- 更新日 : 2025年5月14日
民法415条とは? 損害賠償請求の要件や範囲をわかりやすく解説
民法415条は、債務不履行があった場合に損害賠償を請求できる根拠となる法律です。契約通りに履行されなかったとき、どのような条件で賠償が認められるのかが定められています。「納期に遅れた」「内容が違った」。そのようなときに使われる条文ですが、適用にはポイントがあります。
この記事では、民法415条の基本から、損害賠償請求の要件や範囲までわかりやすく解説します。
目次
民法415条とは
契約違反があったときに、相手に損害賠償を請求できる。
民法415条は、そのような場面で使用される条文です。取引や契約の現場では、「納期に遅れた」「約束と違う内容だった」といったトラブルが発生することがあります。そうしたとき、損害を補ってもらうための法的な土台になるのが民法415条です。
以下では、条文の内容や損害賠償が認められる条件などを、わかりやすく解説していきます。
民法415条の概要
民法415条は、「債務を果たさなかったことで相手に損害が出た場合、その損害を賠償しなければならない」と定めたものです。
契約などで生じた義務(債務)を守らなかったとき、相手に損害が出ていれば、その損害を補う責任が生じます。
例えば、工事の納期に遅れてしまい、発注者の事業に影響が出た場合、その損害を補償するよう求められることになります。
こうした責任を追及する根拠となるのが民法415条です。つまり、「契約は守るべきもの」という当たり前のルールを、法的に裏付けている条文ともいえるでしょう。
民法第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
参照:e-Gov法令検索
民法415条は債務不履行に基づく損害賠償の法的根拠
民法415条は、債務不履行に対して損害賠償を請求するための「根拠」となる条文です。
具体的には、売買契約や業務委託契約などで、約束通りに履行されなかった場合です。取引先や業務の依頼相手など、契約の相手方に損害が出てしまったとき、ただ「困った」と言っているだけでは何も解決しません。法的なよりどころをもって損害を埋め合わせてもらう必要があります。
そこで役立つのが、民法415条です。契約違反によって発生した損害に対し、法的に請求ができるという点で、非常に重要な役割を担っています。
トラブルが起きたとき、「それは民法415条に基づいて請求できる内容かどうか」を確認することが、最初の一歩になります。
天災など債務者に責任がない場合は、損害賠償は請求できないと規定
民法415条では、債務者に責任がない場合には、損害賠償を求めることはできません。
例えば、地震や台風などの自然災害によって、どうしても契約通りの履行ができなかった場合、あるいは、本人の努力では防ぎようがなかった事態が起きた場合などが該当します。
こうしたケースでは、「債務不履行」とはいっても、債務者に責任があるとはいえないため、損害賠償請求の対象にはなりません。
民法415条は、「契約違反=必ず損害賠償」という一方的な内容ではなく、責任の有無をていねいに見極める視点ももち合わせている条文なのです。
債務不履行とは
契約で約束された内容が守られなかった場合、それは「債務不履行」の法的な問題として扱われます。債務不履行は状況によっていくつかのパターンに分かれます。
以下では代表的な4つのケースと、不法行為との違いについて見ていきましょう。
履行遅滞
履行遅滞とは、「約束の期日までに義務を果たさなかった状態」を指します。
契約で決められた期限までに、取引先や業務の依頼相手などが義務を履行しない場合、それは債務不履行となります。
例えば、納品日が過ぎても商品が届かない場合が典型です。発注者や依頼主など、商品を受け取る側に損害が出ていれば、損害賠償を請求できる可能性があります。
つまり、債務者には履行する能力があるのに期日を守らなかった場合、それだけで法的な責任を問われることがある、ということです。
履行不能
履行不能とは、「契約の内容が実行できなくなった状態」をいいます。
履行が不可能になった理由が、債務者本人の過失か、または予期せぬ事故や自然災害かに関係なく、実際に義務を果たせない状況になれば、それは履行不能となります。
具体的には、売買契約を締結し、引き渡す予定だった物が火災で焼失してしまったような場合、販売者はその契約を履行すること自体ができなくなります。
履行不能になると、その時点で債務不履行が成立します。債務者に落ち度がある場合には、損害賠償の対象になることもあります。
履行拒絶
履行拒絶は、「やるべきことができるにもかかわらず、明確にやらないと表明した状態」です。これは、能力や手段があっても、債務者本人の意思で履行を拒んでいるケースにあたります。
例えば、契約通りに納品することは可能であるにもかかわらず、「もう取引したくない」などと一方的に契約を打ち切った場合が該当します。
こうした債務者の行為は、信頼関係を前提とする契約のルールに反するため、重い債務不履行として扱われ、賠償責任も大きくなる傾向があります。
不完全履行など、その他
不完全履行は、「一応、債務者により契約は履行されているが、内容に不備がある状態」です。
契約の「形」は守られていても、期待していた「中身」が不十分なケースを指します。
具体的には、建築工事が予定通り終わっても、断熱材のグレードが契約と違っていたり、施工ミスがあったりする場合などがこれにあたります。
こうした場合も、発注者が本来得られたはずの利益を損なっていれば、債務不履行と見なされることがあります。
債務不履行と不法行為の違い
債務不履行と不法行為は、どちらも損害賠償を請求できる場面がありますが、その出発点が違います。
債務不履行は「契約関係がある」ことが前提です。契約に違反したことで損害が出た場合に請求できます。
一方、不法行為は契約がなくても成立します。例えば、他人の物を壊したり、名誉を傷つけたりした場合などが該当します。
つまり、「契約に基づく場合」が債務不履行、「契約に基づかない場合」が不法行為と覚えておくとよいでしょう。
債務不履行のよくあるケース
債務不履行は法律の世界だけでなく、私たちの身近な場面でもよく起こります。以下では、実際の取引や仕事の現場でありがちな例をもとに、債務不履行がどのような形で現れるのかを見ていきましょう。
納品の遅れ
もっともよくあるのが「納期に間に合わなかった」というケースです。例えば、イベントで使うチラシの印刷を制作会社に依頼していたのに、当日になっても届かない、といったケースです。
こうした遅延は、発注者にとって大きな損失につながるため、履行遅滞として損害賠償の対象になる可能性があります。
完成しているが内容に不備がある
建築工事やシステム開発などで、「完成はしているけれど契約通りの内容ではない」という場合もよくあります。具体的には、「キッチンの設備が契約と違っていた」「セキュリティ要件を満たしていないシステムが納品された」などです。
こうしたケースは不完全履行とされ、修補や賠償の対象になります。
契約の一方的なキャンセル
業務委託やフリーランス契約で、「やっぱりやめます」と発注者から一方的に依頼の中止を伝えられることがあります。例えば、デザインのラフが仕上がった段階で突然キャンセルされた場合は、履行拒絶として損害賠償を請求できる可能性があります。
債務不履行に基づく損害賠償請求の要件事実
債務不履行に基づいて損害賠償を請求するには、法律上、「要件事実」と呼ばれる4つの条件を満たしている必要があります。損害賠償請求には、単に契約が守られなかったというだけでは足りず、損害との関係性まで立証する必要があるということです。
それぞれの内容を見ていきましょう。
1. 債務の存在
まず前提となるのは、契約や法律に基づいて、履行すべき債務があったかどうかです。売買契約や業務委託契約など、当事者間に明確な約束があれば、この要件は満たされます。
2. 債務不履行の事実
次に、その債務が債務者によって履行されなかったことが必要です。債務不履行は、履行遅滞(期限を過ぎても履行しない)、履行不能(履行自体ができなくなる)、不完全履行(契約通りの内容を果たさなかった)といった形で現れます。
3. 損害の発生
契約違反があっただけでは賠償請求はできません。実際に金銭的・実務的な損害が発生していることが必要です。例えば、納品の遅れにより販売機会を失ったなど、具体的な損害が求められます。
4. 債務不履行と損害の因果関係
最後に重要なのが、債務不履行と損害の間に「相当な因果関係」があるかどうかです。つまり、「契約が守られていれば、損害は起きなかった」といえるかどうか。これが証明できなければ、損害賠償は認められません。
債務不履行に基づく損害賠償の請求範囲
債務不履行によって損害が生じた場合、すべてが自動的に賠償の対象になるわけではありません。法律上、損害と債務不履行との間に「相当な因果関係」があると認められるものに限り、損害賠償の請求ができます。
請求の対象となるのは、例えば、余計にかかってしまった費用や、本来得られるはずだった利益などです。つまり、「約束通りに履行されていれば発生しなかった損失」が、損害賠償の範囲に含まれるという考え方です。
逸失利益や履行されていれば発生しなかった出費は請求範囲に含まれる
債務者の債務不履行によって、債権者が利益を失ったり、余分な支出を強いられたりした場合、それらは損害賠償の対象になります。
具体的には、販売予定だった商品の納品が遅れたことで商機を逃した場合、発注者が本来得られたはずの利益(逸失利益)は「損害」として認められる可能性が高いです。また、発注した業者からの納品が間に合わず、別の業者に急ぎで発注し直した場合、その追加コストも「履行されていればかからなかった出費」として請求できます。
ただし、すべての損害について請求できるわけではありません。ポイントは、損害と債務不履行との間に明確な関係があるかどうかです。つまり「その契約違反がなければ、この損害は起きなかった」と合理的に説明できる必要があります。
損害賠償を請求する際は、感情や印象ではなく、冷静に事実を整理し、根拠を示すことが求められます。裏付けがない主張は通らないのが、法的な場面の特徴です。
民法415条に関連する判例
民法415条が争点となる裁判は多くありますが、裁判所がどのような観点から損害賠償の可否を判断しているかを知ることは、実務においても重要です。ここでは、契約違反による損害賠償が争われた代表的な判例を3つ取り上げ、判断のポイントを解説します。
代理店・秘密情報事件(東京地裁 令和5年8月24日)
この事案は、販売代理店契約に基づいて支払われた契約保証金について、契約終了後に返還が拒否されたため、その返還を求めた事案です。
原告販売代理店は、商品仕入れの保証金として被告メーカーへ預けた300万円の返還を求めました。被告は「秘密情報が漏えいした」と反訴しましたが、裁判所は情報の特定が不十分として反訴を退けました。その上で、被告が保証金全額と令和4年1月12日以降の年3%利息を負担すると判断し、交渉破談時の返還義務を明確にしました。
ゲーム機開発交渉事件(最三小判 平成19年2月27日)
この事案は、商品の開発・製造契約の締結をめぐり、契約成立前に取引期待を抱かせた相手方に対する信義則上の注意義務違反を理由とする損害賠償請求が争われたものです。
原告開発会社Xは、被告商社Yから「200台発注」と口頭で告げられ、試作機製造や部品購入費を先行負担しました。交渉が決裂して費用を回収できず損害賠償を請求。最高裁は「契約締結前でも相手を誤導する発言は信義則違反」と示し、Y社にX社が投じた費用全額の賠償義務を認めて差し戻しました。企業間交渉での過度な楽観発言が生むリスクを示す判例です。
特許使用料返還事件(大阪地裁 令和4年8月25日)
この事案は、特許使用許諾契約に基づき支払われた特許使用料について、契約解除に伴う原状回復請求が争われたものです。
原告機械メーカーは、被告特許権者が約束していた技術情報を開示しなかったとしてライセンス契約を解除し、支払済み使用料1080万円と利息の返還を請求しました。裁判所は被告に開示義務違反の過失があると認定し、使用料全額と旧商法年6%利息の返還を命じました。本件は、技術ライセンスにおける情報提供義務の重さを示す実務上の指針となっています。
債務不履行に基づく損害賠償請求の時効
時効とは、一定期間権利が行使されないと、その権利が消滅する法的制度です。この制度は、証拠の散逸を防ぎ、法的安定性を確保するために設けられています。2020年4月の民法改正により、債務不履行による損害賠償請求権の消滅時効は次のように定められました。
債権者が損害および債務者を知った日(主観的起算点)から5年間、あるいは権利を行使できるようになったとき(客観的起算点)から10年間のいずれか早い方が経過すると、請求権は時効により消滅します。これは「二重の期間制限」と呼ばれる仕組みです。
例えば、納品されるべき商品が届かず損害が発生したと知った日から5年、または債務不履行の発生時から10年が経過すると、債権者はもはや損害賠償を請求することができなくなります。
時効の完成を避けるためには、期間内に訴訟提起などの法的手続きを取ることが重要です。一度時効が完成すると、相手方が時効を援用することで、請求権は完全に消滅します。
権利を守るためには、問題が発生したらすみやかに適切な対応を取ることが必要です。
民法415条の要点を押さえ、債務不履行による損害賠償トラブルを防ごう
民法415条は、契約違反(債務不履行)があった場合の損害賠償請求を認める法的根拠です。損害賠償を請求するには「契約内容」「違反の事実」「損害の発生」「因果関係」が必要で、債務者に責任がないケースでは賠償請求は認められません。
例えば、納品の遅れで損失が出たとしても、それが契約違反と直接つながっていなければ認められないこともあります。
つまり、トラブルが起きたときに備えて、契約内容ややり取りの記録を残しておくことが、損害賠償を求める上での「備え」になります。
納期遅れ、内容の不備、契約破棄など、日常の取引でもよくある事例を踏まえ、正しい理解でトラブルに備えましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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