• 作成日 : 2025年8月5日

覚書のリーガルチェックのポイントは?法的効力や文例・テンプレートの注意点も解説

覚書は手軽に作成できる反面、「法的な効力はあるのか」「後でトラブルにならないか」といった不安を感じる方も多いのではないでしょうか。実は、覚書という名称にかかわらず、実質的に契約内容が合意されていれば、法的拘束力を持ち得る文書です。

この記事では、覚書の法的効力といった基本から、トラブルを未然に防ぐためのリーガルチェックのポイントまで、文例を交えながら分かりやすく解説します。

そもそも覚書とは

覚書とは、当事者間で合意した特定の事項や約束事などを記録し、その内容を明らかにするために作成される文書です。契約の成立を証明したり、契約内容を補足・変更したりする際に用いられます。

覚書と契約書の違い

一般的に、契約の基本事項が合意に至った段階で作成されるのが「契約書」、契約書を作成する前段階での合意事項や、既存の契約内容の変更・確認のために作成されるのが「覚書」と認識されています。

しかし、法律上は「契約書」「覚書」「合意書」といった名称による明確な区別はありません。文書の名称が何であれ、当事者間の合意内容が記され、署名捺印があれば、合意を証明する法的文書として扱われます。

覚書の法的効力は記載内容によって決まる

「覚書だから契約書より効力が弱い」という考えは、大きな誤解です。覚書の法的効力は、その記載内容によって決まります。

当事者間で権利や義務の発生について合意した内容が具体的に記載されていれば、契約書と同様の強い法的拘束力を持ちます。裁判になった場合、覚書は当事者の意思を証明する重要な証拠として採用されるため、安易な気持ちで取り交わすことは避けるべきです。

覚書の法的効力は個人間でも有効

覚書の法的効力は、個人間の取り決めにおいても有効です。例えば、友人間の金銭の貸し借りや、内縁関係における財産分与の約束など、口約束だけでは不安が残る事柄について覚書を作成するケースがこれにあたります。署名または記名押印がある覚書は、書面としての証拠力が高まり、紛争時に契約内容の存在を示す重要な根拠になります。

覚書のリーガルチェックが重要な理由

手軽に作成できる覚書ですが、専門家によるリーガルチェックを怠ると、予期せぬトラブルに見舞われる可能性があります。ここでは、リーガルチェックの重要性を3つの観点から解説します。

曖昧な表現による解釈のズレを防ぐため

当事者同士で合意したつもりでも、文書の表現が曖昧だと、後日それぞれの都合の良いように解釈され、意見が対立する原因となります。例えば「可及的速やかに対応する」「誠実に協議する」といった表現は、具体性に欠け、法的な義務の範囲を特定できません。リーガルチェックを受けることで、誰が読んでも一義的に理解できる明確な表現に修正し、解釈の余地をなくすことができます。

法令違反による無効化を回避するため

たとえ当事者間で合意した内容であっても、それが消費者契約法や下請法といった強行法規に違反していたり、公序良俗に反したりする場合、その条項あるいは覚書全体が無効になる可能性があります。法律の専門家である弁護士がチェックすることで、法的な有効性を確保し、知らないうちに法令違反を犯してしまうリスクを回避できます。

トラブル発生時に有力な証拠となるため

覚書を作成する最大の目的の一つは、将来起こりうる紛争に備えることです。リーガルチェックを経た覚書は、合意内容の具体性や明確性が担保されているため、裁判になった際に極めて強力な証拠となります。債務不履行や契約違反が発生した際に、自社の正当性を客観的に証明し、裁判を有利に進めるための基盤を固めることができます。

覚書のリーガルチェックで確認すべき事項

実際にリーガルチェックを行う際、専門家はどのような点に注目するのでしょうか。ここでは、特に重要となるチェックポイントを解説します。

1. 当事者の特定は正確か

覚書に記載される当事者(個人名、会社名、代表者名、住所など)が正確に特定されているかは、基本中の基本です。記載に誤りがあると、誰との合意なのかが不明確になり、効力が認められない恐れがあります。

なお、一方のみの署名しかない場合、署名した側の一方的な意思表示(例えば債務の承認など)としては意味を持ちますが、双方の合意があったとは認められにくく、効力は著しく弱まります。原則として、当事者双方の署名捺印が必要です。

2. 合意内容が具体的かつ明確に記載されているか

覚書の核となる合意内容が、誰の目から見ても明確で具体的であることが求められます。「何を」「誰が」「いつまでに」「どのように」行うのかが、具体的に記述されているかを確認します。例えば、業務委託に関する覚書であれば、委託する業務の範囲、成果物の仕様、納期、検収方法などを詳細に定める必要があります。曖昧な点を残さないことが、後のトラブル防止に直結します。

3. 債務不履行時の取り決めは万全か

約束が守られなかった場合(債務不履行)にどうするのかを、あらかじめ定めておくことが重要です。具体的には、履行が遅れた場合の遅延損害金の利率や、契約解除ができる条件、損害賠償の範囲などを明記します。これらの条項がなければ、いざという時に相手方の責任を追及することが困難になる場合があります。

4. 有効期間は適切に設定されているか

覚書の効力期間をいつからいつまでにするのか、明確に定める必要があります。期間を定めない場合、いつまでも権利義務が継続してしまう可能性があります。一方で、プロジェクトの期間などに応じて「本業務完了まで」といった定め方も考えられます。自動更新の条項を入れる場合は、更新の条件や解約の申し入れ期間も忘れずに記載しましょう。

5. 秘密保持義務に関する条項は含まれているか

取引の過程で相手方の機密情報を知り得ることがあります。これらの情報が外部に漏洩することを防ぐため、秘密保持義務に関する条項を設けるのが一般的です。どの情報が秘密情報にあたるのか、どのような目的でのみ使用が許されるのか、義務を負う期間はいつまでか、などを具体的に定めます。

6. 権利義務の譲渡に関する規定は明確か

覚書によって生じた権利(報酬請求権など)や義務を、相手方の承諾なく第三者に譲渡できるか否かを定めます。通常は、トラブルを避けるために「相手方の書面による事前の承諾なく、本覚書上の地位または本覚書に基づく権利義務を第三者に譲渡、担保提供等してはならない」といった禁止条項を設けることが一般的です。

7. 管轄裁判所の合意はできているか

万が一、覚書の内容を巡って訴訟に発展した場合に、どの裁判所で裁判を行うかをあらかじめ決めておく条項です。これを合意管轄条項と呼びます。当事者の所在地が離れている場合、自社に近い裁判所を管轄としておけば、訴訟遂行の負担を軽減できます。記載がない場合は、民事訴訟法の規定に従うことになります。

8. 覚書を無効または解除する条件は明記されているか

どのような場合にこの覚書を無効にする、あるいは契約関係を解消(解除)できるのかを定めておくことは非常に重要です。相手方に重大な契約違反があった場合や、経営状況が悪化した場合(支払停止、破産申立てなど)に、覚書を解除できる旨を規定しておくことで、自社の損害拡大を防ぐことができます。

9. 収入印紙は必要か

覚書の内容が印紙税法の課税文書に該当する場合は、定められた金額の収入印紙を貼付し、消印を押す必要があります。例えば、不動産の売買契約や金銭の借用に関する覚書などが該当します。印紙の貼付を忘れても覚書の効力自体はなくなりませんが、税務調査で指摘されると過怠税が課されるため、注意が必要です。

すぐに使える覚書の文例

ここでは、具体的な場面を想定した覚書の文例と、作成時の注意点を紹介します。ただし、これらはあくまで一般的な例であり、個別の事案に合わせて内容は必ずカスタマイズしてください。

基本的な合意事項を確認する場合の文例

業務提携の交渉過程などで、基本的な合意内容を双方で確認するために作成する際の文例です。この段階では、法的拘束力よりも、認識の共有を目的とすることが多いです。

件名:〇〇に関する覚書

株式会社〇〇(以下「甲」という。)と株式会社△△(以下「乙」という。)は、甲乙間の業務提携に関し、以下のとおり合意したことを確認するため、本覚書を締結する。

第1条(目的)

甲と乙は、〇〇事業における協業の実現に向け、誠実に協議を進めることを目的とする。

第2条(協議事項)

甲及び乙は、以下の事項について、別途締結する正式な契約書において定めるものとする。

(1) 業務の範囲

(2) 役割分担

(3) 費用負担

注意点として、「法的拘束力を有しない」と明記すれば裁判所での解釈に影響する可能性がありますが、文書の実質が契約に該当すれば効力が否定されるとは限りません。

金銭貸借(借用書)として利用する場合の文例

個人間・法人間を問わず、金銭の貸し借りを行う際に作成します。これは実質的に「金銭消費貸借契約書」と同義です。

件名:金銭消費貸借に関する覚書

貸主 〇〇(以下「甲」という。)と借主 △△(以下「乙」という。)は、本日、以下のとおり金銭消費貸借契約を締結したことを証するため、本覚書を作成する。

第1条(貸付)

甲は乙に対し、本日、金〇〇円を貸し渡し、乙はこれを確かに受領した。

第2条(返済期限)

乙は甲に対し、前条の借入金を、西暦〇〇年〇月〇日限り、甲の指定する銀行口座に振り込む方法により返済する。

利息や遅延損害金、期限の利益喪失条項などを明確に定めることが極めて重要です。

「効力を失うものとする」場合の文例

特定の条件が満たされた、あるいは満たされなかった場合に、覚書を失効させたいときに用いる条項です。以下のようなものが考えられます。

第〇条(失効条項)

西暦〇〇年〇月〇日までに、第△条に定める正式な契約が締結されなかった場合、本覚書はその効力を失うものとする。ただし、第□条(秘密保持)の規定については、本覚書の失効後もなお有効に存続する。

このように、いつ、どのような条件で効力を失うのかを具体的に記載します。また、秘密保持義務など、覚書が失効しても存続させたい条項を別途指定することが重要です。

覚書のテンプレートを利用する場合の注意点

マネーフォワード クラウドが提供する「契約書ひな形まとめパック」では、覚書のテンプレートを無料でダウンロードいただけます。

ただし、覚書は、一つひとつの取引の個別具体的な事情に合わせて作成されて、初めてその真価を発揮します。テンプレートはあくまで骨子(たたき台)として利用し、自社の状況に合わせて内容を修正・追加する作業が不可欠です。そして、その最終確認として、専門家によるリーガルチェックを受けることが、確実なリスク管理につながります。

覚書のリーガルチェックを専門家に依頼する場合のポイント

覚書を自社でチェックするには限界があります。特に重要な契約や、内容が複雑な覚書については、弁護士などの専門家にリーガルチェックを依頼することをおすすめします。

リーガルチェックの費用相場

弁護士に覚書のリーガルチェックを依頼する場合の費用は、覚書の枚数や内容の複雑さ、修正の程度によって変動します。弁護士事務所により手数料は大きく異なり、中小企業向けプランでは月額5万円程度、繁雑な契約ではさらに高額になることがあります。最近では、定額制(サブスク型)の顧問契約サービスも複数事務所から提供されており、月額1万円前後のプランが見られます。ただし相談内容や範囲には制限がある場合もあるため注意が必要です。

弁護士の選び方と相談時のポイント

弁護士を選ぶ際は、自社のビジネス分野や、覚書が関連する業界の取引慣行に詳しい弁護士を選ぶことが望ましいです。ウェブサイトで取扱分野を確認したり、初回相談を利用したりして、コミュニケーションの取りやすさや相性を見極めましょう。相談する際は、覚書を作成した背景や目的、特に懸念している点を具体的に伝えることで、より的確なアドバイスを得られます。

覚書のリーガルチェックで安心できる取引を

覚書は、その名称にかかわらず、あなたの権利と義務を定める重要な法的文書です。安易に署名・捺印してしまうと、予期せぬリスクを抱え込むことになりかねません。将来のトラブルを未然に防ぎ、安心して事業や個人間の約束事を進めるために、専門家によるリーガルチェックは不可欠です。

まずは、今回解説したチェックポイントを参考に、覚書にリスクが潜んでいないか確認してみてください。もし一つでも不安な点があれば、専門家へ相談するサインです。事前の適切な対応が、あなたの権利と財産を守るための最も確実な備えとなります。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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