- 作成日 : 2025年7月9日
中小企業で電子契約が必要な理由は?導入方法やおすすめサービスを紹介
「契約」と聞くと、分厚い紙の束に印鑑を押し、収入印紙を貼るといった作業を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。しかし、中小企業を取り巻くビジネス環境は目まぐるしく変化しており、従来の紙の契約書では対応が難しくなってきています。
そこで注目されているのが「電子契約」です。電子契約は、インターネットを通じて契約締結から管理までを Web上で行う仕組みであり、中小企業にとって業務効率化、コスト削減、そしてセキュリティ強化といった多くのメリットをもたらします。
この記事では、なぜ今中小企業に電子契約が必要とされているのか、その具体的な理由から導入のステップ、そしておすすめのサービスまでを分かりやすく解説します。
電子契約について詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてご覧ください。
中小企業に電子契約が必要な理由
電子契約が中小企業にもたらすコスト削減、業務効率化、コンプライアンス強化、多様な働き方への対応といった具体的なメリットを説明します。
劇的なコスト削減効果
電子契約導入の最大の魅力の一つは、大幅なコスト削減です。特に印紙税が不要になる点は大きなメリットです。電子契約は印紙税法上の「課税文書」に該当しないため、印紙税がかかりません。これに加え、郵送費、紙代、印刷代、保管スペースにかかる費用も削減できます。契約件数が多い中小企業にとって、これらのコスト削減効果は年間を通じて相当な金額になり、経営体質の強化にも繋がります。
業務効率の大幅な向上
電子契約は、契約書の作成から承認、送付、署名、保管までの全プロセスをオンラインで完結させるため、契約締結までの時間を短縮します。物理的な手作業や郵送による遅延がなくなり、業務のスピードアップが図れます。ある導入事例では、手作業で約2時間かかっていた押印作業が、電子化により最短5分で完了するようになったと報告されています。
コンプライアンス・内部統制の強化
電子契約システムは、契約書の変更履歴の記録、バージョン管理、安全な保管といった機能を提供し、契約書の紛失、不正な改ざん、更新漏れといったリスクを低減します。電子署名とタイムスタンプは、契約の真正性と改ざん防止性を高めます。また、社印の不正利用リスクも回避できます。自動化されたワークフローは人的ミスを最小限に抑え、監査対応の負担も軽減します。
テレワークなど多様な働き方への対応
電子契約は、インターネット環境さえあれば場所を選ばずに契約業務を行えるため、テレワークやフレキシブルな働き方を強力にサポートします。印刷、押印、郵送といった物理的な作業のために出社する必要がなくなり、従業員の多様な働き方を実現しやすくなります。これは優秀な人材の確保や定着にも繋がり、不測の事態における事業継続性の確保にも貢献します。
電子契約の導入方法
電子契約をスムーズに導入するための具体的な6つのステップ(目的明確化、サービス選定、社内規定整備、取引先への説明、段階的導入、効果測定)を解説します。
1:導入目的の明確化と現状分析
電子契約導入の第一歩は、「コスト削減」「業務効率化」「DX推進」など、具体的な導入目的を明確にすることです。次に、現在の契約業務フロー、契約の種類や件数、課題点を詳細に分析します。目的が曖昧だと、自社に合わないサービスを選んだり、導入効果が得られなかったりする可能性があります。
2:電子契約サービスの選定
現状分析と目的が明確になったら、具体的な電子契約サービスを選定します。この選定方法については、第5章と第6章で詳しく解説します。
3:社内規定の整備と業務フローの見直し
電子契約をスムーズに運用するためには、電子契約の利用範囲、承認権限、署名権限、契約書の保管ルールなどを定めた社内規定の整備が必要です。従来の紙ベースの業務フローを見直し、電子契約システムを中心とした新しいフローを設計します。
4:取引先への説明と同意獲得
電子契約は取引先の同意があって初めて成立するため、取引先に対してメリットや法的有効性、セキュリティ対策などを丁寧に説明し、理解と協力を得ることが重要です。ITに不慣れな取引先には、根気強い説明や操作方法のサポートが必要になることもあります。
5:段階的な導入と社内研修の実施
最初から全ての契約を電子化するのではなく、一部の部門や特定の契約種類から試験的に導入する「スモールスタート」が推奨されます。並行して従業員向けの研修を実施し、システムの操作方法や新しい業務フローについて周知徹底します。
6:運用開始と効果測定
本格運用開始後も、定期的に利用状況をモニタリングし、フィードバックを収集します。ステップ1で設定した導入目的に対して、実際にどのような効果が出ているかを測定・評価し、改善点が見つかれば継続的な改善活動を行います。
中小企業におすすめの電子契約サービス
市場に多数存在する電子契約サービスの中から、中小企業に適した主要なサービスの特徴や料金体系を比較し、無料プランや低コストで始められる選択肢を紹介します。
主要電子契約サービスの特徴比較
日本国内には、「電子印鑑GMOサイン」、「クラウドサイン」、「マネーフォワード クラウド契約」、「freeeサイン」など、中小企業に適した電子契約サービスが多数存在します。それぞれ特徴や強みが異なり、例えば「電子印鑑GMOサイン」は立会人型と当事者型の両方に対応し無料プランも提供、「クラウドサイン」は国内トップクラスのシェアとセキュリティの高さに定評があります。
主要電子契約サービス比較表(中小企業向け)
サービス名 | 提供企業 | 主な特徴 | 料金体系例 |
---|---|---|---|
クラウドサイン | 弁護士ドットコム株式会社 | 国内シェアNo.1、高い信頼性、官公庁での導入実績多数、シンプルな操作性 | Lightプラン:月額11,000円(税込み)~ |
電子印鑑GMOサイン | GMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社 | 立会人型・当事者型対応、多様な認証方法、無料プランあり、導入企業数350万社以上(※) | お試しフリープラン:0円~ |
マネーフォワード クラウド契約 | 株式会社マネーフォワード | マネーフォワード クラウドシリーズとの連携、契約書作成から管理まで一元化 | 実質月額2,480円〜(年払い) |
freeeサイン | freee株式会社 | freee会計との連携、契約業務全般をカバー、AIレビュー機能、コストパフォーマンス | 実質月額5,980円~(年払い) |
※「電子印鑑GMOサイン(OEM商材含む)」を利用した事業者数(企業または個人)。1事業者内のユーザーが複数利用している場合は1カウントする。
無料プラン・低コストで始められるサービス
初期費用やランニングコストが気になる中小企業には、無料プランや低コストで利用開始できるサービスがおすすめです。「電子印鑑GMOサイン」は月5件まで無料で利用できるプランがあります。また、「ベクターサイン」や「WAN-Sign」も基本料無料で始められるサービスとして挙げられています。これらの無料プランを利用して、操作感やメリットを体験し、本格導入を検討できます。
電子契約の選び方
自社のニーズに合った機能、料金体系、セキュリティ、サポート体制、そして電子署名の種類(立会人型・当事者型)といった、電子契約サービスを選ぶ上で重要な比較ポイントを解説します。
自社のニーズに合った機能の確認
自社のニーズに合った機能が備わっているかを確認することが最も重要です。具体的には、ワークフロー機能、文書管理機能、対応する電子署名の種類、契約書テンプレートの有無、OCR機能、アラート機能などが挙げられます。導入目的と課題を基に必要な機能をリストアップし、比較検討します。
料金体系とコストパフォーマンス
料金体系は月額固定制、ユーザー数課金、送信件数に応じた従量課金制など様々です。無料プランもありますが機能制限があるのが一般的です。自社の契約件数や予算を考慮し、初期費用やオプション費用も含めた総コストで比較検討することが重要です。
セキュリティ対策と信頼性
契約書は機密情報を含むため、セキュリティ対策は最重要項目です。ISMS (ISO27001) などの第三者認証の取得状況、データ暗号化、不正アクセス防止策、アクセス権限管理機能などを確認しましょう。サービス提供企業の信頼性や実績も重要です。
サポート体制と導入のしやすさ
特にIT専門担当者がいない中小企業にとっては、導入のしやすさとサポート体制の充実度が重要です。初期設定の容易さ、ユーザーインターフェースの分かりやすさ、導入支援や研修、マニュアルの有無を確認しましょう。問題発生時の迅速なサポートもポイントです。
電子署名の種類(立会人型・当事者型)と選び方
電子署名には主に「立会人型(事業者署名型)」と「当事者型(電子証明書署名型)」の2種類があります。
- 立会人型:電子契約サービスの事業者が当事者の指示に基づき電子署名を行うタイプで、メール認証などで本人確認します。相手方に特別な準備が不要で手軽です。
- 当事者型:契約当事者双方がそれぞれの電子証明書を用いて電子署名を行うタイプで、より厳格な本人確認が可能ですが、相手方にも準備が必要です。
立会人型 vs. 当事者型電子署名:中小企業向け比較
項目 | 立会人型(事業者署名型) | 当事者型(電子証明書署名型) |
---|---|---|
仕組み | サービス事業者の電子証明書に基づいて署名(メール認証等で本人確認) | 当事者双方が自身の電子証明書で署名 |
主なメリット | 相手方の負担が少ない、導入が容易 | より厳格な本人確認、高い証拠力 |
主なデメリット | 当事者型に比べると本人認証の厳格さで劣る場合がある | 相手方にも電子証明書の準備が必要、導入・運用コストが高い場合がある |
中小企業の用途 | 一般的な契約、取引先が多様な場合 | 高額な契約、特に厳格な本人確認が求められる契約 |
相手方の負担 | 少ない(メールアドレスがあれば可) | 電子証明書の取得・設定が必要 |
多くの中小企業の日常的な契約業務では立会人型が現実的ですが、契約の重要性に応じて当事者型も検討しましょう。
中小企業には電子契約がおすすめ
この記事では、中小企業が電子契約を導入するメリット、具体的な進め方、サービスの選び方、そして注意点について解説してきました。
電子契約の導入は、コスト削減、業務効率の大幅な向上、コンプライアンス強化、多様な働き方への対応といった、経営に直結する多くのメリットをもたらします。これらは、中小企業が直面する様々な課題を解決し、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための強力な一手となり得ます。
電子契約は、中小企業の競争力強化と持続的な成長を後押しする重要なツールと言えるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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