- 更新日 : 2025年8月14日
価格交渉の進め方と下請法対応のポイントは?義務や禁止行為をわかりやすく解説
下請法は、親事業者と下請事業者の公正な取引関係を維持するための法律であり、価格交渉の場面でもその遵守が求められます。近年は原材料費や人件費の上昇を背景に、適切な価格転嫁と交渉の重要性が一層高まっています。
本記事では、価格交渉に関連する下請法の基本的なルールや禁止行為、交渉時の実務対応を解説します。
目次
下請法と価格交渉の基本
下請代金支払遅延等防止法(いわゆる「下請法」)は、親事業者(発注側)と下請事業者(受注側)の取引を公正にするための法律です。資本金規模など一定の要件を満たす発注側企業に対し、下請代金の支払い期日(原則受領後60日以内)や書面交付義務などを定め、代金減額や買いたたき等の不公正な行為を禁止しています。特に原材料費や人件費などコスト上昇時の価格交渉・価格決定については、近年その重要性が増しています。政府も「価格交渉促進月間」の設定などにより、発注側・受注側の適正な価格交渉と価格転嫁の推進に力を入れています。
下請法における価格交渉とは
下請法における「価格交渉」は、発注者と受注者が取引価格を協議するプロセスを指し、コスト上昇分を価格に適切に反映させるために行います。「価格転嫁」はコスト増を価格へ反映させることであり、その前提として両者による十分な価格交渉が不可欠と位置付けられています。下請法自体には「価格交渉を行う義務」の明文規定はありませんが、交渉過程を無視した一方的な価格決定や据え置きは不公正な取引方法とみなされる可能性があります。そのため発注側企業は、取引先から価格見直しの要請があった場合には真摯に協議に応じ、公平な価格決定に努めることが求められます。
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下請法における価格交渉の義務と禁止行為
下請法では、発注側企業が受注側企業との取引において適正な価格交渉を行い、不当な取扱いをしないよう明確なルールが定められています。ここでは、価格交渉に関連する義務と、法的に禁止されている主な行為を確認します。
書面交付と価格明記の義務
発注側は、発注内容や代金額、支払期日などを記載した書面(契約書や発注書)を受注側に交付しなければなりません。これは、合意内容の証拠とし、後日の紛争防止に役立つと同時に、価格交渉の基盤を形成するために重要です。契約内容を口頭で済ませることは避け、変更や追加があった場合にも必ず書面を交わす必要があります。
実質的な価格交渉の協議義務
明文化された義務ではないものの、現在のガイドラインでは、コスト上昇を認識しながら価格を据え置くことは適切でないとされています。最低賃金や原材料価格の上昇など、取引環境が変化したにもかかわらず、長期間単価を見直さない対応は、下請法が禁じる「買いたたき」と判断される場合があります。発注側は、契約継続中であっても、適切なタイミングで価格を見直し、受注側との協議を行うことが求められています。
下請代金の支払義務と期限
発注側は、検収後遅くとも60日以内(業種により最長120日)に下請代金を支払う必要があります。支払期日を不当に遅らせる、または長期手形での支払いを強要する行為は、下請法上の「遅延支払」や「不当な手形の使用」に該当する恐れがあります。支払サイト(期間)は取引契約に明記し、合意通りの金額を期限内に支払うことが基本です。
買いたたきと減額の禁止
「買いたたき」は、発注時に通常価格に比べて著しく低い単価を一方的に定める行為を指します。十分な交渉も行わずに過去の単価から一律に20%引き下げるようなケースは、買いたたきに該当する可能性が高く、公正取引委員会も違反として厳しく対処しています。
一方「下請代金の減額」とは、契約成立後に代金を引き下げる行為であり、検収後の値引きやコスト還元の要求がこれに該当します。既に合意した金額に対し、後から支払額を変更する行為は、いかなる理由があっても下請法違反となります。
これら2つの行為は法的には区別されていますが、実際には一連の取引の中で併発することもあります。たとえば、発注時に単価を下げ、その後の発注でも同条件を継続する行為は、買いたたきと減額の双方に抵触するケースとされ、実際に勧告対象となった事例もあります。
その他の禁止行為と価格交渉上の注意
下請法は、価格交渉の場面に限らず、不当な利益の供与を求める行為も禁じています。従業員を無償で働かせる、接待費の提供を求める、返品や注文取消しを一方的に強行するなどの行為が典型例です。仮に価格交渉が行われたとしても、「値上げを認める代わりに見返りを求める」といった対応は法令違反となります。発注側企業は、公正で透明性のある交渉を行い、不当な圧力や取引条件の押しつけにならないよう細心の注意が求められます。
下請法を遵守して価格交渉する際のポイント
価格交渉を円滑かつ法令に則って行うには、事前の準備と交渉記録の整備が不可欠です。下請法における交渉の適正性は、形式的な義務以上に「どのように交渉したか」「何を記録に残したか」によって判断されることがあります。ここでは、企業法務担当者が実務で意識すべき5つのポイントを紹介します。
契約書や発注書で価格条件を明示する
価格交渉を行う前提として、契約内容が書面で明確にされていることが重要です。取引開始時には契約書を交わし、製品やサービスの単価、価格決定方法、支払い条件などを記載しておくことで、交渉の出発点が確立されます。単発の取引であっても、発注書や受注書に価格・数量・納期を明記し、双方が署名・押印する形をとるのが望ましい対応です。
さらに、「原材料費が一定以上上昇した場合は価格を再協議する」といった価格改定条項を設けておくことで、継続的な取引の中でも交渉が円滑に行えます。発注側は下請法の書面交付義務を果たす意味でも、契約書の整備が必須です。
交渉の過程を証拠として残す
価格交渉に関するすべてのやり取りは、可能な限り書面やメール等で記録に残すことが推奨されます。口頭のみでのやりとりは、交渉の有無や内容に関する認識の齟齬を生みやすく、後の紛争リスクを高めます。たとえば、受注側が値上げを要請する際には、コスト上昇の根拠資料(原材料価格の推移、人件費の上昇、利益率の変化など)を添えて文書で申し入れを行うと効果的です。
一方、発注側も価格交渉の申し入れに対する回答を必ず文書で残し、議事録や覚書として保管するようにします。これにより、交渉経緯が後から確認可能となり、コンプライアンス上の証拠にもなります。
適切なタイミングと頻度で交渉を行う
価格交渉は、突発的に行うのではなく、一定のタイミングで計画的に進めることが望まれます。多くの企業では、年度始めや下期開始前のタイミングで、半期ごとの価格見直しを行う慣行があります。この時期は、予算編成や収支見直しとも重なるため、交渉提起が受け入れられやすい傾向にあります。
ただし、原材料費やエネルギーコストが急騰したような例外的状況では、時期を問わず柔軟に協議の場を設ける必要があります。価格だけでなく、納期やロット、品質要件などを含めて取引条件全体を定期的に見直す姿勢を持つことが、長期的な信頼関係の構築にもつながります。
交渉申入れや回答は書面で行う
交渉に関しては、提案・申入れ・回答のいずれも可能な限り書面で行うべきです。受注側が価格改定を求める場合、提案内容を明文化した上で提出すれば、発注側も社内決裁や検討を行いやすくなり、交渉の実現性が高まります。発注側としても、回答を行う際には、「拒否」ではなく、理由を丁寧に説明し、次の見直し時期や条件などについても言及することが望ましい対応です。
書面でのやり取りを重ねることで、交渉が一方通行ではなく、双方が誠実に協議した形跡が残り、将来的なトラブル防止にもつながります。
契約書類・交渉資料の保管体制を整える
発注側には、下請法に基づき契約書・発注書・納品書・受領書などを2年間保存する義務があります。受注側も同様に、契約書や価格交渉の記録を体系的に保管しておくことが推奨されます。これらの書類は、公正取引委員会の調査対象となることもあるため、書面の整備状況は法令遵守の観点からも重要です。
社内では紙と電子データの両方を適切に管理できる体制を構築し、担当部署間で情報共有を行える仕組みを整えておくとよいでしょう。
中小企業庁・公取委による価格交渉の促進と監督強化
中小企業庁は、原材料や人件費の高騰を受け、価格交渉の適正化を推進するため、毎年「価格交渉促進月間」を実施しています。2024年9月の調査では、中小企業の約8割が交渉を行い、労務費転嫁も7割超が実施と報告されました。一方で、発注側からの交渉提起は3割未満にとどまっており、さらなる意識改革が課題です。交渉マニュアルやeラーニングも提供され、実務支援体制が整備されています。
また、「パートナーシップ構築宣言」による自主的取組も奨励されています。公正取引委員会は監督強化を進め、2023年度には下請法違反で13件の勧告と8,000件超の指導を実施。2024年には運用基準が改正され、価格据え置き自体が違反となる基準が明確化されました。発注・受注の両者は、行政方針を踏まえた対応が求められています。
適正な価格交渉を実現するための支援策
企業法務担当者が下請法の遵守と適正な価格交渉を実現するためには、社内体制の整備と外部リソースの有効活用が不可欠です。ここでは実務で活かせる支援策や参考資料を紹介します。
公的ガイドライン
公正取引委員会の「下請法運用基準」や「価格交渉に関する指針」、中小企業庁の「価格交渉ハンドブック」は、最新の行政方針を反映した資料です。とくに2023年以降に改訂された労務費転嫁指針や価格転嫁対応策は、社内ポリシー見直しの参考になります。
講習会・研修プログラム
中小企業庁の適正取引支援サイトでは、eラーニングやセミナーの情報が提供されています。公取委も各地で講習会を開催しており、法務担当者自身の知識更新だけでなく、他部門社員への教育にも有効です。
相談窓口や外部支援
取引トラブルが発生した場合、公取委や中小企業庁の相談窓口、地方の支援センターを活用することで、早期解決が期待できます。社内では法務部を窓口として周知し、必要に応じて弁護士等外部専門家のホットラインも検討しましょう。
業界団体による支援ツール
各業界団体が提供するガイドラインや価格転嫁支援資料も有益です。原材料費指数や標準運賃表などの資料を社内共有し、取引条件見直しの根拠として活用できます。
内部通報制度
下請法違反を早期に把握するため、自社の内部通報制度に価格交渉関連の問題も含めることが推奨されます。不適切な慣行を是正する体制を整えることで、法令順守と信頼性の向上につながります。
下請法と価格交渉をめぐる実務対応を見直そう
下請法に基づく価格交渉の適正化は、発注・受注双方の責任です。書面の整備や交渉記録の保存、社内体制の構築はコンプライアンスの基本であり、行政のガイドラインや支援策の活用が有効です。定期的な見直しと誠実な対話を重ねることで、健全な取引関係と法令順守を両立していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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