- 作成日 : 2025年7月18日
紙の契約書を電子化するには?方法やメリット・デメリットを解説
デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展やリモートワークの普及に伴い、紙ベースの契約書から電子契約への移行が加速しています。法整備も進み、多くの契約書が電子的に扱えるようになりました。この変化は、業務効率化とコスト削減を目指す企業にとって重要な課題です。この記事では、紙の契約書の電子化について、具体的な方法から注意点まで網羅的に解説します。
目次
紙の契約書を電子化する方法
紙の契約書を電子化する方法は、主に「スキャニング」「電子契約サービスの利用」「PDFへの電子署名」の3つです。
スキャニングによる既存契約書の電子データ化
既存の紙の契約書をスキャナーで読み取り、PDFなどの電子データとして保存する方法です。ただし、その電子データを法的に有効な保存方法として認めてもらうためには、電子帳簿保存法の「スキャナ保存」の要件(解像度200dpi以上、タイムスタンプ付与など)を満たす必要があります。また、スキャンしたデータも証拠として利用されることがありますが、原本と比べて証拠力が弱くなる可能性があります。そのため、重要な契約書は原本も保管しておくのが望ましいです。
電子契約サービスの利用
契約の作成から締結、保管までをオンラインで一貫して行えるクラウドサービスです。契約書をアップロードし、相手方に署名依頼を送信、双方が電子署名することで契約が成立します。多くの場合、相手方はアカウント登録や費用負担なしで署名可能です。電子帳簿保存法に対応した機能を持つサービスが一般的です。
PDFへの電子署名
既存のPDFファイルに直接、電子署名や電子サインを付与する方法です。Adobe Acrobatなどのソフトウェアが利用されます。電子署名法に基づき、適切な電子署名(本人が行い、改ざんされていないことが確認できるもの)が付与されていれば、法的な効力を有するとされています。
紙から電子化にかかる費用
電子化には初期費用と運用コストがかかりますが、長期的にはコスト削減効果も期待できます。
初期費用
- 電子契約システム導入費: クラウド型は初期費用無料が多いですが、高機能プランやカスタマイズでは費用が発生することがあります。
- スキャナー購入費: 大量の紙契約書を電子化する場合、数万円から数百万円以上の業務用スキャナーが必要になることがあります。
- その他: 導入支援コンサルティング費や既存システムとの連携開発費がかかる場合もあります。
運用コスト
- 電子契約サービスの月額・年額利用料: プランにより数千円から数万円が一般的です。送信件数やユーザー数で変動します。
- 送信料(従量課金): サービスによって異なりますが、1通あたり100円~300円程度かかる場合があります。
- 電子証明書の発行・更新費用: 当事者型署名の場合に必要です。
- その他: タイムスタンプ費用、ストレージ費用、システムメンテナンス費用、従業員研修費用などが考えられます。
コスト削減効果
- 印紙税の削減: 電子契約では印紙税が不要です。
- 印刷・製本費、郵送費・交通費の削減: 紙やインク代、郵送費などが不要になります。
- 保管コストの削減: 物理的な保管スペースや管理の人件費が削減されます。
- 件費の削減: 作業時間短縮により、間接的な人件費も削減できます。
紙の契約書を電子化する流れ
契約書の電子化は、以下のステップで進めるのが一般的です。
1. 準備段階:現状分析と目的設定
まず、社内の契約書の種類、量、頻度を把握し、管理上の課題を洗い出します。その上で、電子化によって何を達成したいのか(コスト削減、業務効率化など)具体的な目的を明確にします。
2. 関係部署との連携と社内体制の構築
法務、営業、経理、情報システムなど関連部署と連携し、プロジェクトチームを組成します。各部署の現状や要望を共有し、推進体制と責任者を明確にします。
3. 電子化対象の選定と範囲決定
全ての契約書を一度に電子化するのは難しいため、優先順位をつけます。新規締結契約から始め、段階的に既存の紙契約書へと範囲を広げるのが一般的です。
4. ツール・サービスの選定と導入
目的、予算、電子化範囲、必要機能(ワークフロー、セキュリティなど)を基に、最適な電子契約サービスやスキャニングツールを選定します。複数のサービスを比較し、無料トライアルで操作性を確認しましょう。
5. 既存契約書のスキャニングとデータ入力
選定範囲の紙契約書をスキャンし、PDFなどに変換します。電子帳簿保存法のスキャナ保存要件を遵守し、契約日、契約相手などの情報をメタデータとして入力し、検索性を高めます。
6. 新規契約の電子化フロー構築
電子契約サービスを利用する場合、契約書作成から社内承認、相手方への送信、署名依頼、進捗管理、保管までの一連のプロセスをシステム上で構築します。
7. 従業員への教育と運用開始
新しいシステムの使い方、法的知識、社内ルールについて従業員研修を実施します。マニュアルやFAQを整備し、段階的に運用を開始します。
電子化できる契約書・できない契約書
多くの契約書が電子化可能ですが、一部例外や条件付きのものがあります。
電子化可能な契約書
売買契約書、業務委託契約書、秘密保持契約書(NDA)、雇用契約書など、多くの一般的な契約書は電子化が可能です。
電子化できない契約書
以下の契約書は、法律で書面または公正証書による作成が義務付けられており、現時点では電子化できません。
- 事業用定期借地契約書(借地借家法)
- 任意後見契約書(任意後見契約に関する法律)
- 企業担保権の設定又は変更を目的とする契約(企業担保法)
電子化に相手方の承諾が必要な契約書
以下の契約書は、電子化自体は可能ですが、相手方の承諾や希望が条件となります。
- 労働条件通知書(労働基準法):労働者が希望した場合
- 不動産取引関連書面(宅地建物取引業法):媒介契約書、重要事項説明書、売買契約書など、依頼者や相手方の承諾が必要
- 建設工事の請負契約書(建設業法):相手方の承諾が必要
- 特定商取引における契約書面等(特商法):消費者の承諾が必要
承諾を得る際は、記録に残る形で行うことが望ましいです。
紙の契約書を電子化するメリット・デメリット
契約書の電子化には多くのメリットがありますが、デメリットや課題も存在します。
メリット
デメリットと課題
- 導入・運用コスト: システム導入費や月額利用料などのコストが発生します。
- セキュリティリスク: サイバー攻撃による情報漏洩やデータ改ざんのリスクがあります。
- 取引先の理解と対応: 取引先が電子契約に対応していない、または抵抗感を持つ場合があります。
- 社内体制の変更と従業員教育: 新しい業務フローへの適応や研修が必要です。
- システム障害・インターネット環境への依存: 業務が停止するリスクがあります。
- 電子化できない契約書の存在: 一部の契約書は依然として書面が必要です。
- 電子帳簿保存法への対応負荷: 法令要件を満たすための対応が必要です。
紙の契約書を電子化する注意点
契約書を電子化する際には、以下の点に注意が必要です。
法的要件の遵守
- 電子署名法: 電子署名が本人の意思に基づき、改ざんされていないことを証明できる必要があります。
- 電子帳簿保存法: 電子データの保存には、「真実性の確保」(タイムスタンプ、訂正削除履歴など)と「可視性の確保」(検索機能、ディスプレイ表示など)の要件を満たす必要があります。2024年1月からは電子取引データの電子保存が義務化されています。
- その他関連法規: 宅地建物取引業法など、業種特有の法的要件も確認が必要です。
セキュリティ対策の徹底
情報漏洩、不正アクセス、データの改ざん・破損、なりすましといったリスクに対応するため、堅牢なセキュリティ体制を持つ電子契約サービスの選定、アクセス制御、データ暗号化、多要素認証、タイムスタンプの活用、ウイルス対策、定期的なバックアップなどが必要です。
取引先の同意と協力体制
事前に取引先に電子契約について説明し、理解と同意を得ることが重要です。特に法律で相手方の承諾が電子化の要件となっている場合は、承諾の記録を適切に保管する必要があります。
社内規程の整備と従業員教育
電子契約の運用ルール(署名権限、承認フロー、保管方法など)を明確に定めた社内規程を整備し、従業員への教育とトレーニングを実施します。
バックアップと災害対策
システム障害や災害に備え、契約書データの定期的なバックアップを取得し、安全な場所に保管します。クラウドサービス利用時も、サービス提供者のバックアップ体制を確認し、可能であれば自社でも独立したバックアップを検討することが望ましいです。
自社にあった方法を選んで、紙の契約書の電子化を進めよう
紙の契約書の電子化は、コスト削減、業務効率化、コンプライアンス強化など多くのメリットをもたらします。しかし、導入コスト、法的要件の遵守、セキュリティ対策、取引先の理解、社内体制の整備といった課題も伴います。
この記事で解説した方法、費用、流れ、メリット・デメリット、注意点を総合的に比較検討し、自社の状況に最適な電子化プランを策定することが成功の鍵となります。契約書の電子化は、単なるペーパーレス化に留まらず、契約管理業務全体のDXを推進し、企業の競争力強化に貢献する戦略的な取り組みです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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