- 更新日 : 2025年11月7日
運送委託に下請法は適用される?2026年改正のポイントと対応を解説
2026年1月に施行される改正下請法(通称:取適法)では、これまで適用外だった「運送委託」が新たに規制対象に追加されます。荷主企業が運送業者に商品を届けさせる契約も、正式に「特定運送委託」と位置付けられ、発注書の交付義務や支払期限の遵守、価格交渉義務などが明文化されました。これにより、委託側・受託側ともに運送契約の運用見直しと社内体制の再整備が求められることになります。
本記事では、改正の背景と影響、対応方法について解説します。
なお、改正下請法施行により法令上の用語が「親事業者」は「委託事業者」に「下請事業者」は「中小受託事業者」に変更されます。記事内では、施行後の名称を利用しています。
目次
運送委託に下請法(取適法)は適用される?
「特定運送委託」として運送業務が下請法の新たな対象に追加される
2026年1月から、荷主(委託事業者)と運送会社(中小受託事業者)との間の運送委託契約が「特定運送委託」として正式に下請法の規制対象に含まれるようになります。これにより、発注書面の交付や代金支払いに関するルールが新たに適用され、従来対象外だった荷主から一次運送業者への取引にも下請法上の義務が発生します。
改正前は荷主から運送業者への委託が下請法対象外だった
改正前の下請法では、「自家使用役務」すなわち委託事業者が自社業務の一環として外部へ委託するサービスは下請取引に該当せず、規制対象から除かれていました。製造業者や小売業者が自社商品を顧客へ届けるために運送会社へ配送を依頼する場合、それは自社の販売業務の遂行と見なされ、下請法の役務提供委託の範囲には含まれませんでした。
一方、元請運送業者が下請運送業者へ配送業務を再委託するケースについては、以前から下請法の適用対象でした。つまり、「運送委託」であっても、荷主からの委託か、運送業者同士の再委託かによって、法の適用の有無が分かれていたのです。この差により、荷待ち時間の長時間化や荷役作業の押し付けといった問題が起きても、荷主との取引では下請法による是正が難しい状況が続いていました。そのため、実務上は公正取引委員会が策定する「物流特殊指定」(独占禁止法に基づく業界別ルール)によって対応していたのが現実です。
対象範囲と改正内容
こうした実態を踏まえて、2026年1月からは、荷主企業が運送業者に商品配送を委託する取引が新たに「特定運送委託」として下請法の適用対象に追加されました。これにより、発注側となる荷主企業(委託事業者)は、中小受託事業者である運送業者に対して、契約条件の明示や支払期日の設定、代金の速やかな支払いなど、一連の義務を負うことになります。
特定運送委託に該当する取引は、「取引対象物を顧客に届けることを目的とした配送」である必要があります。つまり、商品を一般消費者や取引先へ納品するために運送業者へ業務を委託する場合がこれに該当します。一方で、自社内の物流、たとえば工場間や倉庫間での在庫移送など、あくまで内部の物品移動については「顧客への運送」に該当せず、下請法の規制対象とはなりません。
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特定運送委託の委託事業者が負うことになる義務とは?
特定運送委託が下請法の適用対象となることで、委託事業者は以下のような義務を負うことになります。
- 発注内容の書面化(3条書面)
委託内容・代金額・支払期日などの明記が必要となり、発注書面は原則として電子または書面で交付・保存しなければなりません。 - 支払期限の遵守
商品やサービスの受領日から60日以内に支払期日を設定する必要があります。これを超えると違反とみなされ、遅延利息の支払い義務も発生します。 - 禁止行為の適用
不当な代金減額、荷役作業の強要、無償の荷待ちなどが下請法の禁止行為として認定されれば、是正勧告や企業名の公表などの行政処分の対象となります。
これまで下請法の対象外とされていた分野にも規制が及ぶことで、荷主企業は従来の運送契約の内容や運用方法を抜本的に見直す必要があります。たとえば、契約書ひな型に価格交渉条項を明記する、発注書を交付する社内フローを新設する、支払期日の管理をシステム化する、といった対応が考えられます。
2026年施行の改正下請法による変更点とは?
2026年1月に施行される改正下請法(正式名称:「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)では、法名称や用語の見直しにとどまらず、適用範囲の拡大や価格交渉義務の導入、手形払いの禁止など、多岐にわたる影響が生じます。中堅企業や委託事業者にとっては、契約運用の見直しが求められる内容です。
【法律名称と用語の変更】「親事業者」は委託事業者に
改正により、従来の「下請法」という通称も変更され、法律名がより実態を反映した長文形式へと改められます。略称として「中小受託取引適正化法(取適法)」が推奨され、呼称も「親事業者」から「委託事業者」、「下請事業者」から「中小受託事業者」へと統一されました。この見直しは、上下関係を想起させる用語を避け、取引のフラット化を意識したものです。実務面では、社内の契約書や規程類での用語統一も視野に入れた対応が必要になります。
【適用範囲の拡大】従業員数による基準が追加
これまで下請法の適用は主に資本金の大小によって判断されてきましたが、今回の改正で「従業員数」も新たな適用基準として加えられました。製造委託や運送委託等では、委託事業者が301人超、中小受託事業者が300人以下であれば、資本金に関係なく法適用の関係が成立します。役務提供や成果物作成委託では、この人数基準は101人超と100人以下です。この見直しにより、資本金基準では対象外だった取引が新たに下請法の保護下に置かれる可能性が高まります。
価格交渉義務の明文化と禁止行為の拡充
改正法では、「協議なき価格据え置き」が明確に禁止されました。中小受託事業者が原価高騰を理由に価格見直しを求めた際、委託事業者が正当な理由なくこれを拒否した場合は、法令違反とみなされます。協議や情報開示を怠ったまま旧価格を一方的に押し付ける行為は、是正勧告の対象となり、企業名の公表につながるおそれもあります。これに伴い、社内では価格交渉に関する対応フローや記録保持の体制を明確化しておく必要があります。
また、禁止行為の見直しにより、運送業務の現場で問題となっていた「荷待ちの無償提供」や「荷役作業の押し付け」なども、今後は下請法の運用基準に基づく規制対象に組み込まれる見込みです。
【支払手段の見直し】手形払いの禁止と現金決済の徹底
下請代金の支払手段についても改正が入り、2026年以降は約束手形の使用が原則として全面禁止されます。さらに、電子記録債権やファクタリングなどであっても、期日までに中小受託事業者が全額を受け取れない支払い方法は認められません。すべての支払は、銀行振込など即時に現金化できる方法に統一されることになります。
これにより、従来の支払サイト(120日など)の運用は見直しを迫られ、下請取引における支払期日も、製造委託等であれば納品日から60日以内に設定する必要があります。また、振込手数料の受託者負担を禁ずる動きも進んでおり、支払条件全般についても契約書・規程の更新が求められます。
運送委託の委託事業者が注意すべき法改正対応のポイント
改正法により、荷主から運送業者への直接委託が新たに「特定運送委託」として下請法の規制対象となりました。これまで対象外だった分野であるため、委託側企業では対応漏れのないよう事前準備が重要です。
自社の業務委託範囲が「特定運送委託」に該当するかを確認する
対象となるのは、顧客への納品を目的とした物品輸送です。
- メーカーが物流倉庫から得意先へ商品を運ぶ委託
- EC事業者が配送会社に注文品の出荷業務を委託
- 工場間の部品移送
- 自社内倉庫への在庫補充
委託範囲の区別が曖昧な場合は、社内で運送スキームを可視化し、該当区間の委託が法規制にあたるかを洗い出しておく必要があります。
発注書面(3条書面)の作成と保存を徹底する
改正後は、荷主企業が運送会社に業務を委託する場合でも、発注時の書面交付が義務化されます。書面には以下の事項を明記し、2年間の保存が必要です。
- 委託日(発注日)
- 委託業務の内容(運送区間、物品の種類、数量等)
- 委託代金と支払期日
- 委託事業者・中小受託事業者の名称
委託部門と法務・経理部門が連携し、発注プロセスの中で「書面の作成・保管」を標準化することが求められます。
支払サイトと支払手段の見直しが必要になる
特定運送委託も、支払期日は「業務完了日から60日以内」とする必要があります。長期のサイト設定や、手形払い・ファクタリングなど即時現金化が難しい方法は許容されません。
運送委託についても、以下の運用が求められます。
- 銀行振込等の即時資金化可能な支払方法への一本化
- 振込手数料の中小受託事業者への転嫁禁止
- 支払遅延時の年14.6%までの遅延利息の発生
契約書・取引基本約款における支払条件条項の見直しが不可欠です。
荷待ち・荷役・協議拒否といった“慣行”が法違反となる
これまで「物流特殊指定」や独禁法の範囲でしか是正できなかった以下のような慣行も、改正下請法で明確な規制対象になります。
- 指定時間通りに到着しているにもかかわらず荷待ちを発生させる
- 荷役作業(積み下ろし)を運送業者に押し付ける
- 運送費用の見直しに応じず、一方的に据え置く
価格交渉義務の明文化により、運送会社側から「燃料費高騰に伴う運賃見直し」の要請があった場合、無視や一方的な拒否は違法となります。委託事業者には、協議の記録を残す体制も求められるようになります。
運送委託の中小受託事業者が注意すべき法改正対応のポイント
改正法により、荷主からの直接委託も下請法の保護対象になりました。これまで対象外だったため、運送会社にとっては初めて法律上の保護と請求根拠が得られる分野です。新制度に適切に対応することで、代金の支払遅延や荷待ちなどの不公正取引から自社を守ることができます。
自社が「中小受託事業者」に該当するかを確認する
下請法の保護を受けるには「中小受託事業者」に該当していることが前提です。今回新設された「特定運送委託」では、以下の基準が該当要件となります。
- 資本金基準
① 委託事業者:3億円超/中小受託事業者:3億円以下
② 委託事業者:1,000万円超〜3億円以下/中小受託事業者:1,000万円以下(個人を含む) - 従業員数基準
委託事業者:300人超/中小受託事業者:300人以下(個人を含む)いずれも満たす場合、荷主(委託事業者)が自社に商品配送などを依頼する取引は下請法の規制対象となり、支払遅延や不当な扱いからの保護が受けられます。
発注書面(3条書面)をきちんと受け取る
改正後、荷主企業には発注時に「契約内容を書面で明示する義務」が課されます。運送会社としては以下の点を確認し、文書で交付されているかをチェックしてください。
- 業務内容(例:配送ルート、日時、物品の種類・数量)
- 委託日・納品期日
- 支払代金とその支払期日・支払方法
- 委託者と受託者の名称
万一、発注書が交付されていない場合は、その旨を申し出ることが可能です。下請法違反に該当しうるため、記録を残しておくことも推奨されます。
支払期日を守らない委託事業者には遅延利息を請求できる
改正下請法では、委託事業者は60日以内に代金を支払う義務があります。
それを超えても支払われない場合、以下の権利が発生します。
- 遅延利息の請求(年14.6%を上限とする)
- 書面・証拠があれば、是正申し立ても可能
これまで「支払いが遅れても我慢するしかない」とされていたケースでも、下請法に基づき対応が可能になります。請求書や納品書、契約書の保管を徹底し、支払い期日をシステムで追えるようにしておくことが大切です。
トラブルがある場合は、下請かけこみ寺などに相談する
運送業者は、中小企業庁が設置する「下請かけこみ寺」や公正取引委員会の窓口に相談することができます。行政指導のきっかけになったり、紛争解決の糸口にもなります。2026年施行以降は、委託事業者が改善勧告を受け、その内容が公表される可能性もあるため、交渉や是正を求める場として有効に活用できます。
今後の運送委託では法令遵守と実務整備がより求められる
2026年1月に施行される改正下請法(取適法)によって、運送委託も「特定運送委託」として正式に規制対象に加わりました。改正法の趣旨は、物流現場に残る不公正な慣行の是正にあり、荷待ちや荷役作業の押し付けも規制対象となるため、業界全体で実務の透明化と社内体制の見直しを進めることが求められます。両者が新ルールを理解し、契約書・運用・支払いの実務を整備することで、持続可能で公正な取引環境を構築することができます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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