- 作成日 : 2024年9月27日
無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知とは?ひな形をもとに書き方や注意点を解説
無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知とは賃貸物件の賃貸人(大家さん)が物件の無断譲渡や転借をしている賃借人(入居者)に対して発行する通知書です。いったいどのような通知で、どのようなケースで発行するのでしょうか。
この記事では無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知の意味や書き方についてご紹介します。
目次
無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知とは
無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知とは賃貸物件の賃借人(入居者)が無断で第三者に賃借権や物件そのものを譲渡したり転貸していたりしたことを理由に、賃貸人(大家さん)がその賃借人に対して賃貸借契約を解除することを通知する書類です。
口頭で「退去してほしい」と言っても賃借人が退去に応じてくれない場合があります。そうした際に無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知という書面を出すことで、賃貸借契約の解除を請求する意思を証拠として残すことができます。
無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知を作成するケース
賃貸人に無断で第三者に物件の賃借権を渡してしまった、あるいは勝手に貸し出して家賃収入を得ているような賃借人を賃貸物件から退去させる場合に、無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知を発行します。
原則として賃貸物件の賃借人の権利は借地借家法によって強力に保護されており、賃貸人はむやみやたらに賃借人を追い出すことはできません。賃貸物件を追い出されるということは、住まいや事業の拠点を失うことになるからです。
一方で、物件が無断で第三者に売却されてしまったり貸し出されてしまったりしたら、今度は賃貸人や他の賃借人が損失を被ることにもなりかねません。そこで、民法612条では無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約の解除が認められており、それに基づいて賃借人は無断譲渡・転貸をした賃借人に対して賃貸借契約を解除することができます。また、賃貸借契約書に無断譲渡や転貸を行った際に契約解除の対象となりうる旨を記載しておけば、それも有効な根拠となります。
無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知のひな形
所有する物件が無断譲渡や転貸されてしまうといったケースは頻繁に起こるわけではありません。特に、賃貸経営をはじめて間もない方、これまで賃貸借契約解除を賃借人に求めたような経験がない方は、無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知をどのように書いていいかわからず戸惑われるかもしれません。
そこで、当サイトでは賃貸借契約解除通知のひな形をご用意しました。以下でダウンロードできるので、こちらを参考に文面を作成してみましょう。
無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知に記載すべき内容
ここからは無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知の書き方について詳しく解説します。最低限以下のような内容は盛り込みましょう。
表題
まずはどのような文書なのかをひと目でわかるよう表題をつけましょう。大きなフォントで「無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知」と記載します。
本文
無断譲渡・転貸を理由として賃貸借契約を解除する旨を文章で記載します。以下のような内容を盛り込みましょう。
- 賃借人と賃貸借契約を締結した日付
- 対象となる物件の情報(住所や建物名、部屋番号など)
- 無断譲渡・転貸がはじまった時期
- 無断譲渡・転貸を禁止する根拠(賃貸借契約書の条項番号を記載)
- 無断譲渡・転貸を理由に賃貸借契約を解除できる根拠(賃貸借契約書の条項番号を記載)
- 賃貸借契約を解除する旨と解除する日付
- 物件を明け渡すよう促す文面
宛先
無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除を通知する日付と宛先(賃借人の住所と氏名)を記載します。
差出人
賃貸人の住所と氏名を記載し、押印しましょう。
無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知を作成する際の注意点
前述の通り、賃貸物件の賃借人の権利は借地借家法で守られており、むやみに追い出すことはできません。また、通知に抜けや漏れがあると反論する隙を与えてしまうことにもつながります。無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知を作成する際には次のことに注意しましょう。
無断譲渡・転貸している事実を明確にする
まずは賃借人が無断で物件を譲渡もしくは転貸している事実を明示しましょう。賃貸契約を締結した日付、対象となる物件、無断譲渡・転借がはじまった時期を具体的に記載します。これらが曖昧であると言い逃れをされてしまう、後々訴訟する際に証拠として認められないなどのリスクがあります。
また、可能であれば無断譲渡や転貸先を特定し、証拠を収集しておきましょう。
根拠を明確にする
ただ「無断譲渡・転借したから退去してください」では言い逃れや反論されてしまうおそれもあります。賃貸借契約時に無断譲渡・転貸を禁止している条項があれば、それを根拠にしましょう。そうした条項があるにも関わらず無断譲渡・転貸した場合は契約違反行為となります。
こうした事態に備えるためにも、賃貸借契約書には無断譲渡・転貸を禁止する旨と、契約違反によって賃貸借契約を解除できる旨についても記載しておきましょう。こうすることで賃借人は言い逃れや反論ができなくなります。
無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知は内容証明郵便で送るのがおすすめ
無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知を手渡ししたり普通郵便で送ったりした場合、賃借人から「受け取っていない」と言い逃れをされてしまう可能性があります。内容証明郵便であれば郵便局員が手渡しで配達し、その記録も郵便局に残るため、無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知を出す際には極力内容証明郵便を使われることをおすすめします。
また、費用はかかりますが弁護士に依頼して弁護士から内容証明郵便を出してもらうことで、訴訟に発展した際にも有利になるうえ、賃借人に対してプレッシャーを与えることもできます。
無断譲渡・転貸による契約解除が制限されるケース
民法上では無断譲渡・転貸による賃貸借契約の解除は認められていますが、それは重大な背信行為、つまり賃貸人と賃借人との信頼関係が毀損される行為があった場合に限られます。なかには賃貸借契約の解除が認められないこともあり得ますので、特に以下のようなケースに該当する場合は十分注意しましょう。
賃借人と賃借権の譲受人または転借人との間に特殊な人間関係がある
まず挙げられるのが賃借人と譲渡された人は転借した人との間に特殊な人間関係がある場合です。例えば、親族や友人が一時的に宿泊しに来るケースや物件を借りるケース、あるいは旅行中などに留守番を頼むケースなどは一般的にはよくあり得ることです。こうした場合は賃貸借契約の解除が認められない可能性があります。
軽微な転貸である
軽微な転貸に関しても直ちに賃貸借契約が認められない場合があります。例えば、数日間だけ貸したケース、ごく一部のスペースのみを一時的に転借したケースなどが該当するでしょう。この程度であれば賃貸人に対する背信行為とまではいえず、やはり賃貸借契約の解除が認められない可能性があります。
賃借人と賃借権の譲受人が社会的・実質的に同一である
賃借人と賃借権の譲受人が社会的・実質的に同一であるケースでも賃貸借契約解除の対象外となります。例えば、会社とその経営者は法的には別人格です。しかし、会社名義で賃貸借契約を締結した物件を経営者が使うということもあり得ます。会社が経営者個人に賃貸権を譲渡あるいは転借した場合も、賃貸借契約解除の対象外となり得ます。
無断譲渡・転貸による契約解除の時効
無断譲渡・転貸による賃貸借契約の解除は、その物件の使用収益が開始されたことを知ったときから10年です。これは民法166条に規定されている「債権等の消滅時効」が根拠となります。
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
出典:民法|e-GOV法令検索
10年間権利を行使できるのにもかかわらず行使しなかった場合、その権利は消滅してしまうのです。例えば、無断譲渡・転貸がされているのを知ったのが11年前である場合、賃貸人は無断譲渡・転貸による契約解除を求めることができないということになってしまうため注意しましょう。そのためにも早めに行動し、適切な対応をとっていく必要があります。特に無断譲渡・転貸がなされていることを把握しているのであれば、問題の先送りは禁物です。
無断譲渡・転貸を理由として賃貸借契約を解除する場合は通知を必ず出そう
無断譲渡・転貸を理由として賃借人を賃貸物件から退去させる場合、大家さんは賃貸借契約解除通知を必ず出しましょう。後々訴訟になった際に賃貸人が賃貸借契約解除を通知していたかどうかで問題になるケースもあります。
また、賃借人の言い逃れや反論を避けるために、そして証拠能力を高めるために、無断譲渡・転貸を理由とする賃貸借契約解除通知では対象となる建物や賃貸借契約を特定できる情報、無断譲渡・転貸をしていた事実、賃貸借契約を解除する根拠についても明らかにしておくことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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