• 作成日 : 2025年5月14日

情報流通プラットフォーム対処法とは?法改正のポイントと具体的な実務対策

情報流通プラットフォーム対処法は、従来のプロバイダ責任制限法を改正し、インターネット上の誹謗中傷など違法・有害情報への対策を強化した法律です。特に利用者が多い大規模プラットフォーム事業者に対し、権利侵害情報への迅速な対応や削除判断プロセスの透明化などが新たに義務付けられました。この記事では、法改正のポイントや事業者が取るべき実務対策について解説します。

情報流通プラットフォーム対処法とは?

情報流通プラットフォーム対処法とは、インターネット上の誹謗中傷といった違法・有害情報による権利侵害問題に対処するため、従来の「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称:プロバイダ責任制限法)という法律名を変更し、権利侵害問題に対処するための規制内容を追加した法律です。多くの利用者を抱えた大規模なプラットフォーム事業者に対して、インターネット上の違法・有害情報への対応をより迅速に行い、その運用状況を透明化するための新たな措置を義務付けることを目的としています。

情報流通プラットフォーム対処法の改正の背景

情報流通プラットフォーム対処法が改正された背景には、インターネット、特にSNSや匿名掲示板などにおける誹謗中傷やその他権利を侵害する情報の流通が深刻な社会問題となっていることがあります。

従来のプロバイダ責任制限法では、プラットフォーム事業者が誹謗中傷など人の権利を侵害する情報の送信防止や削除に対処する法的義務はなく、被害者救済が迅速に進まないケースがありました。

そこで、大規模プラットフォーム事業者に対し、より積極的な役割を求め、被害の拡大防止と実効性のある救済を実現するために、対応の迅速化と透明性の確保を法的に義務付ける必要性が高まったことが、改正の主な背景です。

情報流通プラットフォーム対処法による対応

情報流通プラットフォーム対処法は、大規模プラットフォーム事業者に対し、権利侵害情報への対応に関して、主に以下3つの側面から具体的な措置を義務付けています。

  • 権利侵害情報の受付・通報体制の整備
  • 調査義務と迅速な削除判断
  • 対応結果の通知義務と透明性の担保

権利侵害情報の受付・通報体制の整備

大規模プラットフォーム事業者は、権利侵害の申出を受け付けるための窓口と手続を整備し、公表しなければなりません。

この申出方法は、 以下の要件を満たす必要があります。

  • Webなどによる電子的な方法による申出ができること
  • 申出者に過重な負担を課さないこと
  • 申出を受けた日時が申出を行った者に明らかとなること

「申出者に過重な負担を課さないもの」の具体例として、以下が挙げられます。

  • トップページから少ないクリック数でアクセスできる等、申出フォームが見つけやすいこと
  • アカウント取得に年齢制限を設けている場合、アカウントを保有できない者であっても申し出られるようにすること
  • 申出者のプライバシー等の権利・利益の侵害を生じさせない形で、削除申出を行うことができること

参考:情報流通プラットフォーム対処法の省令及びガイドラインに関する考え方|総務省

調査義務と迅速な削除判断

権利侵害情報の申出を受け付けた場合、大規模プラットフォーム事業者は、当該申出に係る侵害情報の流通によって当該被害者の権利が不当に侵害されているかどうか、必要な調査を遅滞なく行わなければならない旨が、情報流通プラットフォーム対処法(以下、「法」と表記)第23条で規定されています。

同法24条では、この調査のためには、大規模プラットフォーム事業者は、インターネットで発生する誹謗中傷などの権利侵害への対処に関して十分な知識経験をもつ「侵害情報調査専門員」(弁護士等の法律専門家や、日本の風俗・社会問題に詳しい者など)を選任し、総理大臣に届け出なければならないとされています。さらに、原則として申出を受けた日から7日以内に削除等の措置を行うか否かを判断する必要があります。

対応結果の通知義務と透明性の担保

大規模プラットフォーム事業者には、措置を講じたか講じなかったかの判断結果を申出者に通知することが求められます(法第28条)。

同法では、実際に削除等の措置を行った場合には、その旨を発信者に通知することも義務付けられました。さらに、以下のような措置の実施状況に関する詳細な情報を、原則として年度ごとに公表し、運用の透明性を確保することが求められています。

  • 申出の受付件数
  • 削除件数と理由
  • AIなど自動化手段を用いた削除の利用状況
  • 不服申立ての状況
  • 大規模プラットフォーム事業者が行った事項についての自己評価

情報流通プラットフォーム対処法の対象となる事業者

情報流通プラットフォーム対処法の対象は、「大規模プラットフォーム事業者(大規模特定電気通信役務提供者)」として指定された事業者です。具体的には、提供するサービスについて、以下のいずれかの基準を超える事業者が対象となります(算定期間はいずれも1年間)。

  1. 平均月間発信者数(※)が1,000万人以上
    ※実際に投稿した者に加え、「これに準ずる者として総務省令で定める者」
    (サービスを閲覧等で利用した者(日本国外利用者を除く)も含む)も含む。
  2. 平均月間延べ発信者数(実際に投稿した者の月間延べ人数)が200万人以上

そして、平均月間発信者数の平均が900万以上、または月間延べ発信者数の平均が180万以上の特定電気通信役務の提供者に、総務大臣へこれらの数の報告を求めることとしています(法第20条第3項)。

また、発信者数の要件を満たす事業者でも、一律に大規模プラットフォーム事業者の指定対象となるわけではなく、以下すべての要件が必要です(法第20条第2号・第3号)。

  1. 技術的に、侵害情報の送信防止措置(=削除)を講ずることが可能
  2. 総務省令に定める、権利侵害発生のおそれが少ないサービスではない。

情報流通プラットフォーム対処法に違反した場合の罰則・リスク

大規模プラットフォーム事業者が、情報流通プラットフォーム対処法に違反した場合、重大な罰則や経営リスクが生じる可能性があります。

情報流通プラットフォーム対処法に違反した場合の罰則

情報流通プラットフォーム対処法には、勧告及び命令規定とともに、罰則規定が盛り込まれています。

総務大臣は、大規模プラットフォーム事業者が下表の義務に違反していると認めるときは、その違反を是正するための措置を講ずべき旨を勧告できます(法第30条第1項)。

遵守すべき義務根拠条文
申出方法の公表第22条
専門員の選任・届出第24条
申出に対する対応結果の通知第25条
送信防止措置の基準設定・変更第26条

第1項または第3項

発信者への通知義務(送信防止措置)第27条
措置実施状況等の年次公表第28条

さらに総務大臣は当該事業者が正当な理由なく勧告に対する措置を行わなかった場合は、当該事業者に対し、勧告に沿った措置の命令が可能です(法第30条第2項)。そして、当該事業者がその命令にも違反した場合には罰則があります(法第35条)。その他の罰則については以下のとおりです。

条文違反行為の内容対象者罰則内容
第35条第30条第2項(命令)に違反違反行為者1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
第36条第1号:第21条(届出義務)に違反、または虚偽届出

第2号:第29条(報告義務)に違反、または虚偽報告

違反行為者50万円以下の罰金
第37条第1号を、法人等の業務として第35条または第36条1号に違反した場合法人1億円以下の罰金刑
第37条第2号第36条2号違反を、法人等の業務として行った場合人(行為者)50万円以下の罰金
第38条第1号第1号:正当な理由なく第20条第3項(発信者数等の報告)を怠る、または虚偽の報告

第2号:第24条第3項(専門員の届出)を怠る、または虚偽の届出

違反者30万円以下の過料

代表者や従業員らの行為について、事業者である法人には、1億円以下の罰金が科される場合があります(法第37条)。

情報流通プラットフォーム対処法に違反した場合のリスク

大規模SNS等の運営企業にとって、情報流通プラットフォーム対処法への対応は法令を遵守する上での最重要課題の一つです。仮に法に定められた義務を怠れば、総務大臣から勧告を受けるリスクがあります。また、申出対応の遅延や不備が続くと、追加の報告義務や命令が課され、対応コストがさらに膨らむ可能性があります。

情報流通プラットフォーム対処法にて規定された総務大臣の命令を違反した場合は、法人に対し最大1億円という巨額の罰金を科される可能性があり、経営上も大きな打撃を受けるかもしれません。また、本法に違反し、誹謗中傷やプライバシー侵害への対応が不十分な場合、利用者の信頼を失い、サービスの利用離れが進む可能性もあります。

他の法令との関連性

情報流通プラットフォーム対処法は、既存の法令との整合性や考え方を参考に制定されており、特に個人情報保護法、電気通信事業法、独占禁止法との関係が重要です。以下に、それぞれの法令との関連性を解説します。​

個人情報保護法との関連性

個人情報保護法は、事業者が個人情報を適切に取り扱うための基本的な法律です。一方、情報流通プラットフォーム対処法は、被害者が発信者の情報(氏名や住所など)を開示請求する手続を定めています。

発信者情報の開示は、個人情報保護法でいう「第三者提供」にあたります。通常、第三者提供には本人の同意が必要です。しかし、個人情報保護法には「法令に基づく場合」などの例外があり、同意なしでの提供が認められています。

プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求は、この「法令に基づく場合」に該当する正当な手続です。そのため、プロバイダが法律に従って発信者情報を開示することは、個人情報保護法上も問題ありません。

電気通信事業法との関連性

情報流通プラットフォーム対処法では、以下のような、電気通信事業法における媒介相当電気通信役務の指定や、利用者数の報告義務に関する考え方が参考にされています。

  • 大規模プラットフォーム事業者の指定要件(利用者数の閾値)
  • 総務大臣への報告義務の対象となる事業者の範囲(閾値の9割)

このように、情報流通プラットフォーム対処法は、電気通信事業法との整合性を考慮しながら、新たな制度設計が行われた法律です。

独占禁止法との関連性

独占禁止法は、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できることを目的としています。一方、情報流通プラットフォーム対処法は、インターネットで行われる誹謗中傷などの権利侵害に対応することを目的として、権利侵害情報への対応や発信者情報の開示手続などを定めた法律です。両者は目的と規制対象が異なるため、直接的な規制の重複はありません。

ただし、情報流通プラットフォーム対処法においては、利用者数などで一定規模を超えたプラットフォーム事業者に対し、削除基準の策定・公表や運用状況の透明化などの義務を課します。これは、市場で大きな影響力をもつプラットフォーム事業者の行動を規律する点で、独占禁止法が問題とする市場支配力の濫用防止と、間接的に関係をもつ可能性があります。

国際的な法規制との比較

ここからは、EUのデジタルサービス法(DSA)やデジタル市場法(DMA)、米国のセクション230など各国の主要な法規制との比較を通じて、情報流通プラットフォーム対処法の位置づけを明確にします。

EUのDSA(デジタルサービス法)との比較

EUのDSA(デジタルサービス法)は、情報流通プラットフォーム対処法と同様に違法コンテンツや虚偽情報が掲載された場合の責任や、コンテンツが原因で紛争が起こった際の取り扱いを定めた規則です。

DSAは、情報流通プラットフォーム対処法が定める誹謗中傷被害への対応などを定めた違法コンテンツ対策に加え、アルゴリズムの透明性確保など広範な義務を課しています。違反時には年間売上高の最大6%に及ぶ罰金など厳しい制裁を課す点で、情報流通プラットフォーム対処法よりもさらに厳しいものだといえます。

EUのDMA(デジタル市場法)との比較

EUのDMA(デジタル市場法)は巨大テック企業による市場支配を抑制し、公正な競争環境を実現するための規則です。情報流通プラットフォーム対処法のように両法とも大規模プラットフォーム事業者を指定して規制を行います。しかし、DMAは市場の公正競争を確保するため、大規模プラットフォーム事業者(ゲートキーパー)に対し自己優遇や競合排除の禁止など、競争促進の義務を課す内容になっています。その点において、情報流通プラットフォーム対処法とは異なります。

米国のセクション230条との比較

米国のセクション230条は、インターネット上の情報の自由を尊重した法律です。発言の責任は大規模プラットフォームなどの事業者ではなく、あくまでも発言者が負うと定めています。情報流通プラットフォーム対処法は、違法情報への迅速な削除対応(目安として7日以内)や発信者情報の開示請求など、被害者救済の手続きをプラットフォーム事業者に義務付けた法律です。しかし、セクション230条は被害者救済の手続について、あくまでも事業者の自主的な対応に委ねています。

大規模プラットフォーム事業者は権利侵害ないように適切な対処を

情報流通プラットフォーム対処法は、ネット上の権利侵害問題が深刻になってきたことを受け、旧プロバイダ責任制限法を改正した法律です。特に、一定規模を超える大規模プラットフォーム事業者に対し、新たな義務を課しています。

具体的には、権利侵害を受け付ける窓口の整備・公表、専門員による調査と原則7日以内の削除判断、対応結果の通知、そして削除件数や理由といった運用状況の年次公表による透明性確保が求められます。

違反した場合は勧告や是正命令、さらには罰金(法人は最大1億円)という大きなリスクがあるため、適切な対応が重要です。


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