- 作成日 : 2025年3月3日
下請法違反に該当する行為や罰則は?事例集・チェックシートも紹介
下請法は、下請事業者が不利益を被ることなく公正な取引が行われることを目的として定められた法律です。取り締まりの対象となる取引を限定し、「買いたたき」や「下請代金の減額」などの禁止事項を定めます。
下請事業者と契約を結び、業務を発注する際は、下請法に違反しないよう注意する必要があります。本記事では、下請法違反に該当する行為や実際の事例、チェックシートを紹介します。
下請法とは
下請法は、正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といい、下請取引の公正化・下請事業者の利益保護を目的に作られた法律です。下請契約では、親事業者と下請事業者に上下関係が生じやすく、下請事業者が不当に不利益を被る場面が多くあることが問題視されてきました。
そこで、下請事業者の権利を保護し、公正かつ適正な取引が維持されるよう、下請法が制定されたのです。
下請法では、対象となる取引について禁止事項を定め、違反した場合は公正取引委員会による勧告や企業名の公表がなされたり、罰金を科されたりします。
下請法の対象となる取引
下請法は、規制の対象となる取引を限定しています。
まず、資本金1,000万円以上の親事業者が対象です。さらに、保護の対象となる下請事業者はその資本金の額で、規制の対象となる取引は取引内容で決まります。
下請法の規制対象となる取引は以下の4つです。
製造委託
製造委託は、物の製造を委託する取引です。例えば、大手スーパーが自社ブランドの商品の製造を食品メーカーなどに委託する場合や、自動車メーカーが自社製品に必要な部品の製造を部品メーカーに委託する場合などが挙げられます。
修理委託
修理委託は、本来の機能を失った物品の修理を委託する取引です。したがって、機能の一部を失った部品の修理は該当しません。修理委託の例としては、自動車ディーラーが依頼を受けた車の修理を自動車修理工場などに委託する場合などが挙げられます。
情報成果物作成委託
情報成果物作成委託は、プログラムの開発や作成、設計、デザインなどを委託する取引です。例えば、広告代理店が受注した広告制作を、CM制作会社に委託する場合などが挙げられます。
役務提供委託
役務提供委託は、修理、運送、データ入力などの役務を別事業者に委託することです。例えば、貨物輸送会社が請け負った運送業務のうち、一部経路の業務を別会社に委託する場合などが挙げられます。
以上4つの取引は、さらに親事業者と下請事業者の資本金規模との組み合わせで一定の組み合わせとなる場合に、下請法の適用対象となります。
なお、親事業者・下請事業者や取引内容の詳細は、下記ページにて解説しています。
参考:下請事業者とは?下請法の対象や親事業者の義務などを解説
下請法違反に該当する行為
下請法では、親事業者に対して、下請事業者との立場を利用した違反行為11項目が定められています。以下では、11項目の内容について説明します。
下請代金の買いたたき
下請法第4条第1項第5号は、「下請代金の買いたたき」を禁止事項として定めています。ここでいう買いたたきとは、親事業者が下請事業者に製品の製造等を発注する際、類似品や市場価格と比較してあきらかに低い下請代金を不当に設定することを指します。
下請代金の減額
下請法第4条第1項第3号は、「下請代金の減額」を禁止事項としています。これは文字通り、あらかじめ定めた下請代金を減額することを指します。下請事業者に責任がないにもかかわらず、契約で定めた金額から一定額を減じて支払うことは厳禁で、金額の大小は問いません。たとえ減額について下請事業者との合意があっても違反となります。
下請代金の支払遅延
下請法第4条第1項第2号は、下請代金の支払いを遅延することを禁止事項として定めています。下請法では、当事者間で下請代金の支払期日を定め、それまでに代金を支払わなければなりません。支払期日とできるのは、成果物の受領後(役務の提供後)60日以内です。
受領拒否
下請法第4条第1項第1号は、受領拒否を禁止事項として定めています。ここでいう「受領拒否」は、親事業者が下請事業者に注文した物品などについて、下請事業者が納入してきた際に、下請事業者に責任がないのに受け取りを拒否することです。
下請事業者に発注しておきながら、「やはりまだ在庫があるから今回は必要ない」などとして受領拒否することはできません。
不当返品
下請法第4条第1項第4号は、親事業者が下請事業者から納入された物品などを不当に返品することを禁止しています。親事業者が下請事業者から物品などをいったん受領した後、下請事業者側の責任で欠陥が生じている場合などは返品できます。しかし、例えば「余ったから」など親事業者の都合で返品することは不当返品に当たります。
物の購入強制・役務の利用強制
下請法第4条第1項第6号は、親事業者が指定する物の購入や役務の利用を下請事業者に強制することを禁止しています。発注した業務の品質を維持するためなどの正当な理由があれば問題ありません。しかし理由なく、親事業者が自社製品や自社サービスを含む指定の物品・サービスを、強制的に購入・利用させて対価を受け取ることは違反行為に当たります。
有償支給原材料等の対価の早期決済
下請法第4条第2項第1号は、「有償支給原材料等の対価の早期決済」を禁止事項として定めています。これは、下請事業者が業務をするのに必要な製品や部品、付属品、原材料を親事業者が有償で支給している場合に、正当な理由なく下請代金の支払期日より早い時期に、原材料などの費用を下請事業者に負担させたり、下請代金から控除したりすることです。
割引困難な手形の交付
下請法第4条第2項第2号は、「割引困難な手形の交付」を禁止しています。ここでいう「割引困難な手形」とは、親事業者が下請事業者に対して手形で下請代金を支払う場合に、支払期日までに一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を指します。割引を受けることが困難な手形とは、妥当と認められる手形期間を超える長期の手形とされています。
このような手形を交付して、下請事業者が対価を得られない状態に陥らせることは認められません。
不当な経済上の利益の提供要請
下請法第4条第2項第3号は、「不当な経済上の利益の提供要請」を禁止しています。ここでいう「不当な経済上の利益の提供要請」とは、親事業者が下請事業者に対し、自分たちのために金銭や役務といった経済上の利益を提供させ、下請事業者の利益を不当に害することです。こうした行為は認められません。
不当な給付内容の変更・やり直し
下請法第4条第2項第4号は、不当な給付内容の変更・やり直しを禁止しています。具体的には、下請事業者に帰すべき責任がないにもかかわらず、親事業者が発注内容の変更を行ったり、受領後にやり直しをさせたりすることで、下請事業者の利益を不当に害することです。発注の取り消しも含まれます。
報復措置
下請法第4条第1項第7号は、「報復措置」を禁止しています。ここでいう報復措置とは、下請事業者が親事業者の下請法違反行為を公正取引委員会などに伝えたことに対し、親事業者が報復行為をすることです。例えば、取引内容や報酬を変更したり、取引自体を止めたりするなど、下請事業者の不利益になる措置は違反行為に該当します。
下請法違反の事例集
下請法に違反した具体的な事例として、以下3つのケースを紹介します。
機械工業会社による不当な経済上の利益提供要請
親事業者である機械工業会社が、下請事業者に無償で金型を保管させていた事実が下請法の「不当な経済上の利益の提供要請」に該当した例です。
親事業者は下請事業者に対し、自動車用部品の製造を大量に発注していました。その際、自社が所有する金型などを貸与していたところ、製造発注時期を終えた後も、合計415個もの金型などを下請事業者に報酬を支払うことなく保管させていたのです。この親事業者の行為が、「自社のために無償で保管させることで、下請事業者の利益を不当に害した」と判断されました。利益を害された下請事業者は5名に上ります。
親事業者である機械工業会社のこうした行為に対して、公正取引委員会は事実を調査の上、勧告を行いました。
大手出版社による買いたたき
親事業者である出版社が、下請事業者に委託した業務の発注単価について、十分な協議をすることなく発注単価を引き下げた事例です。この件は、下請法の「買いたたき」に該当した例です。
親事業者は、販売収入や広告収入が減少傾向にあり、資材費や輸送費などが上昇しているとして、自社の収益改善を図るため、下請事業者に発注単価を改定する通知をしました。改定内容は、従前の単価から約6.3%〜約39.4%引き下げるものでしたが、下請事業者と十分に協議することなく一方的に決定したものでした。この親事業者の行為が、「買いたたき」と判断され、公正取引委員会は事実を調査の上、勧告を行いました。買いたたきをされた下請事業者は21名に上ります。
大手自動車会社による下請代金の減額
親事業者である自動車会社が、下請事業者に対して行った下請代金の減額が、下請法に定める禁止事項に該当した例です。
親事業者は、自社の原価低減を目的として、2年3ヶ月の間、下請代金の額から「割戻金」を差し引き、下請代金の額を減じていました。減額について、下請事業者側に納入を遅延した、瑕疵ある物品を納入したといった責めに帰すべき理由はありませんでした。それにもかかわらず、親事業者は下請事業者36名に対して、総額30億2,000万円強もの代金を減額していたのです。
公正取引委員会は調査の上、親事業者である自動車会社に対して勧告を行いました。
下請法に違反した場合の罰則
下請法に違反した場合の措置として「公正取引委員会からの勧告」「企業名の公表」「罰金」の3つがあります。以下では、この3つについて解説します。
公正取引委員会から勧告を受ける
親事業者が下請法に違反した場合、公正取引委員会から再発防止措置を実施するよう勧告を受けます。違反行為の取り止めと原状回復(減額分の支払いなど)も含む勧告です。
なお、勧告するまでには至らないものの、改善の余地ありと判断された場合は、下請法の遵守や状態の改善を促します。
また、中小企業庁は、下請法違反行為が発覚した場合、親事業者への行政指導および公正取引委員会への措置請求をします。
下請法勧告一覧で企業名が公表される
公正取引委員会では、勧告とともに企業名の公表を行います。公表されるのは、原則として、企業名の他、違反事実の概要および勧告の概要です。
例えば、「① 『○○のため』と称して下請代金の額から減じていた額(総額○○円)を下請事業者に対して速やかに支払うこと」「② ①の減額行為が下請法の規定に違反すること」など事実を説明する文章が、企業名とともに記されます。
罰金が科される
親事業者が「発注書面を交付する義務」や「取引記録に関する書類の作成・保存義務」に違反した場合は、違反行為をした者と会社に50万円以下の罰金が科せられます。
また、親事業者に対して定期的に行われる書面調査などにおいて報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりすることも罰金の対象です。
他にも、公正取引委員会や中小企業庁の職員による立入検査を拒む、妨害するといった事実があった場合も罰金が科されます。
下請法に違反しないためのポイント
親事業者としては、自社の行為が下請法に違反しないよう気をつけることが大切です。そこで、下請法に違反しないためのポイントを4つ解説します。
発注書を交付する
下請事業者に発注する際は、発注内容を明確に記載した書面を交付しましょう。記載事項は下請法で具体的に定めているので、該当する内容すべてについて記載しなければなりません。
発注書に具体的な内容を記載して交付することで、口頭発注のみによって起こるさまざまなトラブルを未然に防げます。
発注書面の様式については法律で決められていないため、取引内容に応じて内容を確認しやすい書面を作成しましょう。
下請代金の支払期日を決定する
下請代金の支払期日について、発注した物品などを受領した日から60日以内のできるだけ早い時期に決定しましょう。
下請法では下請代金の支払遅延を禁止事項として定めています。親事業者が下請代金を支払期日までに支払わない場合、発注した物品などを受領した日を起算点として、60日を経過した日から、支払いが行われる日までの日数に応じ、年率14.6%の遅延利息を支払わなければなりません。
下請代金の支払期日をはっきりと決定し、期日までに支払いを済ませるようにしましょう。
適正な下請代金を支払う
下請事業者に対して支払う下請代金は、適正な額でなければいけません。下請法では、類似品や市場価格に比べて著しく低い下請代金を正当な理由なく定める、いわゆる「買いたたき」を禁止しています。
また、あらかじめ決めておいた下請代金を、下請業者に対して特に相談もなく一方的に減額することは禁止されています。途中で合意した代金引き下げについて、合意前に発注された業務についてまで引き下げたりすることも禁止です。
取引記録を保存する
親事業者は、下請取引が完了したら取引に関する記録を書類で作成し、2年間保存する義務があります。
記録すべき事項は、給付内容や下請代金額、受領期日や下請代金支払期日などです。下請法に保存すべき記録の項目が定められているので、発注した取引に合う項目についてすべて記録しましょう。
取引記録の保存をすることで、親事業者が違反行為をしないように注意する意味合いがあります。また、公正取引委員会や中小企業庁による調査や検査がスムーズに行われるようにするためにも、取引記録の保存は必須です。
下請法違反チェックシート
親事業者の行為や現在の状況が下請法違反に当たるかどうか確認するために、公正取引委員会は「下請法違反発見チェックシート」を公開しています。
チェックシートは「親事業者向けチェックシート」と「下請事業者向けチェックシート」があり、双方の観点から違反をチェックできます。
「親事業者向けチェックシート」では、2022年度に多かった違反行為から順にチェックできるようになっています。多かった下請法違反第1位は、「発注書面の不交付・記載不備」で636件でした。
発注書面の不交付・記載不備に関するチェック項目は以下の通りです。
- 下請事業者に発注した場合、直ちに、発注書面を交付している
- 発注書面に、下請代金の額・支払期日・支払い方法を記載している
2番目に多かった違反行為は「支払い遅延」で357件でした。支払い遅延に関するチェック項目は以下の通りです。
- 締切日から30(1ヶ月)以内に全額支払っている
- 下請事業者からの請求書の送付が遅れたとしても、下請代金の支払を遅らせていない
- 下請代金の支払期日が金融機関の休業日に当たるときは、翌営業日に支払うことについて、下請事業者の間であらかじめ書面で合意している(順延日数が2日以内である場合に限る)
以降、第3位に「買いたたき」(160件)、第4位に「減額」(65件)と続きます。
一方、「下請事業者向けチェックシート」には、下請事業者の立場から、親事業者がチェック項目に書いてあるような違反行為をしていないかどうかを確認できる仕様です。
例えばチェック項目には、「取引先は、発注の都度、直ちに、注文書を交付していない」「取引先は、締切日から30日(1ヶ月)以内に下請代金を全額支払っていない」といったように、親事業者の行為を振り返ることができる項目が並びます。
これらのチェック項目に1つでも当てはまれば、取引先が下請法に違反している可能性が高いです。場合によっては、公正取引委員会に連絡をすることも検討しましょう。
親事業者は下請法を遵守し、公正な取引を心がけよう
下請法は、下請事業者の権利保護と公正な取引を目的としています。親事業者は、下請事業者が不当に扱われることのないよう、下請法に定められた禁止事項を熟知し、下請取引をしなければなりません。
下請法に違反しないためには、下請事業者とその都度よく協議をしながら取引を進めることが重要です。自社の行為が違反行為となっていないかどうかは、下請法に列挙されている項目を確認し、公正取引委員会が公表しているチェックシートを活用して振り返るようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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