- 更新日 : 2025年1月31日
ソフトウェア開発委託契約とは?ひな形をもとに書き方を解説
ソフトウェア開発委託契約とは、システムの開発や端末上で動作するアプリ・ソフト等の開発に関する業務を委託する契約のことです。ソフトウェア開発委託契約の作成や締結にあたっては、トラブルのリスクを回避するため、その内容をきちんと確認しましょう。本記事では、ソフトウェア開発委託契約の概要やひな形、主な条項、作成時のポイントなどを解説します。
目次
ソフトウェア開発委託契約とは?
ソフトウェア開発委託契約は、ソフトウェアの開発業務の受委託に関する契約です。企業が開発業者に対して、システムやアプリ・ソフトの開発を委託する場合などに締結されます。
受託者(開発業者)はソフトウェア開発委託契約に従い、システムやアプリ・ソフトなどを開発し、委託者に納品します。委託した企業は、開発品に問題がないことを確認した後、受託者に対して報酬等を支払います。
ソフトウェア開発委託契約は、請負契約または準委任契約に当たる
一般的なソフトウェア開発委託契約は、システムやアプリ・ソフトなどの成果物を完成させることを目的とします。この場合のソフトウェア開発委託契約は、仕事の完成を目的とする「請負契約」(民法第632条)に当たります。請負契約について、詳しくは下記記事でも解説しています。
これに対して、特定の成果物の完成を目的とせず、開発業務に従事すること自体を目的とするソフトウェア開発委託契約もあります。開発業者が発注元の企業に常駐し、従業員と協力してソフトウェア開発を行う場合などが該当します。この場合のソフトウェア開発委託契約は、法律行為でない事務の委託を目的とする「準委任契約」に当たります(民法第656条)。
ソフトウェア開発委託契約書のひな形・テンプレート(ワード)
ソフトウェア開発委託契約書を作成する場合は、ひな形(テンプレート)をもとに契約の状況に合わせて調整すると効率的です。Wordで作成したひな形を下記リンクから無料でダウンロードできるので、ぜひ活用ください。
ソフトウェア開発委託契約の主な条項
ソフトウェア開発委託契約では、主に以下の条項を規定します。
- 開発業務の内容
- 開発業務の遂行方法
- 受託者の禁止事項
- 開発業務の対価
- 納品・検査
- 契約不適合責任
- 知的財産権の帰属
- その他
それぞれの項目について、詳しく見ていきましょう。
開発業務の内容
開発業務の内容は、できる限り具体的かつ明確に定める必要があります。行うべき開発業務とそうでないものを、疑義なく区別できるように規定することが大切です。
(定めるべき事項の例)
- 特定のソフトウェアの開発を目的とする場合
- ソフトウェアの用途
- ソフトウェアが満たすべき仕様(仕様書を別途添付することもあります)
など
- 特定のソフトウェアの開発を目的とせず、開発業務への従事を目的とする場合
- 開発業務の概要(開発すべきソフトウェアの概要など)
- 開発業務を行う部署
- 特定のソフトウェアの開発を目的とする場合
など
開発業務の遂行方法
開発業務の遂行方法に関しては、主に以下の事項を定めます。
(定めるべき事項の例)
- 受託者の善管注意義務開発業務を、善良なる管理者の注意をもって遂行すべき旨を定めましょう。
- 委託者の協力受託者が開発業務を遂行するにあたり、委託者に対して協力を求めることができる旨、および委託者は合理的な範囲で協力すべき旨を定めましょう。
- 報告会開発業務の進捗状況について情報共有を行うため、委託者・受託者で開催する報告会について定めましょう。必要に応じて随時開催するほか、定期開催を定めるケースもあります。
上記のほか、委託者・受託者間で開発の方法について取り決めた場合は、その内容も規定しましょう。
受託者の禁止事項
受託者の禁止事項としては、主に以下のものを定めます。
(定めるべき事項の例)
- 権利義務の譲渡等の禁止ソフトウェア開発委託契約に基づく受託者の権利および義務につき、委託者の承諾なく譲渡すること(権利については担保提供を含む)を禁止する旨を定めましょう。なお、権利義務の譲渡等の禁止については、受託者の求めによって双方向(=委託者による譲渡等も禁止)とするケースが多いです。
- 再委託の禁止開発業務の再委託を禁止する場合は、その旨を定めます。ただし、再委託については、契約当事者の関係性やソフトウェア開発の内容などによっては認めるべき場合もあります。再委託を認める場合は、委託先の選定について何らかのルールを設けるとよいでしょう(例:委託者の承諾を必要とする、あらかじめ特定の業者を指定するなど)。
開発業務の対価
開発業務の対価に関しては、主に以下の事項を定めます。
(定めるべき事項の例)
- 対価の金額
- 対価の支払方法
- 対価の支払時期
- 振込手数料の負担者
納品・検査
特定のソフトウェアを開発する場合は、納品・検査の手順を定めましょう。
納品・検査に関しては、主に以下の事項を定めます。
(定めるべき事項の例)
- 納品期限(納期)納期については、別途発注書などで特定することもあります。
- 検査のスケジュール納品完了後、いつまでに検査を行うかを定めます。下請法が適用される場合は、納品から60日以内に下請代金を支払う必要があるため、十分間に合うような検査スケジュールを設定しましょう。
- 不合格時の再納品・異議申立ての手続き納品検査で不合格となった場合、受託者は再度納品を行う旨を定めましょう。ただし、委託者の検査が不適切であるケースも想定されるため、受託者としては、検査に対する異議申立ての規定も併せて設けることが望ましいです。
契約不適合責任
納品されたソフトウェアが契約内容に適合していない場合は、受託者が委託者に対して契約不適合責任を負う旨を定めましょう。
契約不適合責任については、主に以下の事項を定めます。
- 契約不適合責任の追及方法民法では、履行の追完(修補)・代金の減額・損害賠償・契約解除の4つが定められていますが(民法第562条~564条、第415条第1項、第541条第1項、第2項)、契約によって追及方法を限定したり、別の追及方法を定めたりすることもできます。
- 契約不適合責任の期限民法に従うと、受託者が契約不適合責任を追及するためには、契約不適合を知った時から1年以内に委託者へ通知する必要があります(民法第566条)。ただし、契約によって責任期間を短縮または延長することも可能です。
知的財産権の帰属
ソフトウェア開発委託契約に基づいて納品されたソフトウェアの知的財産権は、対価の支払いをもって委託者に移転する旨を定めるのが一般的です。受託者が知的財産権の一部を留保したい場合は、その内容を特定した上で、委託者に対して追記を求めましょう。
また、開発業務において受託者が委託者の知的財産権を実施する必要がある場合は、委託者から通常実施権等の設定を受けることが考えられます。通常実施権等の設定については、その条件をソフトウェア開発委託契約で定めるとよいでしょう。
その他
ソフトウェア開発委託契約には上記のほかに、以下の事項を定めるのが一般的です。
- 秘密保持
- 契約の解除
- 損害賠償
- 誠実協議
- 合意管轄
など
ソフトウェア開発委託契約書の作成・確認ポイント
ソフトウェア開発委託契約を作成する際には、契約条件を十分に明確化することが大切です。特に開発業務の内容・対価、納品・検査の方法などは、ソフトウェア開発委託契約の本質的事項として非常に重要であるため、曖昧な点を残さないようにしましょう。
また、自社に不利益な条項や、相手方だけが有利な条項を残さないことも重要です。特に相手方がドラフトを作成した場合は、不当な条項が含まれているケースが非常に多いため、慎重に契約書レビューを行いましょう。
ソフトウェア開発委託契約書の作成・レビューは慎重に
ソフトウェア開発委託契約は、システムやアプリ・ソフトの開発を行う企業だけでなく、これらの開発・導入によって業務の効率化等を図る企業にも締結する機会があります。
ソフトウェア開発委託契約の作成・契約書レビューは、契約条件は明確になっているか、自社に不利益な条項が含まれていないかなどの観点から、慎重に行ってください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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