• 更新日 : 2025年5月7日

民法601条とは?使用収益させる義務や騒音トラブルの判例などわかりやすく解説

民法601条は賃貸借契約の効力に関する規定です。貸主の「使用収益させる義務」と借主の「賃料支払い義務」を定めており、これに違反する場合、契約解除や損害賠償請求などにつながることもあります。

本記事では、民法601条が定める「使用収益させる義務」の意味や違反するケース、違反があった場合に発生する借主の権利などを解説します。

民法601条(賃貸借)とは

民法第601条は、賃貸借契約の基本的な効力を定めた規定です。この条文では、貸主がある物の使用および収益を借主にさせることを約束し、借主がその対価として賃料を支払うこと、および契約終了時には借主がその物を返還することを定めています。これらの合意によって、賃貸借契約は成立します。

ここでは、民法601条の概要に加えて、借地借家法との違いや、同条に基づく「使用収益させる義務」の意味とその重要性について解説します。

民法601条と借地借家法の違い

民法第601条は、賃貸借契約に関する一般的なルールを定めた基本法です。一方、借地借家法は、特に建物の賃貸借を対象とする特別法にあたります。

このため、借地借家法が適用される場合には、民法よりも借地借家法の規定が優先されます。

ただし、借地借家法に明文の規定がない内容については、補完的に民法が適用されるという関係です。

民法601条の使用収益させる義務とは

民法第601条は、賃貸借契約において、賃貸人が賃借人に目的物を使用および収益させる義務があることを定めています。「使用」とは借主がその物を自由に使えることであり、「収益」 とは、借主がその物から利益を得られることです。

この義務には、目的物を使用収益に適した状態にして引き渡すことはもちろん、引き渡し後も、借主が目的物を適切に使用・収益できるよう配慮するという、継続的かつ積極的な義務が含まれると解されています。

参考:e-Gov法令検索 民法

民法601条の使用収益させる義務に違反するケース

民法第601条の使用収益させる義務に違反する場合として、次のようなケースがあげられます。

  • 物件の引き渡しができない
  • 重大な瑕疵がある

それぞれの内容を詳しく解説します。

物件の引渡しができない

賃貸人は、賃貸借契約の成立に伴い、民法第601条に基づき、目的物を借主が使用・収益できるような状態で提供する責任を負います。

この義務には、単に物件を引き渡すだけでなく、契約上の用途に応じて適切に利用可能な状態であることが求められます。

仮に契約が締結されているにもかかわらず、物件の引き渡しがなされない場合には、貸主はこの「使用収益させる義務」を果たしていないとされ、601条に反する状態となる可能性があります。

重大な瑕疵がある

民法第601条の「使用収益させる義務」は、単に賃貸物件を引き渡すだけではなく、賃借人が適切に使用・収益できるよう配慮する義務も含まれます。そのため、物件に雨漏りや配管の故障、カビの発生、害虫の蔓延といった問題があるなど、賃借人の使用・収益が妨げられる重大な瑕疵がある場合、賃貸人はこれを是正する対応が必要です。

また、賃借人にとって居住に適さない状態が生じたときは、賃貸人がそれを解消し、居住可能な状態にする義務を負っています。

たとえば、同じ物件内に居住する他の賃借人が迷惑行為をしている場合には、その行為をやめさせる措置を講じることも、「使用収益させる義務」のひとつです。

民法601条に違反した場合の借主の権利

貸主が民法第601条に違反した場合、借主には違反の内容に応じて権利が発生します。

ここでは、民法第601条違反において借主に発生する権利を紹介します。

自己修繕権(民法607条の2)

自己修繕権とは、借主が一定の条件のもとで、自ら賃貸物件の修繕を行うことができる権利です。これは、2020年の民法改正によって新たに明文化された制度で、貸主が修繕義務を適切に履行しない場合に、借主の利益を守るために設けられました。

この権利が認められるのは、以下のような状況です。

  • 借主が修繕の必要性を貸主に通知したにもかかわらず、貸主が相当な期間内に修繕を行わない場合
  • 貸主による修繕を待てないほどの「急迫の事情」がある場合

上記の条件のもとで借主が自ら修繕を行った場合、民法608条1項に基づき、貸主に対して修繕費用の償還を請求することが可能です。

修繕請求(民法606条)

賃貸借契約中に賃貸物が損傷した場合、基本的には貸主がその修繕責任を負うとされています(民法606条1項)。このため、借主は貸主に対して修繕の実施を求めることが可能です。

しかしながら、損傷の原因が借主自身の不適切な使用や管理にある場合については、従前の民法では、貸主が損害賠償の形で修繕費を借主に請求できるにとどまっていました。改正後は、借主に落ち度があるときには貸主に修繕義務が発生しないことが明記されています。

したがって、損傷の責任が借主にある場合には、修繕の要求を行うことはできません。

賃料の減額(民法611条)

民法611条では、賃借物の一部が滅失、あるいはその他の事情によって借主が物件の利用または利益を得ることができなくなった場合で、かつその原因が借主にあると認められないときには、使用不能となった部分に応じて賃料が減額されることが定められています。

この制度により、借主が個別に減額請求をしなくても、対象部分が利用できなくなった時点から当然に賃料は減少する扱いとなります。

旧民法にも、賃貸物の一部滅失時に賃料を減じる規定は存在していましたが、設備の機能停止や劣化など、物理的な「滅失」以外によって利用が困難になるケースについては、明確な規定がありませんでした。この点が、2020年の法改正で新たに明文化されています。

契約解除(民法541条・542条・611条2項)

貸主が義務を履行しない場合、借主は相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときは、民法541条に基づき契約を解除できます。ただし、債務不履行が契約や取引上の社会通念に照らして軽微である場合、解除はできません。

また、民法542条では、債務の全部の履行が不能な場合や、貸主が履行を拒絶する意思を明確に表示した場合には、催告なしで契約を直ちに解除できることが規定されています。

さらに、民法611条2項では、賃貸物の一部が滅失し、残りの物件では借主が契約の目的を達成できない場合に、契約を解除できることを定めています。これは、2020年の民法改正により新たに設けられた規定です。

損害賠償請求(民法415条)

貸主が債務を契約どおりに履行しない、あるいは履行が不可能となった場合、借主は民法415条に基づいて、これによって被った損害の賠償を求めることが可能です。

ただし、契約内容や取引の社会通念などを踏まえ、貸主に責任がないと判断される場合には、この限りではありません。たとえば、地震や洪水といった自然災害、または法改正による規制強化など、予測が難しい事象によって債務が履行できなくなったときは、損害賠償を請求できないケースもあります。

参考:e-Gov法令検索 民法

民法601条に関する判例

民法601条の「使用収益させる義務」に関して、裁判で争われた事例があります。

詳しくみていきましょう。

建物に重大な瑕疵があった事例

衣料品販売店舗の賃貸借において、同じビル内のテナントから発生する悪臭が借主の営業活動に悪影響を及ぼしていた事例で、裁判所は「貸主はその状況を改善するための措置を講じる責任がある」と判示しました。

貸主は、借主に目的物を使用・収益させる義務があり、借主の使用に支障が生じた場合には、その原因を取り除かなければならないというのが、裁判所の見解です。

騒音トラブルがあった事例

集合住宅の騒音が問題となった事例では、音の大きさや頻度などが「社会通念上、通常受け入れられる範囲(受忍限度)」を超えているかがポイントとなっています。

上階や隣室の生活騒音により居住に適した状態ではなくなっている場合、貸主には使用収益をさせる義務により、生活騒音の発生をやめさせるなどして建物を居住に適した状態に回復させなければなりません。

このような音による問題が法的に問題とされるか否かの判断について、裁判所は被害者個人の感じ方ではなく、一般人の平均的な感覚を基準にして、音が許容できる範囲を超えているかを判断するという考えを示しました。

集合住宅ではある程度の音は避けられず、一定レベルまでは相互に我慢が必要とされますが、その限度を明らかに超える騒音や振動が他人の生活を著しく妨げる場合、それは社会的にも許容されず、不法行為として損害賠償などの対象となる可能性があるとされています。

民法601条に違反しないためのポイント

民法第601条の「使用収益させる義務」に違反しないためには、貸主が物件を賃貸にあたって、借主が適切に使用し収益できるように維持・管理することが求められます。

違反しないための具体的なポイントをみてみましょう。

賃貸物件の引渡し時の状態を確認する

賃貸物件の引渡し時点で、借主が契約上の目的(居住や営業など)を達成できるような適切な状態であるかどうかを確認することが重要です。もし目的の達成が困難な状態である場合、それは「適切な引き渡し」ではなく、貸主は民法第601条に基づく「使用収益させる義務」を果たしているとはいえません。

雨漏り、建物の破損、設備の不備、害虫の発生などがないかどうかを、引渡し前に十分に確認しておく必要があります。

継続的な維持・管理を行う

貸主は、民法第601条に基づく「使用収益させる義務」を適切に履行するため、賃貸物件の引渡し後も、必要に応じて修繕や是正措置を講じ、借主が物件を支障なく使用できるよう努めなければなりません。

たとえば、設備の故障、騒音、悪臭、カビ、漏水など、使用や収益の妨げとなる問題が発生した場合には、速やかに対応する必要があります。

他の借主や第三者の迷惑行為に対応する

他の入居者の騒音や悪臭などによって借主の使用が妨げられている場合、貸主はその問題を是正する義務を負います。裁判例においても貸主がその義務を怠った場合に、法的な責任を問われることが認められています。

これらの迷惑行為を放置すると、民法601条違反とみなされるおそれがあるため、適切に対処しなければなりません。

民法601条の「使用収益させる義務」を守ろう

民法601条は、賃貸借契約全般に適用される基本的かつ重要なルールであり、貸主は賃貸物を借主に「使用収益させる義務」を負っています。

この「使用収益させる義務」には、単に物件を引き渡すことにとどまらず、引き渡し後も借主が契約の目的を達成できるよう、適切な状態を維持するよう配慮することが含まれます。物件の使用が妨げられている場合、貸主はその問題の是正に対応しなければなりません。

貸主は601条の趣旨を正しく理解し、義務を継続的に履行する姿勢が求められます。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事