- 更新日 : 2025年4月2日
捺印とは?押印との違いや法的効力、どのハンコを使用すべきかを解説
捺印(なついん)とは、一般的に「署名捺印」を省略した呼称のことです。署名とは自筆で書いた氏名のことで、署名捺印はその横に印鑑を押すという意味になります。単に印鑑を押すことを指して使う場合もあります。
本記事では、捺印の意味や押印との違い、書類ごとにどのような印鑑を使えばよいのかなどを解説します。
目次
捺印とは
一般的に捺印(なついん)とは、「署名捺印」を省略した言葉として使用されます。署名は本人が手書きで氏名を書くことであり、捺印は印鑑を押すことを指します。そのため、署名捺印は自筆で書いた氏名の横に印鑑を押すという意味です。また、単純に印鑑を押す行為を「捺印」と呼ぶケースもあります。
契約では、本人の意思で書類が作成されていることを証明することが大切であり、自筆と印鑑がある捺印は特に証拠効力の高い方法です。そのため、重要な契約では主に捺印が採用されています。
署名捺印と記名捺印の違い
記名捺印とは、印刷やゴム印など、自筆以外の方法であらかじめ名前が記されている書面に印鑑を押すことです。署名と記名は、それぞれ次のように定義できます。
- 署名:自分の氏名を手書きすること
- 記名:自筆以外の方法で氏名を記すこと
署名と記名の違いは「自分で書いているかどうか」であり、両者は書類の法的効力が異なります。契約の場面では署名をすることで本人性が担保され、法的効力が高くなります。一方、記名だけでは本人性の担保が難しく、法的効力が認められない可能性があります。記名の場合は印鑑を押すことで、法的効力を補うことが可能です。
なお、記名捺印は「記名押印」と呼ばれる場合もあり、意味は同じです。「記名押印」を省略して「押印」と呼ぶ場合もあります。捺印と押印の違いは、このあとの項目で説明します。
署名捺印と社印捺印の違い
署名捺印は自署した個人の氏名に印鑑を押すことであるのに対し、社印捺印は会社名の横に社印を押すものです。
社印捺印は主に、取引先に渡す納品書・請求書・領収書などの書類に行われます。法律上、これらの書類に社印を押すという決まりはありませんが、捺印により会社が正式に発行した文書であることが伝わります。ビジネス上の慣例として、受け取る書類には社印を求める会社も少なくありません。
捺印と押印の違い
捺印と似た言葉に「押印」がありますが、印鑑を押すという意味では捺印と同じです。
押印と捺印の主な違いは以下の通りです。
押印 | 捺印 | |
---|---|---|
正式名称 | 記名押印 | 署名捺印 |
氏名の記載方法 | 本人の自署以外の方法 | 本人による自署 |
法的効力 | 弱い | 強い |
使用される場面 | 比較的非公式な場面 | 契約書や公的な書類など、正式な場面 |
捺印は印影だけでなく自筆による署名があるため、署名を行った者によって作成されたことを示す「本人性」を担保することができます。
一方、押印は自筆以外の記名に印鑑を押す行為であるため、印鑑の複製や無断利用といった可能性を排除できません。捺印より証拠力が低いと考えられるでしょう。ただし、押印する印鑑に実印(印鑑登録している印鑑)を用いれば、本人が押印したものとして証明力を高めることが可能です。
そのため、契約書などの重要な文書に印鑑を押す場合、押印よりも法的証拠力の高い捺印を行う、もしくは実印による押印を行うのが一般的です。
捺印・押印の法的効力
日本の法律では、文書に署名する行為自体がその文書の内容に同意する意思表示と見なされます。しかし、捺印または押印についても同様に重要な認識が必要です。
契約書や公的文書においては、署名と合わせて捺印が求められる場合が多く、この捺印はその文書の正当性や真正性を証明する効力を持ちます。
また、印鑑を押す行為自体が署名と同様、意思表示の証とされるため、署名のない押印だけでも法的効力はあるとされています。具体的に、押印が必要とされる主な理由としては、文書が本人によるものであることを証明するため、すなわち「認証」の機能を果たすことにあります。また、日本国内では実印を使用して登録された印鑑証明書を添付することで、さらにその法的効力を強化できます。
電子文書に関しても、電子署名法に基づく電子署名や認証サービスを利用することで、紙の文書と同等の法的効力をもたせることが可能です。この点、紙の文書と電子文書との間で法的効力に違いはなく、適切な手続きを踏めばどちらも重要な法的文書として扱われることになります。
さらに、契約書に捺印・押印が必要かどうかは、その契約の性質や当事者間の合意によって異なります。重要な契約では、両当事者の意思確認のために捺印・押印を要求することが一般的ですが、それに法的な義務があるわけではありません。ただし、不動産の売買契約書のように、法律により印鑑の使用が定められているケースもあるため、契約書に捺印・押印する際は、その契約の内容や適用法規をよく理解することが重要です。
捺印・押印の位置
捺印・押印をする位置は明確にルールが決められているわけではなく、慣例に従うのが一般的です。具体的な書類ごとの捺印・押印の位置の例や注意事項は次の通りです。
請求書
請求書に捺印・押印をする際は、捺印欄の中央に押します。
捺印欄がない場合は、社名の右側に押すのが一般的です。また、社名と印鑑が重なるように押すことがありますが、これは請求書の偽造防止のために効果的とされています。
使用する印鑑は通常、法人の場合は角印と呼ばれる四角い社印、個人事業主やフリーランスの場合は個人の認印などが使われます。
領収書
領収書に捺印・押印する際も、請求書と同じく社名の右側に押すことが一般的です。
注意点を挙げるとするならば、領収書に収入印紙を貼付した時は割印を押す必要があります。割印を押す場合は、収入印紙と領収書が重なるように押しましょう。
契約書
契約書には、契約の当事者双方が捺印・押印をします。押す位置は、当事者が署名した横に押すことが一般的です。
また、契約の当事者を甲乙と表記することもあります。この場合には上段に「甲 〇〇」、下段に「乙 〇〇」などと記載し、署名した横に印鑑を押します。
注意しなければならないのは、契約書が複数枚にわたる場合です。契約内容が多い場合は1枚ではなく契約書が複数ページになることがあり、それぞれの文章が連続したものであることを示すために、「契印」という印を押します。
契印は契約書に押した印鑑と同じものを使い、契約書の見開きの上部に印鑑がまたがるように押すのが一般的です。
社内の決裁文書
社内で作成する決裁文書は、申請者が一番右に捺印・押印し、上位の承認者が左に押すことが一般的です。
社内の決裁ルートにもよりますが、通常は担当者から上司や上位部署などを経て承認されることが通常で、最終的な権限をもつ者が一番左に捺印・押印することになります。
社内文書の捺印・押印の位置はルールが決められているものではありませんが、どのような決裁ルートを通って誰が承認したのかを明確にすることが必要です。
捺印・押印にはどのハンコを使用する?
捺印には、文書に応じて実印、銀行印、認印など、さまざまな印鑑を使用できます。
印鑑ごとの役割は、次のとおりです。
- 実印:役所に印鑑登録した印鑑
- 銀行印:金融機関の口座開設などで届け出る印鑑
- 認印:日常的に使う印鑑
実印は、各市町村区の役所に印鑑登録された印鑑で、重要な書類の作成に使います。具体的には、家や車など高額商品の購入、銀行融資を受ける際などがあげられます。契約の際には、実印とともに印鑑証明書(実印が本人のものであることを公的に証明する書類)の提出を求められるのが一般的です。
実印には自治体によって印影の大きさや形、刻印の内容などが決められている場合があるため、作るときは事前に確認しておきましょう。
銀行印は、金融機関の口座開設などで必要になる印鑑です。銀行窓口で取引をする際は、銀行印が必要になります。
認印は、日常のさまざまな場面で使用する印鑑です。荷物の受け取りや会社の書類確認、申請書などに使用します。
捺印・押印にはシャチハタは使用できる?
捺印・押印をする際、「シャチハタも使えるだろうか」と気になる方も多いのではないでしょうか。シャチハタとは、印鑑の内部にインクが内蔵され、朱肉がなくても押せる印鑑のことです。正式にはメーカー名であり、製品の名前ではありませんが、現在では朱肉のいらない印鑑の一般的な呼び方として定着しています。
捺印・押印にシャチハタが使えるかどうかは、書類の種類によって異なります。まず、役所での各書類の申請や転入届・転出届などの各種届出、税務署に提出する書類など、公的な書類では原則としてシャチハタは使えません。
また、雇用契約書などの提出書類もシャチハタは不可とする会社が多いでしょう。荷物の受け取りや回覧板、社内の確認書類などでは、シャチハタでも問題ありません。
シャチハタが使えない場面でも、特別な指定がない限り、朱肉を使う認印であれば使用できるのが一般的です。シャチハタが使えるかどうか不明な場面では、朱肉を使う印鑑を用意しておくと良いでしょう。
捺印・押印の正しい方法
契約書や重要な文書の押印では、正確かつはっきりとした印影が求められます。適切な押印方法に従うことで、文書の信憑性を保つことができ、後々のトラブルを避けることが可能になります。
印鑑の選び方
まず、使用する印鑑を選びます。実印であれば、登録している印鑑を使用し、認印の場合でも、はっきりとした印影を残せるものを選ぶべきです。印鑑はなるべく新しく、傷が少ないものが好ましいです。
押印前には、印鑑の表面を清掃しておきます。紙や布で優しくふき取ることにより、印面の汚れやホコリを取り除きます。これにより、クリアな印影を残すことができます。
印鑑の押し方
文書の押印部分が平らな硬い表面に置かれていることを確認します。不安定な場所で押印すると、不鮮明な印影ができる原因となります。
印鑑をしっかりと持ち、印を押す箇所に垂直に押し付けます。力の加減は均等にし、左右にずれないように注意します。押印後は、印鑑をゆっくりと持ち上げて、ぼやけないようにします。
押印後は、印鑑の残りの墨を紙や布で優しく拭き取ります。これにより、次回使用時にも清潔な状態で押印ができるようにします。
押印の確認
印影がはっきりとしているか、文書にしっかりと印がついているかを確認します。不鮮明な場合は、再度同じ手順で押印を行います。
以上のステップを踏むことで、文書に対して正しい押印の方法を実施することができます。適切な押印は、文書の法的効力を確実なものとし、信頼性の高い文書管理に貢献します。
電子契約なら脱ハンコが実現できる
電子契約においては原則として押印は不要です。これは、電子契約が法的に認められた形式であり、電子文書の形で契約が締結されるため、従来の紙の契約書に押印が必要だった理由が当てはまらないからです。
電子契約とは
電子契約とは、インターネットを利用して電子的に契約書を作成・交換し、契約を締結する方法を指します。このプロセス全体がデジタル化されており、物理的な書類や印鑑は一切使用しないケースがほとんどです。
電子契約の法的根拠
電子契約の法的有効性は、日本においては「電子署名法」と「民法」に基づいています。電子署名法は、電子文書による契約の有効性を保証し、電子署名が紙と印鑑を使用した契約と同等の法的効力を有することを明示しています。
よって、電子署名がされた電子契約は、法的に認められた形となります。
電子契約の押印が不要とされる理由
電子契約では、契約当事者の確認は電子署名によって行われます。電子署名は従来の印鑑による押印と同様に、契約当事者の意思表示の証明として機能します。電子署名によって、文書の改ざんがなされたかどうかも追跡できるため、セキュリティ面でも高い信頼性があります。
しかし、一部の契約においては、法律で印紙を貼ることや押印を必要とする場合があります。例えば、不動産の売買契約など、特定の種類の契約に対しては、引き続き物理的な契約書に押印が求められるケースが存在します。
これらの例外を除き、一般的な商取引などでは電子契約が広く利用されています。
電子印鑑とは
電子印鑑とは、印鑑をデータ化したものです。「単純な印影のデータのみのもの」と、「印影のデータに押印者や作成者、タイムスタンプなど個別の識別情報を組み込んだもの」の2種類に分かれます。
印影データのみの電子印鑑は、WordやExcelなどのツールで簡単に制作できるのがメリットです。しかし、改ざんが容易であり、偽造や許可のない捺印であってもそれを証明する手段がありません。そのため、重要な文書への捺印には使用されず、日常業務の書類に認印として使用されるのが一般的です。
電子印鑑に法的効力を持たせるためには、有料のサービスで識別情報や押印した時間などの記録情報が組み込まれた電子印鑑を使う必要があります。費用はかかりますが、情報が組み込まれていることによって捺印の証拠を残せるため、重要な文書にも使用できます。
電子印鑑については、以下の記事も参考にしてください。
捺印・押印の方法を正しく理解しましょう
捺印とは「署名捺印」の略で、自筆で書いた氏名の横に印鑑を押すことを指します。これに対し、記名捺印は自筆以外で記された氏名の横に印鑑を押すことです。記名捺印は「記名押印」と同じ意味で、略して「押印」と呼ばれることもあります。
捺印・押印にはどのような印鑑が適しているかは、書類によって異なります。印鑑の種類やそれぞれの役割を覚え、正しく使用するようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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