- 作成日 : 2025年8月19日
賃貸借契約書のリーガルチェックのポイントは?確認事項や注意点を解説
賃貸借契約書は、オフィスや店舗、倉庫などの不動産を借りる際に必ず取り交わされる契約書類です。しかし、形式的に締結された契約書には不備や曖昧な表現が含まれていることも多く、後のトラブルの火種になることもあります。
本記事では、賃貸借契約書のリーガルチェックにおいて確認すべきポイントや注意点、社内・外部のチェック体制について解説します。
目次
賃貸借契約書とは
賃貸借契約書とは、不動産や動産などの物件を貸主が一定期間貸し、借主がこれを使用し賃料を支払う旨を取り決めた契約内容を文書化したものです。賃料、契約期間、更新、原状回復、解約、禁止事項、修繕義務、保証金など、当事者間の義務や権利を明文化する役割を果たします。
リーガルチェックの重要性
賃貸借契約は一度締結されると長期間にわたり効力を持ち、金銭的な影響も大きいため、法的な精度と妥当性が両方求められます。このような特性上、契約条項のわずかな不備が重大なトラブルや損失につながりかねません。たとえば原状回復の範囲が曖昧であれば、退去時に修繕費用を巡って紛争が発生する可能性があります。また、解約条項の整備が不十分だと、早期解約時の損害賠償責任が曖昧になり、裁判に発展することもあります。
このため、賃貸借契約書を取り交わす際には、事前に法務担当者や専門家によるリーガルチェックを実施し、法令遵守と実務運用上の適合性を確認することが不可欠です。契約の透明性と適正性を確保することが、将来の紛争予防と円滑な契約関係の維持につながります。
賃貸借契約書のリーガルチェックが必要なタイミング
賃貸借契約書のリーガルチェックは、契約書を締結する前の段階で実施するのが基本です。このセクションでは、チェックを行うべき場面を整理します。
契約締結前に必ず確認する
リーガルチェックは、賃貸借契約書を正式に締結する前に必ず実施するべきです。貸主側であれば、契約書案が完成した段階で社内法務や顧問弁護士に確認を依頼し、条項ごとの妥当性やリスクを点検します。借主の立場であっても、提示された契約書に対して自社の不利益となる表現や、不明確な条件が含まれていないかを入念に確認しなければなりません。契約書に署名・押印した後では、修正交渉は困難になるため、締結前のリーガルチェックがリスク回避に直結します。
企業内ではまず実務部門が契約書案を作成・収集し、事業内容との整合を確認した上で、法務部に回付します。法務部では文言の整合性や法令適合性を中心にチェックを行い、必要に応じて修正案をフィードバックします。契約書の完成前にチェックを済ませることで、社外との交渉もスムーズに進めやすくなります。
更新・内容変更時に再確認する
賃貸借契約は数年単位の長期契約になることが多く、期間満了後に更新や再契約が発生するケースも少なくありません。その際、新たな契約書を取り交わすのであれば、以前と条件が変わっていないか、法改正の影響を受けていないかを確認することが求められます。定期建物賃貸借契約のように再契約が前提となっている場合は、その都度リーガルチェックを実施し、条項の最新化を図ることが安全です。
また、契約期間中であっても賃料改定や使用目的の変更など、重要な契約条件に変更が生じる場合には、合意書や覚書の作成前に内容を精査します。事前に法務チェックを入れておくことで、形式的な瑕疵や将来のトラブルの発生を防ぐことができます。更新時・変更時も、締結時と同様の慎重さが必要です。
賃貸借契約書のリーガルチェックの確認項目
賃貸借契約書のリーガルチェックでは、契約内容の正確性・適法性・公平性を確認する必要があります。契約当事者や物件の情報から、金銭条件、契約期間、利用条件、解約条項、保証人に関する条項まで幅広い項目を丁寧に点検することが求められます。
契約当事者と物件情報
契約当事者の正式名称・所在地・代表者名が正確に記載されているか、登記簿などに基づいて確認します。また、法人であれば署名権限のある人物が締結しているか(代表取締役または委任状のある担当者)も確認対象です。対象物件の所在地・建物名・部屋番号・面積・構造なども、登記情報や図面に照らして一致しているかを確認します。付属設備(エアコン、照明、家具など)についても別紙で明示されているか確認が必要です。
賃料や敷金など金銭条件
賃料の額・支払期日・消費税の取り扱い・支払方法・遅延損害金の利率などが明記されているか確認します。共益費・管理費がある場合にはその金額・支払い方法が記載されているかも重要です。賃料改定に関する条項もチェックし、改定時期・手続・協議の有無が明確に記載されているかを確認します。
敷金については、金額、返還条件、差し引かれる費用(未払い賃料、原状回復費など)のルールが明示されていることが望まれます。礼金・更新料が設定されている場合は、その金額・支払時期・返還有無も確認します。
契約期間と解約・更新条件
契約の期間が普通借家契約か定期借家契約かを特定し、それに応じて更新や終了の条件が適法に設定されているか確認します。
定期借家契約の場合は、書面での契約および書面説明義務が履行されているか、事前説明がなされているか確認します。
中途解約については、借主からの解約申入れ権の有無、予告期間の長さ(住居用は民法上3ヶ月とされているものの、多くの契約では1~2ヶ月、事業用は3~6ヶ月が一般的)に無理がないかをチェックします。解約通知期限が過度に長い場合は交渉の余地を検討します。
用途制限や禁止行為
建物の使用目的(事務所用、居住用など)が実態に合っているか、用途変更が禁止されていないか確認します。また、無断転貸の禁止、迷惑行為や騒音防止、危険物の持ち込み禁止、ペット飼育の制限など、禁止事項が適切に記載されているか確認します。
造作・改修の制限に関しては、改造に際し貸主の承諾が必要とされているか、原状回復義務との関係が整理されているかを確認します。
修繕・原状回復と明け渡し条件
修繕については、通常損耗と借主の故意・過失による破損の分担が明確に記載されているかを確認します。修繕連絡の方法や対応期限の定めがあるかもチェックします。
原状回復については、退去時にどの範囲まで回復するか、ガイドラインとの整合性、特約がある場合は合理性が担保されているかを確認します。敷金精算のルールや退去手続(鍵の返還、立会い等)の明確化もチェックポイントです。
違約金・損害賠償条項
違約金条項の金額が、消費者契約法第9条に照らし、貸主に生じる平均的な損害の額(一般的には賃料1ヶ月分程度とされることが多い)を超えていないかを確認します。借主に不利すぎる内容であれば、消費者契約法上無効になる可能性もあるため、法的妥当性を評価します。
損害賠償の条項では、貸主・借主双方の義務と責任がバランスよく記載されているか、不履行時の対応策や賠償範囲が過度でないかを確認します。
保証人や保証会社に関する条項
保証人の氏名・住所・連絡先・極度額の設定があるかをチェックします。2020年の民法改正により、個人保証の場合は極度額の記載がないと無効となるため注意が必要です。
保証期間の明示や、契約更新時の保証継続の扱いについても確認します。保証会社を利用する場合は、保証契約の条項が契約書内に含まれているか、保証料の支払義務・代位弁済時の求償等が明記されているかを確認します。
賃貸借契約書のリーガルチェックは誰が行う?
賃貸借契約書のリーガルチェックを誰が行うかは、企業の契約体制にも影響を及ぼします。契約リスクを低減し、チェックの精度を高められるよう社内外のリソースを適切に活用することが大切です。
社内の法務担当者によるチェックが一般的
多くの企業では、まず社内の法務担当者が契約書をチェックする体制が一般的です。法務部門があれば、業務に即した契約リスクの分析や、これまでの契約慣行に基づいた判断が可能となります。社内で蓄積された契約のナレッジに基づき、「この条項は自社の方針に合わない」「過去にも問題となったリスクがある」など、実務に即したチェックが迅速に行えます。
ただし、契約内容が特殊である場合や、法改正によって論点が複雑化している場合には、社内法務のみでは対応が難しいこともあります。また、一人法務や小規模法務部門では業務量の制限により、すべての契約を丁寧にチェックするのが難しいこともあるため、外部支援の活用も視野に入れるべきでしょう。
弁護士(法律事務所)に依頼するメリットも大きい
契約内容に高い専門性が求められる場合や、リスクが大きい契約であれば、弁護士によるリーガルチェックを依頼するのが効果的です。弁護士は最新の法令や判例知識を持ち、契約法務の経験も豊富なため、社内法務が気づきにくいリスクにも対応できます。賃貸借契約書のようにトラブルが多発する契約書では、不動産分野に強い弁護士の視点が有益です。
弁護士に依頼する際には、契約書そのものだけでなく、契約の背景や交渉状況、重視したいポイントなどの情報を事前に共有することが求められます。十分な情報提供がなければ、正確なリスク判断が難しくなります。また、依頼コストは発生しますが、1件単位での契約レビューや顧問契約による定額制利用など、企業のニーズに応じた柔軟な利用形態も広がっています。契約の重要度に応じて社内法務と弁護士を使い分ける企業も増えており、今後はハイブリッド型のチェック体制がより一般的になっていくでしょう。
賃貸借契約書のリーガルチェックはAIで代用できる?
AI技術の進化により、契約書のチェック業務も自動化が進みつつあります。ここでは、賃貸借契約書の特性を踏まえ、AIによるリーガルチェックの可能性と限界について整理します。
定型的なミスや形式不備はAIで検出できる
賃貸借契約書は、物件情報や賃料、契約期間、解約条件、修繕や原状回復といった実務要素が多く、定型的な構成が多い契約書類です。このような性質は、AIとの相性が比較的良好です。契約書レビューに対応したAIツールでは、必要な条項の欠落や誤記、数字の矛盾、表記揺れなどを短時間で自動検出することができます。また、過去の類似契約やテンプレートとの照合により、一般的なリスクをアラート表示することも可能です。
判断や法的解釈には人間が必要となる
一方で、AIには実務や法的背景を踏まえた判断は困難です。原状回復の範囲や敷金精算に関する条項の妥当性は、契約対象の物件の状態、地域の慣行、借主の立場などによって評価が異なります。また、条文の整合性や交渉の意図を汲み取るには、契約交渉の背景や社内ポリシーへの理解が必要です。こうした複雑な検討は、法務担当者や弁護士が担うべき領域です。
AIは、チェック作業の初期段階で効率化を図る上では有効なツールです。ただし、チェック結果の解釈や判断をAI任せにするのは適切ではありません。AIが示したリスク情報を法務担当者が精査し、最終判断を下す「人間+AI」のハイブリッド運用こそが、賃貸借契約書の実務には最適と言えます。
リーガルチェックで契約内容を明確化しリスクを予防しよう
賃貸借契約書のリーガルチェックの要点は、将来の紛争や誤解を未然に防ぐために、契約条件を法的に整合性のある形で明文化することにあります。確認不測のまま契約してしまうと、退去時の原状回復費用の負担や、契約解消をめぐるトラブルに発展するおそれがあります。チェックの目的は、双方が納得したうえで契約を締結し、安定的な取引関係を築くためのベースを整えることです。
将来のリスクを未然に防ぐために、自社の賃貸借契約書を定期的に見直す機会も設けましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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