- 更新日 : 2021年11月19日
リーガルテックの特徴や日本の市場規模について
コロナ禍をきっかけとし、テレワークやリモートワークなど業務効率化が普及してきています。そんな中、注目されているのが、法的業務の効率化である「リーガルテック」です。
ここでは、リーガルテックの概要や取入れるメリット・デメリットなどについて解説します。
目次
リーガルテックとは?
「リーガルテック」は「legal」と「tech(nology)」を組み合わせて、新たに作られた言葉です。
元の単語を直訳すると「法務技術」ですが、実際は裁判や契約などの法的事務を人工知能(AI)などの先端技術を用いて作業効率を図ることや、そのための技術を指します。
もともとリーガルテックは、訴訟大国であるアメリカで膨大な訴訟資料を精査するために発展したものですが、現在は弁護士事務所のみならず、書類作成システムの導入や電子契約への移行など、より広い範囲でリーガルテックを取り入れる一般企業が増えています。
日本でリーガルテックが注目されている
近年は、日本においてもリーガルテックを利用する企業が増えており、それに伴ってリーガルテックサービスを提供する企業も増えています。
2015年頃からベンチャー企業を中心に、リーガルテック関連の起業が盛んになりました。
これまで紙媒体で行われていた業務をデジタル化することで、さまざまなコストや労働力の削減につながるので、正に働き方改革にもってこいの手段です。
もっとも、日本では業務効率化の推進を謳いながらも、行政機関をはじめとして紙ベースの書類や「ハンコ文化」からなかなか抜けられずにいました。
しかし、2020年からの新型コロナウイルスを主因とするリモートワークなどによって各企業は業務の見直しを迫られ、リーガルテックサービスが脚光を浴びるようになったのです。
日本でのリーガルテックの市場規模
ここでは、日本のリーガルテックの市場規模について見ていきます。
リーガルテック市場に関する調査は2019年に実施されたものが最新ですが、以下のグラフを見るとリーガルテック関連企業は市場に参入した後、右肩上がりで成長していることがわかります。
※事業者売上高ベース
2019年度から先は予測となっていますが、リモートワークが市民権を得たことからリーガルテックのニーズが高まっており、予測よりも市場規模が拡大している可能性も考えられます。
参考:リーガルテック市場に関する調査(2019年)|株式会社矢野経済研究所
リーガルテックの導入メリット
企業がリーガルテックという新たなサービスを導入するためには、そのメリット・デメリットを正しく把握しておく必要があります。
リーガルテック導入の主なメリットは、以下のとおりです。
作業を効率化できる
契約書の作成は、企業において非常に重要な業務です。法務担当者がいない企業はもちろん、いる企業であっても内容のチェックは慎重に行うべきです。
リーガルテックの中には、専門知識を有するAIを使った契約書のレビューサービスを利用できるものもあります。条項の法律的齟齬や誤字脱字、必要な文章の漏れがないかなどを短時間でチェックでき、修正案も示してくれるので、従来よりも時間を節約でき、担当者の負担を減らせます。AIには学習能力があるので、使うほどに企業にマッチしたレビューを受けられるでしょう。
また、これまでは主に対面で行われていた契約に関する相手方との話し合いをオンラインに移行することで、押印を必要としない電子契約サービスを利用でき、書類を印刷する手間や移動時間の大幅な削減にもつながります。
書類管理が安全で簡単
重要書類の管理にはセキュリティ対策や保管場所などの課題がありますが、リーガルテックサービスでセキュリティ対策が施された管理サービスを利用すれば、これらを同時に解決できます。書類をデータ化すれば場所を取らないだけでなく、必要な書類をすぐに探し出せます。保管するサーバーのセキュリティレベルが高ければ、紙媒体で保管するよりも漏洩や消失のリスクを大幅に抑えられます。さらに、書類をまとめたり保管したりする部署が不要になるため、その人的リソースを他の業務に回せます。
リーガルテックの導入デメリット
一方で、リーガルテックの導入には以下のようなデメリットがあります。
すべての契約に使えるわけではない
特に電子契約に関しては、取引先や契約の種類に一定の制限があります。自社が電子契約を取り入れても、契約の相手方がそれを認めなければ意味がありません。最終的に認められたとしても、理解を得るための説明に時間がかかることもあるでしょう。また、従来どおりの書面での契約でなければ、法的有効性を持たないものもあります。
リーガルテックは自社にとって本当に必要なサービスかどうか、自社の状況を踏まえて導入前にしっかり検討しましょう。
トラブル時の責任所在が曖昧になる
AIシステムはあくまでも機械なので、いくら高性能でも全幅の信頼を置くのは危険です。法務関係書類を丸投げしてしまうと、いざという時に責任の所在が曖昧なまま対処が遅れ、取り返しがつかなくなるかもしれません。また、契約書関係のリーガルテックサービスの内容も事業者によってさまざまであり、AIレビュー機能がないものもあります。
サーバーがダウンする可能性もゼロではありません。すべての書類管理をリーガルテックサービスで行うのであれば、有事の際の策も考えておきましょう。
リーガルテックの種類
ここでは、リーガルテックサービスの主な種類を紹介します。
電子契約サービス
電子契約書の作成をサポートするサービスです。契約の相手方と対面することなく内容を確認でき、クラウド上で電子契約締結を完結できるものが一般的です。
電子署名で契約まで行えるので、海外の取引先との契約にも便利です。
文書管理サービス
書類をデータ化してセキュリティ対策を施した専属サーバーで管理します。
契約書レビューサービス
作成した契約書の内容に問題がないか、誤字脱字がないかなどをチェックするサービスです、学習能力を持つAIは使うほどに企業のニーズに対応するようになります。
申請出願サービス
商標や意匠などの知的財産登録や、入管申請を行う企業向けのサービスです。個別の事案ごとに専門家に依頼する場合よりも、コストを削減できます。
リサーチ検索サービス
専門知識を持つAIがリサーチを代行するサービスです。数多ある情報の中から信頼に足り、かつ求めているものをマンパワーだけで探すには時間も手間もかかりますが、このサービスを使えば作業の効率化が可能です。
紛争解決サービス
紛争解決をサポートするサービスです。例えば企業が抱えているトラブルについて、その分野を専門とし、解決した実績がある弁護士を紹介するサービスがあります。個人で探すと弁護士がなかなか見つからなかったり、複数の弁護士事務所を比較するのが難しかったりしますが、弁護士紹介サービスを使えばそのような問題を解消できます。
リーガルテックサービスの選定ポイント
リーガルテックを提供する会社は主要なものだけでもたくさんあり、サービス内容も事業者によってさまざまです。例えば契約書関係のリーガルテックでも、AIレビュー機能があるものとないものがあります。会社やサービスを選ぶにあたっては、押さえるべきポイントがいくつかあります。
まず、自社がリーガルテックを必要とする理由の明確化です。
「今後必要になりそうだから」といった曖昧な理由では不十分です。現在自社が抱えている課題を洗い出し、現在の業務体制における改善の余地も検討した上で、「このサービスを使えばこの問題を解消できる」といった明確な結論に至ってから導入しましょう。
次は、必要なサービスを提供する会社の選定です。
各社のHPや比較サイトなどの資料は豊富にありますが、どのサービスが自社に最も合うかは実際に導入してみないとわかりません。
そこでおすすめしたいのが、目星をつけた会社のトライアルを利用することです。トライアル期間中に使いやすさはどうか、実際にどのくらい作業の効率化を図れるかなどの情報をまとめ、価値があると判断してから本格的に導入すれば、失敗するリスクを抑えられます。
リーガルテックサービス導入の流れ
リーガルテックは、企業によって向き不向きがあります。それを踏まえて自社に合うものがあれば、導入を検討しましょう。
導入までの流れは、以下のとおりです。
- リーガルテックについて正確な知識を得る(セミナー受講や導入企業の話を聞くなど)
- 自社の現状を可視化し、解決すべき課題と課題解決が自社にもたらす効果を明らかにする
- 課題解決のためにリーガルテックが有用であれば具体的な検討に入り(どのサービスを利用するか、どの会社にするか、費用対効果はどうかなど)、可能であればトライアルを利用する
- 導入の際はまず一部の業務のみで利用し、システムに慣れてから活用範囲を広げる
リーガルテックの今後の展開
リーガルテックは新しいサービスですが、市場規模は確実に拡大しています。今後もさらなる拡大が予想されますが、それに伴って提供されるサービスの種類や内容は細分化されています。
選択肢が増えた分、自社の課題にフィットするサービスをしっかり選定することが重要です。導入したリーガルテックサービスをうまく活用して、業務の効率化・スリム化を図りましょう。
よくある質問
リーガルテックとは?
業務負担やコスト、労働力不足などの課題を解決するために、主に法的事務を人工知能などの先端技術を用いることで業務の効率化を図るサービスです。詳しくはこちらをご覧ください。
リーガルテックが注目される理由は?
政府が推進する働き方改革にマッチしていることや、リモートワークが普及したことで企業が取り入れやすい環境になったことなどが挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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