- 更新日 : 2025年3月25日
民法627条とは?退職の申入れや解雇予告についてわかりやすく解説
民法627条は、雇用契約の解約の申入れに関して定めた法律です。雇用期間が設定されていない場合、同条では当事者はどのタイミングでも解約の申入れができると定められています。
本記事では、民法627条の概要、就業規則や労働基準法との関係を解説します。雇用契約の解約に関して詳しく知りたい方は参考にしてください。
目次
民法627条とは
民法627条の意味や、定められた目的について解説します。
民法627条の概要
民法627条は、以下3つの条文で構成されています。
【民法627条(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)】
- 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。
- 期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。
- 6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、3箇月前にしなければならない。
民法627条によると、雇用期間が設定されていない契約の場合、当事者はいつでも解約したいと申し入れることが可能です。また、解約の通知をしてから2週間を経過すると、自動的に契約は終了します。
たとえば雇用期間のない正社員の方で退職をしたいと伝えたところ、会社から「急な話で困る」といわれたとします。しかし民法627条1項によって、解約したいと伝えてから2週間が過ぎると、使用者の許可なしで会社を辞めることが可能です。
使用者による不当な人身拘束の防止と、期間内の雇用継続が目的
民法627条が定められた理由は、経営者による従業員の不当な拘束を防ぐこと、期間内の雇用継続の2点です。辞職を申入れたのに会社が退職を認めなかったとしても、民法627条1項の適用が妨げられることはなく、辞職の届出をしてから2週間経過すると雇用契約は終了します。
また、第2項と第3項には、契約期間を定めた場合の規定が書かれています。契約した期間内は雇用が継続するという期待を、ある程度保護するための規定です。
民法627条と雇用期間・報酬
ここからは民法627条の条文で使用されている表現について、より詳しく見ていきましょう。
「雇用の期間を定めなかったとき」とは
民法627条1項における「雇用の期間を定めなかったとき」とは、いわゆる無期雇用であり、具体的には正社員や正規の公務員などの場合を指します。日本の正社員の場合、継続して働くことを前提としているため、雇用契約において期間が定められないケースがほとんどです。
つまり1項によると、正社員など雇用期間がない契約の場合、社員が退職の通知をしてから2週間が経つと契約が終了し、退職扱いになります。
「期間によって報酬を定めた場合」とは
民法627条2項における「期間によって報酬を定めた場合」とは、有期雇用契約のことで、非正規社員を指します。具体的には、派遣社員、契約社員、パート・アルバイトなどです。
2項によると、有期雇用契約の場合、解約ができるのは次期以降の契約のことで、当期の契約ではありません。次期以降の契約を解約するには、当期の前半に申入れることが必要です。
このように有期雇用契約の場合、期間の途中で当期の契約を終了させることはできないのが原則です。しかし民法第628条は以下のように規定があり、やむを得ない場合は退職できます。
【民法628条(やむを得ない事由による雇用の解除)】
当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
有期雇用契約の場合でも、病気やケガといったやむを得ない理由があれば、すぐに契約の解除が可能です。この場合、予告期間は必要なく、すぐに退職できます。
「6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合」とは
民法627条3項における「6箇月以上の期間によって報酬を定めた場合」とは、具体的には年俸制など、特殊な方法で報酬が定められている場合を指します。この場合、解約の通知は3ヶ月前までに行わなくてはなりません。
ちなみに年俸制とは、年で給与を決めるという意味であり、年に1回給与を支払えばいいわけではありません。労働者の生活を保障するため、給与は毎月一定額を支給する必要があります。
退職する場合、民法627条と就業規則はどちらが優先される?
会社の就業規則では、退職に関する規定もあります。場合によっては「退職する場合は2ヶ月以上前に申入れること」など、民法627条1項より長い期間に設定しているケースもあるかもしれません。
この場合、どちらが優先適用されるのでしょうか?
原則としては民法627条が優先される
この場合、就業規則よりも民法627条が優先されます。就業規則でたとえば「2ヶ月以上」とのルールがあったとしても、民法627条の1項の「2週間」が有効です。
そのため、退職の通知をしてから2ヶ月が過ぎていなくても、2週間が過ぎれば雇用契約は終了となり、退職扱いとなります。ただし、退職の通告をしてから2週間を経過する前に職場を離れると、有給休暇などの権利行使である場合を除き、会社に対して損害賠償義務が発生することがあります。
合意退職では就業規則が優先される
民法627条は一方的な退職(辞職)に関する規定のため、一般的な合意退職は対象外です。よって、就業規則において合意退職に関して、引継ぎなどに必要な期間も考慮して「1ヶ月以上前に申し出ること」などと定めても問題はありません。
できるだけ円満に退職をしたい場合は、合意退職を選び就業規則の規定どおりに進めるほうが無難でしょう。就業規則を守らなかったことを理由に、退職金の支払いなどでトラブルが発生する恐れもあります。
民法627条と労働基準法第20条における予告期間の違い
労働基準法には、解雇に関する規定があります。労働基準法第20条の内容は以下のとおりです。
【労働基準法第29条(解雇の予告)】
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
民法627条とは違う期間となっていますが、どちらが適用されるのでしょうか?
解雇の場面では労働基準法が優先される
経営者(使用者)が従業員を解雇する場合、労働基準法が適用されます。よって、最低でも30日前に解雇の予告をする必要があり、30日前に予告をしなかった場合は30日分以上の給与を支払わなければなりません。
ただし、地震や津波といった災害などの事情により、やむを得ず事業が継続できなくなった場合で解雇する場合は例外です。この場合は、30日前に予告ができていなかったとしても、30日分以上の給与の支払いは必要ありません。
民法627条に関連する判例
民法627条に関連する判例を2つ紹介します。
高野メリヤス事件
被告である会社の就業規則には「退職を希望する場合は遅くとも1ヶ月前、役職者は6ヶ月前に退職願を提出し、会社の許可を得ること」と記載があります。原告の役職者である労働者は、3ヶ月前に退職を申入れ、退職金を請求しました。
会社側は原告の退職を許可せず、無断欠勤を理由に懲戒解雇とし、退職金も支給しませんでした。原告が、会社の就業規則は民法627条に違反し無効として、退職金の支払いを求めた事例です。
判決は、就業規則は民法627条に反しない範囲でのみ有効とし、原告の退職および退職金の請求を認めました。判決の趣旨として、民法627条の予告期間は使用者のために延長することはできないとし、退職時に会社の許可を要することも不可能としました。
大室木工所事件
原告の労働者は、被告の会社より、争議行為中の暴行で発生した刑事事件で有罪判決となることを理由に、懲戒解雇する通告を受けました。しかし、原告は刑事事件の判決が出る前に、一方的に退職を申し出て、退職金を要求したという事例です。
被告の会社は退職金の支払いを拒否したため、原告が仮処分を申請しました。会社の就業規則には「従業員からの退職の通知に対し、使用者が承認しなければ退職できない」とする規定があり、民法627条1項の規定を排除する特約として認められるかが争われました。
裁判において、懲戒解雇通告は無効であるものの、その場合でも原告が後日懲戒解雇を受ける可能性があることを考慮し、就業規則の規定を有効と認め、原告である労働者側の主張を排斥しました。
被告会社の就業規則を、民法627条1項を排除する特約として認めたうえで、使用者が承認するかどうかを完全な自由裁量でできるような趣旨の特約は無効としました。また、使用者が申し出を承認しない合理的な理由がある場合以外は、その承認を拒否できない趣旨なら有効とした裁判例です。
民法627条の退職の規定を把握しよう
民法627条が規定されたのは、不当な人身拘束の防止、期間内の契約の継続が目的です。第1項により、正社員など無期雇用契約の場合、労働者が退職の通知をしてから2週間を経過すると契約は終了します。退職の際に、使用者の承諾は必要ありません。
第2項は派遣社員やパートなど、有期雇用契約の場合の規定です。契約を解除できるのは次期以降ですが、やむを得ない事情がある場合、当期中の契約解除もできます。
第3項は年俸制などの場合の規定で、解約の通知は3ヶ月前までに行わなくてはなりません。
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