- 更新日 : 2024年8月29日
事業譲渡に関する基本合意書とは?ひな形をもとに書き方を解説
事業譲渡を行う際には「事業譲渡に関する基本合意書」というもので譲渡側と譲受側の合意を形成します。
この記事では事業譲渡に関する基本合意書の書き方や盛り込むべき内容、作成する際に意識したいポイントについてご紹介します。テンプレートもご用意していますので、ぜひそちらも参考にして作成してみましょう。
目次
事業譲渡に関する基本合意とは
事業譲渡に関する基本合意とは、事業譲渡の条件に関して譲渡側と譲受側が形成する合意のことです。事業譲渡の際には譲渡する事業の範囲や事業譲渡の対価、時期、資産の取り扱い、従業員の雇用、その他さまざまな条件について両者で交渉を行っていきます。
これらについてある程度すり合わせができた時点で、事業譲渡の基本合意書にもとづいて合意を形成するのです。
事業譲渡に関する基本合意書を作成するケース
事業譲渡に関する基本合意書を作成するケースとしてはM&Aで会社や事業を譲渡あるいは譲受するケースが挙げられます。M&Aでは譲渡・譲受先を探し、交渉を行って条件などをすり合わせ、基本合意を形成したうえで譲受側が譲渡側企業のデューデリジェンスを行い、最終的な条件のすり合わせを行ったうえで最終契約の締結を行うという流れになります。
事業譲渡に関する基本合意書は、事業譲渡の条件がある程度定まり基本合意を形成する段階で作成・締結します。合意形成後にさらに詳細まで詰めて両者が納得し最終契約を締結すれば、M&Aが成立となります。
事業譲渡に関する基本合意書を締結したとしても、その後の交渉やデューデリジェンスの結果、M&Aが成立しないというケースも想定されます。
事業譲渡に関する基本合意書のひな形
戦略的に頻繁にM&Aを行って事業拡大を図っている会社は別として、事業を譲渡・譲受する機会はそれほど多くありません。どのように合意書を書いていいかわからないという方もいらっしゃるかと思います。そこで、すぐに使える便利なテンプレートをご用意しました。以下のリンクからダウンロードいただけます。
事業譲渡に関する基本合意書に記載すべき内容
ここからは事業譲渡に関する合意書に盛り込むべき内容について、項目別にご説明します。先ほどご紹介したテンプレートにもとづいて解説を進めていきますので、ぜひご覧になりながら読み進めてみましょう。
合意者
事業譲渡契約に合意する譲渡者と譲受者の企業名と、両者が契約に合意した旨を記載します。会社名は「以下「甲」という」「以下「乙」という」というように、契約に関しては「以下「本契約」という」とし、合意書の各条項では置き換えて記載するのが一般的です。
目的
合意書で何を定めるのかを記載する項目です。事業譲渡に関する基本合意書であれば、誰が、誰に、どのような事業を譲渡するのかを明記します。また、いつまでに最終契約を締結して事業譲渡を行うのかについても記載しましょう。
譲渡対価
事業譲渡によって譲受側が譲渡側に支払う対価について記載します。具体的な金額と支払方法、振込手数料の負担者について明記しましょう。
従業員の雇用
事業譲渡後の譲渡側企業の従業員の雇用に関する条項です。そのまま同一の条件で継続して雇用するか否か、雇用契約に同意しない従業員についてはどうするのかを記載します。特に事業譲渡においては従業員の扱いに細心の注意が必要です。詳しくは後ほどご説明します。
資産・債務の譲渡
譲渡する資産(動産、不動産、有価証券など)や負債の範囲について定めます。企業にとっては情報やノウハウも経営を続けていくうえでは欠かせない重要な資産となりますので、それらの扱いについても記載しましょう。
また、資産および債務が担保や利用権、差押えの対象になっていない、保有資産について第三者からのクレームや訴訟を受けていないことを表明し保証する旨も記載します。
遵守事項
譲渡企業が果たすべき義務について記載します。資産の管理や債務の引き継ぎ、地位の継承に関するルールを明記しましょう。
調査
前述の通り、事業譲渡に関する合意書を締結した後に、譲受側はデューデリジェンスを行い譲渡事業の経営状態や財務状況などを評価し、譲受しても問題ないかを判断します。譲受側企業および譲受側企業から委託を受けた第三者(コンサルタントなど)が調査を行う場合に、譲渡側企業がそれに協力する旨を記載します。
競業避止義務
M&Aが成立した後に譲渡側がまた同じような事業を行うということになれば、譲受側と競合することになってしまいます。そこで、譲渡側が譲渡した事業を同一あるいは類似の事業が一定期間できない旨を定めます。
経費の負担
合意書に記載された事項を実施するために要した費用をどちらが負担するかについて記載します。一般的には各当事者が負担するケースが多いようです。
秘密保持
事業譲渡では交渉や調査を通じて相手側の秘密情報や内部情報を知る機会が多いです。情報漏洩を防ぐために、第三者に開示または漏洩してはいけない秘密情報の定義や秘密保持の期限について定めます。
合意の失効
前述の通り、事業譲渡に関する基本合意書はおおまかな譲渡内容を定めた契約であるため、細部の交渉の結果、最終的な事業譲渡の効力発生に至らないケースもあります。合意書の有効期限や効力発生に至らなかったことによる金銭的請求権の有無について記載します。
協議
合意書に記載されている内容では解決できない課題や問題が発生した場合に、譲渡側と譲受側が話し合って解決を目指す旨を記載します。
合意管轄
両当事者間でトラブルや紛争が発生した際に訴訟を起こす裁判所を明記します。「○○地方裁判所」と記載する場合もあれば、「○○の本店を管轄する地方裁判所」というように記載するケースもあります。
記名押印欄
合意書に両当事者が記名押印して合意が形成されたとみなされます。合意を形成する日付と両当事者の会社名、代表者名を記載する欄と押印欄を設けましょう。また、両当事者が記名押印した合意書を各々が保管する旨も記載します。
事業譲渡に関する基本合意書の作成ポイント
以上で事業譲渡に関する基本合意書に盛り込むべき内容についてご紹介しました。ここからは作成するうえでのポイントについて見ていきましょう。
従業員の扱いについて注意を払う
M&Aを行う際には特に従業員との間にトラブルが発生しがちです。従業員からすれば「辞めさせられるのではないか」「待遇が悪化してしまうのではないか」と不安に思うものです。また、M&Aをきっかけに離職をされてしまったら、譲渡後に事業がうまくまわりません。
何よりも、これまで一生懸命会社に尽くしてくれた従業員を守るためにも、譲渡後も従業員の待遇が悪化せず安心して働けるように、従業員の継続雇用や条件についてしっかり合意書に盛り込み、両当事者がすり合わせを行う必要があります。
事業の引き継ぎがスムーズになるよう取り決めを明確化する
事業譲渡の際には、事業はもちろん資産や情報などをスムーズに引き継がなければなりません。何をどのように引き継いでいくのか、いつまでに譲渡を完了させるのかをしっかりと盛り込みましょう。
また、たとえば譲受側のデューデリジェンスが遅れれば、それだけM&Aの成立も遅れるということになります。両者が事業譲渡に向けて協力する旨も記載しておきましょう。
よくすり合わせたうえで事業譲渡に関する基本合意書を作成・締結しよう
事業譲渡に関する基本合意書は事業譲渡に関する条件が概ねまとまった段階で作成・締結します。合意形成後も条件が変わる可能性はありますが、事業譲渡に関する基本合意書の締結段階である程度確定している必要があります。
スムーズなM&Aに向けて動き出すためにも、しっかりとすり合わせたうえで譲渡側、譲受側がしっかりと内容を確認して事業譲渡に関する基本合意書を締結しましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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