- 作成日 : 2025年8月19日
就業規則のリーガルチェックはどうする?手順やチェックポイントを解説
企業における労務管理の基本となる「就業規則」は、法令に適合した内容で整備されていなければ、労使トラブルや行政指導のリスクを招くおそれがあります。就業規則の内容を定期的に点検し、必要に応じて見直すことが求められます。
本記事では、就業規則の基礎知識からリーガルチェックのチェックポイントや手順、法改正のまとめを解説します。
目次
就業規則とは
就業規則は、企業における職場秩序と従業員の労働条件を明文化した文書です。法令に基づいた内容を記載することが求められ、従業員との信頼関係構築にも直結します。このセクションでは、就業規則の役割と法的な位置付け、変更時の注意点などを解説します。
労働条件と職場規律を明示する文書
就業規則とは、勤務時間、休日、休暇、賃金、退職、昇進、服務規律、安全衛生など、職場におけるあらゆるルールを明文化した規程です。労働基準法などに基づき、すべての企業が守るべき最低基準を下回らないよう記載される必要があります。このような規則が整っていることは、労使間のトラブルを未然に防ぎ、職場内の秩序維持に役立ちます。
法令により作成と届出が義務付けられている
従業員が常時10人以上いる企業では、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません。これを怠ると、30万円以下の罰金が科されることがあります。作成しただけでは足りず、法令に基づく正式な手続を経てはじめて、企業内のルールとして効力を持ちます。
一方的な不利益変更は制限される
就業規則の内容を企業が自由に変更することはできません。労働者に不利となる変更を行う場合には、労働者代表から意見を聴き、変更に合理性があるかを慎重に判断する必要があります。個別契約より優先される就業規則の性質を踏まえ、内容と運用の両面での適正が求められます。
就業規則のリーガルチェックの目的とタイミング
就業規則のリーガルチェックは、企業が法令順守と健全な職場環境を維持するうえで欠かせない取り組みです。近年は労働関連法令の改正が頻繁に行われており、就業規則を定期的に見直す必要性が増しています。ここでは、リーガルチェックの目的と、実施すべきタイミングについて解説します。
リーガルチェックの目的
リーガルチェックとは、就業規則の内容が労働基準法などの労働関連法規に適合しているかを確認する作業を指します。専門的な視点から各条文を精査し、法令違反や表現の不備がないか、従業員の権利が適切に守られているかを検証することが主な目的です。
規則に法令違反が含まれている場合、その条文は効力を持たないだけでなく、企業が行政指導や罰則の対象になる可能性もあります。たとえば、労働時間や休日が法定基準を下回っていたり、違法な賃金控除を設けていた場合、労働基準監督署から是正勧告や罰金処分がなされることがあります。また、就業規則が原因で従業員との間に紛争が生じれば、企業にとって大きな損失につながりかねません。
こうした事態を防ぐためにも、就業規則を法的に問題のない状態に保つことは、企業のコンプライアンス強化や信頼性の向上にも寄与します。従業員にとっても安心して働ける環境が整い、職場全体の安定性につながるのです。
リーガルチェックが必要なタイミング
リーガルチェックは、就業規則を新たに作成する際はもちろんのこと、運用開始後も定期的に実施することが重要です。一度作成した就業規則でも、法改正や社会環境の変化により、内容が現行法に適合しなくなることがあります。
数年前には適法だった内容でも、制度改正や判例の影響で修正が必要になるケースは少なくありません。たとえば、育児・介護休業制度の見直しや割増賃金率の変更など、最近の法改正による影響は広範囲に及びます。
企業は少なくとも年1回、あるいは法改正があった際には都度、就業規則の見直しを行うべきです。加えて、専門家によるリーガルチェックを活用することで、見落としや表現の不明確さを回避し、より実効性のある規則とすることができます。定期的なチェック体制を整えることは、法的リスクを軽減し、持続可能な企業運営に直結します。
就業規則をリーガルチェックする際のチェックポイント
就業規則をリーガルチェックする際には、法令で義務付けられた内容が過不足なく定められているか、また近年の法改正に対応しているかを重点的に確認することが大切です。以下では、確認すべき主要なポイントを解説します。
労働時間・休日・休暇の基準を満たしているか
労働時間や休憩、休日、休暇に関する条項は、労働基準法の定める最低基準を下回ってはなりません。たとえば、原則として1日8時間・週40時間を超えないこと、休憩時間の確保、週1回以上の休日付与などが要件となります。有給休暇も入社半年後に10日以上の付与が必要で、年5日の時季指定取得義務も就業規則に明記しておく必要があります。
また、時間外労働については「月45時間・年360時間」の上限を超えないよう定める必要があります。(臨時的な特別の事情がある場合は、労使で合意すれば特別条項付き36協定により、この上限を超えて労働させることが可能です。)中小企業や特定業種に対しても最新の適用状況に合わせた記載が必要です。育児・介護休業制度や2022年に施行された「出生時育児休業(産後パパ育休)」も反映されているか確認します。
賃金・割増賃金に関する記載が適法か
賃金の支払方法、割増賃金率、諸手当の支給条件などが法令に則っているかをチェックします。2023年からは、労働者の同意と労使協定を条件として、厚生労働大臣が指定した資金移動業者の口座へのデジタルマネーでの支払いも可能となったため、対応する場合は規定への明記が求められます。
さらに、2023年4月1日から中小企業も含め月60時間超の時間外労働には50%の割増率が適用されるため、従来の25%で記載されていないか注意が必要です。深夜手当(25%)や法定休日労働(35%)の記載漏れも確認します。時間外労働と深夜労働が重なる場合はそれぞれ加算され、法定休日労働と深夜労働が重なる場合も同様に加算されます。
また、減給制裁については1回あたり平均賃金の半日分以内であること、賞与や退職金の支給基準が明確であることも重要なチェックポイントです。
ハラスメント防止・安全衛生の体制が整っているか
パワーハラスメント防止措置は2022年4月から中小企業にも義務付けられています。就業規則にハラスメント行為の禁止や相談窓口、対応手順を明記しているかを確認しましょう。安全衛生ではストレスチェック(従業員50人以上)や健康診断、安全委員会の設置などが規定されているかも確認が必要です。
また、テレワークや勤務間インターバル制度、感染症対策などの記載も職場環境に応じて反映させましょう。個人情報の漏洩防止や機密保持に関する服務規律も、明文化が推奨されます。
テレワーク・副業制度に対応しているか
テレワークを導入している企業では、勤務時間の管理、通信費や光熱費の負担、報告義務などを明確にする必要があります。別規程として整備する場合でも、就業規則にその存在と根拠を記載しておくと安心です。
副業に関しては、許可制とするのか、一定条件下での制限を設けるのかなど、自社の方針を明確にし、健康管理や機密保持、競業避止の観点から適切に記載します。
懲戒・解雇・差別禁止の規定が妥当か
懲戒や解雇の条項については、内容が具体的で合理性があるかどうかを確認する必要があります。抽象的な表現のみでは無効と判断される可能性があります。減給や懲戒解雇は、法的制約の範囲内で規定することが求められます。
また、性別や妊娠、育児休業取得を理由とする不利益取り扱いは禁止されており、就業規則上にも反映が必要です。定年後の継続雇用制度についても、2013年4月1日から希望者全員の再雇用が義務化されています。これに伴い、希望者全員を対象とするよう就業規則の再雇用規定を見直す必要があります。不合理な基準による再雇用制限が残っていないか確認しましょう。なお、2025年4月からは、努力義務として70歳までの就業確保措置が課されます。
リーガルチェック実施の手順
就業規則のリーガルチェックは、法令遵守とトラブル防止の観点から計画的かつ確実に行う必要があります。社内での対応と専門家の活用、手続きの正確さ、改定後の運用体制まで含めた一連の流れを意識しましょう。
(1) 社内点検と専門家への相談
まず、労務法規に詳しい社内担当者がいれば、最新の法改正情報をもとに就業規則を精査し、必要な修正案を作成します。人事や法務部門と連携しながら、リスクのある表現や制度の欠落を洗い出すことが肝要です。自社内での対応が難しい場合は、社会保険労務士や弁護士など外部の専門家への依頼を検討しましょう。
社会保険労務士は制度運用や実務に強く、弁護士は法的解釈や訴訟リスクに精通しているため、それぞれの強みを理解し、必要に応じて併用するのが効果的です。近年では両者が連携してリーガルチェックを提供するサービスもあり、より精度の高い見直しが可能です。費用は発生しますが、コンプライアンス体制の強化とリスク回避の観点から考えれば、有効な投資といえるでしょう。
(2) 就業規則改定の手続と周知
リーガルチェックの結果、内容を変更する場合には、労働基準法に沿った手続きが必要です。まず、変更案を作成し、従業員代表から意見聴取を行います。同意までは求められませんが、理解を得られるよう丁寧に説明することが望ましいです。
その後、変更届と新旧対照表を添えて、所轄の労働基準監督署へ届け出を行います。提出が遅れた場合、是正勧告を受けるなど、罰則の対象となる可能性があるため注意が必要です。また、改定後の規則は全従業員への周知が義務付けられており、社内掲示、社内ネットへの掲載、書面配布などで確実に周知しなければなりません。周知が不十分であると、改定後の就業規則が法的効力を持たない場合もあります。
労働者にとって不利益となる変更を行う際には、「合理性」と「周知」が整って初めて個別契約にも適用されます。不利益変更の際は慎重に検討を重ね、可能な限り本人の同意を得るなど、トラブル回避の配慮が求められます。
(3) 運用と定期的な見直し
改定した就業規則は「作って終わり」ではなく、実際に現場で活用され、従業員に理解されて初めて効果を発揮します。説明会の開催や、管理職向けの研修、就業規則の要点をまとめたハンドブックの配布などを通じて、周知と理解を徹底しましょう。
さらに、社会環境や法改正に合わせて定期的に見直すことが不可欠です。最低でも数年に一度は社内点検または専門家によるチェックを行い、自社に関連する法改正があった際には速やかに規定を見直す体制を整えておきましょう。
このような運用と定期的な見直しを継続することで、コンプライアンス意識が社内に浸透し、安心して働ける職場づくりへとつながっていきます。リーガルチェックは、継続的に行うからこそ意味がある取り組みです。
近年の法改正と就業規則見直しのポイント
近年、労働関係法令の改正が相次いでおり、それに応じた就業規則の見直しが企業に求められています。以下では、2024年から2025年にかけて施行された主な改正項目と、それぞれの見直しポイントをまとめます。
労働条件の明示項目追加(2024年)
2024年4月から、労働契約締結時・更新時の明示事項に「就業場所・業務の変更範囲」などが追加されました。就業規則や雇用契約書の該当条項が曖昧な場合は修正が求められます。モデル就業規則の改訂も参考にしながら対応しましょう。
特定業種の時間外労働規制開始(2024年)
建設業、自動車運転業務、医師などの業種に対し、猶予されていた時間外労働の上限規制がそれぞれ適用されました。建設業と自動車運転業務は2024年4月1日から、医師については2024年4月1日より上限規制が適用されるものの、一部特例が設けられています。該当企業は36協定や就業規則の特別条項を改める必要があります。業種別の例外条件を踏まえた対応が必要です。
継続雇用の対象者拡大(2025年)
継続雇用制度では、2013年4月1日の高年齢者雇用安定法改正により、65歳までの希望者全員の再雇用がすでに義務化されています。加えて、2025年4月からは、努力義務として70歳までの就業確保措置が課されます。これは、定年の70歳への引き上げ、70歳までの継続雇用制度(再雇用・勤務延長)の導入、定年制の廃止、または70歳まで継続的な業務委託契約・NPO活動へのあっせんなど、多様な方法で高齢者の就業機会を確保するよう企業に促すものです。
リーガルチェックで就業規則を適正に保とう
就業規則は、企業の労務管理における基本ルールを定める文書です。法令違反や不備があると無効となるリスクがあるため、内容を定期的にリーガルチェックし、最新の法改正や職場環境に適合させることが不可欠です。労働時間、賃金、休暇、ハラスメント対策、副業ルールなどの記載が適正かを確認し、必要に応じて修正・周知を行いましょう。適切なチェックと見直しが、企業の信頼性と安定した労使関係を支えます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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