- 作成日 : 2025年7月4日
電子契約書の法的効力は大丈夫? 導入前に知っておきたい基本知識と注意点
ペーパーレス化やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の流れの中で、契約業務を電子化する「電子契約」を導入する企業が急速に増えています。業務効率化やコスト削減といったメリットが大きい一方、導入を検討している方や、すでに利用している方の中には、
「電子契約って、本当に法的に有効なの?」 「紙の契約書と同じように、裁判で証拠として認められるの?」
といった疑問や不安をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、電子契約書の法的効力について、その根拠となる法律や仕組み、関連する技術(電子署名・タイムスタンプ)、認証局の役割などを、専門的かつ分かりやすく解説します。
目次
電子契約に法的効力はあるのか?
結論から言うと、電子契約にも原則として法的効力は認められます。
原則として電子契約も有効
日本の法律(民法)では、一部の例外(法律で書面作成が要求される場合)を除き、契約の成立に特定の方式は要求されていません(契約自由の原則、不要式契約)。つまり、当事者間の合意があれば、口頭でも契約は有効に成立します。
したがって、契約内容を電子データで作成し、電子的な方法で合意した場合であっても、原則としてその契約は法的に有効です。紙の契約書でなければならない、という決まりはありません。
法的効力の根拠となる「電子署名法」
電子契約の法的効力を考える上で最も重要な法律が、「電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)」です。この法律は、電子署名が手書きの署名や押印と同等の機能を持つための要件などを定めています。
特に重要なのが、後述する電子署名法第3条の規定です。この規定により、一定の要件を満たす電子署名が施された電子文書は、法的な証拠力が高められます。
「証拠力」の確保
契約が「法的に有効」であることと、「裁判などで証拠として認められるか(証拠力があるか)」は、少し異なる視点です。口頭契約も有効ですが、後で「言った、言わない」の争いになった場合、その内容を証明するのは困難です。
紙の契約書は、署名や押印があることで、「誰が」「どのような内容に」合意したのかを証明する重要な証拠となります。電子契約においても、この「証拠力」をいかに担保するかが非常に重要になります。電子署名やタイムスタンプといった技術は、まさにこの証拠力を確保するための仕組みなのです。
電子契約の法的効力を支える仕組み
電子契約が紙の契約書と同等の証拠力を持つためには、「その契約書が本物であること(真正性)」、つまり「確かに本人が作成・合意したものであり、後から改ざんされていないこと」を証明できる必要があります。これを実現するのが「電子署名」と「タイムスタンプ」です。
「本人が作成した」ことを示す【電子署名】
電子署名は、電子文書の作成者(署名者)が誰であるかを示し、その人が内容に同意していることを証明する技術です。紙の契約書における「署名」や「押印」に相当します。
多くの電子契約サービスでは、「公開鍵暗号方式」という技術に基づいた電子署名が用いられています。
公開鍵暗号方式は、秘密鍵とそれに対応する公開鍵のペアを使って情報を安全にやり取りする方法です。
具体的には、署名者が自分だけが持っている唯一の秘密鍵で電子文書に署名をします。そして受け取った相手は、その秘密鍵に対応する公開鍵を使って「本当に本人が署名したのか」を確認することができます。さらに、第三者機関(認証局)が発行する「電子証明書」を組み合わせることで、署名者が間違いなく本人であることを確かめられます。
「改ざんされていない」ことを示す【タイムスタンプ】
タイムスタンプは、「電子文書が特定の時刻に存在していたこと(存在証明)」と、「その時刻以降に改ざんされていないこと(非改ざん性)」を証明する技術です。第三者機関である時刻認証局(TSA: Time-Stamping Authority)が発行します。
電子契約にタイムスタンプを付与することで、契約が締結された日時を明確にし、後から内容が変更されていないことを客観的かつ長期的に証明できます。
電子署名法第3条が定める「推定効」とは?
電子署名法第3条は、電子契約の証拠力を考える上で非常に重要な規定です。
(電磁的記録の真正な成立の推定)
第3条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。
簡単に言うと、「本人だけが行える適切な電子署名がなされていれば、その電子文書は本人が作成し、改ざんされていないものと法的に推定しますよ」ということです。
通常、裁判では、提出された文書が本物であることを証明する責任は、その文書を提出した側にあります。しかし、この第3条の「推定効」があることで、電子署名が付された文書であれば、相手方が「それは偽造だ」「改ざんされている」と反証しない限り、真正なものとして扱われます。この規定により、電子契約の証拠としての信頼性が格段に高まっているのです。
電子契約の種類と法的効力の担保方法
電子契約サービスには、主に「当事者型」と「立会人型(クラウド型)」の2種類があります。それぞれ署名の方法や法的効力の担保の仕方が異なります。
当事者型:本人確認性が高い
当事者型は、契約当事者自身が、認証局から発行された電子証明書(例:マイナンバーカード、商業登記に基づく電子証明書など)を用いて、自らのPCなどで電子署名を行う方式です。
- メリット:電子証明書により厳格な本人確認が行われるため、電子署名法第3条の「本人による電子署名」の要件を満たしやすく、「推定効」が働きやすいと考えられています。本人性が非常に高いのが特徴です。
- デメリット:事前に電子証明書の取得が必要であり、受け取る相手がその署名を検証するには、対応するソフトウェアや環境の整備が必要になるため、導入や運用のハードルがやや高くなります。
立会人型(クラウド型):利便性が高い
クラウド型は、契約当事者が電子証明書を持たず、電子契約サービスを提供する事業者(クラウド事業者)が、当事者の指示に基づき電子署名を行う方式です。具体的には、当事者がメール認証などの本人確認プロセスを経た上での同意操作を行い、それを受けたクラウド事業者が自身の電子署名を使って署名します。
- メリット:契約当事者は電子証明書を取得する必要がなく、メールアドレスなどがあれば利用できるため、手軽に導入・利用できます。現在、多くの企業で利用されているのはこのタイプです。
- デメリット:署名を行うのがクラウド事業者であるため、電子署名法第3条の「本人による電子署名」に直接該当するか、という点で議論がありました。
各タイプの法的効力・証拠力
当事者型は、電子署名法第3条の推定効が働きやすく、証拠力が高いと一般的に考えられています。
一方、立会人型(クラウド型)については、電子署名法第3条の推定効が直接及ばないとしても、法的に無効になるわけではありません。契約の有効性自体は、前述の通り契約方式の自由の原則から認められます。
証拠力についても、政府(総務省・法務省・経済産業省)は2020年にQ&Aを公表し、「サービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行うサービス」であっても、技術的・その他の措置によって本人確認が十分に行われ、改ざん防止措置が講じられているなどの条件を満たせば、十分な証拠力が認められる可能性があるとの見解を示しています。
たとえば、メール認証などの本人確認プロセス、電子署名やタイムスタンプの付与、アクセスログなどの監査証跡が適切に記録・管理されていれば、立会人型の電子契約でも、裁判において十分な証拠として認められる可能性が高いと考えられます。多くの立会人型サービスは、これらの要素を備えるように設計されています。
電子署名の信頼性を支える「認証局」とは?
電子署名が「確かに本人のもの」であることを証明するために重要なのが「電子証明書」であり、それを発行するのが「認証局」です。
電子証明書の役割
電子証明書は、電子署名で使われる公開鍵が、確かにその持ち主(本人)に紐づいていることを第三者機関(認証局)が証明するものです。イメージとしては、「デジタルの印鑑証明書」のようなものと考えると分かりやすいでしょう。電子証明書には、所有者の氏名や組織名などの情報、公開鍵、有効期間、発行した認証局の情報などが含まれ、認証局の電子署名が付されています。
公的認証局(公的個人認証サービス JPKI)の特徴
- 運営主体:地方公共団体情報システム機構(J-LIS)
- 発行する証明書:マイナンバーカードに記録される「署名用電子証明書」と「利用者証明用電子証明書」。電子契約で主に使うのは「署名用電子証明書」です。
- 特徴:国が運営する唯一の公的な個人向け認証局であり、非常に高い信頼性があります。当事者型の電子署名で利用されることが多く、無料で取得できますが、マイナンバーカードの取得が必要です。
民間認証局(認定認証業務・その他)の特徴と選び方
- 運営主体:民間企業(例:セコムトラストシステムズ、GMOグローバルサインなど)
- 発行する証明書:個人向け、法人向け、ウェブサイト用(SSL/TLS証明書)など、様々な種類があります。有効期間や価格も種類によって異なります。
- 特徴:
- 主務大臣の認証を受けた特定認証業務:電子署名法に基づき、国の厳格な審査基準を満たしたと認定された認証業務。高い信頼性が求められる場合に利用されます。(例:商業登記に基づく電子証明書など)
- 主務大臣の認定を受けていない特定認証業務:主務大臣の認定は受けていなくても、特定の分野やサービスで広く利用されている認証業務。多くの電子契約サービス事業者もこのタイプを利用することが多いです。
- 選び方のポイント:
- 信頼性:実績、セキュリティ体制、認証レベルなどを確認します。認定認証業務かどうかは一つの目安になります。
- 用途:個人の契約か、法人の契約か、利用する電子契約サービスとの互換性などを考慮します。
- 費用と有効期間:証明書の種類や有効期間によって費用が異なります。
利用する電子契約サービスがどの認証局を利用しているか、どのような電子証明書に対応しているかを確認することも重要です。
電子契約を導入・運用する上での注意点
電子契約はメリットが多い一方で、導入・運用にあたっては以下の点に注意が必要です。
電子化できない契約類型に注意
全ての契約が電子化できるわけではありません。法律で書面による作成・交付が義務付けられている契約は、原則として電子契約で行うことはできません。ただし、近年は法改正により電子化が可能になるケースも増えています。
例:
- 事業用定期借地契約、企業担保権の設定契約(借地借家法、企業担保法:公正証書が必要)
- 訪問販売等で交付する書面(特定商取引法:要件を満たせば電子化可能)
- 労働条件通知書(労働基準法:労働者の希望があれば電子化可能)
自社で扱う契約が電子化可能かどうか、事前に確認が必要です。
取引先の理解と協力
自社だけが電子契約システムを導入しても、取引先が対応してくれなければ利用できません。事前に取引先に説明し、理解と協力を得ることが重要です。場合によっては、紙の契約と電子契約を併用する必要も出てくるでしょう。
セキュリティ対策の重要性
電子データは、不正アクセスや情報漏洩のリスクが伴います。利用する電子契約サービスのセキュリティ対策が十分かを確認するとともに、自社内でのパスワード管理、アクセス権限設定などのセキュリティ対策も徹底する必要があります。
電子帳簿保存法への対応
電子契約で締結した契約書データは、電子帳簿保存法の要件(真実性の確保、可視性の確保)に従って保存する必要があります。単に電子ファイルとして保存するだけでなく、検索機能を確保したり、訂正削除の防止措置を講じたりする必要があります。この電子帳簿保存法に対応した機能が備わっている電子契約サービスを選べば法令遵守の面でも安心でしょう。
法的効力を理解し、安心して電子契約を活用しよう
電子契約は、契約自由の原則に基づき、原則として法的に有効です。その証拠力を担保するのが、電子署名とタイムスタンプであり、電子署名法はその信頼性を法的に裏付けています。
当事者型、立会人型(クラウド型)といった種類がありますが、それぞれ適切な仕組みによって法的効力・証拠力を確保するように設計されています。特に広く利用されている立会人型についても、適切な運用がなされていれば十分な証拠力が認められるとされています。
電子契約の導入は、コスト削減や業務効率化に大きく貢献する可能性を秘めています。その法的効力や仕組みを正しく理解し、認証局の役割や注意点を踏まえた上で、自社に合ったサービスを選び、適切に運用することで、安心してそのメリットを享受することができるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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