- 作成日 : 2025年7月17日
これからの企業に求められる法務人材とは?採用の現状やキャリアパスを解説
企業を取り巻く法的環境が複雑化する中で、法務人材の役割はこれまで以上に広がりを見せています。契約審査や紛争対応に加え、コンプライアンスやM&A、さらにはテクノロジーへの対応まで求められる業務領域は多岐にわたります。法務部門の体制強化や人材戦略の見直しは、もはや限られた企業の課題ではありません。
本記事では、法務人材の定義、業務内容、キャリア形成や今後の方向性を解説します。
目次
法務人材とは
法務人材とは、企業内で契約や法令対応などの法務業務を担う専門人材のことです。ジェネラリスト(幅広い業務をこなす人材)とスペシャリスト(特定分野に特化した人材)の二種類に大別されます。
法務ジェネラリスト
法務ジェネラリストは、法務関連業務全般を幅広く担当する人材です。契約書作成や社内規程の整備、コンプライアンス対応など多岐にわたる業務をこなし、しばしば管理職として他部署との調整も担います。人員に余裕がない中小企業では、幅広く対応できるジェネラリストが重宝されます。
法務スペシャリスト
法務スペシャリストは、企業法務の中でも限定された専門領域に特化した人材です。例えば金融法務やM&A法務、知的財産法務など特定分野の高度な案件を専門に扱います。大企業ではスペシャリストが配置される傾向があり、弁護士など資格を持つ専門家が企業内で活躍するケースも法務スペシャリストの一例と言えるでしょう。
法務人材の主な業務領域
法務人材とは、企業内で法律の専門知識を活かし、事業を法的側面から支える人材です。主な業務領域は、契約関連業務、紛争・訴訟対応、コンプライアンス業務、M&A支援に大別されます。
契約関連業務
契約関連業務では、企業が締結する各種契約書の作成・審査を行います。契約内容に法的リスクや自社に不利な条項がないか確認し、必要に応じて修正・交渉を行います。適切な契約書管理により取引の安全性を確保し、将来の紛争リスクを低減します。
紛争・訴訟対応
紛争・訴訟対応では、トラブル発生時に法的戦略を立案して対応します。契約上の紛争や顧客クレームに対し法的助言や調整を行い、必要に応じて訴訟手続を進めます。訴訟では証拠整理や弁護士との連携を通じて、自社の権利を守り最善の解決策を追求します。
コンプライアンス業務
コンプライアンス業務では、法令や企業倫理の遵守を確保するため、社内規程の整備や社員教育を行います。不祥事が起きた際には調査と再発防止策を実施し、違反行為への適切な対応に努めます。これにより企業の信用維持とリスク低減に寄与します。
M&A支援
M&A支援では、企業買収や統合の際に法務面からサポートを提供します。買収対象企業の法務デューデリジェンスを実施して、法的リスクを洗い出します。買収契約の交渉やスキームの法的検討を通じて、取引が円滑かつ安全に進むよう支援します。
法務人材の採用の現状と課題
企業にとって、法務人材の採用は年々難易度が高まっており、深刻な人材不足が続いています。背景には法務業務の高度化・多様化があり、企業の競争力強化のためにも、優秀な法務人材の確保は急務です。
法務人材採用が難しい背景
近年、企業の法務部門では深刻な人材不足が続いており、法務担当者の確保が最優先課題とされています。日本経済新聞の調査でも、多くの主要企業が「スタッフ不足・採用難」を法務部門の最大の懸念事項に挙げています。背景には、ビジネスの国際化やESG(環境・社会・ガバナンス)関連業務の拡大によって法務業務が多岐にわたるようになったことが挙げられます。これにより、法務スキルを持つ人材へのニーズが急増していますが、供給が追いつかず、採用市場は売り手市場となっています。
実際、法務人材の求人数は年々増加し続けており、転職希望者が限られる中で、優秀な候補者には複数の内定が出るケースも多く見られます。その結果、企業が求める人材を採用するまでに長期間を要し、現場では既存スタッフに過大な業務負担がかかり、早期離職を招くという悪循環も発生しています。
採用で求められるスキル・経験
企業が法務人材に求めるスキルは、従来の契約法務や各種法律知識、英語力に加え、ビジネスの現場と密接に連携できる能力へとシフトしています。特に、法的知見を活かして事業成長を支える「ビジネスセンス」や「戦略的思考力」の重要性が増しています。これは、法務担当者が単なるリスク管理要員から、企業価値向上に貢献するパートナーとしての役割を期待されていることを意味します。
また、多くの企業が即戦力を求め、5〜10年程度の実務経験を有する人材を理想としていますが、採用難に対応する形で条件を緩和する動きも見られます。例えば、法学部出身者であれば実務未経験者を採用対象に含めたり、定年退職後のシニア層で経験豊富な人材を積極的に受け入れる企業も増加しています。
法務人材市場の動向と展望
法務人材を取り巻く市場は活発化しており、年収水準の高さや転職市場の動向が注目されています。本節では、年収、転職市場、外部人材との関係性について解説します。
年収水準は高い
法務人材の年収は他の管理部門と比較して高水準にあり、平均で約550~600万円とされています。これは全職種平均(約450万円)を大きく上回る水準です。M&Aや国際法務などの専門性が高い分野を担当する人材は、さらに高い報酬を得る傾向にあります。また、管理職層になると年収は飛躍的に上昇するケースもあります。
転職市場の活発化と外部人材の活用
法務人材の転職市場は非常に活発で、企業の求人増に対し候補者が不足していることから、経験者には複数の内定が出る「売り手市場」が形成されています。また、弁護士が企業へ転身するケースも増加しており、ある調査によると、企業内弁護士の数は2001年の66人から2024年には3,391人へと急増しています。企業は日常的な契約審査などは社内で行い、M&Aや訴訟対応など高度な専門領域では顧問弁護士など外部の力を活用するハイブリッド型の体制を採るのが一般的です。
法務人材のキャリアパス
法務人材のキャリアパスは非常に多様であり、企業内での昇進、企業内弁護士としての活躍、さらには独立開業など、さまざまな選択肢が広がっています。ここでは、代表的な3つのキャリアパスを紹介します。
企業内で昇進し法務部長を目指す
企業の法務部に入社し、長期的に勤務を続けて法務部長やコンプライアンス責任者といった管理職に昇進するルートは、もっとも安定的なキャリアパスの一つです。大企業では給与水準や福利厚生が充実しており、昇進に伴う報酬面での上昇幅も大きいため、腰を据えて働く価値は十分にあります。若手のうちから大手企業の法務部に配属されると、最先端の法務案件や海外取引、M&A対応などに関与する機会があり、幅広い実務経験を積むことができます。
また、法的知識だけでなく、社内調整力やリーダーシップといったマネジメントスキルも求められるようになり、法務部門の組織運営に貢献する存在へと成長していけます。
企業内弁護士として専門性を発揮する
近年、企業内弁護士(インハウスローヤー)の数は大きく増加しており、企業に所属しながら法的専門性を活かすキャリアも注目されています。企業内弁護士は、法律事務所と比べて業務内容が事業に近く、実務的な判断や戦略的対応が求められるため、より深くビジネスに関与できる点が特徴です。また、勤務時間の安定や収入の見通しが立ちやすい点から、ワークライフバランスを重視する法律専門職にとって魅力的な選択肢となっています。
企業内弁護士としてキャリアを積んだ後に、法務部長や経営層へと登用されるケースも増えており、企業法務の中核を担う存在として重視されています。
独立して専門家として活躍する
一定の企業経験を積んだ後、法律の専門家として独立開業する道も選択肢の一つです。弁護士資格のほか、司法書士や弁理士などの国家資格を活かして開業するケースも多く、企業での法務経験を生かして、クライアント企業に対する顧問業務や法務コンサルティングを提供することができます。企業法務に強みを持つ独立系専門家は、スタートアップから上場企業まで幅広く需要があり、自由な働き方を求める人にとっては魅力的なキャリアです。
ただし、営業力や経営視点、自己責任での業務遂行が求められるため、安定した企業勤務とは異なる挑戦が伴います。それでも、専門性を活かしながら自らの裁量で働ける自由度の高さは、多くの法務人材にとってやりがいとなるでしょう。
テクノロジーの発展により法務人材に求められる変化
AIやリーガルテックの発展により、企業の法務業務は大きな変化を迎えています。従来は人手に頼っていた定型的な作業の一部が自動化されつつあり、法務人材には新たな役割とスキルが求められ始めています。
法務業務を変えるテクノロジーの進展
近年、AIによる契約書レビューや法令検索の自動化が進み、法務の定型作業の多くが効率化されています。例えばAI契約レビューソフトを導入すれば、契約書内のリスク箇所を自動で検出でき、人手による確認作業の負担が軽減されます。海外ではすでにAIエージェントを組み込んだリーガルテックの活用が一般的になりつつあり、日本国内でも導入が加速する動きがみられます。
これにより、法務担当者は従来多くの時間を割いていた契約審査や情報収集の一部から解放され、より判断や分析を要する業務に集中しやすくなっています。
法務人材に求められる意識とスキルの変化
テクノロジーの導入は法務人材の役割を変えるものであり、決して仕事を奪うものではありません。法務人材にはAIツールの仕組みを理解し、どのように使えば有効かを判断できる力が求められます。ツールの限界を理解しつつ、人間にしかできない判断や交渉、戦略的思考に注力していく姿勢が今後の実務では重要となります。
さらに、変化の早い環境の中で学び続ける柔軟性や、自ら技術を取り入れて活用する前向きな姿勢も、現代の法務人材に必要とされています。
これからの企業に必要な法務人材戦略を見直そう
法務人材は、契約・訴訟・コンプライアンスからM&A支援まで、企業活動を法的側面から支える不可欠な存在です。採用市場が厳しさを増す中、自社に適した人材を確保し、育成し、長期的に活躍してもらう体制の整備が求められています。また、AIやリーガルテックの進展により、法務の在り方そのものが変化しています。
今後は定型業務の効率化だけでなく、戦略的な判断力や技術との共存力を備えた法務人材の育成が企業の競争力に直結する時代と言えるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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