- 作成日 : 2022年5月27日
定期建物賃貸借契約とは?普通建物賃貸借との違いも解説!
定期建物賃貸借契約とは、建物賃貸借契約のうち「あらかじめ定めた期間満了時に更新することなく賃貸借契約が終了する」契約形態のことです。
建物賃貸借契約は普通建物賃貸借契約が一般的ですが、定期建物賃貸借契約は普通建物賃貸借契約とは取り扱いが異なり、貸主と借主の双方が定期建物賃貸借契約の内容を理解しておくことが大切です。
ここでは、定期建物賃貸借契約の概要や注意点、普通建物賃貸借契約との違いを分かりやすく解説します。
目次
定期建物賃貸借契約とは
定期建物賃貸借契約(または定期借家契約)とは、建物賃貸借契約のうち「あらかじめ定めた期間満了時に更新することなく賃貸借契約が終了する」契約形態のことです。
同じく建物賃貸借契約である「普通建物賃貸借契約」が比較的借主に有利な契約であるのに対し、定期建物賃貸借契約は貸主に有利な契約であると言われています。
具体的に定期建物賃貸借契約は、以下の点で貸主に有利です。
- 契約期間が定められているため、賃料収入の見通しが立つ
- 契約期間満了時に確実に契約を終了できる
- 短期間でも不動産を有効活用できる
- 再契約を拒否することで悪質な借主を排除できる
貸主が定期建物賃貸借契約のメリットを活かすことで、計画的な賃貸経営や不動産の有効活用が可能になります。
【定期建物賃貸借契約の活用事例】
- 建物の建て替えや大規模修繕を計画的に行いたいとき
- 転勤などで一時的に物件を貸し出したいとき
- 家賃滞納や近隣住民とのトラブルなど、悪質なテナントによるリスクを抑えたいとき
建物賃貸借契約書については、こちらの記事をご覧ください。
定期建物賃貸借契約が成立する要件
定期建物賃貸借契約を成立させるためには、以下3つの要件を満たす必要があります。
【定期建物賃貸借契約が成立する要件】
- 公正証書等の書面で契約する(公正証書である必要はありません)
- 「更新がなく、期間満了により契約が終了する」旨を、定期建物賃貸借契約書とは別に書面を作成して借主に交付する
- 上記の書面を交付した上で、貸主から借主にその内容を説明する(説明しない場合は普通建物賃貸借とみなされます)
貸主から借主へ事前説明を行うことは、 借地借家法(第38条1項~3項)で定められています。
定期建物賃貸借契約には更新がありませんが、契約期間の制限もありません。よって1年未満の契約も可能なので、状況に応じて契約期間を定めましょう。
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普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約の違い
建物賃貸借契約には普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約があり、どちらも事業用・居住用の建物に対する賃貸借契約が可能です。ただし、法律上の定めがいくつか異なります。
定期建物賃貸借契約を深く理解するために、違いを確認しておきましょう。
【普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約の違い】
| 普通建物賃貸借契約 | 定期建物賃貸借契約 | |
| 契約方法 | 書面・口頭どちらも可※1 | 書面による契約のみ可 |
| 更新の有無 | あり (原則更新)※2 | なし (期間満了時に契約終了)※3 |
| 契約期間 | 1年未満の場合、期間の定めのない賃貸借とする | ・1年未満でも契約は有効 ・契約期間の上限はない |
| 賃料増額請求権の取り扱い | ・原則、請求する権利が認められる ・特約による排除は有効 | ・原則、請求する権利が認められる ・特約による排除は有効 |
| 賃料減額請求権の取り扱い | ・原則、請求する権利が認められる ・特約による排除は無効 | ・原則、請求する権利が認められる ・特約による排除は有効 |
※1 ただし、トラブル防止の観点から書面で契約内容を明確にすることが望ましい
※2 貸主からの一方的な更新拒絶は、正当事由がある場合のみ可
※3 双方合意のもと再契約することは可能
上記の表だけでは説明が不十分なので、各項目について詳しく解説します。
契約方法
普通建物賃貸借契約は書面でも口頭でも有効ですが、定期建物賃貸借契約は書面による契約のみ有効です。
さらに、定期建物賃貸借契約を締結する際は「更新がなく、期間満了により終了する」旨を契約書とは別に作成し、事前に交付・説明する必要があります。説明と書面交付を行わない場合は、普通建物賃貸借とみなされます。
更新の有無
普通建物賃貸借契約は原則的に更新されますが、定期建物賃貸借契約には更新がありません。これが、普通建物賃貸借契約は借主が有利、定期建物賃貸借契約は貸主が有利と言われる理由の一つです。
貸主が建物の建て替えを予定している場合や、一定期間後に契約を終了させたい場合は、定期建物賃貸借契約を選択すると円滑に契約を終了できるでしょう。
普通建物賃貸借契約でも貸主が更新を拒絶できることがありますが、貸主からの一方的な更新拒絶には「正当事由」が必要です(借地借家法 第28条)。
正当事由とは、例えば「他に住むところがない」「建物が老朽化しており、建て替えなければ借主の安全が保たれない」などです。
賃貸物件は、借主の生活や営業の拠点となっているケースが多いため、現時点で物件を使用していない貸主の正当事由が認められるためには、相応の理由が必要です。
「正当事由」に該当するかどうかを判断する際は、貸主・借主双方の事情が考慮されますが、借主の立場のほうが弱いため、借主側の事情が重視される傾向があります。
貸主の正当事由を補うものとして、立退料の支払いを申し出るという方法があります。ただし、それでも必ず更新拒絶が認められるわけではありません。
貸主として普通建物賃貸借契約を締結する際は、将来建物を使用する予定がないかどうか慎重に検討することが大切です。
契約期間
定期建物賃貸借契約は、1年未満といった短期契約も可能です。契約期間に制限はないため、状況に応じて契約期間を設定しましょう。一方で普通建物賃貸借契約では、契約期間を1年未満に設定した場合は期間の定めのない賃貸借となります。
賃料増減額請求権の取り扱い
賃料増減額請求権とは、社会情勢や地価の変動などによって賃料が適切でなくなった場合に、低すぎる賃料の増額や、高すぎる賃料の減額を請求できる権利です。賃料の増額は主に貸主から借主に、賃料の減額は主に借主から貸主に請求されます
賃料増減額請求権の取り扱いは、普通建物賃貸借契約と定期建物賃貸借契約で異なります。
【普通建物賃貸借契約】
| 原則 | 特約による排除 | |
|---|---|---|
| 賃料増額請求権 | 請求する権利が認められる | 〇 |
| 賃料減額請求権 | 請求する権利が認められる | × |
普通建物賃貸借契約では、原則として増額・減額のどちらの請求権も認められ、賃料増額請求権のみ特約による排除が可能です。
「賃料増額請求権の特約による排除が可能」とは、主に貸主から借主へ賃料の増額を請求する権利を特約によって排除できるという意味です。つまり、「賃料の増額を申し出ない」旨の特約が認められるということです。
一方、賃料減額請求権は特約によって排除することができません。これは「賃料の減額を申し出ない」旨の特約を定めても、その特約は認められないことを意味します。つまり、借主が「賃料を減額してください」と請求する権利が守られるということです。
【定期建物賃貸借契約】
| 原則 | 特約による排除 | |
|---|---|---|
| 賃料増額請求権 | 請求する権利が認められる | 〇 |
| 賃料減額請求権 | 請求する権利が認められる | 〇 |
定期建物賃貸借契約では、原則として賃料の増額・減額のどちらの請求権も認められ、どちらの請求権も特約によって排除が可能です(借地借家法 第38条第7項)。
借地借家法では、借主に不利な特約が無効となるケースが少なくありません。しかし、定期建物賃貸借契約の賃料減額請求権は、特約によって排除できます。
借主として定期建物賃貸借契約を締結する場合は、賃料減額請求権の排除について記載があるかどうかを確認しておきましょう。
定期建物賃貸借契約で注意すべきポイント
ここでは、定期建物賃貸借契約で注意すべきポイントを5つ紹介します。
事前説明が必要
前述のとおり、定期建物賃貸借契約を締結する際は「更新がなく、期間満了により終了する」旨を契約書とは別に作成し、事前に交付・説明する必要があります。事前説明を行わない場合は「契約を更新しない」旨の定めが無効となり、普通建物賃貸借契約とみなされます。
説明義務の目的は、借主に定期建物賃貸借契約について理解してもらうことです。建物賃貸借契約は普通建物賃貸借契約が一般的なので、借主が「当然更新できる」と勘違いしているケースもあるでしょう。
契約内容を正しく理解してもらうために、貸主が借主にしっかり説明し、書面を交付することが大切です。
事前説明は重要事項説明を兼ねることはできない
定期建物賃貸借契約の事前説明に似ているものに重要事項説明がありますが、これらは別物です。
事前説明は、定期建物賃貸借契約の内容を理解してもらうために、貸主が借主に書面交付・説明するものです。一方で重要事項説明は、仲介者である宅地建物取引業者が借主に書面交付・説明するものです。
建物賃貸借では多くの場合、不動産会社に契約の仲介を依頼します。
本来、事前説明は貸主が借主に対して行うものですが、宅地建物取引業者が代理で行うこともできます。その場合は、重要事項説明書に事前説明の内容を記載することも可能です。
ただし、事前説明は書面交付だけでなく、内容を口頭で説明する必要があります。
また、宅地建物取引業者として行う「重要事項説明」と貸主の代理で行う「事前説明」は説明すべき主体が異なるため、仲介者は、それぞれの立場でそれぞれの説明を行う必要があります。
原則、契約更新はできないが再契約は可能
前章で述べたとおり、定期建物賃貸借契約は原則的に契約更新ができません。借主が契約終了後も対象の物件を使用したい場合は、再契約を行います。
ただし、貸主に再契約の義務はないため、貸主が再契約を希望しない場合は退去することになります。
中途解約について
定期建物賃貸借契約では、中途解約に関する特約を設けていない場合、原則として貸主・借主の自己都合による解約はできません。ただし、以下の要件を満たせば借主からの中途解約が可能です。
- 床面積200㎡未満の居住用建物である場合
- 転勤や親族の介護等、やむを得ない事情により転居を余儀なくされる場合
上記の要件を満たす場合、申し入れの1ヵ月後に賃貸借契約を終了できます。なお、申し入れ期間を1ヵ月よりも長く設けるなど、借主に不利な特約は無効です。
また、「上記以外の事情による中途解約も可能」といった特約は借主に不利な内容でないため、この場合は特約の定めに従います。
終了通知義務がある
定期建物賃貸借契約を期間満了時に終了させるためには、貸主による契約終了通知が必要です。
契約期間が1年以上の場合、期間満了1年前から6ヵ月前までの間に「期間満了により契約が終了する」旨を通知する必要があり、通知しない場合は契約を終了できません。ただし、賃貸人が通知期間経過後に通知した場合は、その日から6ヵ月経過後に賃借人に対して契約が終了したことを主張できます。
貸主による終了通知義務の目的は、借主が契約終了後の転居先を探すための時間を確保することです。通知が遅れた場合は、その分借主の退去が遅くなるため注意してください。
なお、契約期間1年未満の場合は、終了通知義務はありません。
定期建物賃貸借契約では事前説明による相互理解が重要
建物賃貸借契約では普通建物賃貸借契約が一般的なので、定期建物賃貸借契約の内容を借主が正しく理解していないことがあります。契約内容が正しく伝わっていないと、トラブルが生じるおそれがあります。不要なトラブルを防ぐためにも事前説明を丁寧に行い、借主に理解してもらうことが大切です。
また、トラブルだけではなく、事前説明と書面交付をしなければそもそも定期借家契約が有効にならないため、注意しましょう(普通借家契約になってしまいます)。
よくある質問
定期建物賃貸借契約とは何ですか?
建物賃貸借契約のうち「あらかじめ定めた期間満了時に、更新することなく契約が終了する」契約形態のことです。賃貸借契約を継続したい場合は更新ではなく、再契約となります。詳しくはこちらをご覧ください。
定期建物賃貸借契約と普通建物賃貸借契約の違いは何ですか?
最大の違いは、契約更新の有無です。普通建物賃貸借契約には更新があり、定期建物賃貸借契約にはありません。その他、契約方法や契約期間なども異なります。 詳しくはこちらをご覧ください。
定期建物賃貸借契約はどのような時に用いられますか?
契約終了の時期をあらかじめ指定できるため、貸主が一定期間だけ賃貸したい場合などに用いられます。具体的には、建物の大規模修繕や建て替え前、転勤時の一時的な賃貸などが挙げられます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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