- 作成日 : 2025年7月17日
媒介契約書は電子化できる?電子化の流れやメリット・デメリットを解説
不動産取引における媒介契約書は、依頼者と不動産業者の間の権利や義務を定める重要な書類です。従来、紙ベースの契約手続きには多くの手間やコストがかかっていました。
近年、社会全体のデジタル化が進み、不動産業界でも業務効率化やコスト削減、顧客利便性の向上を目指して媒介契約書の電子化が注目されています。
この記事では、媒介契約書の電子化について、法的な側面、具体的な手順、メリット・デメリット、注意点を分かりやすく解説します。
媒介契約書は電子化できる!
法改正により、媒介契約書の電子化が可能になりました。
デジタル改革関連法と宅地建物取引業法の改正ポイント
2021年に成立したデジタル改革関連法と、それに伴う宅地建物取引業法(宅建業法)の改正が大きな転換点です。2022年5月18日から、媒介契約を結ぶ際の書面を電子データで提供できるようになりました。これにより、宅地建物取引士の押印義務も廃止され、電子署名が認められるようになりました。
電子化が認められる媒介契約書の種類と条件
一般媒介契約、専任媒介契約、専属専任媒介契約といった媒介契約の種類に関わらず、電子化が可能です。
ただし、電子化するには以下の条件を満たす必要があります。
- 国土交通省令の基準を満たす「電子署名」を使用すること。
- 依頼者(売主または買主)から電子化について承諾を得ること。
必須となる「依頼者の承諾」とは
媒介契約書を電子データで提供するには、必ず依頼者の承諾が必要です。後のトラブルを防ぐため、承諾は書面や電子メールなど記録に残る形で行うことが推奨されます。依頼者のITスキルや理解度に合わせて、丁寧な説明が求められます。
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媒介契約書を電子化する流れ
媒介契約書の電子化は、以下のステップで進められます。
準備:電子契約サービスの選定と社内体制の整備
まず、自社に合った電子契約サービスを選び、社内体制を整えます。媒介契約に対応し、セキュリティや法令遵守の観点からも信頼できるサービスを選定することが重要です。また、電子契約を組み込んだ新しい業務フローを設計し、社内ルールを整備します。
手順1:依頼者への説明と電子化への同意取得
次に、依頼者に電子契約の進め方やメリット、操作方法などを説明し、電子化への同意を得ます。依頼者が電子データを確認できる環境(PC、スマートフォンなど)を持っているか事前に確認しましょう。同意は記録に残る形で取得・保管します。
手順2:契約書のアップロードと不動産業者の電子署名
依頼者の同意が得られたら、不動産業者が媒介契約書を電子契約システムにアップロードし、電子署名を行います。これは従来の押印に相当する手続きです。
手順3:IT重説の実施(オンラインでの重要事項説明)
必要に応じて、オンラインで重要事項説明(IT重説)を行います。IT重説を行う場合も、事前に依頼者の承諾が必要です。宅地建物取引士は、Web会議システムなどを通じて説明を行い、自身の宅地建物取引士証を提示します。
手順4:依頼者による契約内容確認と電子署名
IT重説後、依頼者は電子契約システムを通じて媒介契約書の内容を確認し、問題がなければ電子署名を行います。多くのサービスでは、依頼者は簡単な操作で署名できます。
手順5:電子契約書の交付と適切な保管
双方の電子署名が完了すると契約が成立します。締結済みの電子契約書は、改ざん防止措置が施された状態で依頼者と不動産業者に交付されます。不動産業者は、電子帳簿保存法の要件に従って電子契約書を適切に保存・管理する必要があります。
参考:レインズ登録証明書の電子交付について
レインズ(指定流通機構)への物件登録後に発行される登録証明書も、依頼者の承諾を得れば電子データで交付できます。
媒介契約書を電子化するメリット・デメリット
電子化には多くの利点がありますが、注意すべき点も存在します。
メリット
- コスト削減: 印刷代、郵送費、交通費が不要になります。保管スペースや管理コストも削減できます。
- 業務効率化・時間短縮: 契約手続きにかかる時間と手間が大幅に削減されます。契約の進捗状況も管理しやすくなります。
- 顧客利便性向上: 非対面での契約が可能になり、遠方の顧客や多忙な顧客にも対応しやすくなります。書類紛失のリスクも低減します。
- 環境貢献: ペーパーレス化により、環境負荷の低減につながります。
デメリットと対策
- 導入・運用コスト: 電子契約システムの導入には費用がかかります。
- 対策: クラウド型サービスや補助金の活用を検討しましょう。
- セキュリティリスク: サイバー攻撃による情報漏洩やデータ破損のリスクがあります。
- 対策: 信頼性の高いサービスを選び、アクセス管理やデータの暗号化、バックアップを徹底しましょう。
- 相手方への配慮・ITリテラシー: 全ての依頼者が電子契約にスムーズに対応できるわけではありません。
- 対策: 事前に丁寧な説明とサポートを行い、場合によっては紙の契約と併用することも検討しましょう。
- システム・運用面: 業務フローの見直しや従業員教育が必要です。電子帳簿保存法への対応も必須です。
- 対策: 段階的な導入や研修の実施、法令対応したシステムの選定が有効です。
媒介契約書を電子化する注意点
安全かつ確実に電子化を進めるために、以下の点に注意しましょう。
電子署名の法的有効性と信頼性の確保
使用する電子署名は、本人が行い、改ざんされていないことを証明できるものでなければなりません。国土交通省令の基準を満たす、信頼性の高い電子署名手段を選びましょう。タイムスタンプの活用も有効です。
万全なセキュリティ対策と情報漏洩防止
個人情報や機密情報を扱うため、厳格なアクセス管理、データの暗号化、不正アクセス監視など、万全のセキュリティ対策が不可欠です。社内ルールを整備し、従業員教育も徹底しましょう。
電子帳簿保存法への準拠とデータ管理
電子化された媒介契約書は、電子帳簿保存法の要件(真実性の確保、可視性の確保、検索性の確保)に従って適切に保存・管理する必要があります。法令に対応した電子契約サービスの利用や専門家のアドバイスが有効です。
システム障害やデータ消失リスクへの備え
システム障害やデータ消失に備え、復旧手順の策定と定期的なデータバックアップが不可欠です。バックアップデータは、元のデータとは別の場所・媒体に保管することが推奨されます。
注意点に気をつけて、媒介契約書の電子化を成功させよう
媒介契約書の電子化は、法改正により可能となり、コスト削減、業務効率化、顧客利便性向上といった多くのメリットをもたらします。
しかし、導入を成功させるためには、電子化の流れを理解し、メリット・デメリットを把握した上で、法令遵守、セキュリティ対策、依頼者への配慮といった注意点を確実に実行することが不可欠です。自社に最適な電子契約サービスを選ぶことも重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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