- 作成日 : 2025年7月17日
NDAの目的は?条項設計やリスク回避のポイントを解説
NDA(秘密保持契約)は、企業間で情報を安全に共有するために広く用いられる契約ですが、その「目的」をどう定めるかによって契約の効果が大きく変わります。目的が曖昧なままでは、情報の使用範囲や守秘義務の期間に対する誤解が生じやすく、漏えいや契約違反といったリスクを引き起こすおそれがあります。
本記事では、場面ごとのNDAの目的や、目的条項の設定が実務対応にどのような影響を与えるかを解説します。
目次
NDA(秘密保持契約)とは
NDA(秘密保持契約)は、企業間での情報共有に不可欠な契約です。ここではNDAの定義と基本的な目的を確認し、企業実務でどのように機能しているかを明らかにします。
NDAの定義と目的
NDAは、取引先や協業先に秘密情報を開示する際に、その情報を無断で使用したり第三者に漏らしたりすることを防ぐために結ばれる契約です。新規事業の検討や技術提携、M&A、システム開発など、情報共有が前提となる場面で頻繁に利用されます。この契約を結ぶことで、提供側は安心して情報を共有でき、受領者も守秘義務の範囲を明確に理解したうえで行動することが可能になります。
片務型(一方向型)と双務型(相互型)の契約形式
NDAには、一方向に情報を開示する場合と、双方が情報を開示し合う場合の二つの形式があります。前者では受領者のみが守秘義務を負い、後者では双方が同等に義務を負う相互契約が適用されます。どちらの形式でも、NDAは秘密保持のルールを事前に明確に定めることで、認識の食い違いや後日のトラブルを防ぐ効果があります。
NDAの呼称
「秘密保持契約」は、「機密保持契約」や「守秘義務契約」と呼ばれることもありますが、意味は同じです。企業実務においては一般的に「NDA」という略称が用いられ、契約交渉や文書上でも広く定着しています。
場面別のNDAの目的|業務提携・開発委託・採用活動
NDA(秘密保持契約)は、さまざまな企業活動において活用されます。どのような場面で、どのような目的をもってNDAを締結するのかを明確にしておくことで、実務上のリスクを避けることができます。ここでは業務提携、開発委託、採用活動におけるNDAの目的を解説します。
業務提携におけるNDAの目的
業務提携の検討では、企業同士が互いの事業戦略、ノウハウ、新製品構想、価格設定などを共有する場面が多くなります。これらの情報は競争上の優位性に直結するため、外部に漏れれば企業にとって深刻な損失につながります。NDAを結ぶことにより、両社は開示された情報を提携検討の目的以外で使用せず、第三者に漏らさないことを約束します。
また、提携交渉が最終的に不調に終わった場合でも、交渉過程で知り得た情報を使って相手のビジネスを模倣するような行為を未然に防ぐ効果があります。多くの場合、業務提携におけるNDAは相互契約の形式が取られ、双方に守秘義務が課されます。これにより、安心して対等な立場で交渉を進める土台が築かれます。
開発委託におけるNDAの目的
システムや製品の開発を外部業者に委託する際には、詳細な設計情報や技術資料、試作品に関するノウハウなど、機密性の高い情報を外部に提供する必要があります。こうした情報の不正使用や漏えいを防ぐために、NDAを締結することが一般的です。
NDAによって、委託先は開示された情報を受託業務の遂行以外には使用せず、第三者にも漏らさない義務を負います。さらに、下請け企業や外部技術者などへの再委託がある場合にも、同様の守秘義務を課すよう規定することで、情報の管理範囲を明確にできます。これにより、発注側は安心して業務を委託し、品質と安全性の高い協業体制を築くことが可能になります。
採用活動におけるNDAの目的
NDAは採用活動においても有効です。経営層や新規事業の担当候補者など、機密性の高いポジションの採用では、選考中に社内の機密情報を共有する必要があります。将来戦略や財務情報、開発中のプロジェクトなどを候補者に伝える場面では、NDAにより候補者がその情報を外部に漏らさない義務を明文化します。
このようなNDAを締結しておけば、企業側は安心して自社情報を開示でき、候補者も自己の能力を正しく評価してもらうための情報を受け取ることができます。また、採用活動では応募者の履歴書や経歴など、個人情報の取り扱いも発生します。これらの情報を人材紹介会社など第三者が取り扱う場合にも、NDAにより守秘義務を担保しておくことで、情報漏えいリスクを低減できます。信頼関係の維持と、スムーズな採用プロセスの実現には、こうした事前の契約が不可欠です。
NDAの条項設計における目的の影響
NDA(秘密保持契約)は単に秘密情報を守るための契約ではなく、その「目的」の設定が契約全体の構造や効果に大きく関わってきます。ここでは、NDAにおける目的が条項設計にどのように影響するのかを整理します。
秘密情報の定義における目的の役割
NDAでは、契約書内で「秘密情報」の範囲を明確に定義します。このとき、契約の目的が秘密情報の定義を決定づける要素となります。たとえば、「本契約の目的である業務提携の協議に関連して開示された情報」というように、目的に紐づく形で秘密情報を限定的に規定する方法が一般的です。これにより、受領者が情報を利用できる範囲が「目的の範囲内」に限られ、不正な二次利用や目的外使用を抑制する効果が期待されます。
一方で、目的を曖昧にしたり、逆に広く設定しすぎたりすると、何が秘密情報なのかが不明瞭となり、守秘義務の範囲について解釈の余地が生まれてしまいます。情報提供者としては、目的を具体的に記載することで情報の使用範囲を明確に制限することができ、契約の有効性と実効性が高まります。
守秘義務の期間設定への影響
NDAにおける守秘義務の存続期間も、契約目的との関係性を考慮して設計されます。たとえば、「契約終了後○年間」や「目的が達成された日から○年間」といった表現が一般的です。もし期間が設定されていない、あるいは目的と無関係に短すぎる場合には、情報漏えいリスクが高まる恐れがあります。反対に、過度に長期間を設定すると、受領者にとって不当な拘束となり、裁判所が合理的期間に制限する可能性も出てきます。
目的に即した期間設定を行うことで、提供者・受領者双方が納得しやすい実務的なバランスを取ることが可能になります。
例外規定や返還義務との関連
秘密保持義務には、通常、いくつかの例外条項が設けられます。たとえば、すでに公知となっている情報や、受領者が独自に入手していた情報、法令により開示が求められる情報などは守秘義務の対象から外されることが一般的です。これらの例外も、契約の目的を踏まえて適切に設計する必要があります。目的と無関係な情報まで広く守秘義務を課すような条文になっていないかを確認することが求められます。
また、契約終了後に提供された資料の返還やデータの消去を義務づける条項も多くのNDAに含まれます。これもまた、「目的の終了」を基準として規定されることが多く、契約の目的が不明確だと、返還義務の発生時期が判断できず、実務上の混乱を招く可能性があります。
NDAの目的が曖昧な場合のリスクと回避策
NDA(秘密保持契約)において、契約の「目的」を明確に定めていないと、法的な効果が不十分になるだけでなく、情報漏えいや契約トラブルの温床となり得ます。
目的が曖昧なNDAに潜むリスク
NDAの目的が曖昧なまま契約されてしまうと、受領者側は「何のための情報共有で、どのような使い方が許容されるか」が判断しにくくなります。その結果、意図せず契約違反となる情報の利用や、第三者への不適切な共有が発生する可能性があります。
例えば、NDAに利用目的の記載がなく、秘密情報の定義も抽象的だった場合、受領者が自社の他部門で流用する行為を「契約違反ではない」と誤認することがあり得ます。これは、実際の業務現場でもしばしば見られる問題で、契約文言と現場の解釈が食い違う典型例といえます。
また、秘密情報の範囲や守秘義務の対象が契約書から明確に読み取れないと、情報漏えいが起きた際に「そもそもその情報が秘密だったのか」という論点で争いが生じ、契約の実効性が著しく損なわれることになります。
さらに、NDAが包括的すぎるあまり、守秘義務の範囲が不自然に広がっているケースでは、裁判で契約条項が無効または一部制限される判断が下されることもあります。過去の判例でも、守秘義務の内容が過度に広範であり、公序良俗に反するものとして一部効力が否定された例があります。
目的条項の明記でリスク回避する
こうしたリスクを避けるには、NDAの目的条項において「どのような目的で情報を共有するか」を明記することが基本となります。たとえば、「本件業務提携の検討に必要な範囲での情報交換のため」などと記載することで、受領者の利用範囲が明確になり、意図しない契約違反を防ぐことができます。
また、秘密情報の範囲や内容を文書で提示する際には、資料に「CONFIDENTIAL」などの明確な表示を行い、口頭で伝える際にも「ここからが秘密情報です」と明確に伝える工夫が有効です。秘密情報の特定性と注意喚起を両立させるこれらの方法により、情報の取扱いに対する当事者間の認識のずれを防ぐことができます。
加えて、守秘義務の期間、情報の返還・消去義務、例外規定(公知情報や法的開示義務等)などの条項も、目的に照らして適切に設計することで、契約の整合性が保たれます。目的が明確であれば、これら付随条項も一貫性を持って構築でき、紛争時にも有利に働く可能性があります。
NDAの目的明確化がもたらす効果
契約目的を明確にすることは、単なる形式的対応ではなく、当事者間の信頼構築にもつながります。契約を交わす初期段階で情報の利用目的や範囲をしっかりとすり合わせておけば、不要な誤解や摩擦を防ぎ、協議や事業の進行そのものがスムーズになります。
また、企業側が法務部門を介してこうした内容を標準化し、全社的なNDA管理の方針として展開することは、ガバナンス強化の観点からも非常に有効です。ひとつひとつのNDAが適切に設計されていれば、外部との信頼関係維持だけでなく、自社内での情報管理意識も向上することが期待されます。
NDAの目的設定は条項設計とリスク回避の基盤
NDAの目的が明確でないと、情報漏えいやトラブルの温床になり得ます。秘密情報の利用範囲、守秘義務の期間、例外規定などは、すべて目的に基づいて設計されるため、契約の効果を左右します。実務では、契約書内に具体的な目的を記載し、当事者間で認識を共有することが、NDAを機能させるうえで不可欠です。目的を曖昧にせず、実情に即した条項設計を行うことが、信頼ある情報管理につながります。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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