワークやリモートワークといった柔軟な働き方を推進できます。
建設業界で電子契約を導入する3つのデメリットと対策
- 導入・運用コスト
- 課題:電子契約サービスの利用には、初期費用や月額料金がかかります。
- 対策:削減できる印紙税や郵送費、人件費などと比較し、費用対効果を試算しましょう。多くのサービスで無料プランやトライアルが提供されているため、まずは小規模に試してみるのがおすすめです。
- 取引先の理解と協力
- 課題:取引先が電子契約に不慣れであったり、対応を拒否されたりする場合があります。
- 対策:電子契約のメリットや法的な有効性、操作方法などを丁寧に説明し、理解を求めましょう。必要に応じて、相手方に費用負担がない「立会人型(事業者署名型)」の電子契約サービスを選んだり、当面は紙と電子を併用したりする柔軟な対応も有効です。
- 社内体制の整備と業務フローの変更
- 課題:新しいシステムの導入には、社内規定の改定や業務フローの見直し、従業員への教育が必要です。
- 対策:電子契約に関する運用ルールを明確に定め、マニュアルを作成します。また、導入前に説明会や研修会を実施し、関係者の理解を深めることがスムーズな移行の鍵となります。
【実践】建設業で電子契約を導入する手順は?
建設業で電子契約を導入する手順は「サービス選定」「社内体制整備」「取引先への説明」「運用開始」の4つのステップで進めるのが効果的です。
これは一般的なITシステム導入のプロセスに沿ったものであり、計画的に進めることで、導入後の混乱を最小限に抑え、効果を最大化することができます。
ステップ1. 電子契約サービスの選定
まずは、自社のニーズに合った電子契約サービスを選びます。建設業法に対応するため、以下の点を確認しましょう。
- 法的要件の充足:電子データが改ざんされていないことを確認できる機能(例:タイムスタンプ等)と、本人性を示すための電子署名機能があるか。
- セキュリティ:通信の暗号化、不正アクセス対策など、セキュリティ対策は万全か。
- 操作性:誰でも直感的に使えるシンプルなインターフェースか。
- サポート体制:導入時やトラブル発生時のサポートは充実しているか。
- 料金体系:契約件数や利用ユーザー数に応じた料金プランが自社の規模に合っているか。
ステップ2. 社内規定・業務フローの整備
次に、電子契約を運用するための社内ルールを整備します。
- 関連規定の作成・改定:契約管理規程や職務権限規程などを改定し、電子契約の位置づけを明確にします。
- 業務フローの構築:契約書の作成依頼から、社内承認(ワークフロー)、相手方への送信、保管までの一連の流れを定義します。
- 従業員への教育:導入目的や新しい業務フロー、システム操作方法について研修会を実施し、全社的な理解を促進します。
ステップ3. 取引先への事前説明と承諾の取得
社内体制が整ったら、取引先へ電子契約への切り替えを打診します。
- 事前の案内:電子契約に移行する旨と、そのメリット(迅速な契約締結、印紙税不要など)を丁寧に伝えます。
- 操作方法の説明:必要に応じて、簡単な操作マニュアルを用意したり、説明の機会を設けたりします。
- 承諾の取得:前述の通り、電子メールなどの記録に残る形で、電子契約で締結することへの承諾を正式に取得します。
ステップ4. スモールスタートで運用開始
いきなり全ての契約を電子化するのではなく、特定の取引先や一部の契約種類から始める「スモールスタート」がおすすめです。
- 効果測定:導入後、コスト削減額や業務時間の短縮効果を定期的に測定し、導入効果を可視化します。
- 改善と拡大:運用で出た課題を改善しながら、徐々に対象範囲を広げていくことで、全社へスムーズに展開できます。
グレーゾーンを解消し、適法な電子契約で建設DXを推進しよう
本記事で解説した通り、建設業法における電子契約はもはやグレーゾーンではありません。法改正によってルールが明確化され、「相手方の承諾」を得た上で「3つの技術的基準(見読性・原本性・本人性)」を満たす電磁的措置を講じることで、建設業法第19条の書面交付義務を満たしたものとみなされるようになりました。
建設工事請負契約書を電子化することは、高額になりがちな印紙税が不要になるだけでなく、契約業務全体のスピードアップと効率化、さらにはコンプライアンス強化にも直結します。デメリットや導入時の注意点も正しく理解し、計画的に準備を進めることで、そのメリットを最大限に享受できるでしょう。
この記事を参考に、ぜひ貴社の建設DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、電子契約の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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