- 作成日 : 2025年7月9日
契約書の言語条項とは?作成のポイントや例文を解説
契約書は、当事者間の合意内容を明確にする重要な文書です。グローバル化が進む現代では、異なる言語間での契約が増加しており、使用言語の選定や複数の言語で契約書を作成する場合の取り扱いを事前に定めることが、誤解や紛争を防ぐ鍵となります。
言語の壁は契約の明確性を揺るがしかねません。この記事では、言語条項の基本から具体的な定め方、注意点までを解説します。
目次
契約書の言語条項とは?
複数の言語で契約書が作成された場合、言語条項という言語に関する取りきめが行われます。
言語条項の定義と目的
契約書の「言語条項」(Language Clause)とは、契約書が複数の言語で作成された場合や翻訳版が存在する場合に、どの言語版が法的な拘束力を持ち、解釈の最終基準となる「正文」であるかを定める条項です。
主な目的は、言語版間の記述の不一致や解釈の相違が生じた際に、優先する言語版を明確にすることで、将来的な紛争を未然に防ぐことです。これは「予防法務」の考え方に基づくもので、「正文」は法的に当事者を拘束し、契約解釈の最終的な拠り所となるバージョンを指します。
なぜ言語条項が契約において重要なの?
言語は文化と密接に結びついており、ある言語の内容を他の言語で完全に再現することは困難です。この差異が契約解釈に「ずれ」を生じさせる原因となります。
言語条項を適切に定めることで、以下の効果が期待できます。 第一に、契約内容に対する認識の齟齬や誤解のリスクを低減できます。 第二に、紛争発生時、解釈基準が明確であれば、紛争解決が迅速かつ円滑に進む可能性が高まります。 特に国際取引では、言語の壁が契約の安定性を損なう大きな要因となり得るため、言語条項によるリスク管理が不可欠です。
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言語条項が特に必要となるケース
複数言語を使用した契約書の中でも、様々なケースがあります。
正文と別に英語以外の言語の翻訳版を作成する場合
国際ビジネスでは、英語が共通のコミュニケーション手段として広く採用されています。しかし、全ての当事者が英語を母国語とするわけではないため、契約書を英語で作成し正文とする場合でも、各当事者の理解を助けるために母国語の翻訳版が作成されることがあります。ノンネイティブスピーカー間では解釈の揺らぎが生じやすく、言語条項による明確化の必要性が高まります。
英語以外の複数言語で契約書を作成する場合
国際契約では、複数の言語で契約書が作成されることもあります。この場合、どの言語版が法的な拘束力を持つ「正文」で、他がどのような位置づけ(例:参考訳)になるかを言語条項で明確に定めることが絶対原則です。行政機関への届出等で特定の言語による翻訳版が必要な場合も、その翻訳版が参考資料であることを明記することが賢明です。
国内契約でも翻訳版を作成する場合
言語条項は国際契約に限りません。国内契約でも、外国籍従業員の在籍や海外親会社への報告などの理由で、日本語契約書の翻訳版(主に英語)が作成されることがあります。
この場合も、日本語版が唯一の正文であり、他言語版は参考資料に過ぎないことを言語条項で明確に規定することが推奨されます。これにより、翻訳過程でのニュアンスの違いや誤訳が契約解釈に影響を及ぼすことを防ぎます。
言語条項を定めるポイント
契約書でどの言語版を法的に拘束力のある「正文(Original Text / Governing Language)」とするかは極めて重要です。
パターン1:一言語を正文とし、他を参照用とする
最も一般的な方法で、特定の一言語版(例:英語)を「正文」とし、他言語版(例:日本語訳)は「参考用(for reference purposes only)」と位置づけます。矛盾や不一致が生じた際は、正文の記述が常に優先されます。法的安定性が高く、解釈基準が明確になるメリットがあります。
パターン2:複数言語を正文とする
契約書が複数の言語で作成され、その両方を「正文」とし、等しく法的効力を持つと定める方法です。しかし、解釈の相違が生じた場合に紛争解決が複雑化するリスクがあります。法律で現地語契約が義務付けられている場合や、相手方が強く要求する場合に限定的に採用されます。採用する場合は、解釈不一致時の解決プロセスを別途定めておくことが望ましいです。
言語条項の定め方:2つの主要パターン比較
| 特徴 | 一言語を正文、他を参照用 | 複数言語を正文 |
|---|---|---|
| 定義 | 特定の一言語版のみが法的拘束力を持つ | 全ての言語版が等しく法的拘束力を持つ |
| 法的安定性 | 高い(解釈基準が明確) | 低い傾向(解釈の不一致リスク) |
| 紛争解決 | 比較的容易に進むことが期待される | 複雑化・長期化の可能性あり |
| 推奨ケース | 一般的な国際契約、国内契約の翻訳版作成時など | 法的要請がある場合、相手方の強い要望がある場合(極めて慎重な検討が必要) |
| 主なメリット | 解釈の明確性、紛争予防効果が高い | 当事者双方の言語への配慮を示すことができる(ただし実質的な問題解決にはならない場合も) |
| 主なデメリット | 他言語を母語とする当事者にとっては、正文言語の理解補助が必要となる場合がある | 解釈不一致時の対応が困難、翻訳の極めて高度な正確性が要求される |
言語条項の記載例(和文・英文例)
言語条項の記載例を紹介します。
例1(英語正文、日本語参考訳)
- 英文:”This Agreement is made in English and translated into Japanese. The English text is the original and the Japanese text is for reference purposes only. In the event of any conflict, discrepancy or inconsistency between the English text and the Japanese text, the English text shall prevail.
- 和訳:「本契約は、英語で作成され、日本語に翻訳される。英文版を正文とし、日本語版は参考としてのみ作成される。英文版と日本語版との間に矛盾、齟齬または不一致がある場合は、英文版が優先するものとする。」
例2(複数言語正文 – 注意喚起と共に提示)
- 英文:”This Agreement is executed in the English and Japanese languages, both of which shall be deemed equally authentic.
- 和訳:「本契約は、英語及び日本語により作成され、両言語版とも等しく正文としての効力を有するものとする。」 (補足: このパターンは解釈不一致時の紛争解決が複雑化するリスクがあるため、解決方法を別途定めることを強く推奨します。)
「正文(Original Text / Governing Language)」と「参考訳(Reference Translation)」
「正文」は法的拘束力を持つ最終的な拠り所であり、「参考訳」は理解を助ける補助資料で法的拘束力はありません。この区別が曖昧だと、言語条項の意義が失われかねません。
言語条項の注意点
言語条項を定める際に気をつけておくべき注意点について解説します。
翻訳の不一致・解釈の相違から生じるリスク
正文を定めても、翻訳過程での誤訳やニュアンスの不正確な伝達は、当事者間の理解の齟齬を生み、紛争の原因となり得ます。
用語の解釈の違いによるリスク
同じ単語でも、言語や文脈、法制度によって法的な意味合いが異なる場合があります。例えば “shall” や “indemnify”、”reasonable”、”best efforts” といった表現は解釈の幅が生じやすく、リスクとなります。
法制度や契約慣行の違いによるリスク
国際契約では、当事国の法制度(英米法と大陸法など)や契約慣行の違いが、同じ文言でも解釈の差異を生むことがあります。
リスクを回避するための対策
最も根本的な対策は、正文となる契約書の文言自体を明確かつ一義的にすることです。曖昧な表現を避け、平易かつ具体的な言葉を選ぶべきです。
翻訳の品質確保と専門家活用の重要性
契約書の翻訳は高度な専門性が要求されます。誤訳や不適切な訳語は深刻な誤解を招き、法的リスクを引き起こす可能性があります。
機械翻訳や安易な直訳の危険性
機械翻訳は契約書のような専門性の高い文書には依然として不向きです。直訳も不自然な文章になり、原文の意図を正確に伝えられません。
専門家(翻訳家、弁護士)への依頼
契約書の翻訳は、関連法規や業界慣習に精通したプロの翻訳家や弁護士に依頼するのが最も安全確実です。弁護士によるリーガルチェックも有効です。
言語条項に関連する契約条項
言語条項に関連するその他の契約条項についても知っておく必要があります。
準拠法条項(Governing Law)
準拠法条項は、契約の解釈や有効性などを判断する際に適用する法律を定めます。正文言語と準拠法の公用語が異なる場合、法概念の表現や解釈に難しさが生じる可能性があります。
紛争解決条項(Dispute Resolution)
紛争解決条項は、紛争が生じた場合の解決場所(裁判所・仲裁機関)や手続きを定めます。紛争解決手続きの言語が契約書の正文言語と異なる場合、翻訳コストや時間、さらなる翻訳リスクが伴います。
契約書における言語条項は、言葉によるすれ違いを無くすために必要な条項です
言語条項は、特に国際契約において、契約内容の明確性を担保し、言語に起因する紛争を予防するための重要な取り決めです。契約書作成・レビュー時には、状況や取引の性質を考慮し、最適な内容を定めるべきです。
疑問や不安があれば、専門家の助言を求めることが自社を守ることに繋がります。国際的なビジネス環境や関連法規は常に変化するため、最新情報に関心を持ち、知識をアップデートする姿勢が求められます。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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