- 作成日 : 2023年9月21日
人的資本の情報開示とは?義務化の対象や開示項目、方法を解説
人的資本の情報開示とは、従業員等の情報をステークホルダーに開示することです。2023年3月期決算より、上場会社は有価証券報告書において人的資本の情報開示を行うことが義務化されました。内閣官房が公表したガイドラインでは、7分野19項目の開示事項が示されています。本記事では、人的資本の情報開示の概要を紹介します。
目次
人的資本の情報開示とは
人的資本とは?
人的資本とは、企業の構成員や各構成員が持つ資質・能力などを指します。
一般的に、資本は事業活動を行うための元手、つまり付加価値を生み出す源泉となるものを意味します。資本の代表例は、金銭や不動産、設備などです。
一方、従業員等の構成員は「物」ではありませんが、企業が付加価値を生み出すために不可欠です。そのため、企業にとって重要な付加価値を生み出す人材という意味の「人的資本」という考え方が定着しました。
人的資本の情報開示が求められる理由
人的資本の情報開示が求められるのは、企業の競争優位の源泉や企業価値向上の推進力は無形資産に由来し、人的資本への投資はその中核要素と考えられているためです。
多くの投資家が、人材戦略について経営者からの説明を期待している状況を踏まえて、上場会社に対して新たに人的資本の情報開示が義務付けられました。
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人的資本の情報開示義務の対象者・開示方法は?
人的資本の情報開示を行う義務を負うのは、有価証券報告書を提出する上場会社です。2023年3月期決算以降の有価証券報告書において、人的資本の情報開示を行う必要があります。
内国会社の有価証券報告書は、原則として企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「開示府令」といいます)第三号様式に従って作成・提出します。
第三号様式には「サステナビリティに関する考え方及び取組」を記載する箇所があり、その中で人的資本に関する戦略および指標・目標について、以下の要領による記載が求められています(第二号様式記載上の注意(30-2)に準じて記載)。
(a)人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針(例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等)を戦略において記載すること。
(b)(a)で記載した方針に関する指標の内容並びに当該指標を用いた目標及び実績を指標及び目標において記載すること。
人的資本の情報開示における19項目
人的資本の情報開示については、内閣官房が定期開催する非財務情報可視化研究会が「人的資本可視化指針」を公表しています。
同指針では、人的資本に関して開示が推奨される項目として、以下の7分野にわたり19項目を示しています。
- 人材育成
- 従業員エンゲージメント
- 流動性
- ダイバーシティ
- 健康・安全
- 労働慣行
- コンプライアンス/倫理
同指針で示されている7分野19項目については、法令上開示が必須ではありませんが、経営の透明性を確保する観点から、できる限り開示することが推奨されます。
人材育成
従業員の育成に関する開示事項としては、「リーダーシップ」「育成」「スキル/経験」の3項目が挙げられています。これらに関する開示事項例は、以下のとおりです。
- 研修時間
- 研修費用
- パフォーマンスとキャリア開発につき定期的なレビューを受けている従業員の割合
- 研修参加率
- 複数分野の研修受講率
- リーダーシップの育成
- 研修と人材開発の効果
- 人材確保・定着の取組の説明
- スキル向上プログラムの種類・対象等
など
従業員エンゲージメント
従業員エンゲージメントとは、従業員が企業理念に共感し、自発的に会社の業績向上へ貢献しようとする意欲のことです。
人的資本の情報開示にあたっては、従業員エンゲージメントの状況についても開示が求められます。
流動性
流動性とは、人材の入れ替わりのことです。人的資本の開示においては、人材の入れ替わりが生じることを前提としつつ、従業員の新規採用・維持・後継者育成など、会社組織を健全に維持するための取組をどのように行っているかを示すことが求められます。
流動性に関する開示事項としては、「採用」「維持」「サクセッション(後継者育成)」の3項目が挙げられています。これらに関する開示事項例は、以下のとおりです。
- 離職率
- 定着率
- 新規雇用の総数・比率
- 離職の総数
- 採用・離職コスト
- 人材確保・定着の取組の説明
- 移行支援プログラム・キャリア終了マネジメント
- 後継者有効率
- 後継者カバー率
- 後継者準備率
- 求人ポジションの採用充足に必要な期間
など
ダイバーシティ
ダイバーシティとは、従業員の多様性のことです。
ダイバーシティに関する開示事項としては、「ダイバーシティ」「非差別」「育児休業」の3項目が挙げられています。これらに関する開示事項例は、以下のとおりです。
- 属性別の従業員・経営層の比率
- 男女間の給与の差
- 正社員・非正規社員等の福利厚生の差
- 最高報酬額支給者が受け取る年間報酬額のシェア等
- 育児休業等の後の復職率・定着率
- 男女別家族関連休業取得従業員比率
- 男女別育児休業取得従業員数
- 男女間賃金格差を是正するために事業者が講じた措置
など
健康・安全
従業員の健康・安全に関する開示事項としては、「精神的健康」「身体的健康」「安全」の3項目が挙げられています。これらに関する開示事項例は、以下のとおりです。
- 労働災害の発生件数・割合、死亡数等
- 医療・ヘルスケアサービスの利用促進、その適用範囲の説明
- 安全衛生マネジメントシステム等の導入の有無、対象となる従業員に関する説明
- 健康・安全関連取組等の説明
- (労働災害関連の)死亡率
- ニアミス発生率
- 労働災害による損失時間
- (安全衛生に関する)研修を受講した従業員の割合
- 業務上のインシデントが組織に与えた金銭的影響額
- 労働関連の危険性(ハザード)に関する説明
など
労働慣行・コンプライアンス/倫理
労働慣行に関する開示事項としては、「労働慣行」「児童労働/強制労働」「賃金の公正性」「福利厚生」「組合との関係」の5項目が挙げられています。これらの労働慣行に関する項目と、コンプライアンス/倫理に関する開示事項例は、以下のとおりです。
- 人権レビュー等の対象となった事業(所)の総数・割合
- 深刻な人権問題の件数
- 差別事例の件数・対応措置
- 団体労働協約の対象となる従業員の割合
- 業務停止件数
- コンプライアンスや人権等の研修を受けた従業員割合
- 苦情の件数
- 児童労働・強制労働に関する説明
- 結社の自由や団体交渉の権利等に関する説明
- 懲戒処分の件数と種類
- サプライチェーンにおける社会的リスク等の説明
など
情報開示をする上で気をつけるべきこと
人的資本の情報開示を行う際には、投資家に対して正しくメッセージが伝わるように注意する必要があります。
単に7分野19項目の開示事項を羅列するのではなく、会社が行っている取組内容を、適切な言葉で丁寧に説明することが大切です。
義務の対象外である企業も情報開示すべき?
非上場会社には有価証券報告書の提出義務がないため、人的資本の情報開示を行う法令上の義務を負いません。
しかし、株主・従業員・入社希望者などに対して人的資本の情報開示を行うことは、企業イメージの向上につながります。内閣官房の人的資本可視化指針を参考に、自社の取組状況について情報開示を行うとよいでしょう。
法令・ガイドラインに沿った人的資本の情報開示を
上場会社は、有価証券報告書において人的資本の情報開示を行う必要があります。金融商品取引法・開示府令・ガイドラインに従い、適切な情報開示に努めましょう。
非上場会社には人的資本の情報開示義務がありませんが、企業イメージ向上等の観点から、人的資本に関する自社の取組状況を開示することが推奨されます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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