- 作成日 : 2025年1月17日
電子契約サービスの導入で相手方はどんな対応が必要?ケース別に解説
電子契約サービスを導入する際には、相手方の状況に合わせた対応が欠かせません。自社が導入していても、相手方がまだ導入していなかったり、異なるサービスを利用していたりするケースがあります。
本記事では、これらのケースごとに具体的な対応策を解説し、さらに相手方から電子契約を求められた場合の対応方法についても紹介します。
目次
相手方と異なる電子契約サービスを利用している場合
自社が導入している電子契約サービスと、相手方の導入しているサービスが異なる場合、いくつかの対応方法が考えられます。こうした状況は、電子契約の普及が進むにつれて、比較的頻繁に発生してくる可能性があるため、あらかじめ把握しておく必要があるでしょう。以下で、それぞれの対策について解説します。
どちらか一方の電子契約サービスを選択する
企業間で異なる電子契約サービスを利用している場合、通常はいずれか一方のサービスに統一します。その際、法務省のサイトのリストに掲載されている電子契約サービスかどうかは、判断基準の一つとなります。
法務省のサイトに掲載されているリストを参考にしつつ、セキュリティ対策、認証プロセス、国際的な法的承認の有無などを総合的に評価することが望ましいでしょう。ただし、自社にとって操作に不慣れなサービスを導入すると、管理コストの増加や、既存システムとの互換性問題が発生するリスクもあります。
したがって、導入を検討する電子契約サービスが自社の契約管理システムと連携可能かどうかを事前に確認し、導入後の運用に支障がないようにすることが重要です。
PDFファイルに電子署名する
電子契約サービスを利用する際、契約当事者間で異なるサービスを利用していると、契約締結に支障が生じる場合もあります。この問題を解決する有効な手段として、契約書をPDFファイル形式で作成し、各当事者が電子署名を行う方法が挙げられます。
契約書PDFを2部用意し、各当事者がそれぞれ電子署名を行う方法です。この方法では、自社で普段利用している電子署名サービスをそのまま活用できるため、運用上の混乱を最小限に抑えられます。また、契約の証拠として、相手方が署名済みのPDFを保管・管理することで対応が可能です。
また、電子署名済みのPDFに、もう一方の電子署名を重ねて二重に付与する方法もあります。この方法では、管理するPDFは1部で済むため、保管や運用の効率化が期待できます。ただし、利用する電子契約サービスによっては、最初の署名が確認できなくなる場合もあるため、導入前に仕様を十分に確認することが重要です。
当事者型の電子署名をする
当事者型電子署名とは、契約当事者が認証局から発行された電子証明書を用いて、本人性を証明しながら電子署名を行う方式です。
当事者型電子署名は、なりすましによる不正リスクを低減し、高い証拠力と法的効力を有することが特徴です。そのため、取引金額が大きい契約や、不動産業界、建設業界における書面契約などで多く採用されています。
しかし、当事者型電子署名の導入には、認証局への申請手続きや電子証明書の発行が必要となり、一定の工数と費用が発生します。
また、契約当事者双方が同一の電子契約システムを利用する必要があるため、事前のシステム調整も不可欠です。
これらの要件を踏まえ、取引先から当事者型電子署名による契約を依頼された場合には、余裕をもって準備を進めることが重要です。
相手方が電子契約を導入していない場合
電子契約を導入していない相手方との契約を進めるには、状況に応じた対応が必要です。まずは、電子契約の利点を相手に説明し、理解を得る方法について検討してみましょう。また、片方のみでも電子契約ができるサービスを利用する方法についても理解を深めておきましょう。
相手方に電子契約の導入を依頼する
電子契約を導入していない相手方には、電子契約のメリットを説明し、導入を依頼してみましょう。電子契約は、セキュリティ向上、契約プロセスの迅速化、文書管理の効率化に役立ちます。これらの利点を伝えることで、契約の透明性と信頼性が確保されることを理解してもらうことが重要です。
相手方が電子契約サービスの導入を検討している場合には、メリットの説明は導入に向けての後押しになります。相手のニーズや課題に共感し、両者が利益を享受できる点について強調しながら、建設的な対話を通じて協力関係を深めていくようにしましょう。
片方のみでも電子契約ができるサービスを利用する
電子契約サービスを導入していない相手方との契約では、一方のみで利用可能なサービスが効果的です。この方法では、相手方が電子契約サービスを導入していない場合でも契約を締結できます。
多くの場合、必要なのはメールアドレスのみであり、相手方への費用負担は通常発生しません。そのため、相手方に大きな負担を強いずに契約を進められます。
相手方は契約に関するメールを受信し、メール内のURLをクリックして契約内容を確認し、同意の手続きを行います。
相手方に電子契約の導入を依頼するときのポイント
電子契約の導入を相手方に依頼する際には、相手の立場を理解し、導入によるメリットを具体的に説明する必要があります。
「電子契約にしてください」というだけでは納得を得るのは難しく、信頼を築くためには、導入によるメリットを丁寧に伝えることが重要です。
ここでは、電子契約が持つ法的効力やセキュリティ面における信頼性、さらには業務効率化につながるメリットについて順を追って解説していきます。
電子契約の法的効力を説明する
電子契約の導入にあたり、まず相手方にその法的効力を理解してもらうことが重要です。適切に実施された電子契約は、多くの契約において書面契約と同等の法的効力を持ちます。
電子署名は、電子署名法の要件を満たす電子署名が実行された場合には「真正に成立したものと推定する」として、紙媒体の契約書と同等の法的効力が認められており、なりすましやデータ改ざん防止の役割を果たします。電子署名が本人だけが行えるものであれば法的効力が認められるため、電子証明書を使用することで、より高い信頼性の確保が可能です。
また、タイムスタンプは、電子データの存在時刻と内容の非改ざん性を証明するものです。第三者機関である時刻認証局が付与することで、証拠としての信頼性を高めます。
これらの仕組みを組み合わせることで、電子契約は信頼できる証拠として機能します。電子契約の導入にあたっては、これらの仕組みや法的効力を相手方に丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。
電子契約のセキュリティや安全性を説明する
電子契約を導入する際、セキュリティ面への懸念を解消することが重要です。電子署名やタイムスタンプにより、データの改ざんや差し替えを防ぎます。
さらに、暗号化技術やハッシュ値を活用することで、データの完全性と真正性を担保します。これらの技術により、データのセキュリティは高く保たれており、安心して契約を進めることが可能です。
これらのセキュリティ対策について、契約相手に十分に説明することで、電子契約の導入を円滑に進められるでしょう。
電子契約による業務効率化のメリットを説明する
電子契約の導入には、業務効率化とコスト削減のメリットがあります。紙の契約書の印刷や記名押印を省くことで、バックオフィスの負担を減らせます。
また、電子契約書では印紙税が不要なため、取引金額によっては大幅なコスト削減が可能です。さらに、災害時の紛失リスクを減らす効果も期待できます。
これらのメリットを強調し、継続的な利点があることを伝えることにより、相手方の理解を得やすくなるでしょう。
相手方にメールで電子契約の導入を依頼する場合の例文
電子契約サービスの導入に際し、相手方がスムーズに導入できるよう配慮したメールの例文を以下に示します。
留意点は、以下のとおりです。
- 件名に「電子契約」を明記し、内容を簡潔に伝える。
- 丁寧な言葉遣いで相手方への配慮を示す。
- 電子契約導入のメリットを具体的に説明する。
- 法的効力やセキュリティに関する懸念を解消するための情報を提供する。
- 導入を強制せず、検討を促す表現にする。
- 相手が気軽に連絡できるように配慮する。
件名: 契約業務の効率化に向けたご提案(電子契約のご案内) 本文: 〇〇株式会社 △△様 いつも大変お世話になっております。株式会社□□の□□です。 平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。 さて、今後の契約業務におきまして、より一層の効率化と迅速化を図るため、この度弊社では電子契約サービスの導入を決定いたしました。 つきましては、誠に恐縮ではございますが、貴社におかれましても、この機会に電子契約の導入をご検討いただけませんでしょうか。 電子契約を導入いただくことで、以下のメリットが期待できます。
電子契約は、電子署名法に基づき、貴社との取引関係においては、書面契約と同等の法的効力を持つことが認められておりますのでご安心ください。また、弊社が導入する電子契約サービスでは、高度なセキュリティ対策を講じております。 もしご興味をお持ちいただけましたら、弊社の担当者より詳細なご説明をさせていただきたく存じます。ご都合の良い日時をご連絡いただけますでしょうか。 もちろん、貴社のご事情もあるかと存じますので、ご不明な点やご懸念事項などございましたら、ご遠慮なくお申し付けください。 今後とも、より良い関係を築いていけますよう、ご理解ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。 --------------------- 株式会社□□ 部署名 氏名 住所: 電話番号: Email: URL: --------------------- |
相手方から電子契約を求められたらどうする?
取引先から電子契約の締結を求められた場合、自社が対応可能かを慎重に確認する必要があります。
関連法令や社内規定の制約、対応可能な契約形態、さらに電子契約の保存に関する要件など、多角的な視点で検討することが重要です。以下で、詳しく見ていきましょう。
法令や社内ルールで問題がないかを確認する
まず、電子契約での締結が、関連法令や社内ルールに抵触しないかを確認する必要があります。業種によっては、特定の契約形態において書面での締結が義務付けられている場合や、社内規定で電子契約が認められていない場合もあります。
そのため、電子契約での締結に問題がないか、必要な手続きや注意点は何かなどについて、あらかじめ法務部門や関連部署に確認し把握しておきましょう。
電子契約に対応できない場合がないか確認する
法令では、一部の契約に書面での締結が義務付けられています。事業用定期借地契約や任意後見契約など、公正証書による締結が必要な契約は電子化できません。また、労働条件通知書や旅行業法に基づく契約書など、相手方の承諾が得られない場合も紙の書面が必要です。
これらの契約が含まれる場合は、電子契約と紙の契約書の併用体制を整え、業務に支障が出ないよう準備を進める必要があります。
電子帳簿保存法への対応方法を確認する
電子契約で締結した契約書は、電子帳簿保存法の要件を満たす形で保存する必要があります。相手方から電子契約を求められた場合は、自社が電子帳簿保存法に対応した保存体制を構築できているかを確認しましょう。
対応が不十分な場合は、早急に対応策を検討する必要があります。電子帳簿保存法に対応したシステムを導入したり、運用ルールを整備したりするなど、適切な措置を講じることが求められます。
相手の状況に合わせた対応で、スムーズな電子契約を進めよう
電子契約サービスの導入は、契約業務の効率化やコスト削減に役立ちますが、相手方の状況に応じた柔軟な対応が求められます。
相手方が異なる電子契約サービスを利用している場合、電子署名を利用したり、どちらかのサービスに合わせたりするなどの選択肢があります。
一方、相手方が電子契約を導入していない場合には、導入を依頼するか片方のみで利用できるサービスの利用も可能です。
どのケースにおいても、相手方の立場を理解し、丁寧に説明しながらサポートを行うことが円滑な契約締結の鍵となります。取引先との信頼関係を維持しつつ、効率的な契約業務の実現を目指していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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