- 作成日 : 2025年7月18日
賃貸借契約書の保管期間は何年?トラブルを防ぐ正しい保存と処分を解説
賃貸借契約書は、不動産を借りる際に交わす大切な書類であり、貸主と借主の間で取り決めた内容を明文化したものです。契約書には家賃や契約期間、敷金、原状回復など多くの重要事項が含まれており、トラブルを防ぐ役割を果たします。しかし、契約終了後に保管期間や処分方法を誤ると、思わぬリスクにつながることもあります。
本記事では、賃貸借契約書の保管期間の目安や貸主・借主それぞれの立場による違い、処分の方法を解説します。
目次
賃貸借契約書とは
賃貸借契約書は、住まいや事業用不動産を借りる際に作成される重要な書類です。契約内容の明確化とトラブル防止の観点からも、正しい理解と取り扱いが求められます。
賃貸借契約書の役割
賃貸借契約は、不動産を借りる人(借主)と貸す人(貸主)の間で結ばれる、賃貸に関する合意を明文化した書類です。この契約書には、物件の所在地、契約期間、家賃、敷金などの基本情報に加えて、ペットの飼育、原状回復、騒音や改造の制限など、暮らしに関わる詳細な取り決めも記載されます。
この契約書が果たす最大の役割は、貸主と借主双方の権利と義務を明確にすることです。例えば、修繕の責任の所在や契約解除の条件が明記されていれば、問題が生じたときにも冷静に対処できます。また、契約書は物件を借りたという事実を証明する私文書であり、住民票の提出や各種申請時に住所証明の資料として使われることもあります。
居住用だけでなく、事業用の物件や土地についても賃貸借契約書は作成されます。契約を締結する前には「重要事項説明書」が交付され、これは契約内容を理解するための説明用文書です。それに対し、契約書は当事者間で法的に有効な合意を証明するための書面であり、法的効力を持ちます。
契約書がないと起こるトラブル例
賃貸借契約書が存在しない場合、口約束だけでも法的に契約が成立するケースはあります。しかし書面がないことで契約内容が曖昧になり、認識の違いからさまざまなトラブルに発展する恐れがあります。
家賃の金額や支払日、契約期間などが不明確な場合、後にトラブルになるリスクがあります。更新条件についての合意が曖昧だと、更新時の認識の食い違いも発生しやすくなります。さらに、ペットの飼育や物件の使用に関するルール、修繕にかかる費用の負担についても、合意が書面で残っていなければ後で対立の火種になります。
退去時にもトラブルが生じやすく、敷金の返還や原状回復に関する記載がない場合、不当な請求を受けるリスクも考えられます。中には、契約時に説明のなかった更新料や修繕費を突然請求される例もあります。
このように、契約書がないことで「言った・言わない」の争いが生じたり、借主が不利な立場に置かれたりする状況が起こりえます。トラブルを防ぐためにも、契約内容は文書として明確に残しておくことが望ましい対応といえるでしょう。
賃貸借契約書の保管期間はどれくらい?
契約が終了した後、賃貸借契約書はいつまで保管すべきかと悩む方も多いでしょう。将来的なトラブルへの備えとして、保管期間の目安や法的な視点からの考え方を把握しておくことが役立ちます。
【基本】契約終了後も最低5年は保管がおすすめな理由
契約終了後に契約書をすぐに処分してしまいたくなる方もいるかもしれませんが、トラブルに備えて一定期間保管しておくことが安心です。特に、契約終了後も5年間程度は保管しておくことが推奨されています。
不動産会社には、宅地建物取引業法施行規則により、契約に関する取引台帳を事業年度末に帳簿を閉鎖後、5年間保存する義務があります。契約書の写しについては法的な保管義務までは定められていませんが、トラブル時の対応や業務記録の観点から、多くの不動産会社では同様に一定期間保存するのが実務上の慣行となっています。また、法的には、敷金の返還請求権や原状回復費用の支払い請求権など、契約に基づく権利は時効によって消滅することがあります。通常は5年、長い場合で10年の時効が適用されるため、その間は契約書を保管しておくことで自身の権利を守る手段となります。
実際には、契約終了後に敷金の返還や原状回復を巡る問題が生じることもあり、その際に契約書が手元にあることで、当時の取り決めを証明し、冷静な対応が可能となります。
【法律面】民法・税法・消滅時効からみた保存期間
賃貸借契約書の保存期間を考える際には、民法、税法、消滅時効といった複数の法律の視点から検討する必要があります。
民法では、賃貸借契約そのものに対する保管期間の定めはありませんが、契約内容に関連する紛争の際には契約書が法的根拠として重要な意味を持ちます。
税法では、個人の場合、賃貸借契約書に直接的な保存義務は課せられていませんが、税務上、家賃補助制度などで契約書の提示を求められることがあります。特に賃料を経費として扱う法人や個人事業主であれば、7年から10年程度の保存が求められることもあります。
消滅時効は、契約に基づく権利が行使できる期間に関する法律であり、民法改正後は、原則として権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年間とされています。この時効期間に対応するためにも、契約書の保管は有効です。
【貸主・借主別】立場による保管期間の違い
契約書の保管期間は、貸主と借主の立場によって若干の違いがあります。
貸主の場合、物件の管理や賃貸収入の記録保持、または物件売却時の参考資料として契約書を保管する必要があります。さらに、トラブル発生時の対応資料として、過去の契約書を参照することもあるため、借主よりも長期の保管を前提とすることが一般的です。
借主にとっては、自身の権利を守るために契約書を保管しておくことが求められます。特に敷金返還や原状回復費用を巡るトラブル時には、契約書が唯一の証拠になる場合もあります。一般的には、契約終了後も5年間は保管するのが安心です。
どちらの立場でも、契約に関するトラブルはいつ起こるかわかりません。法律上の時効を踏まえれば、一定期間の保管は双方にとって適切な対応と言えるでしょう。
賃貸借契約書を早く処分してしまったらどうなる?
契約書を早期に処分すると、思わぬトラブルが起きたときに対処が難しくなります。トラブルの事例や再発行の可能性について事前に理解しておくことが大切です。
処分した場合のトラブル事例とリスク
賃貸借契約書を、推奨される期間よりも早く処分してしまうと、後々思わぬトラブルに見舞われる可能性があります。ここでは、具体的な事例と合わせて、どのようなリスクが考えられるかを見ていきましょう。
まず、退去時の原状回復費用を巡るトラブルです。例えば、退去後に大家さんから高額な修繕費用を請求された場合、契約書に原状回復の範囲や負担割合に関する明確な記載があれば、それを根拠に交渉することができます。しかし、契約書を処分してしまっていると、当時の取り決めを確認することができず、大家さんの言い分を覆すことが難しくなってしまう可能性があります。
また、敷金の返還に関しても同様のリスクがあります。契約書には、敷金の金額や返還に関する条件が記載されています。契約書がない場合、大家さんが一方的に敷金を返還しなかったり、不当な理由をつけて減額したりするケースでも、対抗する証拠がないため、泣き寝入りせざるを得なくなるかもしれません。
契約期間中に大家さんとの間で何らかのトラブルが発生した場合も、契約書がないと不利な状況に陥ることがあります。例えば、物件の設備故障について、契約書に修理費用の負担に関する条項があれば、それに従って対応を求めることができます。しかし、契約書がないと、誰が費用を負担するのかという点で争いが生じ、解決が長引く可能性があります。
さらに、契約終了後に、以前の賃貸契約に関して予期せぬ請求が届くこともあります。例えば、数年後に大家さんから、過去の家賃滞納があったとして支払いを求められた場合、契約書に家賃の支払い状況や滞納時の取り決めなどが記載されていれば、それに基づいて反論することができます。しかし、契約書を処分してしまうと、事実関係を確認する手立てがなく、不当な請求に応じざるを得ない可能性も出てきます。
このように、賃貸借契約書を早く処分してしまうと、さまざまなトラブルが発生した際に、自身の正当性を主張するための重要な証拠を失うことになり、不利な立場に立たされるリスクが高まります。後悔しないためにも、契約書は推奨される期間しっかりと保管しておくことが大切です。
処分した場合に再発行はできる?
賃貸借契約書を紛失したり、誤って処分してしまったりした場合、再発行してもらうことはできるのでしょうか。結論から言うと、完全に同じ内容の原本を再発行してもらうのは、一般的に難しいと考えられます。
その理由としては、再発行の手続きには手間がかかることや、後日原本が見つかった場合にどちらの契約書が有効なのかという新たな混乱を招く可能性があることなどが挙げられます。また、不動産会社によっては、契約書の再発行に対応していない場合もあります。
しかし、契約内容を確認したいという目的であれば、元の契約書のコピー(写し)を不動産会社や大家さんに請求できる可能性があります。不動産会社には、宅地建物取引業法により取引記録(取引台帳など)を5年間保存する義務があります。契約書の写しについて保管義務は明記されていませんが、任意に保管している業者も多く、保管期間内であればコピーを提供してもらえる場合もあるでしょう。
ただし、コピーの交付を受けるには、いくつかの条件や注意点があります。まず、不動産会社に連絡し、契約時の状況や物件の情報などを伝える必要があります。本人確認のために、身分証明書の提示を求められることもあります。また、コピーの作成には手数料が発生する場合もあるため、事前に確認しておきましょう。
注意しておきたいのは、事業用の賃貸借契約など、原本が必要となる手続きがある場合です。そのようなケースでは、コピーでは対応できない可能性があるため、事前に確認が必要です。
もし、不動産会社や大家さんにコピーの交付を断られた場合は、各都道府県の不動産関連の相談窓口や、国民生活センターなどに相談してみるのも一つの方法です。
このように、賃貸借契約書の再発行は難しいことが多いですが、コピーを入手することで、契約内容の確認や、トラブル発生時の備えとすることができます。万が一、契約書を紛失してしまった場合は、諦めずに不動産会社などに相談してみることが大切です。
賃貸借契約書を処分する際の注意点
賃貸借契約書の保管期間が過ぎ、処分を検討する場合でも、内容に含まれる個人情報の扱いには十分な配慮が必要です。適切な方法で処分しなければ、思わぬ情報漏洩やトラブルを招くおそれがあります。
個人情報保護の観点
賃貸借契約書には、氏名、住所、連絡先などの個人情報だけでなく、大家の氏名や物件の詳細情報など、機密性の高い内容が多く含まれています。こうした情報が第三者に渡ると、なりすまし契約や不正な請求といった被害につながる可能性があります。
そのため、契約書を処分する際には、個人情報が外部に漏れないよう注意が必要です。単にゴミ箱に捨てるだけでは不十分で、適切な処分方法を選ぶことが求められます。
シュレッダーや溶解処理のすすめ
安全に個人情報を破棄するためには、家庭用シュレッダーや専門業者による溶解処理の活用が有効です。特にクロスカットやマイクロカットなど、細断精度の高いタイプのシュレッダーを使うことで、読み取りが不可能な状態に処理することができます。
また、大量の契約書を一括で処分したい場合や、より徹底的な処理を希望する場合は、溶解処理サービスを利用するのもひとつの選択肢です。この方法では、書類を化学的に溶かして紙の繊維に戻すため、情報の再構築が事実上不可能になります。多くの業者は自宅への回収サービスも提供しています。
このように、賃貸借契約書を適切に処分することで、大切な情報を守り、不要なトラブルを避けることができます。情報管理の一環として、慎重な対応を心がけるようにしましょう。
賃貸借契約書を安心・安全に扱うために
賃貸借契約書は、貸主と借主の権利と義務を明文化する書類です。契約期間中はもちろん、終了後も最低5年間は保管しておくことが推奨されます。これはトラブル時の証拠として機能し、消滅時効や不動産業法上の観点からも理にかなっています。保管方法としては紙とデジタルの併用が効果的で、整理やセキュリティ面にも工夫が必要です。また、処分の際には個人情報の流出に十分注意し、シュレッダーや溶解処理など適切な手段を用いることが望ましいです。契約書の取り扱いは、賃貸生活の安心と信頼を守るための基本となります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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