- 作成日 : 2025年8月5日
著作権譲渡契約書のリーガルチェックのポイントは?確認事項や注意点を解説
著作権譲渡契約書は、デザインや文章、ソフトウェアなどの著作物を企業が取得・活用するうえで欠かせない契約書です。しかし、契約書の内容に不備や曖昧さがあると、譲渡したはずの権利が実際には移転していなかった、利用範囲が限定されていた、といった法的トラブルに発展するおそれがあります。
この記事では、著作権譲渡契約書のリーガルチェックにおける基本的な考え方から、確認すべき条項、注意点などを解説します。
目次
著作権譲渡契約書とは
著作権譲渡契約書は、ソフトウェア、記事、デザイン、写真、映像などの著作物に関して、著作権者がその権利を他者に移転することを目的とした契約です。著作権は複数の支分権(複製権、上映権など)で構成されており、全部または一部の権利を譲渡することが可能です。契約では、譲渡対象の著作物や譲渡する権利の範囲を正確に記載する必要があります。なかでも著作権法27条および28条に基づく翻案権・二次的利用権については、契約にその旨の記載がなければ自動的に譲渡されたとはみなされません。
また、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)は譲渡できないため、契約では「行使しない」旨の特約を別途設けるのが通例です。
著作権譲渡契約書を作成するケース
著作権譲渡契約書は、企業が外部のクリエイターや制作会社から著作物を買い取る際などに作成されます。たとえば、Webサイト制作におけるデザインデータや文章、動画コンテンツの納品時、社内で使用するロゴの外注時、出版物の原稿受領時などが典型的なケースです。また、ゲーム開発やソフトウェア開発で、成果物を他社へ引き渡す場合にも活用されます。契約書を通じて著作権の所在を明確にし、企業が自由に二次利用・加工・販売などを行えるようにする目的があります。
リーガルチェックが重要な理由
著作権譲渡契約では、譲渡と利用許諾の区別があいまいだと、実際には著作権が移転していないと解釈されるリスクがあります。過去の判例でも、契約書の記載が不明確だったために、裁判所が譲渡でなく許諾と判断したケースが存在します。また、著作権の譲渡は口頭でも成立しますが、契約書がなければ権利の範囲や有効性に疑義が生じやすくなります。法務担当者は、契約書の内容が明確であるか、譲渡範囲や対価、権利帰属の保証などが網羅されているかを丁寧に確認することが欠かせません。
著作権譲渡契約書をリーガルチェックするタイミング
著作権譲渡契約書のリーガルチェックは、契約のどの段階で行うかによって、リスク低減の効果が大きく変わりますので解説します。
契約締結前の段階で必ずチェックする
リーガルチェックは、必ず契約を締結する前、すなわち署名・押印に至る前の段階で行う必要があります。契約書は一度署名すれば、当事者間で法的拘束力を持つ正式な合意となり、後から修正や交渉をするには双方の合意が再度必要となります。とりわけ著作権譲渡契約書では、著作権の対象や範囲、著作権法27条・28条の権利を含むかどうかなど、文言の一部が異なるだけで譲渡の有効性が変わるため、事前に内容を十分に検討することが欠かせません。
ドラフト受領時点で確認を開始するのがベスト
契約書案(ドラフト)を受け取った段階でリーガルチェックを始めることが理想です。この段階であれば、文言の修正や追加、削除について相手方と交渉する余地があり、自社の意向に沿った内容へと調整しやすくなります。とくに、譲渡の範囲や譲渡対価の設定、表明保証条項など、交渉の影響が大きい項目については、契約草案の早い段階から精査することが望まれます。
また、第三者とのライセンスの有無や権利帰属に関する懸念がある場合には、契約書に記載される保証条項をより具体化できるよう、実態を把握したうえでリーガルチェックを進めるのが有効です。
著作権譲渡契約書のリーガルチェックで確認する主な条項
著作権譲渡契約書は、契約内容によって大きな法的影響をもたらすため、リーガルチェックでは一つひとつの条項を慎重に確認する必要があります。以下で、主要なチェック項目を解説します。
譲渡する著作権の範囲と対象
契約書には、どの著作物について、どの著作権(支分権)を譲渡するのかを具体的に記載する必要があります。著作権法第27条(翻案権など)や第28条(二次的著作物の利用権)については、契約書で明記しなければ譲渡されないと推定されるため、明文化が不可欠です。「著作権法第27条および第28条に基づく権利を含む」などの文言が盛り込まれているかを必ず確認しましょう。
また、譲渡の対象である著作物も、ファイル名やタイトル、制作日などによって具体的に特定し、成果物が複数ある場合は別紙で一覧化することが推奨されます。さらに、著作権とは別に、原稿やデータなどの有体物の引渡しについても明記されているかをチェックします。
著作者人格権の不行使特約
著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)は、法律上譲渡できません。そのため、著作権譲渡契約書では「著作者人格権を行使しない」旨の特約を設けるのが一般的です。これがなければ、譲受人が著作物を加工・編集・再構成する際に、著作者から同一性保持権の侵害を主張されるリスクが著しく高まります。
条文例としては「著作者は本著作物に関する著作者人格権を譲受人およびその指定する第三者に対して行使しない」などが一般的です。不行使特約が盛り込まれているか、内容が明確かを確認しましょう。
譲渡対価と支払条件
著作権の譲渡に際しては、対価の金額・支払時期・方法などを明確に定めることが重要です。たとえば「納品後〇日以内に支払う」「成果物検収後に支払う」など、具体的な条件を契約書に記載する必要があります。
また、契約金額が1万円を超える場合であっても、著作権譲渡契約書自体は印紙税の対象とはなりません。ただし、著作権譲渡と併せて請負契約など印紙税の課税対象となる他の契約内容が含まれる場合には、印紙税が発生する可能性があります。
表明保証条項
譲渡人に「当該著作物の著作権が自己に正当に帰属していること」「第三者に対して利用許諾をしていないこと」「第三者の権利を侵害していないこと」などを保証させる条項が含まれているかを確認します。
2020年の著作権法改正により、著作権が譲渡された場合でもその譲渡前にした利用許諾契約に基づいて著作物を利用している者は、その契約が未登録であっても、譲受人に対して著作物を利用できることを主張できる「当然対抗制度」が導入されました。
そのため、譲渡前に第三者に利用許諾がなされていた場合、譲受人は思わぬ制約を受けるリスクがあります。表明保証があれば、譲渡人の説明が虚偽だった場合に契約解除や損害賠償を求めることが可能です。
著作権譲渡契約書のリーガルチェックにおける注意点
著作権譲渡契約書のリーガルチェックでは、譲渡人と譲受人それぞれの立場に立って、想定される問題を洗い出し、契約内容に適切な手当てがなされているか確認することが求められます。
譲渡人側(売り手)が注意すること
譲渡人にとって最も重要なのは、契約どおりに適正な対価を確実に受け取ることです。支払期日、方法、遅延時の対応などが明記されているかを確認し、必要に応じて違約金や解除条項の有無もチェックします。また、著作権を譲渡すると原則としてその著作物の利用には関与できなくなるため、どのように使用されるかをあらかじめ把握しておくことが望まれます。
仮に意図しない改変や用途が想定される場合には、契約書に使用目的や禁止行為を明記することも検討材料になります。ただし、過度な制限は契約の成立自体を困難にするため、交渉のバランスが重要です。加えて、インターネット上のひな型を安易に流用することはリスクを伴います。自社の取引内容に沿った契約書を作成し、専門家によるリーガルチェックを受けることが望まれます。
譲受人側(買い手)が注意すること
譲受人にとっては、契約により自社の目的に合った権利が確実に取得できるかが最大の関心事です。利用範囲や翻案・翻訳の可否、海外での使用など、具体的な利用予定に照らして譲渡範囲が十分かを確認します。文言の不明確さがある場合は、明示的に修正を求めましょう。
また、譲渡された著作物が本当に譲渡人の所有物であり、かつ第三者にライセンスされていないことも保証される必要があります。とくに著作権法改正により、「当然対抗制度」が導入されたため、過去の利用許諾の有無や表明保証条項の記載を確認することが不可欠です。
さらに、著作権の譲渡を第三者に対抗するには文化庁での移転登録が必要です。契約書には譲渡人による登録協力義務を定めるとともに、譲受人側も速やかな登録手続きを怠らないようにしましょう。
最後に、譲受人が将来著作権を再譲渡したり、第三者にサブライセンスしたりする可能性がある場合は、契約上その自由が確保されているかも確認が必要です。再譲渡禁止条項などがあれば、その影響を事前に把握し、事業の柔軟性が損なわれないよう交渉することが大切です。
著作権譲渡契約書のリーガルチェックをめぐる動向
著作権譲渡契約に関連する法制度や実務指針は、近年の法改正やデジタル技術の進展を背景にアップデートが進んでいます。リーガルチェックにおいても、これらの動向を踏まえた対応が求められる場面が増えています。ここでは、ガイドラインや法改正のポイントを紹介します。
公的ガイドラインと契約支援ツールの活用
文化庁をはじめとする公的機関では、著作権契約に関するガイドラインや支援ツールの整備が進んでいます。たとえば「著作権契約マニュアル」では、著作権譲渡契約書を作成するうえでの留意点が具体的に整理されており、著作物の特定、支分権の範囲、著作権法27条・28条の明示、不行使特約の記載など、基本的な論点が網羅されています。
また、契約支援ツールでは質問形式に答えるだけで雛形を自動生成できるサービスも登場しており、契約書作成の初期段階に役立ちます。ただし、これらの雛形はあくまで一般的な構成にとどまるため、自社の実態に即した調整が不可欠です。最終的にはリーガルチェックを通じて、契約目的に合致した内容に仕上げることが重要です。
著作権法改正・技術トレンド
2020年の著作権法改正で、「当然対抗制度」が導入されました。これにより、譲渡人が第三者に著作物の利用許諾をしていた場合、その契約が未登録でも譲受人に対抗できるようになったため、契約時には過去の利用許諾が存在しないかを確認し、「第三者へのライセンスがないこと」を保証する条項の有無をチェックすることが重要となりました。
加えて、譲渡を第三者に対抗するためには文化庁への移転登録が必要です。登録を怠れば、万一二重譲渡が発生した際に譲受人が不利になる可能性があります。そのため、契約書に登録協力義務や費用負担の取り決めがあるかを確認し、必要に応じて登録を実施する運用が推奨されます。
さらに近年は、NFTや生成AIといった新技術の登場により、著作権契約の扱いにも変化が生じています。NFTでは作品の所有権と著作権が分離されるため、購入者との間で誤解を防ぐための契約上の明確化が求められます。AI学習用データに関する契約では、譲渡か利用許諾かの切り分けを文面で明確にする必要があります。
著作権譲渡契約書のリーガルチェックの要点は「範囲・対価・保証」
著作権譲渡契約書をリーガルチェックする際の要点は、「譲渡の範囲」「譲渡対価」「表明保証」の3つに集約されます。まず、譲渡される著作権の内容が具体的に特定され、著作権法27条・28条の二次的利用権も含まれているかを確認します。次に、対価や支払条件が明確に記載されているかを確認し、金銭トラブルを防ぎます。そして、譲渡人が当該著作物の正当な権利者であること、第三者にライセンスを与えていないこと、他者の権利を侵害していないことを表明保証しているかが大切です。
これら3点を確実に押さえることで、リスクを回避し、安心して著作物を活用できるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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