- 作成日 : 2025年7月18日
契約書レビューは非弁行為?判断基準や外部委託・AI活用時の注意点を解説
契約書のレビューやチェック業務は、企業の人事・法務担当者にとって欠かせない日常業務の一つです。しかし、これを外部に依頼する際には「非弁行為」に該当しないか注意が必要です。非弁行為とは、弁護士でない者が報酬を得る目的で他人の法律事務を行う行為を指し、弁護士法で厳しく規制されています。
本記事では、契約書レビューにおける非弁行為とは何を指すのか説明し、最新のガイドラインに基づいて注意点やAIツールの適法性について解説します。
目次
非弁行為とは
まず、「非弁行為」とは何かを正確に理解しておきましょう。非弁行為とは、弁護士または弁護士法人でない者(個人・企業問わず)が報酬を得る目的で他人の法律事務を業として行うことを指します。これは日本の弁護士法第72条で明確に禁止されている行為です。つまり、他人の法律に関する事務(典型例は契約交渉の代理や法律相談、訴訟代理など)を反復継続の意思をもって行えば、資格がなければ法律違反となります。
弁護士法72条違反が発覚した場合、刑事罰の対象となり得ます。実際、非弁行為を行うと弁護士法違反の罪(いわゆる「72条違反」)に問われ、懲役刑や罰金刑が科される可能性があります。たとえば悪質なケースでは2年以下の懲役または300万円以下の罰金といった厳しい処罰規定も用意されています。
非弁行為に該当するケースの例と判断基準
契約書レビューを自社以外の第三者に有償で依頼・提供する場合、内容次第で非弁行為に該当する可能性があります。ここでは、代表的な非弁行為の類型を挙げ、法的な線引きについて解説します。
契約書のレビュー・作成代行を有償で行う
他社や他人の契約書をチェックしたり、条項を修正・作成したりするサービスを弁護士資格のない者が提供することは、典型的な非弁行為と見なされることがあります。特に、契約内容の法的リスクを診断したり、具体的な修正案を提示することは「法律事務」に該当し、弁護士法第72条に抵触するおそれがあります。「契約書レビュー代行」や「リーガルチェックサービス」といった業務を弁護士資格のない者が有償で行った場合、非弁行為とされる可能性が高いとされています。
法律相談・法的アドバイスの提供
たとえば「この契約条項は無効になりませんか?」という質問に、弁護士でない者が答えて報酬を受け取った場合、それは非弁行為に該当します。契約トラブルや契約条項の法的解釈に関する助言は、法的専門性を要する「法律事務」に当たるため、資格がない者がそれを業務として提供すれば違法となります。非弁リスクの典型例のひとつです。
紛争の代理交渉や請求代行
契約に関連した紛争について、相手方と交渉を行ったり、債権の回収を他人に代わって行う行為も、非弁行為の典型例です。特に、債権を第三者から譲り受けて、取り立て業務を繰り返し行うような場合は、弁護士資格を持たない限り弁護士法違反と判断される可能性があります。こうした代理行為は本質的に「他人の法律事務」であり、資格者以外には許されていません。
法律専門職を装う行為
弁護士でない者が、弁護士や法律事務所と誤認されるような名称・表示を用いて業務を行うことも、法律で明確に禁じられています(弁護士法第74条)。看板やウェブサイトで「法律相談承ります」と記載したり、法律事務所を装った表現を使用することは、たとえ具体的な法律業務を行っていなかったとしても、非弁行為として処罰の対象となり得ます。表示だけでも違法となる点に注意が必要です。
社内で行う契約書レビューと非弁行為の関係
企業の人事・法務担当者として気を付けたいのは、「自社内で行う契約業務」と非弁行為の関係です。
自社の社員による契約書レビューは非弁行為ではない
自社の契約書レビューを自社の社員が行う限り、それは非弁行為には該当しません。弁護士でない社員であっても、自社の一員として自社の法律事務を処理することは「自己の法律事務」を行う行為であり、弁護士法はこれを禁じていないからです。社内法務部門が契約書の作成・審査や法律相談対応を担うのは通常業務の一環であり、問題ありません。
注意すべきケース
外部の人を業務委託で関与させる場合
弁護士資格のない人を契約社員ではなく業務委託(フリーランス等)として法務業務に携わらせる場合、その人は企業の従業員ではないため「自社の法律事務」とはみなされず、非弁行為に該当する可能性があります。極端に言えば、週5日常駐で契約レビューをしてもらっていても雇用契約が無ければ違法となり得るのです。したがって、弁護士資格のない者に法務業務を委託することは避けるか、どうしても必要な場合は非常勤でも雇用契約を結ぶなどの対応が必要になります。雇用契約があれば週1回勤務のパートタイムでも従業員ですので非弁の問題は生じません。
グループ会社間で法務業務を融通する場合
現在の法務省の見解としては、親会社と子会社がいずれも株式会社であり、かつ通常の企業活動の範囲内での契約や規程整備などに関する法務業務については、グループ内で一定の融通を図ることが直ちに弁護士法第72条に違反するものとは限らないとされています。たとえば、親会社が子会社の契約書や約款のひな形を提供したり、子会社が作成した文書をチェックした上で、一般的な法的意見を述べたり、また法令改正の情報提供やコンプライアンスの推進のための社内教育を実施したりすることは通常、同条に違反しないと考えられています。
契約書レビューを外部に依頼する際の注意点
社内に弁護士や法務専門職がいない場合、契約書チェックを外部の専門家に依頼するケースもあるかもしれません。各士業の業務範囲と法的制限を理解した上で、適切な依頼先を選ぶ必要があります。
司法書士に依頼できる?
司法書士は不動産登記や会社設立登記などを専門とする士業であり、契約書の作成や法律相談業務は、原則として業務範囲外とされています。例外として、簡易裁判所が管轄する140万円以下の訴訟代理などが認められる場合もありますが、一般的な契約実務に関する代理や相談は司法書士法により制限されています。
不動産売買契約書の作成について司法書士が関与する例もありますが、それは登記に必要な書類を整える一環として形式的に作業するものであり、契約内容に関して実質的な検討や助言を行うことは認められていません。契約の条項内容や取引リスクについての判断や交渉を司法書士が担うことはできません。そのため、契約書のリーガルチェックや作成支援を司法書士に依頼するのは適切とは言えず、非弁行為に該当するおそれがあります。
行政書士に依頼できる?
行政書士は「権利義務に関する書類の作成代理」を業務として認められており、契約書の作成自体は行政書士が扱える範囲に含まれています。ただし、行政書士が契約書を作成できるのは、当事者間で契約内容がすでに合意されており、紛争性や交渉の余地がない場合のみです。内容について相手方と契約書交渉をすることや交渉を代行するといった「非弁行為」に該当する行為は認められていません。
行政書士に契約書作成を依頼する場合、基本的には依頼者側が契約内容を固めておき、それを形式的に文書にまとめてもらうという形になります。具体的には、あらかじめ用意されたひな型や素案をもとに、文書化の支援を依頼するような利用方法が求められます。行政書士は文書作成の専門家ではありますが、契約書の法的妥当性や将来のトラブルに備えた内容調整までは行えません。これを超えて関与した場合、非弁行為に該当する危険性があります。
行政書士が複雑な契約に介入し、弁護士会から非弁行為として警告を受けたケースも報告されています。契約内容に不明点がある場合や、交渉の余地がある取引などでは、行政書士では対応しきれないことが多いため、弁護士への相談が推奨されます。
社労士・税理士など他士業に依頼できる?
社会保険労務士や税理士などの他士業についても、それぞれ専門領域の中で書類作成や相談業務が認められている場合はあります。しかし、契約書全般のレビューや作成は各士業の本来の業務範囲には含まれていません。
社会保険労務士は就業規則や雇用契約書など、労務関連の文書についてのアドバイスは可能です。ただし、それはあくまで労働法に関する限られた分野であり、売買契約や業務委託契約など一般的な商取引契約のレビューには対応できません。
税理士についても、税務面に関係する契約書(たとえば節税スキームに関する契約など)であれば一定のアドバイスは可能ですが、それ以外の契約に関するチェックや作成は専門外となります。結果として、契約書全体の法的チェックを行えるのは弁護士のみであると理解しておくことが現実的です。
弁護士に依頼するのが最も安全
弁護士は、契約書レビューに関して最も適した専門家であり、契約内容の法的リスク分析、条項の修正提案、交渉支援、さらにはトラブル発生時の対応まで、幅広くサポートを提供できます。
契約書を弁護士に依頼する最大の利点は、将来的なトラブルを見越した内容調整が可能である点にあります。法的な観点から有効な条項構成を助言してもらえるため、契約当事者としてのリスクを最小限に抑えることができます。契約の重要度や取引規模に応じては、弁護士報酬以上のリスク軽減効果が得られるケースも少なくありません。
依頼にあたっては、契約分野に実績のある弁護士を選ぶことが望ましく、継続的なサポートを得るために顧問契約を結ぶという方法も有効です。顧問契約があれば、日常的な契約書チェックの相談もスムーズに行えるようになります。
AI契約書レビューサービスは非弁行為に該当する?
契約書チェックにおけるAIの活用は急速に広がっていますが、非弁行為との関係が懸念されています。法務省が公表した最新ガイドラインでは、AI契約書レビューの適法性について指針が示されました。企業の導入担当者は、この基準に沿った判断が求められます。
契約書の作成支援サービスは非弁行為になり得る
AIを用いた契約書の作成支援では、ユーザーが入力した情報をもとに、個別案件に合致する契約書案を自動生成するタイプのサービスがあります。こうした機能は、契約内容に関する法的判断を含むものであり、弁護士資格を持たない者が提供した場合には非弁行為に該当するおそれがあるとされています。
一方で、ユーザーが用意された選択肢の中から項目を選び、それを定型ひな型に反映させるだけの機能であれば、法律判断を含まず、単なるテンプレート提供とみなされるため非弁行為には該当しません。たとえば、会社名や日付、金額などの情報を入力して、自動的に定型契約書に差し込むだけのサービスであれば、違法性の問題は生じにくいと考えられています。
契約書のレビュー支援サービスは内容により非弁行為に該当する
契約書をアップロードし、AIが法的観点からその内容を審査・分析するレビュー支援サービスも登場しています。しかし、法務省のガイドラインでは、契約書に対して個別具体的な法的リスクの指摘や、そのリスクの度合いを数値化した評価、修正案の提示といった機能を提供することは、非弁行為となる可能性が高いとされています。
たとえば「この契約書には70%のリスクがあります。第○条をこのように修正すれば30%に下がります」といった具体的な改善提案をするサービスは、実質的に法律事務を提供する行為とみなされます。これに対して、登録されたひな型との違いを示すだけ、文言の差分を視覚的に表示するだけの機能であれば、法的判断を伴わないため非弁行為には該当しません。
契約書の管理支援サービスも内容に注意が必要
AIを活用した契約書管理サービスも増えています。これには、契約書をデータベース化し、更新期限や契約金額などの情報を一覧表示したり、リマインド通知を行ったりする機能が含まれます。こうした純粋な事務管理支援に留まるものであれば、法律事務とは言えず、非弁行為にはあたりません。
しかし、契約書の管理機能に加えて「この契約には法的リスクがある」「この条項は見直すべき」といった判断を自動的に提示するような機能が組み込まれている場合には、非弁行為に該当する可能性があります。管理系のサービスであっても、契約内容の適法性や改善必要性といった法的評価を含む設計には細心の注意が必要です。
AIサービスの設計と利用には慎重な姿勢が求められる
上記のとおり、AI契約書レビューサービスはその設計内容によって、弁護士法第72条に違反するリスクが生じ得ます。企業がこうしたサービスを導入する際は、提供される機能が「定型的な書式の提供」や「文言の差分表示」にとどまっているか、あるいは「法的な評価や修正提案」といった判断行為に踏み込んでいないかを確認する必要があります。
仮にサービスがリスク評価や修正提案まで自動的に行う設計である場合、それを提供・使用すること自体が非弁行為を構成するおそれがあります。導入する企業側としては、サービスの運営主体に弁護士が関与しているか、レビュー機能において弁護士の監修・最終確認が組み込まれているかを確認しなければなりません。
契約書レビューと非弁行為を正しく理解して実務に活かそう
契約書レビューを行う際は、弁護士法に基づく非弁行為のリスクを常に意識する必要があります。自社内での対応は問題ありませんが、外部委託やAI活用では法的な線引きを誤ると違法になる可能性があります。各士業の業務範囲を理解し、判断が必要な場面では弁護士に相談する体制を整えることが、安全かつ効率的な契約実務につながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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