• 更新日 : 2023年9月8日

覚書とは?契約書・念書との違いや書き方をひな形つきで解説

覚書とは?契約書・念書との違いや書き方をひな形つきで解説

ビジネスの現場では契約書をもって契約を取り交わすのが一般的ですが、それとは別に「覚書」を取り交わすこともあります。実際に取引先や上司から覚書を作成するよう言われたという方もいらっしゃるかもしれません。

この記事では「覚書とはどのようなものなのか」という基礎知識から、契約書や念書との違い、覚書が必要になるケース、覚書の書き方についてご説明します。便利な覚書の雛形もご用意しているので、ぜひご活用いただければ幸いです。

覚書とは?

覚書(おぼえがき)とは物事を忘れないように書き残しておくものを指します。もともとはメモ書きや備忘録などを指す言葉でしたが、ビジネスの場では双方の取り決めを記録として残しておく書類のことを指します。ただし、議事録のように打ち合わせの内容を記したものとも異なります。メモというよりは契約書に近い性質です。

例えば、打ち合わせで決まったことを覚書を用いて締結を交わし、後日正式な契約書をもって契約を交わすということがあります。また、契約書を作成した後に業務内容などが変更になった場合に変更部分についてのみ覚書を残すというケースもあります。

覚書と契約書の違い

契約書は当事者間で契約を締結する際に用いられる書類です。取引の内容や取り決めなどが記載されていて、一般的な商習慣では双方が署名捺印した時点で契約が成立したとみなされます。契約書には「売買契約書」「業務委託契約書」「請負契約書」「製造委託契約書」「雇用契約書」など、さまざまな種類があります。

ただし、民法では契約自体は双方が合意した時点で成立するとされています。

(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

引用:民法|e-Gov法令検索

法律では契約書がなくても相手方が承諾をしたときに契約が成立するとされ、必ずしも契約書が必要というわけではありません。ただし、口約束では後々「言った・言わない」のトラブルに発展するため、商習慣上書面を取り交わして証拠を残しておくことが一般的です。

そういった意味では前述のとおり、覚書も一種の契約書といえます。契約書は最初に取引全体に関する取り決めを定めたもの、覚書は後から変更や追加になったものについて記載されている部分的な契約書と考えると、わかりやすいかもしれません。

覚書と念書の違い

覚書に似たようなものとして「念書」が挙げられます。こちらも約束を証拠として残しておく文書ですが、少し性質が異なります。覚書には双方が合意した事項が記載された書類で、作成者と提出先双方がそれに従います。

一方で念書は作成した者が提出先に対して一方的に約束を果たす場合に作成する書類です。例えば、借金の延滞が発生した場合、債務者は債権者に「◯◯月◯◯日に金◯◯円を支払うことをお約束します」という念書を作成することがあります。この場合、債権者には特に義務を課すものではありません。

覚書は双方向なもの、念書は一方向的なものと考えるとわかりやすいです。

覚書の締結が必要になるケース

それでは覚書はどのような場合に締結するのでしょうか。ここからは覚書が使われる典型的なケースを2つご紹介します。以下のような場合、契約書を発行して締結し直す以外に覚書が使えることを知っておくことで、取引がスムーズになります。

契約書に修正や変更を行う場合

実際に取引を続けていると会社を取り巻く状況や環境の変化によって取引内容や取り決め、契約条件などが変更になることもあり得ます。この場合、契約書を修正・変更する必要があるのですが、覚書を取り交わす方法によっても証拠として残しておくことができます。その後契約書を修正してあらためて契約書を作り直すこともあれば、覚書の締結をもって契約内容を変更することも可能です。

覚書で修正・変更を行うことで、あらためて契約書全体を作り直す手間(契約書の修正やリーガルチェックなど)やコスト(印刷代や紙代、郵送費など)を削減できる、継続的取引において契約内容の変更履歴を残すことができるといったメリットがあります。

契約締結後に契約条件を別途決める場合

契約時点で契約金額や納期、契約期間などの条件が定まっていないこともあり得ます。しかし、それらが決まるまで契約の締結を先送りしていると、取引に支障が出かねません。そこで、先に覚書を用いて締結し、条件を話し合って双方が合意したらあらためて契約書を発行して締結するという方法もあります。

特に詳細を詰められていないけど急ぎで取引を進めたい場合であったり、条件面でなかなか折り合いがついていない場合は、このような手段をとることも可能です。

覚書の文例・テンプレート

覚書を作成する際は、ひな形をもとに内容を作成すると効率的です。無料でダウンロードできるテンプレートを用意したので、以下のリンクよりダウンロードください。

覚書の書き方

それでは覚書はどのように書けばいいのでしょうか。ここからは図を交えて覚書の書き方についてご説明します。

覚書の書き方

大まかなレイアウトは上図のとおりです。それぞれの書き方について以下で詳しく見ていきましょう。

表題

まずは表題(タイトル)です。文書の一番上の中心に記載します。「◯◯に関する覚書」というように記載します。ひと目で見てわかりやすいよう、なるべく簡潔・明瞭な表題になるよう意識しましょう。また、少しフォントを大きくすることで視認性が良くなります。

単に「覚書」とすることもできますが、これだけでは何に関する覚書なのかがわからないため、可能な限り「◯◯に関する覚書」と記載するのがベターです。

【記載例】

業務委託契約書に関する変更覚書

前文

覚書の後に前文を挿入します。誰と誰が取り決めに合意するのかを記載しましょう。契約書のように、会社名を「甲」「乙」と略称に置き換えます。これによって、後々「◯◯株式会社」と記載する手間を省くことが可能です。当事者が増える場合は「丙」「丁」というように十干の漢字を当てはめていきます。

なお、すでに契約書を締結しているのであれば、それと同じ略称に置き換えましょう。例えば、契約書で取引先を「甲」と置き換えている場合、覚書でも取引先を「甲」と置き換えるようにすると混乱を防ぐことができます。

【記載例】

A株式会社(以下、「甲」)とB株式会社(以下、「乙」)とは、令和3年6月15日付にて甲乙間で締結した「業務委託契約書」(以下、「原契約」)を、以下の通とおり変更することに合意する覚書を締結する。

本文

本文は「記」の後に内容を箇条書きで記します。すでに契約書を締結していて内容を変更するのであれば、契約書のどの部分をどのように変更するのかを明確にしておきましょう。本文に関してもなるべく簡潔に、わかりやすく記載することがポイントです。文体は契約書のように「◯◯とする」というように記載するのが一般的です。

最後に「以上」と締めることで、本文の終わりがわかりやすくなります。

【記載例】

  1. 原契約第5条(履行期間)に記載のうち
    「本契約の契約期間は、令和3年7月1日から令和4年6月30日までの1年間とする。」を
    「本契約の契約期間は、令和3年7月1日から令和6年6月30日までの3年間とする。」に変更する。
  2. 原契約書第6条(報酬)に記載のうち
    「金100,000円」を
    「金150,000円」に変更する。
  3. 本覚書に記載がない事項については原契約書のとおりとし、変更はないものとする。

以上

有効期限

覚書にも有効期限を設定することができます。本文の最後の項目に記載するとわかりやすいでしょう。契約書の有効期限のほか、ここで新たに有効期限を定めることも可能です。「有効期限は◯◯年◯◯月◯◯日~◯◯年◯◯月◯◯日とする」というように記載します。
ただ期限の記載は必須ではないので、必要に応じて入れるとよいでしょう。

【記載例】

本覚書の有効期限は、令和3年7月1日から令和8年6月30日までの満5年間とする。

後文

本文の後に後文を記載します。「以上合意の証として、本書2通を作成し甲乙両者署名捺印のうえ、各1通ずつ保有するものとする。」というように記載することで、覚書が何通存在するのか、誰が署名捺印したのか、誰が所有しているのかが明らかになり、「受領していない」「存在していないはずの覚書を第三者が持っている」といったトラブルを防ぐことができます。

【記載例】

以上、本合意が成立した証として、本書を2通又は本書の電磁的記録を作成し、甲乙両者が記名押印若しくは署名又は電子署名のうえ、各自保管するものとする。

日付・署名・捺印

最後に日付、各当事者の住所と氏名の記入欄と押印欄を設けます。ここに覚書を締結する日付を記載し、双方が署名捺印することで、覚書の内容が成立したとみなされます。覚書への署名や押印は法律上義務ではありませんが、内容に合意したという証拠を残す意味で、署名や押印するのが一般的となっています。

通常の契約書と同様、当事者が署名捺印済みのものを1通ずつ保管します。

【記載例】

令和3年6月15日
甲  氏名 A株式会社
住所 〇〇都□区1-1-111 1丁目ビル1101号室  印
乙  氏名 B株式会社
住所 〇〇県△市3-3             印

覚書に収入印紙の貼付が必要になるケース

契約書が印紙税法上の課税文書に該当した場合、契約金額に応じて印紙税を納めて収入印紙を貼付しなければなりません。

(課税物件)
第二条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。
(納税義務者)
第三条 別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち、第五条の規定により印紙税を課さないものとされる文書以外の文書(以下「課税文書」という。)の作成者は、その作成した課税文書につき、印紙税を納める義務がある。
2 一の課税文書を二以上の者が共同して作成した場合には、当該二以上の者は、その作成した課税文書につき、連帯して印紙税を納める義務がある。

引用:印紙税法|e-Gov法令検索

例えば、「不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書」具体的には不動産売買契約書や金銭借用証書、運送契約書などは第1号文書と呼ばれ、印紙税を支払う必要があります。「請負に関する契約書」具体的には工事請負契約書や物品加工注文請書、広告契約書などは第2号文書に該当し、やはり印紙税の対象です。

覚書は実質的には契約書と同じような性質を有しているため、契約金額が記載されているなど内容によっては課税文書とみなされ、収入印紙の貼付が必要になる場合があります。

覚書への収入印紙の貼付や印紙税額の詳しい解説については、以下の記事をご参照ください。

覚書を活用することでビジネスがスムーズになります

契約書を取り交わした後に取り決めや条件などが変更になった場合、再度契約書を締結していては時間や手間、コストがかかってしまいます。そこで、覚書を用いて変更箇所のみの条件を取り決めて契約を締結すれば、こうした時間や手間、コストを削減することができます。

契約後に状況が変わって取引内容が変更になるのはしばしばあることです。契約書のほかにも、覚書という手段で契約が締結できるということを念頭に置いておけば、スムーズに対応できるようになるでしょう。

よくある質問

覚書とはなんですか?

覚書とは物事を忘れないように書き残した書面ですが、ビジネスの場では双方で合意した内容を書き残す文書のことを指します。メモというよりは契約書に近い性質があります。詳しくはこちらをご覧ください。

覚書と契約書の違いについて教えてください

取引の内容について記されていて当事者が合意した証拠を残すという点では同じです。契約書は取引全体の取り決めを、覚書は契約書の変更や未決だった部分や変更された部分を補うものと考えるとわかりやすいです。詳しくはこちらをご覧ください。


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