- 作成日 : 2025年5月7日
採用代行の業務委託契約とは?契約書のテンプレート・例文、委託の注意点を紹介
採用代行の業務委託契約とは、人材獲得に関する業務を外部に委託する契約のことです。採用プロセスのすべてを社内で対応する必要はないため、業務委託も一度検討してみる価値があります。ただし代行を依頼するときは契約書に注意し、当記事の内容も参考に、必要な条項が盛り込めているか慎重に確認してください。
目次
採用代行の業務委託契約とは?
採用代行の業務委託契約とは、企業が採用業務(一部でも全部でも)を外部に委託するときに締結する契約です。
採用業務の代行を頼むことは禁止されていませんが、労働者の募集や選考など人材採用の要となる部分(「委託募集」と呼ばれる。詳しくは後述。)の代行を依頼するには行政からの許可を受けなくてはなりません。
そのため採用代行を検討する際は、それが委託募集に該当する業務かどうかに留意してください。採用基準を自社で設けており、その基準に従った評価をしてもらう場合や、採用試験の問題作成を依頼する場合などであれば委託募集には該当しないため公的な手続きを要することなく業務委託が可能です。
採用代行サービスに依頼できる業務の例
採用代行サービスに委託できる業務は次のように幅広いです。ただしどこまでを自社で対応すべきか、どの部分を代行してもらうのが効果的かは、慎重に判断する必要があります。
- 採用ページの作成支援
- 求人メディアへの広告掲載代行
- 応募者の一次スクリーニング
- 書類選考の代行
- 面接日程の調整
- 採用管理システムの運用
- 候補者への連絡
- 内定者へのフォローアップ など
採用プロセス全体を一括して委託するケースもありますが、その場合は許可の手続きに注意してください。
採用代行の業務委託契約の種類
業務委託契約とは外部に仕事を依頼するときの契約の総称であって、法律上は「委任契約」や「準委任契約」、「請負契約」などに分類されます。
採用代行については主に準委任契約や請負契約に該当し、成果にかかわらず業務遂行に対価が生じるタイプだと準委任契約、成果に対し対価が生じるタイプだと請負契約として成立する可能性が高いでしょう。
なお、業務委託契約の基本的な仕組みや一般的な留意点についてはこちらのページでも解説しておりますので、併せて参考にしてください。
業務委託契約書はどちらが作成する?
業務委託契約書について法的な作成義務はありませんが、文書として作成しておくことでトラブル予防の効果が期待できるため作成が推奨されます。
契約自体口頭でも成立しますし、契約書の作成方法に決まりはなく、契約当事者のどちらが作成をしても構いません。ただし、相手方から作成された契約書を交付されたとしてもそのまま受け入れるのではなく、内容を精査して自社にとって不利な条件が含まれていないかはよく確認しないといけません。
採用代行を利用するメリット・デメリット
採用代行のメリットとデメリットをよく理解し、自社にとってメリットが大きいと評価できる場合に利用を検討すべきです。
一般的なメリットとしては次のようにまとめることができます。
採用代行のメリット | 詳細 |
---|---|
採用業務の効率化 | 応募者管理などノンコア業務を外注するだけでも、社内の人材担当者が重要な業務(面接など)に集中しやすくなる。繁忙期には特に効果的。 |
採用フローの標準化 | 人事担当の主観に依存することなく、複数拠点がある企業でも採用フローを統一することが期待できる。採用活動が管理しやすくなり今後の採用業務の効率化も図れる。 |
コスト削減の可能性 | 適切に代行を活用することで、人件費や採用関連のコストを抑えられる可能性がある。 |
獲得人材の質の向上 | 採用業務に特化した代行業者に相談することで、自社にはないノウハウや知見に触れることができ、人材獲得の最適化が図れる。自社の求める人材を獲得できる可能性があり、ミスマッチを防ぐことで離職率の改善も期待できる。 |
特に採用業務に十分なリソースを割けない企業や、短期間で多くの採用が必要な企業においてはその恩恵が大きくなるでしょう。
一方で、代行業者の選定を誤ったり、適切な活用ができなかったりするとデメリットの方が大きくなってしまいます。
例えば代行業者との意思疎通がうまくいかなければ、何度もやり取りが発生して結局代行業者とのコミュニケーションに余計な工数が発生してしまいます。また、応募者との接点が減少することで自社の良さや雰囲気を十分に伝えられない可能性もあります。
そうすると十分な費用対効果が得られず、「外注費用を負担したのに納得のいく成果が得られなかった。」という事態にもなりかねません。
そのため「採用代行に任せればすべてうまくいく」と安易に考えず、自社の状況に合わせた最適な業務分担を検討したうえで利用すべきかどうかの決断を下すべきです。
採用代行に関する業務委託契約を締結する流れ
採用代行に関する業務委託契約を締結する流れは以下の手順で進められます。
- 代行してもらいたい業務内容を見定める
まずは自社の採用ニーズを見直し、どのような業務が発生するのか、どの部分を代行してもらうのがよいか(同時に、どの部分は自社で対応した方がよいかも)を考える。 - 代行業者を選定する
採用代行のサービスを提供している業者をリサーチし、候補を絞る。業者の実績や評判、料金体系を比較し、自社の課題やニーズに合った業者を選ぶことが重要。また、打ち合わせやヒアリングを通じてサービス内容・対応力も確認する。 - 契約条件の交渉
業者が用意したプランに沿って料金などが発生するケースもあり、その場合はゼロから条件・ルールの交渉を行うのではなくある程度決まった枠組み内で話を進める。ただし委託する業務内容など依頼する企業側が決めるべき部分もあり、調整可能な部分については話し合いで定めていく。 - 業務委託契約書の作成と契約締結
契約条件が固まれば業務委託契約書を作成する。契約書には業務範囲や報酬などのほか、秘密保持条項なども設け、最後に双方が署名捺印または電子署名を行う。
以上の過程を経て、採用活動を開始します。代行を頼んだ業務についても進捗を確認し、必要に応じて改善点や要望を伝えながら活動を続けましょう。
採用代行の業務委託契約書のひな形・テンプレート
採用代行の業務委託契約書をスムーズに作成するためには、ひな形(テンプレート)を利用するのが効果的です。契約書を1から作る必要がなくなり、契約手続きをスムーズに進められるでしょう。
ひな形は、そのまま使うのではなく、内容を確認して案件ごとにカスタマイズしましょう。内容を簡単に変更できる、ワード形式のひな形を選ぶのがおすすめです。
マネーフォワード クラウドでは、契約書のひな形・テンプレートを無料でダウンロードできます。適宜加筆修正して活用してください。
採用代行の業務委託契約書に記載すべき内容
契約書を作成するときは、委託業務の内容や報酬のことなどが適切に定められているか、解釈にズレが生じるような表現になっていないかという点に注意しましょう。
以下では重要な記載事項について紹介していきます。
委託業務の内容
どの業務を代行してもらうのかを記載します。書き方・表現はさまざまであり、次のような例も挙げられます。
例文)
第○条 甲は、乙に対し、以下記載の業務(以下「本件業務」という。)を委託し、乙はこれを受託する。
① 採用活動の企画
② 募集要項の作成
③ 面接日時の設定
④ 対象者への合否連絡
⑤ その他採用代行業務に付随する業務
その業務の代行に関連して、具体的な手順や手法なども定めておくとよいでしょう。ただしマニュアルのような細かな規程を契約書内にすべて明示する必要はなく、「○○については別紙の通り」などと記載することも可能です。
契約期間
具体的な契約期間および自動更新の有無なども契約書に記載します。
例文)
第○条 本件業務の契約期間は、令和〇年○月〇日から1年間とする。ただし、期間満了の〇か月前までに、甲又は乙が相手方に対して何らの意思表示を行わないときは、本契約はさらに1年間更新され、以降も同様とする。
この例では通年での代行を想定しており、前もって解除の通知を行わなければ翌年も契約が継続(自動更新)するルールになっています。一定期間のみとしたり、自動更新しないものとしたり、必要に応じてこの規定を調整しましょう。
報酬金額とその支払い方法
報酬金額の定め方は慎重に検討しなくてはなりません。この設定次第で費用対効果が大きく変わってしまいます。固定報酬型とした場合は費用の予測が用意ですが、採用数や人材の質などの面で十分な効果が得られなければコスト高となってしまいます。
これに対し例文のように成功報酬型とした場合は費用の予測が難しいものの、コストの最適化が図れます。
例文)
第○条 甲は乙に対し、本件業務にて1人の人材採用の決定につき、乙に別紙1に規定する採用代行手数料を支払う。支払いは、乙が採用した人材が入社した日の属する末日までに、甲が乙指定の銀行口座に振り込む形で行う。振込手数料は甲が負担する。
また、次のように返金規定を設けることは委託する企業側にとって有利な条件となります。代行業者との交渉次第ですが、この規定を置くことができればコスト面でのリスクを回避しやすくなります。
例文)
第○条 前条において 乙が採用した人材が、入社日から起算して以下に定める期間内に本人都合により退社した場合、乙は、退職日の属する月の翌月末までに下記に従い算定された額の返金を行うものとする。
1ヶ月以内 採用代行手数料の〇%
2ヶ月以内 採用代行手数料の〇%
守秘義務
個人情報の漏えいは、当該個人に被害が出るほか企業の責任問題にも発展する恐れがあります。そのため直接情報を取り扱うのが委託先であったとしても契約書に守秘義務を設けるなどしてできるだけ情報漏えいが起こらないように備えておくべきです。安易に情報を開示してはならないと念を押すためにも、次のような規定を設けましょう。
例文)
第○条 乙は、本件業務に関して得られた個人情報につき、本契約の目的の範囲内のみで使用し、第三者に開示・漏えいしてはならない。
2 甲および乙は、本件業務に関して知り得た、相手方の技術上および営業上の一切の情報について、相手方の事前の書面による承認がない限り、第三者に開示・漏えいしてはならない。
3 前項の規定は、本契約終了後もなお効力を生ずる。
また、個人情報の所有者が増えるほど管理が難しくなるため、再委託にも注意してください。再委託を防ぐため次の規定を置くことも検討しましょう。
例文)
第○条 乙は、甲の本件業務の全部または一部を、第三者に再委託してはならない。
採用代行の業務委託契約で注意すること
「委託募集」に該当する業務を委託するときは許可が必要とされる点に注意してください。また、依頼主である企業と代行業者の間で認識のズレがあるとトラブルのリスクが上がるため、業務範囲を明確にすることも重要です。
「委託募集」の場合は許可が必要
委託募集に該当する業務を代行してもらうには、職業安定法第36条に基づき許可を受けなければなりません。
(委託募集)
第三十六条 労働者を雇用しようとする者が、その被用者以外の者をして報酬を与えて労働者の募集に従事させようとするときは、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。
許可を受けるには募集内容や労働条件が適切でなければならず、採用代行を依頼する企業および代行業者の双方が法的基準を満たしてることが求められます。
代行依頼をする企業としては、契約前に依頼する業務が「委託募集」に該当するかどうかを確認し、必要なら許可手続きを行いましょう。
この点についてはこちらのページでも詳細を解説しておりますのでご参照ください。
業務範囲の明確化
業務範囲が曖昧なまま進めると作業が円滑に進められなくなるほか、双方の責任範囲も不明確になってしまいます。そこで契約時には委託する業務内容などを具体的に記載し、自社で対応すべき部分と代行してもらう部分の明確化、役割分担についても整理しておくことが重要です。
進捗報告の頻度や想定外の作業が発生したときの対応方法なども定めておくとよいでしょう。
採用代行の業務委託契約書の保管方法と電子化について
会社法では、契約書を含む事業に関する重要な資料について、企業に10年間の保存義務を課しています。また法人税法では取引に関する書類などについて7年間の保存義務を課していますので、契約終了後も長期的に保管を続けることが必要です。
紙の書類が多いと、長期保存の際管理に困ることもあるかと思います。その場合は電子化も検討しましょう。一定以上の解像度でスキャンし、システムを活用して改ざん防止措置や検索ができる状態にしておけばスペースなどに困ることなく保存義務を履行することが可能です。
採用代行を使った人材確保の効率化も検討してみよう
採用代行の業務委託契約は、企業によっては採用活動の効率化に役立つ有益な選択肢の1つとなるでしょう。自社の状況や採用ニーズに合わせて、この手段が適しているかどうかを検討してみる価値もあります。
なお、代行を頼む際の契約書については当記事で紹介したポイントを参考にし、自社の実情に合った条項を盛り込むことが大事です。契約書の電子化、電子契約による締結も可能ですので、その場合は電子契約システムを活用するとよいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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