• 作成日 : 2025年8月5日

重要事項説明書のリーガルチェックのポイントは?確認事項や注意点を解説

重要事項説明書は、不動産取引やサービス契約などで契約前に交付される法定文書であり、買主・利用者が内容を正確に理解した上で判断するために不可欠なものです。取引対象の物件情報や契約条件、法令制限など重要な情報が盛り込まれており、記載ミスや説明不足は契約後のトラブルや法的責任に直結します。

本記事では、重要事項説明書のリーガルチェックの目的やタイミング、主な確認項目、AI活用の可否まで、押さえておくべきポイントを解説します。

重要事項説明書とは

重要事項説明書は、不動産取引などで契約前に交付される書類であり、買主や借主が取引内容を判断するための情報を記載した文書です。不動産の所在地や面積、利用制限、契約解除の条件、損害賠償の有無など、取引判断に欠かせない要素が記載されます。これは宅地建物取引業法により、宅建業者が説明と交付を行う義務があるからです。

契約書と内容が重なることもありますが、契約書とは異なり契約前に交付され、説明責任を果たす手段として用いられます。企業が当事者となる場合も、記載ミスや説明不足がトラブルに直結するため、内容を精査する姿勢が不可欠です。

リーガルチェックを行う重要性

リーガルチェックとは、契約関連書類を専門家が事前に確認し、法的に問題がないかを判断するプロセスです。重要事項説明書に対するリーガルチェックも、法定記載事項の漏れや誤りを防ぎ、契約トラブルや行政指導のリスクを軽減する目的で行われます。たとえば、建築制限や用途地域などの法令情報が抜けていると、説明義務違反に該当する可能性があり、後の損害賠償請求につながりかねません。

そのため、作成段階から法務担当者や弁護士が関与し、内容の精度を確保しておくことが、企業のリスク管理上も重要です。

重要事項説明書のリーガルチェックを行うタイミング

重要事項説明書は契約締結前に交付・説明される法定文書であるため、リーガルチェックのタイミングも契約プロセスの早い段階に設定する必要があります。このセクションでは、適切な実施タイミングについて解説します。

契約締結前の事前チェックが必須

重要事項説明書は、契約書に署名する前に、相手方に対して説明と交付を行う書類です。不動産取引であれば、物件の詳細や契約条件、制限事項などを事前に明示する役割を果たします。したがって、リーガルチェックもその説明の前、つまり契約締結よりも前の段階で完了しておくことが原則といえます。

たとえば自社が不動産を購入または借りる立場にある場合、重要事項説明書は契約直前に提示されることが多く、その場で全文を精査するのは現実的ではありません。法務部などが事前にドラフト版を入手し、記載内容を確認しておくことで、不明点や疑義のある項目を契約前に解消しやすくなります。とくに金額や期間の大きい契約では、一つの記載ミスが重大な損失につながるため、確認作業は疎かにできません。

また、自社が説明書を発行する側、たとえば介護サービスやITシステム提供などで重要事項説明を行う事業者である場合には、説明書交付前に法務確認を済ませておくことが求められます。サービス利用者との信頼関係を維持するためにも、誤記や漏れのない内容を事前に整えておく必要があります。仮に契約当日に内容の不備が発覚すれば、信用問題やクレームに発展するリスクがあるため、作成段階でのリーガルチェックが不可欠です。

重要事項説明書のリーガルチェックの確認項目

重要事項説明書のリーガルチェックでは、法定記載事項の網羅性だけでなく、契約条件や権利関係の妥当性、任意記載事項の適切さまで多面的な確認が必要となります。ここでは、確認すべき主要なチェック項目について解説します。

法定記載事項

まず、法律で義務づけられた記載事項が漏れなく盛り込まれているかを確認します。たとえば不動産取引の重要事項説明書では、対象不動産の所在地、面積、構造といった物件の基本情報に加え、登記簿上の権利関係(所有権や抵当権等)、法令上の制限(都市計画法、建築基準法、土砂災害警戒区域の指定など)の有無などが網羅されている必要があります。これらはいずれも、契約後の利用や再売却の可否に影響する事項であり、説明義務違反があれば損害賠償請求や契約解除の原因になりかねません。

加えて、法改正により説明が求められる項目も増えています。たとえば2020年の法改正では、水害リスクのある地域では、ハザードマップに基づく浸水想定区域内かどうかを明示することが義務付けられました。また2006年の法改正では、築年数の古い建物については耐震診断結果の説明が必要とされています。これらの新要件を見落とさないよう、最新の法令に基づいたチェックを行うことが基本となります。

契約条件や権利関係

次に、売買や賃貸などの取引条件、当事者の権利義務に関する条項が妥当かどうかを検討します。たとえば、売買代金や賃料の内訳、手付金や違約金の額とその取扱い、契約解除の条件といった項目は、契約書と一致していなければなりません。また、解除事由が一方に不利に偏っていないか、損害賠償の予定額が過大ではないかといった観点からも検証します。

さらに、対象物件に第三者の占有がある場合や、私道負担、共有持分の存在といった特別な条件がある場合には、その詳細を記載し、契約後の引渡しや利用に影響が生じないようにしておくことが求められます。こうした点を確認せず契約を進めてしまうと、引渡後のトラブルにつながる恐れがあるため、契約書との整合とともに内容の公平性にも注意を払う必要があります。

その他重要事項や特記事項

法律で定められている以外の事項であっても、契約当事者の判断に影響を与えるような情報は積極的に記載することが望まれます。たとえば、過去に雨漏りやシロアリ被害があり修繕歴があるといった情報は、告知義務が課される場合もあります。法務担当者としては、「紛争予防」という観点から、相手方の誤認につながりかねない情報があれば、その有無と記載の妥当性を確認すべきです。

また、書類としての形式要件が整っているかの確認も欠かせません。宅地建物取引士の記名・押印(または署名)、交付年月日、相手方の記名欄の有無といった様式面も、不備があれば行政指導や訴訟リスクの要因となり得ます。電子交付を行う場合には、電子署名の法的有効性や交付記録の保存義務など、デジタル対応に関する要件にも注意が必要です。

重要事項説明書のリーガルチェックの注意点

重要事項説明書のリーガルチェックでは、法的リスクの見落としを防ぐだけでなく、記載内容の正確性や最新の制度に適合しているかも含めた慎重な検証が求められます。近年はデジタル化や法改正の影響も大きいため、時流を踏まえた運用が欠かせません。

法的リスクを認識する

重要事項説明書に不備があると、契約後の法的責任に直結します。たとえば説明義務の対象となる情報を記載しなかった場合、宅建業法違反として行政指導や処分を受ける可能性があります。また、契約相手から「説明されていない」と主張されることで、契約無効や損害賠償請求へ発展するおそれもあります。リーガルチェックでは、誤記や漏れを見逃さず、契約前に速やかに修正する意識を持つことが肝要です。

契約書と整合させる

重要事項説明書は契約前に交付される文書ですが、契約書の内容と一致していなければ信頼性を損ないます。たとえば説明書では「違約金なし」とされていたのに契約書に違約金条項がある場合、相手方にとっては重大な不整合です。リーガルチェックでは、両文書を照らし合わせて齟齬がないかを確認し、必要に応じて修正と再説明を行います。

最新の法改正に対応する

近年の法制度の変化により、重要事項説明書の扱いにも変化が生じています。2022年の宅建業法改正により、重要事項説明書の電子交付とIT重説が全面的に解禁され、書面交付や押印の義務が撤廃されました。リーガルチェックでは電子交付時の同意取得、電子署名、保存方法など、法定要件を満たしているかを確認します。

定期的に書式の見直し・更新を行う

法改正によって、説明書の記載項目が追加・削除されることがあります。古いひな型を流用していると、新設された説明義務に対応できていないこともあります。とくにインターネット上のテンプレートは作成年次が不明な場合もあるため、使用時には慎重な確認が必要です。自社の書式は定期的に見直し、改正時には必ず専門家の確認を経てアップデートすることが推奨されます。

重要事項説明書のリーガルチェックは誰が行う?

重要事項説明書のリーガルチェックを誰が担うべきかは、企業の体制や契約の性質によって異なりますが、法的知見を有する担当者が関与することが基本です。ここでは、社内法務担当者や外部専門家、宅建士など資格者との役割分担について解説します。

社内法務担当者と専門家で役割を分ける

企業内で契約書のチェック業務を担うのは、一般的に法務部門の担当者です。法務担当者は自社の業務内容や契約実務を深く理解しており、業務フローに即した対応や社内関係者との連携が取りやすいという利点があります。重要事項説明書についても、まずは社内法務が内容を確認し、形式・記載内容・法的整合性を点検するのが標準的な対応です。

もっとも、取引の規模が大きい場合や、自社で扱い慣れていない分野(たとえば初めての不動産購入や新規事業領域での契約)では、外部の弁護士など専門家による確認が有効です。弁護士であれば最新の法改正や実務上のリスクにも精通しており、社内法務よりも広範な視点でアドバイスを提供できます。契約の重要性や複雑さに応じて、社内法務と外部専門家を使い分ける体制を構築したほうが現実的です。

宅建士など有資格者と連携する

不動産取引に関しては、宅地建物取引士(宅建士)が重要事項説明書の作成・説明を行う法定の担当者です。契約実務では、取引を仲介する不動産会社の宅建士が作成・交付を行い、自社が買主または借主となる場合、法務部門がその内容を確認します。宅建士は説明の専門家であり、説明の義務と責任を負いますが、法的整合性やリスク分析の観点からは、社内法務との連携が欠かせません。双方でダブルチェックを行うことで、説明漏れや法令違反を防ぐ体制が整います。

また、介護、金融商品、保険などの分野でも、重要事項説明書に相当する書類の作成や交付が義務付けられており、介護支援専門員(ケアマネジャー)やファイナンシャルプランナーなど、各業界の有資格者が説明を担うことがあります。その際も、最終的な書面の法的責任は事業者にあるため、社内法務が有資格者と連携し、内容を精査することが求められます。

重要事項説明書のリーガルチェックはAIで代用できる?

AI技術の発展により、契約書類のチェック業務にも機械の支援が導入されつつあります。では、重要事項説明書のリーガルチェックにおいてもAIが人間に代わることは可能なのでしょうか。

AIを活用すれば業務を効率化できる

AIをリーガルチェックに活用する最大のメリットは、作業時間の短縮と人的ミスの軽減です。AIを搭載した契約書レビューツールは、重要事項説明書内の記載項目を自動抽出し、不足している情報や不適切な文言をハイライトできます。AIの活用により、重要事項説明書作成の効率化が期待されています。これにより法務担当者は全体の構成やリスク分析に注力でき、効率的な業務運用が可能になります。

また、AIは過去の契約事例や判例データを学習することで、曖昧な表現や想定外の条件を機械的に洗い出すことができます。政府の規制改革に関する議論では、AIによる説明業務の補助・効率化が検討されており、今後はより高度なチェック機能の導入が進むと予想されます。AIによるチェックリストの自動生成や条文修正の支援も、近い将来の実務に取り入れられるでしょう。

AIには法的判断や責任の限界がある

とはいえ、AIには依然として乗り越えるべき課題があります。第一に、AIは個別の事案に応じた判断力に欠けます。重要事項説明書には文脈や契約関係者の意図を読み取る必要がある場面が多く、AIはそこまで柔軟な対応はできません。誤検知や見落としが発生する可能性もあるため、すべての判断を機械に委ねるのは危険です。

第二に、説明責任はAIではなく人間が負います。不動産取引では宅建士が説明を行うことが法令で義務付けられており、AIがいくら内容を補助しても、最終的に説明内容の責任を取るのは人間です。AIが作成した説明書に不備があっても、法的責任は事業者側にあります。

さらに、現在の法制度ではAIのみで重要事項説明を完結することは認められていません。AIはあくまで補助的なツールとして使われるにとどまり、消費者保護や説明の適正性を担保するために、人間のチェックが引き続き不可欠です。

重要事項説明書の適切なリーガルチェックでリスクを防ごう

重要事項説明書は、不動産取引やサービス契約の前提となる説明文書であり、記載内容の正確性が契約トラブルの有無を左右します。

リーガルチェックは契約締結の前に行うことが原則で、内容の妥当性や法令適合性を丁寧に確認します。社内法務担当者や宅建士、弁護士などが連携し、記載項目の網羅性、契約書との整合性、新しい法改正への対応などをチェックすることが不可欠です。

AIツールの導入で効率化は進みますが、最終的な判断は人間が担うべきであり、機械と専門家のハイブリッド体制が理想とされています。リーガルチェックを通じて契約リスクを低減し、信頼ある取引につなげましょう。


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