• 作成日 : 2025年8月19日

売買契約書のリーガルチェックのポイントは?主要な確認項目や注意点を解説

売買契約書は、商品や製品などの取引条件を明文化し、トラブルを未然に防ぐための契約書です。しかし、条項の確認を怠ると、自社に不利な条件で契約を結んでしまい、後の紛争や損失につながる可能性があります。

本記事では、売買契約書のリーガルチェックで確認すべき主要な項目や注意点、見落としがちなポイントを解説します。

売買契約書とは

売買契約書とは、商品や製品、設備などの「物」の取引に関し、売主と買主との間で締結される契約書です。売主が目的物を引き渡し、買主がその代金を支払うという基本的な合意に基づき、取引条件を文書化したものです。契約内容には、目的物の種類・数量・価格・納期・支払条件のほか、引渡方法、契約不適合対応、損害賠償、解除条件、知的財産権の帰属、秘密保持などが含まれます。

企業間取引においては、個別の売買契約書を都度締結する場合と、継続的な取引に先立ち「売買基本契約書」を結び、個別の発注書などで取引の都度条件を補足する形式も一般的です。いずれの場合も、当事者の権利義務を明確に定めることで、後日の紛争を未然に防ぎ、取引の安定性と信頼性を確保する役割を担います。

売買契約書のリーガルチェックを行うタイミング

売買契約書のリーガルチェックは、契約締結前の「草案提示時点」で行うことが最も効果的です。取引先から提示された契約案に対して、法的リスクや不利な条件がないかを確認し、必要に応じて修正・交渉を行います。また、取引内容が大きく変わる際や、契約を更新・延長する際にも再チェックが必要です。売買基本契約を前提とした継続取引では、ひな形の内容が現在の法制度や取引実態に適合しているかを定期的に見直すことが、契約リスクを低減するうえで有効です。

売買契約書のリーガルチェックのチェック項目

売買契約書をリーガルチェックする際には、一つひとつの条項について、自社に不利な内容や見落としがないか検証しましょう。以下に主なチェック項目を挙げ、それぞれのポイントを解説します。

当事者の表示と契約の目的・適用範囲の確認

契約書の冒頭で、契約当事者の正式名称、住所、代表者氏名や役職が正確に記載されているかを確認します。会社名の表記ミスや代表者名の誤りは、契約の有効性に疑義を生じさせかねません。また、この契約が単発の売買に関するものか、継続的な取引を前提とする売買基本契約かを把握し、それに応じた内容になっているかを確認します。売買基本契約と個別契約が併用される場合、どちらが優先されるかを定める優先関係条項の有無も重要です。

売買の目的物・数量・品質の明確化

取引対象の商品が明確に特定されているかをチェックします。品名、型番、仕様、数量、品質基準などが契約書本文または添付資料で具体的に示されている必要があります。目的物を明確にすることで、売買契約の履行(代金請求や引渡し)が円滑になり、また、売主が代金債権を保全するための手段(例:所有権留保特約や動産売買先取特権)を有効に行使しやすくなります。買主側では、希望する品質や性能、検収基準などが契約書に明記されているかを確認します。記載が曖昧であると、後にトラブルへ発展する可能性があります。

代金額・支払条件と遅延損害金の有無

契約書に記載された代金額と支払方法が正確であり、取引条件と一致しているか確認します。支払期限(支払サイト)や振込先、振込手数料の負担者、遅延時の利息(遅延損害金)の有無と利率が適切かどうかも重要です。手形支払の場合は、サイトや不渡りリスク時の対応も確認対象となります。消費税の記載形式(内税/外税)についても契約の実務に即しているかを見ます。

引渡し時期・場所と検査(検収)方法

引渡しの期限や納入場所が明記されているか、費用負担の区分が明確になっているかを確認します。また、商品納入後の検収に関する取り決め(検収期限、検査方法、検査不合格時の対応など)も重要です。検査義務に関しては商法526条との整合性も考慮し、買主が適切に通知しないと権利行使できないリスクに備えて検査・通知期間が明記されているかをチェックします。

所有権の移転時期と危険負担の取扱い

所有権の移転時期(引渡時または代金支払時)を明確にし、売主・買主のそれぞれにとってリスクが適正に割り振られているかを確認します。特に所有権留保を用いる場合、売主側に保全的メリットがあります。また、輸送中の事故等の危険負担がどちらにあるかを契約で明確にすることで紛争を回避できます。

契約不適合責任条項の確認

契約不適合責任に関する条項が存在するか、存在する場合はその内容が現行法に即しているかを確認します。不具合品があった場合の通知期間、救済方法(修補・代替品・返金等)、契約解除や損害賠償の可否などが明記されているかがポイントです。また、売主が契約不適合責任を全面的に免責していないか、条項のバランスを見極める必要があります。

保証条項および製造物責任・知的財産権への対応

契約書に品質保証条項がある場合、その保証内容・期間・範囲を確認します。加えて、製品が第三者の知的財産権を侵害しないことの表明や、PL法(製造物責任法)に基づく損害賠償責任の分担に関する規定の有無も重要です。売主・買主の立場に応じて、これらの責任範囲が妥当かどうかをチェックします。

契約期間と契約解除の条件

契約期間の起算日と満了日が明記されているか、また自動更新条項の有無と更新手続が合理的かを確認します。契約解除(中途解約)の事由や手続、通知義務、損害賠償や違約金の扱いについても確認が必要です。不公平な解除条件が設定されていないか、当事者間のバランスが取れているかをチェックします。

損害賠償責任の範囲(免責・上限)の確認

契約違反時の損害賠償責任について、免責条項や損害賠償額の上限設定があるかを確認します。例えば、間接損害や逸失利益を除外する内容や、不可抗力事由による責任免除の条項が適切か、また損害賠償請求の時効が不当に短縮されていないかを見極めます。

秘密保持義務と通知義務の確認

秘密保持条項では、秘密情報の定義、保持期間、例外的な開示要件、違反時の措置が過不足なく明記されているかを確認します。また、商品仕様変更・生産終了などに関する通知義務、契約に基づく定期報告や協議義務の有無なども確認し、実務に即した内容かどうかを見ます。

権利譲渡禁止(契約上の地位譲渡)の確認

契約上の地位や債権・債務を第三者へ譲渡・移転できない旨の条項があるかを確認します。この条項がない場合、相手方の変更により取引リスクが高まる可能性があるため、特に継続的な関係では明記しておくことが望まれます。例外条件の有無や内容も確認します。

反社会的勢力排除条項の有無

反社会的勢力との関係を排除する条項(反社条項)があるかをチェックします。企業の信頼性確保のため、双務的に反社会的勢力ではない旨を表明・保証し、違反時には契約解除できる内容が含まれていることが望ましいです。

準拠法と合意管轄の明記

契約に適用される準拠法(通常は日本法)と、万一の紛争発生時の管轄裁判所(例:東京地方裁判所など)が契約書に明記されているかを確認します。紛争時の手続を円滑に進めるためにも、これらの条項は必須です。

売買契約書リーガルチェック時の注意点

売買契約書のリーガルチェックでは、形式的な確認だけでは十分とはいえません。以下に、注意すべきポイントを整理します。

契約条項のバランスに配慮する

契約条項が一方の当事者に著しく不利な内容になっていないかを確認することが基本です。買主の立場では、過度な責任制限や解除権の欠如に注意し、売主の立場では損害賠償や保証負担が過重でないかを確認することが求められます。交渉余地がある場合には、自社にとって実行可能な水準へと調整するようにしましょう。

法改正に沿った用語を用いる

契約書に使われる法的な表現が、現行法に即したものかを見極める必要があります。たとえば、「瑕疵担保責任」はすでに廃止され、現在では「契約不適合責任」という表現に統一されています。古いひな型を流用している場合、無意識に不適切な表現が残っていることがあるため、必ず用語を精査するようにしてください。

実務との整合性を保つ

契約内容が現場の運用とずれていないかも重要な確認ポイントです。納期、検収方法、報告義務などが社内体制やフローに即しているかを見直す必要があります。現場部門と連携し、実際に履行可能な内容かを照合することで、机上の契約が現場で機能する状態を保つことができます。

締結・保存方法を見直す

紙の契約だけでなく、電子契約で締結される場合は、署名方法や保存形式にも注意を払う必要があります。電子帳簿保存法の要件に沿って保存されているか、証拠性が担保されているかなどを含めて、契約書の取り扱い全体を見直すことが推奨されます。

売買契約書のリーガルチェックは誰が担当する?

売買契約書のリーガルチェックは、一般的に企業の法務部門が担当します。一定規模以上の企業では、法務部門内に契約審査の専門担当者が配置されていることが多く、法的観点から契約条項の妥当性や自社に不利なリスクが含まれていないかを精査します。

中小企業の場合は、総務部門や経営層が兼任するケースもありますが、複雑な契約や高額取引に関しては、外部の法律事務所や顧問弁護士にチェックを依頼することも少なくありません。法務部門は、契約書の内容が実際の取引実務と整合しているかも含めて、事業部門と連携しながら最終調整を行います。

売買契約書のリーガルチェックはAIで代用できる?

近年では、AIを活用した契約書レビュー支援ツールが普及し、売買契約書のリーガルチェック業務の一部が自動化されつつあります。AIは、契約書の条文を解析し、不足している標準条項やリスクとなる文言を指摘する機能を持ちます。例えば、損害賠償の上限が未設定である、契約不適合責任に関する条項が不明瞭であるなど、形式的な抜け漏れや表現上の問題を短時間で抽出できます。

ただし、AIはあくまで補助的な役割であり、契約交渉の背景やビジネス上の事情を踏まえた判断は人間の法務担当者が担う必要があります。そのため、AIは効率化ツールとして活用しつつ、最終判断は人によるチェックが不可欠です。

売買契約書のリーガルチェックで法的リスクを最小限に

売買契約書は、取引条件を明確に定めることでトラブルを未然に防ぐための書面です。チェックする際は、当事者の表示や目的物の特定、価格や納期、契約不適合責任、損害賠償、解除条件などを一つひとつ丁寧に確認しましょう。また、法改正に対応した用語の見直しや、実務との整合性にも目を配る必要があります。AIツールを補助的に活用しつつ、最終的な判断は法務部門が責任を持って行う体制を整えましょう。


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