- 作成日 : 2022年4月15日
公正証書とは?契約にまつわる基本用語を解説!
終活の一環として遺言書作成を考える際、「公正証書」という言葉を目にすることがあります。しかし、詳しい内容を知らない方は多いでしょう。
この記事では、公正証書に関する制度(公証制度)にまつわる公証役場や公証人などの基本用語や利用方法、費用などについて詳しく解説します。
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公正証書とは?
公正証書は、法務省の法務局又は地方法務局に所属する「公証人」が、法務局の管轄区域内に設置した公証役場において作成する「公文書」です。公文書は民間で交わす契約書や個人で作成する自筆証書遺言といった「私文書」に比べて、あらゆる場面において証明力や執行力などの効力が優れているという特徴があります。
公正証書に関わる公証制度とは
公証制度は、民間人の私的な法律関係において、一定の範囲で当事者の権利義務を公証人が形式に則り作成した証書により証明することで、トラブルを未然に防ぐことを目的として設けられています。公証制度において欠かせないのが公証人と公証役場であり、公証人は公証事務を行います。
公証人と公証役場について
公証人は、国家公務員法上の公務員にはあたらないものの、法務局又は地方法務局所属の立場にあり、国の公務を行っていること、また公証人の任命は法務大臣が行うことからも、実質的には公務員にあたるとされています。
国民からの信頼が揺るがぬよう、その任にあたることができるのは、裁判官、検察官、弁護士のような法曹資格者やベテランの法務事務官など、法律実務にも法知識にも詳しい者のみとなっています。
公証人は、法務大臣の監督の下、厳しい守秘義務が課せられていますし、兼職も禁じられています。
公証役場とは全国に約300ヵ所ある、公証人が職務を行う事務所のことです。
大都市の公証役場には複数の公証人が所属していますが、県庁所在地以外では公証人が一人だけの公証役場も少なくありません。そのため、公証人に用がある場合は、あらかじめ電話などでアポイントメントを取るのが一般的です。
公証事務について
公証事務、すなわち公証人が行うことができる職務の代表が公正証書の作成です。公証人は当事者の意思に沿い、適宜アドバイスを行いつつ、法的効力のある公正証書を作成します。
公正証書の詳細は次章で述べますが、公証事務には「確定日付の付与」や「認証」もあります。
「確定日付の付与」とは、私人間の契約書のような私文書について、公証人がその文書に日付のある印章を押捺する行為のことです。確定日付の付与により、作成日などの日付を公的に証明できるのでトラブルの予防に役立ちますし、文書によっては確定日付があることが第三者への対抗要件とされているものもあります(指名債権の譲渡の通知又は承諾(民法467条2項)など)。
「認証」とは、公証人が特定の文書等が正当な手続き・方式に従っていることを証明する行為のことです。よく知られているのは、株式会社などが作成する定款の認証です。定款認証を受けない限り会社を設立することはできないため、こちらも公証人の重要な職務といえます。
公正証書を作成する目的は?
法律実務の実績が豊富な公証人が公的な立場で作成する公正証書は、作っておくことで法的トラブルを未然に防ぐことができ、万一の場合には強い証拠力を有し、内容によってはそのまま執行証書にもなり得ます。したがって、いざという時の安心を得る目的で公正証書を作成するケースが多いと考えられます。詳細は「公正証書を作成するメリット」の章で解説します。
公正証書の種類
公証人が自己の権限のもと、個人又は法人からの依頼に基づき作成する公正証書は、法的効力の面で「契約」に関するもの、「単独行為」に関するもの、「事実実験」に関するものの3種類に分類されます。
公正証書において「契約」に関するもの
家を買う際の売買契約、お金の貸し借りに係る金銭消費貸借契約、会社間の取引における請負契約や業務委託契約など、私たちの社会生活において契約書を交わす機会は意外に多くあります。これらの契約書は当事者同士で署名捺印して各々が保管するケースが多いですが、当事者同士が希望すれば公正証書で作成することも可能です。どのような内容であっても「契約」と呼べるものであれば、公序良俗違反、法令違反などの問題がない限り公正証書にすることができます。離婚後の養育費や財産分与に関する「離婚協議書(離婚給付契約)」も含まれます。
なお、契約の中には法律上、任意後見契約のように公正証書に依ることが義務付けられていたり、定期建物賃貸借契約のように公正証書で作成されることが予定されていたりするものもあります。
公正証書において「単独行為」に関するもの
単独行為とは、一当事者の意思表示のみで有効となる法律行為のことです。最もポピュラーな単独行為は「遺言」であり、公正証書遺言は公正証書の代表といっても過言ではないでしょう。
相続人同士で争いが起きる可能性がある、法定相続人がいないなど作成理由はさまざまですが、「自分自身の意思でこの内容の遺言書を作った」ということを公的に証明してくれる公正証書遺言は、当事者の最後の思いを確実かつ迅速に叶えるための手段として、今後もさらに活用されることが期待されています。
公正証書において「事実実験」に関するもの
「事実実験」とは、個人の権利義務等に関する「事実」につき、公証人が自ら見聞(=「実験」)することを意味します。その結果を記載したものが「事実実験公正証書」です。
公証人は依頼内容に基づき、土地の境界を確認するために現地を確認したり、株主総会に赴き議事進行状況を見聞したり、貸金庫の内容物を確かめたりして、それらを記載した公正証書を作成します。事実実験公正証書は、トラブルの際における証拠として非常に高い能力を有しています。
公正証書を作成するメリット
公正証書を作成する最大のメリットは「証明力の高さ」です。
「言った」「言わない」という争いは、私文書である一般的な契約書の作成でもある程度回避できますが、公文書にすることにより、記載内容(日付も含め)のすべてが当事者の合意に基づいた真正なものという推定が働きます。
次なるメリットは、公正証書が「執行力」を持つことです。
債務不履行時の賠償金支払が実施されない場合、契約書が私文書であればそれを証拠に裁判を提起し、勝訴判決を経てようやく強制執行が可能になります。しかし、公正証書で「証書に定める金銭債務を履行しない時は、直ちに強制執行に服する」という強制執行認諾条項を入れておけば、公正証書そのものが確定判決と同じ効力を持ち、訴訟を経ることなく執行が可能になります。
公正証書が「執行力」を持つことにより、訴訟にかかる費用や時間、精神的ストレスがなくなるだけでなく、当事者の契約内容を履行しようという動機を強くさせ、トラブルを未然に防ぐ効果も期待できます。
また、令和2年に民事執行法の改正法が施行されたことによって、債務者の財産開示手続がさらに利用しやすくなりました。
例えば、離婚時に取り決めた養育費支払の滞納に関し、執行証書をもって裁判所に申し立てることにより、市町村や金融機関といった第三者から債務者の勤務先や預金口座などの情報を得ることができるようになりました。前述のとおり公正証書は執行力を有するので、強制執行の実効性はさらに高まるといえるでしょう。
見方を変えると、公正証書遺言を作成するメリットとしては、相続人の手間を省くことができることも挙げられます。自筆証書遺言は家庭裁判所の検認を経て初めて相続の手続きに使えるようになりますが、その際法定相続人全員に検認日時を知らさなければならず、すべての法定相続人を確認するために遺言者の出生から死亡までの全戸籍が要求されるなどの手間が相続人にかかります。一方で公正証書遺言は検認不要で、相続が発生すれば直ちに遺言執行に取り掛かることができます。
公正証書の費用
公正証書作成費用は「公証人手数料令」という政令により定められており、内容が同じであれば全国のどの公証役場でも、どの公証人に依頼しても同額です。売買契約や離婚給付契約、遺言などでは、養育費総額や相続財産を金銭に換算した「目的価額」で決まる基本手数料に、証書枚数や法律行為の数などにより加算されていく形になっています。
番号 | 法律行為の目的の価額 | 金額 |
---|---|---|
一 | 百万円以下のもの | 五千円 |
二 | 百万円を超え二百万円以下のもの | 七千円 |
三 | 二百万円を超え五百万円以下のもの | 一万千円 |
四 | 五百万円を超え千万円以下のもの | 一万七千円 |
五 | 千万円を超え三千万円以下のもの | 二万三千円 |
六 | 三千万円を超え五千万円以下のもの | 二万九千円 |
七 | 五千万円を超え一億円以下のもの | 四万三千円 |
八 | 一億円を超え三億円以下のもの | 四万三千円に超過額五千万円までごとに一万三千円を加算した額 |
九 | 三億円を超え十億円以下のもの | 九万五千円に超過額五千万円までごとに一万千円を加算した額 |
十 | 十億円を超えるもの | 二十四万九千円に超過額五千万円までごとに八千円を加算した額 |
引用:別表(第九条、第十七条、第十九条関係)|e-Gov法令検索
証書案の作成や公証人との交渉などのサポートを弁護士や行政書士などの法律専門家に依頼した場合は、別途報酬が必要です。報酬は自由に決められるため、一概に相場を述べることは難しく、公正証書遺言でも5万~15万円と幅があるようです。
公正証書が効力を発揮する期間は?
公正証書には必ず作成日が記載されますが、作成日はあくまでも公証人がその日にその内容で証書を作成したことを証明するものであり、実際の効力発生日は証書の種類によって変わります。
例えば、遺言であれば相続発生時、すなわち遺言者が死亡した時から効力を発揮します(民法985条1項)。離婚給付契約は夫婦の離婚後に養育費などの給付を約束するものであるため、離婚届が受理されて初めて効力が発生します。その他の契約であれば、効力発生は当事者が証書内で合意した日時となります。
効力発生日を作成日とする場合であれば、「この契約は公正証書の作成日に効力発生する」と記載しておくとわかりやすいでしょう。
一方、公正証書自体には有効期限に関する一般的なルールは特にありません。とはいえ契約などで当事者間の合意があれば、公正証書内に効力の終期を記載しても問題ありません。
公正証書の知識を得て有効活用しよう
遺言や離婚協議書はもちろん、一般的な契約についても公正証書にしておくことでトラブルを防ぎやすくなり、いざという時に強制執行に至るまでの手間を省くことができます。公正証書にしておくほうがメリットが大きいと考えられる文書であれば、作成しておくことをおすすめします。
よくある質問
公正証書とは何ですか?
法務局に所属する公証人が個人や法人からの依頼に基づき作成する文書で、公文書として高い証明力を持ちます。詳しくはこちらをご覧ください。
公正証書を作成するメリットを教えてください。
高い証明力と執行力を有するためトラブルを抑止できること、万一の場合は迅速な債権回収行動が可能になることです。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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