• 更新日 : 2024年8月2日

フリーランス新法とは?建設業界における対象者や求められる対応を解説

フリーランス新法とは、個人で企業などから業務の委託を受けて働くフリーランスの労働環境を整備するために新設された法律です。フリーランス新法が施行されると、建設業もその適用対象となります。

本記事では、フリーランス新法の概要や、建設業界における対象者および対象となる取引、発注側に求められる対応などについて解説します。

フリーランス新法とは?

フリーランス新法とは、業務委託の取引上、弱い立場に置かれがちなフリーランスを保護するための法律のことです。

正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といい、略称として「フリーランス・事業者間取引適正化等法」や「フリーランス保護新法」などと呼ばれることもあります。

業務を委託する事業者と受託するフリーランスは、本来、対等な立場であるべきです。しかし、フリーランスには労働関係法令が適用されないことから、一方的に不利な契約を押し付けられたり、ハラスメントなどの被害を受けたりしても、改善を求めづらいのが実情です。

政府が推進する働き方改革によってフリーランス人口が年々増加している昨今において、かかる実態を改善することは急務でした。

そこで国は、フリーランスに業務を委託する事業者に、契約条件を書面で明示することや、報酬を速やかに支払うこと、不当な行為をしないことなどを義務付けたフリーランス新法を制定しました。

フリーランス新法は、2023年5月12日に交付され、2024年11月1日から施行される予定です。

建設業界においてフリーランス新法の対象

フリーランス新法は、あらゆる業種が適用対象とされているので、建設業界にも適用されます。

ここでは、建設業界においてフリーランス新法が適用される「対象者」と「対象取引」を確認しておきましょう。

フリーランス新法におけるフリーランスの定義

フリーランス新法において、フリーランスは「特定受託事業者」と称されます。特定受託事業者とは、委託業務の受注者であって、以下のいずれかに該当する事業者のことをいうと定義されています。

  • 個人であって、従業員を使用しないもの
  • 法人であって、代表者1人の他に役員が存在せず、かつ従業員を使用しないもの

建設業界においては、労働者を雇用していない、いわゆる一人親方(建設業界における個人事業主)がフリーランスに該当することになります。

また、厚生労働省等が公表したガイドラインで、「従業員」とは「週労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」であるとされています。この基準を満たさない短時間または短期間でアルバイト等を雇用している一人親方も、フリーランスに含まれることに注意が必要です。

とはいえ、アルバイト等を雇用している一人親方がガイドラインの基準を満たしているかどうかを、発注者側で確認することは難しいでしょう。

したがって、一人親方に業務を委託する際には、フリーランス新法の適用があるものと考え、同法の規定を遵守することが望ましいといえます。

対象となる取引

フリーランス新法の適用対象となる取引は、発注事業者からフリーランスへの「業務委託」に該当する取引です。

フリーランス新法における業務委託とは、次の3つのどれかに該当するものと定義されています。

  • 物品の製造または加工の委託
  • 情報成果物の作成の委託
  • 役務の提供の委託

建設業界においては、建造物の建築や解体、修理、土地の造成など、あらゆる工事の委託が「物品の製造または加工」もしくは「役務の提供」の委託として、フリーランス新法の適用対象となります。

ただし、フリーランスが完成させた建造物などを買い取る契約は売買契約であり、委託ではないのでフリーランス新法の適用対象外です。

また、フリーランス新法は事業者間の取引の適正化を図るための法律なので、消費者と事業者との取引も適用対象外となります。

例えば、自分が居住している自宅の修繕工事を一人親方であるフリーランスに依頼した場合は、消費者と事業者との取引に当たるので、フリーランス新法は適用されません。

発注側に求められる対応

フリーランス新法が施行されると、発注者側には以下の対応が求められます。

※なお、発注事業者のうち、従業員を使用するもののことと「特定業務委託事業者」といい、従業員を使用しないもののことを「業務委託事業者」といいます。特定業務委託事業者と業務委託事業者では、求められる対応に差異があることにも注意しましょう。

発注書や契約書の作成

特定業務委託事業者も業務委託事業者も、フリーランスに業務を委託した場合には、直ちに、取引条件を書面または電磁的方法(メール、PDFファイル、電子契約書など)で明示しなければなりません。

明示すべき事項はフリーランス新法の施行規則(公正取引委員会関係)で定められていて、主に、委託する業務の内容や報酬の額及び支払い期日、納期、納入場所、検査完了日などです。

ただし、委託時に正当な理由により内容を定められない事項については、内容が定められた後、直ちに明示すればよいこととされています。

なお、電磁的方法で取引条件を明示した場合に、フリーランスから書面の交付を求められた場合は、原則として所定の事項を明記した書面を交付しなければなりません。

報酬の支払期日を守る

特定業務委託事業者は、納品を受けてから60日以内で、できる限り早期に報酬を支払わなければなりません。

「月末締め、翌々月末払い」とすると、60日以上経過してしまうことがあるので注意が必要です。

発注側が他の事業者(元委託者)から委託を受け、フリーランスに再委託をした場合は、必要事項を明示した場合に限り、元委託の支払い期日から30日以内で、できる限り早期にフリーランスへ報酬を支払えばよいこととされています。

禁止事項を遵守する

特定業務委託事業者は、1ヶ月以上の期間にわたって業務を委託する場合には、フリーランスの利益を不当に侵害してはならないとの観点から、以下の7つの行為が禁止されています。

  • フリーランスの責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
  • フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
  • フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品すること
  • 通常の相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
  • 正当な理由なく自己の指定する物の購入や役務の利用を強制すること
  • 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させ、フリーランスの利益を不当に害すること
  • フリーランスの責めに帰すべき事由なく給付内容の変更し、または、やり直しを要求し、フリーランスの利益を不当に害すること

正確な募集情報の掲載

特定業務委託事業者が新聞や雑誌、チラシ、インターネットなどの広告で業務委託先を募集する場合には、虚偽の表示や誤解を招くような表示をしてはなりません。

例えば、実際の報酬額よりも高い金額の表示や、実際に委託する業務よりも工程が少ない業務の表示を意図的に行うことは、虚偽の表示に該当します。

「報酬額の一例」という断りなく一定の金額が報酬として確約されているかのように表示することは、誤解を招く可能性が高いでしょう。

また、広告に掲載する情報は、正確かつ最新の内容に保つ必要があります。したがって、既に募集を終了した求人の情報を掲載し続けることは許されません。

フリーランスが働きやすい環境整備

特定業務委託事業者は、6ヶ月以上の期間にわたって業務を委託する場合には、フリーランスが働きやすい環境を整備するために、以下の3つのことが義務付けられています。

  • フリーランスからの申し出に応じて、妊娠・出産・育児・介護と業務の両立が可能となるように配慮すること
  • フリーランスに対するセクハラやパワハラなどのハラスメントを防止するため、相談体制の整備など必要な措置を講じること
  • フリーランスがハラスメントに関する相談をしたことなどを理由として、契約の解除など不利益な取り扱いをしてはならないこと

なお、フリーランスが働きやすい環境を整備するために特定業務委託事業者が具体的に行うべきことや考え方については、厚生労働大臣が公表した指針にとりまとめられています。

中途解除等の事前予告

特定業務委託事業者は、6ヶ月以上継続する業務委託の契約を途中で解除したり、契約期間満了後に不更新とする場合には、原則として30日前までにその予告をしなければなりません。

また、フリーランスから契約解除の理由を開示するように求められた場合には、遅滞なくその理由を開示する必要もあります。

これは、フリーランスが発注者側の一存で契約を打ち切られることにより、不安定な立場に置かれることを防止するために設けられた規制です。したがって、フリーランスから解約の申出があった場合や、合意によって契約を解除する場合には、この規制は適用されません。

ただし、トラブルが発生した場合には、フリーランスが自由意思で契約解除に応じたのかどうかが厳しく問われることになります。

フリーランス新法に違反した場合の罰則

特定業務委託事業者がフリーランス新法に違反した場合には、公正取引委員会や中小企業庁長官、厚生労働大臣から報告徴収や立ち入り検査を受け、その結果、助言や指導を受けることがあります。

また、公正取引委員会や厚生労働大臣から違反を是正・防止するために必要な措置をとるべきことを勧告され、その勧告に従わなければ命令および企業名の公表が行われることにもなりかねません。

さらには、命令違反や報告義務の不履行、検査拒否に対しては、50万円以下の罰金が科せられることがあります。

特定業務委託事業者の従業員が違反行為を行った場合、行為者本人だけでなく、法人や事業主も処罰される可能性があることにも注意が必要です。

 


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