- 作成日 : 2024年2月19日
グレーゾーン解消制度とは?申請すべきタイミングや方法など解説
「グレーゾーン解消制度」とは、事業者が新たな事業活動を行う際に、当局に対して規制の適用の有無をあらかじめ確認できる制度です。規制の適用範囲を明確化し、事業者が安心して事業活動を実施できるように後押しすることを目的としています。本記事ではグレーゾーン解消制度について、申請方法や活用事例などを解説します。
目次
グレーゾーン解消制度とは
「グレーゾーン解消制度」とは、事業者が新たな事業活動を行おうとする際に、現行の規制の適用範囲を明確化するため、規制当局に対して適用の有無をあらかじめ確認できる制度です。
事業者において新たな事業活動に取り組む際には、どのような法規制が適用されるのか、法規制に照らして事業スキームは問題ないかなどを慎重に確認する必要があります。事業がスタートした後で、当局から規制違反の指摘を受けてしまうと、事業の方向転換や廃止に追い込まれてしまうおそれがあるからです。
しかし、新たな事業のスキームに対して、既存の規制が適用されるかどうかは、必ずしも明確でない場合があります。その場合は、グレーゾーン解消制度を利用して規制当局に照会を行うことで、適法性を確認した上で安心して事業に取り組むことが可能となります。
事業者においては、規制当局に対して個別に照会を行うことも考えられますが、自ら段取りを整えて照会を行うことは困難な場合があります。新たな事業の内容を適切に説明できず、明確な回答が得られなかったり、実際の事業スキームに当てはまらない回答しか得られなかったりすることがあるからです。
グレーゾーン解消制度は照会手続きを制度化したものであり、新事業活動を支援する事業所管省庁が、事業者と規制当局との調整を含めて事前相談や照会のサポートを行ってくれる点が大きなメリットといえます。
なおグレーゾーン解消制度は、産業競争力強化法に基づき、以下の2つの制度と並んで創設されたものです。これらの制度は、いずれも新たな事業活動を奨励することを目的としています。
- プロジェクト型「規制のサンドボックス」
- 新事業特例制度
プロジェクト型「規制のサンドボックス」との違い
プロジェクト型「規制のサンドボックス」とは、新たなビジネスモデルの実用化が現行規制との関係で困難な場合に、主務大臣の認定を受けて実証を行い、得られたデータを用いて規制の見直しに繋げる制度です。AI、IoT、ブロックチェーンなどの革新的な技術や、プラットフォーマー型ビジネスなどが対象として想定されています。
グレーゾーン解消制度は現行規制を前提とした取り扱いを確認するものですが、規制のサンドボックスは、実証実験を経て新たな規制の枠組みを模索することが目的です。
新事業特例制度との違い
「新事業特例制度」とは、新たな事業活動を行おうとする事業者の要望を受け、安全性の確保など代替措置の実施を条件として、事業者単位で規制の特例措置を認める制度です。
グレーゾーン解消制度はあくまでも現行規制上の取り扱いを確認するものであるのに対して、新事業特例制度は、現行規制の例外を特別に認めるものである点が異なります。
グレーゾーン解消制度を利用すべきケース
グレーゾーン解消制度を利用すべきなのは、新たな事業活動に関する業規制の適用関係を検討している際に、現行規制が適用されるのかどうか、あるいは事業のどの部分に適用されるのかが明確に分からなかった場合です。
事業者が新たな事業活動に取り組む際には、事業スキームなどについて、法務担当者や弁護士を交えた法的検討を行うのが一般的です。その際、現行規制が新事業に対してどのように適用されるのかについて、専門的な知見を有する弁護士の意見を踏まえても結論が明確に出なかった場合には、グレーゾーン解消制度を利用するとよいでしょう。
グレーゾーン解消制度の申請方法
グレーゾーン解消制度の申請手順は、以下のとおりです。詳しくは経済産業省の資料をご参照ください。
③主務大臣による確認・通知
参考:「グレーゾーン解消制度」、「規制のサンドボックス制度」及び「新事業特例制度」の利用の手引き|経済産業省
①事前相談
新事業の内容と確認したい事項を整理した上で、事業所管省庁に事前相談を行います。事業所管省庁は、規制当局から明確かつ分かりやすい回答が得られるように、照会の手続き全般をサポートします。
②照会書の提出
事前相談の結果を踏まえて、事業者において現行規制の解釈・適用に関する照会書を作成し、規制当局の主務大臣に提出します。
照会書は、「新事業活動に関する規制について規定する法律及び法律に基づく命令の規定に係る照会書(様式第九)」を用いて作成しなければなりません。様式および記載例については、経済産業省の資料をご参照ください。
参考:新事業活動に関する規制について規定する法律及び法律に基づく命令の規定に係る照会書(様式第九)|経済産業省
③主務大臣による確認・通知
照会書の提出を受けた主務大臣は、原則として照会書を受理した日から1か月以内に、事業者に対して回答を通知します。また、回答内容は公表され、他事業者においても参考とできるようになります。
グレーゾーン解消制度を活用した事例
経済産業省のウェブサイトでは、グレーゾーン解消制度に基づく申請および照会の結果を随時公表しています。その中から、3つの事例を紹介します。
事例1|ドライバーマッチングサービス
車両オーナー・ドライバー・利用者の三者をマッチングするサービスについて、グレーゾーン解消制度を通じて、道路運送法に基づく「旅客自動車運送事業」および自家用自動車の「有償貸渡」に該当しないことの確認が求められました。
規制当局は、サービス提供事業者が自ら旅客を運送して対価を収受するものでないことを理由に、旅客自動車運送事業に該当しないと回答しました。
また、車両オーナーが使用しない時間帯において自己の車両の使用を許諾するものであることを踏まえ、利用者の支払う費用が車両の維持に係る費用(自動車税、自賠責等保険料、車検・点検に係る費用、駐車場代、オイル交換・タイヤ・部品交換費用など)を指すという条件付きで、有償貸渡に該当しないと回答しました。
参考:新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表|経済産業省
事例2|特許文書読解支援サービス
読解が難しい特許文書から重要箇所を自動的に抽出する、特許文書の内容をAIチャットボットが説明するなどの機能を備えたサービスについて、グレーゾーン解消制度を通じて、弁理士の独占業務とされている「鑑定」等に該当するかどうかの確認が求められました。
規制当局は、各機能の内容を詳細に分析した上で、一定の条件を付した上で鑑定に該当しない旨、あるいは鑑定に該当する可能性がないとはいえない旨などを機能ごとに回答しました。
参考:新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表|経済産業省
事例3|建設業界への電子契約サービスの提供
建設業界向けの電子発注サービスについて、グレーゾーン解消制度を通じて、建設業法施行規則に規定する技術的基準を満たしているかどうかの確認が求められました。
規制当局は、PDFファイルによる閲覧・印刷が可能な点、電子署名によって改ざんされていないことが証明可能な点、および本人確認措置が講じられている点を指摘して、当該サービスは技術的基準を満たすものと考えられると回答しました。
参考:新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表|経済産業省
グレーゾーン解消制度を活用して新事業を法令に適合させましょう
グレーゾーン解消制度を活用すると、新事業に関して法規制の適用関係が明確になり、安心して新事業に取り組むことができるようになります。
新たな事業を検討している企業において、法規制の解釈・適用について明確な結論が出なかった場合には、グレーゾーン解消制度の利用をご検討ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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