• 作成日 : 2025年5月7日

商法における契約不適合責任とは?民法との違いや期間などをわかりやすく解説

商法における契約不適合責任とは、商人同士の売買において、引き渡された目的物に不具合や品質不良などがあった場合に売主が負う責任のことです。本記事では、商法と民法による取り扱いの違いや、通知期間が6ヶ月とされる商法526条のポイント、契約書への盛り込み方法まで、実務で押さえるべき知識をわかりやすく解説していきます。

商法における契約不適合責任とは

商法における契約不適合責任とは、商人間の売買において、引き渡された商品が契約の内容に適合していない場合に売主が負う責任です。品質不良や数量の不足、種類の違いなどがあった場合に、買主は売主に対して一定の請求を行えます。

契約不適合責任に関する商法の条文

商法第526条には、商人間の売買における契約不適合責任の扱いについて定められています。特に注目すべきは、買主が商品を受け取った後、一定期間内に不具合があったことを告げる通知をしなければ、責任を問えなくなるという点です。

(買主による目的物の検査及び通知)

第五百二十六条 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。

2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が六箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。

3 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。

引用:e-Gov法令検索 民法

具体的には、「買主が目的物の引渡しを受けたときから6ヶ月以内に不適合を通知しなければ、売主は責任を免れる」という規定が設けられています。これは民法の1年より短く、ビジネスのスピード感を重視した、商法ならではの特徴といえるでしょう。

ただし、通知期間については当事者間の契約で変更することも可能であるため、契約書における期間設定も重要なポイントです。詳しくは後述しますが、期間については双方の合意のもと、任意で設定することも可能となっています。

民法改正で瑕疵担保責任が契約不適合責任に変更

2020年4月の民法改正により「瑕疵担保責任」は廃止され、「契約不適合責任」に一本化されました。契約上の目的に適合しているかどうかが責任発生の判断基準となり、「隠れた瑕疵」に限定されていた旧制度よりも、柔軟で明確な対応が可能になりました。

また、従来の瑕疵担保責任では明文化されていなかった「追完請求」や「代金減額請求」の権利も、契約不適合責任として明確に条文化されています。買主は損害賠償や契約解除だけでなく、商品修補や代替品請求など、実務に即した多様な対応が可能になりました。商法においても、民法の新ルールとの整合性を意識しながら運用されています。

商法と民法の契約不適合責任の違い

契約不適合責任は、民法と商法のどちらにも規定がありますが、対象や通知期間などの点で明確な違いがあります。ここでは、商法と民法の契約不適合責任の違いについて解説します。

買主による通知期間の違い

もっとも大きな違いは、契約不適合を売主に通知すべき期間です。民法第566条によると、不適合を知ったときから1年以内であれば通知が可能とされています。これにより、買主が不適合に気づくまでの余裕が確保されます。

一方、商法第526条では、商品受領後にただちに検査を行い、異常があれば「遅滞なく通知」しなくてはなりません。さらに、引渡しから6ヶ月を超えると、不適合があっても通知できなくなるという厳しい制限が設けられています。

つまり、商法では「発見のタイミング」よりも「引き渡しからの期間」が重視されているという点が異なっています。

買主がとれる救済手段の違い

民法では、種類や品質、数量いずれに関しても不適合が認められた場合、買主は追完請求(修補や代替品の要求など)、代金減額、損害賠償、契約解除といった複数の救済手段を選択できます。

これに対し、商法においても、基本的には同様の救済手段が認められていますが、前提として「通知が遅れると一切請求できない」という点が大きな違いとなっています。そのため、商人間取引においては、契約段階から検査義務や通知期限について合意を明文化しておくことが大切です。

なお、契約不適合責任に関する民法・商法の規定は、いずれも「任意規定」であり、契約書で異なる定めをしても基本的には有効です。つまり、当事者が契約書で通知期間を短縮・延長したり、追完の方法を限定したりすることも可能となっています。

商法の契約不適合責任が適用される商人間の売買とは

商法の契約不適合責任が適用されるのは、「商人間の売買」に該当する取引です。

商人とは、自己の名で反復継続して商行為を行う者を指し、法人(会社)だけでなく、個人事業主も含まれます。つまり、事業として取引を行う者同士の売買契約が対象となります。

例えば、メーカーと卸業者の間の製品売買、飲食店と仕入れ業者との間の食材取引など、業務の一環として継続的に行われる売買契約が該当します。このような取引では、スピードと効率が重視されるため、民法とは異なる独自のルールが設けられており、その一つが商法における契約不適合責任です。

商法の契約不適合責任が認められる要件

商法において契約不適合責任が認められるためには、一定の要件を満たす必要があります。

具体的には、以下の2つの要件を満たさなければなりません。

契約不適合の通知期間(6ヶ月)

商法第526条によると、目的物の不具合がただちに発見できない場合であっても、買主は引渡しから6ヶ月以内に不適合を発見し、売主に通知しなければならないと定められています。

「6ヶ月以内」という期間は、買主が契約不適合責任を追及するために守らなければならない通知期限であり、これを過ぎると請求が認められなくなる可能性があります。

民法では不適合を知ってから1年以内とされていますが、商法ではより短期間での対応が求められ、迅速な取引を前提とした商人間のルールが反映されています。

契約不適合を発見した場合の買主の通知義務

買主は、商品を受け取った際に速やかに検査を行い、種類、品質、または数量に不適合があると判断した場合には、「ただちに」売主に対してその旨を通知する義務があります。

この「ただちに」という表現は明確な日数が定められているわけではありませんが、通常は1週間以内程度が目安とされることが多く、遅れるほど正当性が問われやすくなります。通知を怠った場合、たとえ不適合があっても、追完請求や損害賠償、契約解除といった法的手段を取ることはできなくなります。

ただし、売主がもともと不適合を知っていた(悪意であった)場合には、この通知義務は免除され、買主は期間に関係なく責任追及をすることが可能です。

商法の契約不適合責任が認められた場合の買主の権利

商法に基づいて契約不適合責任が発生した際、買主にはいくつかの救済手段が認められています。原則として民法の規定がベースとなり、商法に特別な定めがない限りは、民法のルールが補完的に適用されます。

商人間の売買契約においても、引き渡された商品が契約の内容と異なる場合には、買主は一定の法的手段を講じることが可能です。代表的なものとして、代金の減額請求、契約の解除、損害賠償請求が挙げられます。

代金減額請求

不適合が判明した場合、まず買主は売主に対して、修補や代替品の引渡しといった「追完」を求めるのが基本的な流れです。ただし、売主が追完に応じない、あるいはそれが不可能であると判断される場合には、買主は支払代金の一部について減額を請求できます。

本来は追完の催告を行ってから減額請求に至るのが原則ですが、売主が追完を明確に拒否しているケースや、追完が物理的に不可能な場合には、催告なしでの減額請求も許容されると解されています。

なお、契約不適合の原因が買主にある場合には、減額請求を行えません。

契約解除

契約の目的を達成できないほどの重大な不備がある場合には、買主は契約の解除を求めることができます。例えば、提供された製品に致命的な欠陥があり、実用に耐えないような場合が該当します。

解除の前提としては、原則として売主に対して相当期間を設けて追完を求め、それでも対応がなされないときに解除が可能となります。ただし、例外として、履行が不可能なときや、履行の遅れにより契約目的が達成不能となる場合には、催告なしでの解除も認められることがあります。

もっとも、買主側に契約違反や過失があるような場合には、解除権の行使が制限される可能性がある点には注意が必要です。

損害賠償請求

契約の不適合によって損害が生じたときは、買主はその損失の補償を売主に対して請求することができます。例えば、不良品の納品により業務に支障が出て損害を被った場合などがこれに当たります。

損害賠償の請求は、追完請求や減額請求と同時に進めることもでき、契約を解除した後であっても継続的に行使することが可能です。ただし、売主に契約不適合についての責任(故意や過失など)が認められない場合には、損害賠償は認められません。

契約不適合責任について契約書に定める場合の条文例

契約不適合責任については基本的に任意規定であり、契約書内において当事者間で内容を自由に変更・補足することが可能です。契約書にどのような条文を盛り込むかによって、売主・買主双方のリスクや権利義務の範囲は大きく変わってくるでしょう。

ここでは、実務上よく使用される契約不適合責任条項の文例を紹介しつつ、買主側・売主側それぞれの立場でどのような文言を設定・修正できるのかを解説します。

契約不適合責任条項の基本例

以下は、契約不適合責任を定める基本的な条文例です。

第◯条(契約不適合責任)

1. 本商品の納入後、検査で発見できなかった契約不適合が存在する場合において、買主が納入日から1年以内に売主に通知を行ったときは、売主は、買主の選択に従い、修補、代替品または不足分の納入、もしくは代金の減額を行うものとする。本項は、買主の損害賠償請求や契約解除の権利を妨げるものではない。

2. 前項に定める通知を行わなかった場合、買主は契約不適合を理由とする一切の請求を行うことができない。ただし、売主が当該不適合を知っていたか、重大な過失により知らなかった場合にはこの限りでない。

買主側の視点で検討すべき修正ポイント

買主側では、以下の視点が検討すべきポイントとして挙げられます。

1. 追及可能な期間を延ばす

買主の立場では、通知可能な期間を「納入後1年」またはそれ以上に設定し、6ヶ月という商法の規定より長くしておくことで、リスクヘッジが可能です。

2. 通知のタイミングに幅をもたせる

「ただちに通知」ではなく、「合理的な期間内」と表現することで、買主が柔軟に対応できる余地を持たせます。

3. 追完方法の選択権を明確化

民法では原則として買主に選択権がありますが、これを明示的に記載し、売主側が別の方法で代替しないよう制限することが可能です。

4. 催告不要の代金減額請求

代金減額請求についても、あらかじめ催告が不要であることを契約条項に定めておくことで、迅速な対応が可能になります。

5. 損害賠償・解除権の留保を明記

修補や代金減額に加えて、損害賠償や契約解除の権利が保持されることを条文内で明記することで、法的リスクに備えられます。

売主側の視点で検討すべき修正ポイント

売主側では、以下の視点が検討すべきポイントとして挙げられます。

1. 責任追及の期間を短縮する

通知可能期間を「納入後1ヶ月以内」などに短縮することで、将来のクレームリスクを早期に打ち切ることが可能になります。

2. 検収後の責任免除を定める

「検査合格後は責任を負わない」といった形で、検査の完了によって売主の責任が終了する旨を明記しておくことが考えられます。

3. 免責条項の範囲を広げる

買主が契約不適合について悪意または重過失であった場合、売主が責任を負わないとすることで、自衛的な効果を持たせられます。

4. 責任範囲の限定

損害賠償について、「通常かつ直接の損害に限る」「上限金額を設定する」などの制限を設けておくと、過大な請求リスクを回避できます。

契約不適合責任は商法と民法の違いを踏まえ契約書に反映

契約不適合責任は、民法・商法の両方に定められている法的責任です。特に商法では、商人間取引において商品引渡し後、6ヶ月という短い期間で通知を行わないと、売主に対して請求ができなくなるというルールが定められています。

民法との違いや、商法第526条のポイントを理解し、自社の立場に応じた契約条項を設計・レビューすることが、トラブルを未然に防ぐ第一歩です。特に売買契約を頻繁に取り扱う企業にとっては、形式的な契約書ではなく、リスクに対応した実務的な条文設計が求められるでしょう。契約において少しでも不安を感じる場合は、弁護士をはじめとする法律の専門家への相談がおすすめです。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事