- 作成日 : 2025年7月4日
秘密保持契約書(NDA)の保管期間は?適切な期間と管理方法を解説
ビジネスにおいて、 M&Aの検討、新規事業に関する協議、共同研究開発、業務委託など、様々な場面で重要な機密情報を取り扱います。このような情報の漏洩を防ぎ、安心してビジネスを進める上で不可欠となるのが「秘密保持契約書(NDA)」です。
NDAを締結することはもちろん重要ですが、締結後の契約書を適切に管理し、必要な期間保管することも、情報管理体制の一部として非常に大切です。では、この秘密保持契約書は一体いつまで保管しておくべきなのでしょうか?法的な定めから実務上の推奨期間、そして適切な管理方法について解説します。
秘密保持契約書について詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてご覧ください。
目次
なぜ秘密保持契約書の保管が必要なのか?
秘密保持契約書は、単なる形式的な書類ではありません。万が一、相手方による秘密情報の漏洩が発生した場合、または相手方から秘密情報の漏洩を疑われた場合に、以下の証拠として機能します。
- 秘密保持義務が存在することの証明:どのような情報について、どれぐらいの期間、秘密保持義務があるかを証明します。
- 契約違反があったことの証明:契約内容に照らして、相手方の行為が違反にあたるかを判断する根拠となります。
- 損害賠償請求や差止請求の根拠:秘密保持義務違反に基づく法的な措置をとる際の証拠となります。
つまり、秘密保持契約書は、秘密情報に関するトラブルが発生した際に自社を守るための「お守り」であり、「武器」となり得る重要な書類なのです。そのため、必要な時にいつでも取り出せる状態で、適切な期間保管しておく必要があります。
秘密保持契約書の法的保管期間はある?
「秘密保持契約書は〇年間保管しなければならない」といった、秘密保持契約書そのものに対して保管期間を直接的かつ具体的に定めた法律はありません。
会社法や税法など、他の法律では特定の書類(例:会計帳簿、株主総会議事録など)に対して保管期間を定めている場合がありますが、これは会社の運営や税務処理に関するものであり、秘密保持契約書に直接適用されるものではありません。
したがって、秘密保持契約書の保管期間については、法的な義務として一律に「〇年間」と決まっているわけではなく、契約内容や、将来起こり得るリスク、そして関連する法律(消滅時効など)を考慮して、実務的に適切な期間を判断することになります。
秘密保持契約書の保管期間の決め方
契約書の保管期間に関して法的な直接の定めがないからといって、安易に破棄して良いわけではありません。将来発生しうるトラブルに備えるため、以下の要素を考慮して保管期間を検討する必要があります。
秘密保持義務の期間を考慮する
秘密保持契約書には、「秘密保持義務を負う期間(秘密保持期間)」が定められています。この期間中は、相手方は秘密情報を漏洩しない義務を負います。したがって、当然ながら秘密保持期間中は契約書を保管しておく必要があります。
多くのNDAでは、秘密保持期間は契約期間の終了後も数年間(例:1年~5年)継続すると定められています。この「秘密保持期間の終了」が一つの目安となります。
消滅時効を考慮する
最も重要な考慮事項は、秘密保持義務違反が発生した場合に、損害賠償請求などの法的措置をとれる期間、すなわち「消滅時効」です。
民法改正(2020年4月1日施行)により、契約違反に基づく損害賠償請求権などの債権は、原則として以下のいずれか早い方の期間で時効にかかるとされています(民法第166条)。
- 権利を行使できることを知った時から5年間
- 権利を行使できる時から10年間
秘密保持義務違反の場合は「情報漏洩があったこと」や「漏洩によって損害が発生したこと」を知った時から5年間が時効期間となります。ただし、権利を行使できる時(情報漏洩があった時)から10年が経過すると、たとえ漏洩の事実を知らなかったとしても時効となります。
つまり、秘密保持義務違反が発生し、それに対する法的な請求を検討する場合、その違反行為から最大で10年間は、違反の証拠として秘密保持契約書が必要になる可能性があるということです。
秘密保持義務違反が、秘密保持期間中または秘密保持期間の終了直後に発生し、その発覚が遅れた場合を想定すると、秘密保持期間が終了した後も、少なくとも上記の消滅時効期間(5年~10年)にわたって契約書を保管しておくことが、リスク管理上望ましいと言えます。
関連する主契約の保管期間に合わせる
秘密保持契約が、M&Aの検討、業務委託契約、共同開発契約などの「主契約」に関連して締結されたものである場合、主契約書自体も一定期間保管されます。通常、主契約の保管期間は、契約期間や消滅時効、会社法・税法上の要請などを考慮して定められます。
関連するNDAを主契約書の保管期間に合わせることで、契約管理を効率化できるという実務上のメリットがあります。主契約書が時効期間などを考慮して10年間保管されるのであれば、関連するNDAも同様に10年間保管するという運用は合理的です。
関係性の継続や将来的な可能性を考慮する
一度NDAを締結した相手方とは、将来再び取引や共同プロジェクトを行う可能性があります。そのような場合、過去のNDAを保管しておけば、再度秘密情報の取り扱いについて協議する際に、前回の合意内容を確認したり、必要に応じて新たなNDAを締結する際の参考としたりすることができます。継続的な取引関係がある相手方とのNDAは、より長期間保管する運用も考えられます。
秘密保持契約書の保管期間の推奨目安
秘密保持契約書の保管期間について、法的な定めはないものの、実務上のリスク管理の観点から、以下の目安が考えられます。
- 最低限の目安:秘密保持契約書に定められた「秘密保持期間」の終了後、さらに少なくとも5年間
これは、秘密保持義務違反を知った時から5年間の時効期間をカバーするためです。 - より安全な目安:秘密保持契約書に定められた「秘密保持期間」の終了後、さらに7年~10年間程度
秘密保持義務違反が発生したタイミングや発覚の遅れ、あるいは10年間の時効期間を考慮すると、この期間保管しておけば、多くのケースで時効による請求権消滅をカバーできると考えられます。 - 関連する主契約がある場合:例えば、主契約書が10年間保管されるなら、NDAもそれに合わせて保管します。
主契約書の保管期間に合わせると、契約管理の運用を効率化できます。
最終的な判断は、取り扱う情報の重要度、契約相手との関係性、想定されるリスクなどを考慮して、各社で定めることになります。特に、極めて重要な秘密情報に関するNDAや、紛争リスクが高いと想定される相手とのNDAは、長めに保管することを検討すべきでしょう。
秘密保持契約書の保管方法
保管期間と並んで重要なのが、保管方法です。必要な時に契約書をすぐに見つけられ、かつ情報漏洩のリスクがないように管理する必要があります。
電子データと紙媒体
秘密保持契約書は、紙で製本されたものでも、電子データ(PDFなど)で締結されたものでも、法的な有効性に違いはありません。それぞれに対して、次の管理方法が有効です。
- 紙媒体:鍵のかかるキャビネット等で一元管理し、担当者以外はアクセスできないようにします。ファイリングルールを定めておけば、検索性が高まります。
- 電子データ:セキュアなファイルサーバーやクラウドストレージで管理します。アクセス権限を設定し、特定の担当者のみが閲覧・編集できるようにします。ファイル名を分かりやすく統一し、検索しやすい状態にしておくことが重要です。必ずバックアップもとっておきましょう。
紙媒体の場合、契約書の原本は、原則として一つしか存在しないので、紛失・焼失等のリスクに備え、スキャンして電子データとしても保管しておくことが望ましいです。
管理体制の構築
単に保管するだけでなく、契約書の管理台帳を作成し、以下の情報を記録しておくと管理が効率化します。
- 契約相手先
- 契約締結日
- 契約期間
- 秘密保持期間
- 対象となる秘密情報の概要
- 保管場所(ファイル名、キャビネット番号など)
- 破棄予定日
これにより、契約の有効期間や秘密保持期間を把握しやすくなり、保管期間が終了した契約書を特定しやすくなります。
破棄する際の注意点
保管期間が終了し、不要になった秘密保持契約書を破棄する際には、含まれている情報が漏洩しないように細心の注意が必要です。
- 紙媒体:シュレッダーにかける、溶解処理を依頼するなど、復元不可能な方法で破棄します。
- 電子データ:データ消去ツールを使用する、物理的に記憶媒体を破壊するなど、復元不可能な方法で完全に削除します。
外部の専門業者に破棄を依頼する場合も、信頼できる業者を選定し、破棄が完了したことの証明書等を受け取るようにしましょう。
秘密保持契約書の保管は期限を決めて適切に行おう
秘密保持契約書(NDA)の保管期間に、法律で定められた厳密な「何年間」というルールはありません。しかし、秘密保持義務違反が発生した場合に備え、自社を保護するための証拠として適切に保管しておくことが、リスク管理上極めて重要です。
実務上は、秘密保持義務の期間に加え、権利行使の期間である消滅時効を考慮し、秘密保持期間終了後も最低5年、できれば7年~10年間程度保管しておくことが推奨されます。また、関連する主契約書の保管期間に合わせることも、管理効率の観点から有効です。
契約書の保管は、紙、電子データいずれの場合も、必要な時にすぐに取り出せるように整理し、情報漏洩のリスクがないよう安全に管理することが求められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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