- 作成日 : 2024年10月3日
予防法務とは?臨床法務・戦略法務との違いや具体的な業務を解説
企業法務の業務内容には、予防法務や臨床法務、戦略法務などがあります。法務担当者の中には、それらの概要や違いがわからないという人もいることでしょう。
本記事では、予防法務の概要や臨床法務、戦略法務との違いなどについて解説します。予防法務は企業において重要な業務のため、理解を深めて業務に臨めるようになりましょう。
目次
予防法務とは?
予防法務とは、法的な紛争が生じる状況を想定し、紛争防止やリスクヘッジのためにあらかじめ対処しておく業務のことです。
企業には多くの従業員が在籍するほか、さまざまな契約を締結しているため、契約違反や情報漏洩といったリスクを軽視はできません。こうしたリスクに対しての予防策や対処方法を事前に準備しておく必要があるといえます。
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予防法務の重要性
予防法務の重要性はどういったことにあるのでしょうか?ここでは、予防法務の重要性について解説します。
コンプライアンス体制の強化につながる
予防法務を行うことで、コンプライアンス体制の強化につながります。
近年、長時間労働にともなう健康被害や従業員の不祥事、ハラスメント問題などさまざまな社会問題が発生しています。こういったトラブル一つで企業の信頼度や評判は大きく左右されるものです。
予防法務を徹底することで、自社を法的に問題のない状態に維持し続けられるでしょう。
トラブルを未然に回避できる
予防法務を施しておけば、トラブルを未然に回避できます。
もしも紛争が裁判に発展すれば、裁判が2~3年続くケースも少なくありません。その場合には、弁護士費用がかかるほか、紛争解決に向けて多大な人員や労力を割くことになります。
予防法務を徹底することで、ムダな労力や人員を割く必要はなく、貴重なマンパワーを事業推進に割ける点は大きなメリットといえるでしょう。
トラブル発生時の影響を最小限にとどめられる
予防法務に日頃から取り組んでおけば、トラブル発生時でも影響を最小限にとどめられるでしょう。もし紛争が発生してから対応策を考えた場合、策を練る時間を得られず、企業として誤った判断をしてしまう恐れもあります。そうすると、事態は好転しません。
あらかじめ、トラブル発生時における対応フローを決めておければ、早期解決が期待できます。対策を後回しにせずに予防法務を実施しておくことが何よりも大切です。
予防法務の具体例
ここでは、予防法務の具体例について解説します。
契約書の審査
契約書の審査は、重要な予防法務の一つです。契約書の審査では、記載内容について、さまざまな視点から確認を行います。
契約書の審査におけるチェック項目は、次のとおりです。
- 自社に不利となる条項がないか
- トラブル発生時の適用条文に問題がないか
- 契約解除の流れについて記載があるか
- 損害賠償の予定額について
トラブルが発生した際の損害を抑えるためにも、適切な予防法務を行いましょう。
社内規程の作成や見直し
社内規定の作成や見直しも予防法務の業務です。代表的な社内規程には、次のようなものがあります。
- 人事規程
- 給与規程
- 育児・介護休業規程
- 個人情報取扱規程
- 取締役会規程
- ハラスメント対策規程
- コンプライアンス管理規程
これらの社内規程の内容や整合性をチェックして、トラブル発生の予防に努めましょう。
労務管理
労務管理のサポートも予防法務の大事な業務です。具体的には次のような対応が求められます。
- 労務関連の法律を徹底して守る
- 就業規則・雇用契約書・賃金制度などを正しく整備する
- ハラスメント防止の対策を講じる
法令に違反するとトラブルが発生したり、企業の社会的信用が低下したりといった問題につながりかねません。法令にしたがって適切に労務管理を行えるように予防法務を徹底しましょう。
法改正に対応
法律や条例は、必要に応じて改正されます。法改正に対応することも、予防法務においては重要な業務です。
法務担当者は法改正がされた場合、自社への影響か判断し、場合によっては社内規定の変更と周知徹底を行う必要があります。内容によっては弁護士など法律の専門家に相談することもあるでしょう。
コンプライアンスの周知
社員がコンプライアンスを遵守できるように、周知するのも予防法務の業務の一つです。社員が各種法令を遵守する重要性を理解できるように、承認フローのダブルチェック体制を構築したり、勉強する機会を設けたりするなど、コンプライアンス遵守のための社内環境整備に取り組みます。
知的財産権に関する調査
企業の中には、著作権や特許などさまざまな知的財産権を所有している会社もあるでしょう。そこで、知的財産権を保護、管理するのも予防法務の役割です。
また、自社の製品・サービスが他社の知的財産権を侵害していないかどうかのチェックも行わなければなりません。
株主総会の準備
株主総会の準備や取締役への対応も予防法務に該当します。スムーズに会を進行するためには、誤りのない収集通知の作成や想定問答集の事前準備が必要です。株主側からの信頼を失えば、離反や訴訟により大きな損害が及ぶ恐れがあります。
これらを未然に防ぐためにも、予防法務を施しておくことが大切です。
弁護士との連携
予防法務として、弁護士と連携することも大切な業務です。前述した紛争や訴訟に対して、法律相談に対して、法改正に対してなど、不明点があったり、訴訟問題に発展したりした場合は、企業側の窓口として弁護士と連携し、アドバイスをもらったり、訴訟への対応を依頼したりします。
予防法務を効率化するには?
予防法務を効率化するにはどうすればよいのでしょうか?効率化する方法を2つ紹介します。
契約書管理の体制を整備する
契約書管理の体制を整備することで予防法務の効率化につながります。
契約書を探しやすい状態で保管しておけば、紛争の際にすぐに契約書を見つけられて、対処しやすくなります。また、更新時期を適切に把握することで、更新漏れなどのトラブルを予防可能です。
契約書審査のフローを効率化する
契約書審査は、予防法務の中でも重要な業務の一つです。契約書審査を効率化するためには、業務フローを整備することが欠かせません。
契約書を効率的に審査するためには、ワークフローシステムや支援システムの導入を検討しましょう。契約審査の業務フローに非効率な部分があると、契約書審査を漏れなく行うことが困難になるため、ツールを使って漏れがないように対応することが重要です。
中小企業が予防法務に取り組む際の注意点
中小企業が予防法務に取り組む際には、いくつか注意点があります。注意点を把握して、適切に予防法務を行えるようにしましょう。
経営者が積極的に取り組む
中小企業で予防法務を実践する場合には、経営者が率先して行うようにしましょう。予防法務は、体制の整備も大切ですが、各自の意識の持ち方も重要です。
経営者自らが率先して取り組み、啓蒙活動を行うことで社内全体によい影響を与えられるでしょう。従業員の安全と健康、企業の信用を守るためにも、経営者自らが率先して取り組むことが必要です。
重要度の高いものから対応する
中小企業では、大企業のようにさまざまなことにすぐには対応できるわけではありません。その場合は、重要度の高いものから対応するようにしましょう。
重要度を把握するためには、リスク評価を行います。リスク評価で特定された法的リスクの影響度や発生確率からリスクの優先度を決定し、優先度の高いリスクに対して具体的な策を講じていくとよいでしょう。
社内体制を整備する
法務を内製するのであれば、社内体制を整備して担当者の知識を底上げしておくことが重要です。
契約書を交付するたびに外部の弁護士にリーガルチェックを依頼したり、相談したりすることはコスト面においても現実的ではありません。多少費用がかかったとしても、法的知識や業務に関連する分野の基礎知識を習得させておけば、社内対応できることが増えます。その結果、長期的に見るとコスト削減や業務効率化にもつながるでしょう。
定期的に法務チェックを行う
契約書などを定期的に法務チェックすることもおすすめです。法務チェックを行うことで、トラブルを未然に防げるほか、自社が不利益を被りそうな条項や内容が盛り込まれていないか見つけ出せます。
想定外のリスクを負わないためにも、定期的に契約書の法務チェックなどを行うことが望ましいでしょう。
予防法務と戦略法務の違い
戦略法務とは法律の知見やノウハウをビジネス戦略に活用する取り組みです。予防法務や次で紹介する臨床法務が、トラブル解決であったりリスク管理であったりを行う守りの法務であるのに対し、戦略法務は、攻めの法務である点が異なります。
たとえば、M&A関連業務や海外進出や新規事業立ち上げなどでにおける契約書類のリーガルチェックなどが戦略法務です。基本的に、社内の法務担当者で行う業務ですが、外部の弁護士などの専門家に依頼して行うこともあります。
予防法務と臨床法務との違い
臨床法務とは、企業において法的なトラブルが発生した際に対応する業務のことで、損害を最小限に抑えることを目的としています。
同じ守りの法務である予防法務との違いは、対抗するのがトラブル発生前なのか、後なのかという点です。臨床法務では、訴訟対応やクレーム処理など、トラブルが発生してから対応します。
不要な賠償金の支払いといった被害を少なくするためにも、臨床法務は企業にとって欠かせない役割を担っているといえるでしょう。
予防法務の重要性を理解しよう
予防法務とは、法的な紛争が生じる状況を想定し、あらかじめ紛争防止やリスクヘッジのために対処しておく業務のことです。予防法務を徹底できていれば、自社のビジネスを法的に問題のない状態に維持できるため、非常に重要な業務といえるでしょう。
予防法務の具体例としては、契約書の審査や社内規程の作成や見直し、法改正への対応などが挙げられます。予防法務を効率化するには、契約書管理の体制の整備や契約書審査のフローの効率化が欠かせません。
また、企業法務には、戦略法務や臨床法務も存在します。法務担当者であれば、予防法務との違いを正確に理解しておきたいところです。
法務担当として活躍できるように、本記事で解説した内容をしっかり押さえておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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