- 作成日 : 2025年5月7日
民法における契約の解除とは?解約との違いや改正による変更点もわかりやすく解説
民法上の契約の解除とは、法的要件を満たした場合、一度成立した契約の効力を一方的に消滅できる制度です。2020年の民法改正により規定がより明文化され、契約解除は取引実務に即した運用へ整備されました。本記事では、契約解除の意義や手順、解約・無効・取消しとの違い、解除できない場合の理由を解説します。
目次
民法における契約の解除とは
民法における契約の解除とは、一度成立した契約の効力を、当事者の一方的な意思表示によって、過去に遡り遡及的に消滅させる制度です。解除の意思表示により効力が一度生じれば、その契約解除は撤回できません。契約の解除は、民法540条で以下のように規定されます。
(解除権の行使)
第五百四十条 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
2 前項の意思表示は、撤回することができない。
契約解除と解約の違い
契約解除には、法定解除と約定解除があり、法定解除を行うには、相手方の債務不履行や法定解除事由など「法律で定められた理由」が必要です。一方、約定解除は契約で定められた解除条項の事由に該当することが必要です。
これに対し解約は、当事者間の合意に加え、契約の解約条項に基づいて当事者の一方的な意思によって行われる任意の契約終了を指します。解除と解約の違いは「法的効力」です。契約解除は、原則として契約が当初からなかったことになる遡及効があり、原状回復義務が生じます(民法第545条)。
一方の解約は、解約時点から将来に向かってのみ効力が生じ、解約前までの契約関係は有効のままです。
契約解除と無効の違い
契約解除と無効の違いは、「法律行為に効果が認められるか否か」という点です。契約解除は、いったん有効に成立した契約を、その後に生じた事情によって終了させるものです。つまり、契約の成立時点では有効な契約だったという前提があります。
これに対し契約の無効は、契約が最初から法的効力をもたないことを意味します。たとえば、公序良俗に反する内容の契約や、意思表示が真意でない心裡留保がある場合などは、そもそも契約自体が無効です。無効な契約は最初から法的拘束力がないため、当事者は契約の履行義務を負いません。
契約解除は当事者の意思表示によって行われますが、無効は当事者の意思表示がなくても法律上当然に無効である点も異なります。
契約解除と取消しの違い
契約の取消しは、契約成立時に錯誤・詐欺・強迫などの瑕疵があった場合に、その影響を受けた取消権者が契約を無効にできる権利です。取消しは契約締結時点において、取消権者の意思表示に問題があったことを理由とした契約の無効です。契約締結後の債務不履行など、後発事象を理由に効力が消滅する契約解除とは異なります。
また取消しは、契約が当初から無効であったことになる点で契約解除と似ていますが、取消権には時効が設定されている点や、追認によって瑕疵が治癒される可能性がある点に違いがあります。
民法で売買契約の契約解除が認められる要件
民法上、売買契約の契約解除が認められる要件には「法定解除」と「約定解除」の2つがあります。以下で詳しくみていきましょう。
法定解除
法定解除とは、民法に規定された一定の条件を満たす場合に、契約当事者が一方的に契約を解除できる制度です。おもに相手方の債務不履行(契約違反)があった場合に認められ、例として民法第541条と第542条に定められています。
たとえば、売主が約束した商品を納期までに引き渡さないといった債務不履行があった場合、買主は民法第541条に基づいて契約を一方的に解除することが可能です。また、履行が完全に不可能となった場合は、催告を要せずに解除できると定められています(民法第542条)。
ただし、債務不履行の原因が債権者側にある場合には、法定解除は認められません(民法第543条)。
参考:e-Gov 法令検索 民法第五百四十一条
参考:e-Gov 法令検索 民法第五百四十二条
参考:e-Gov 法令検索 民法第五百四十三条
約定解除
約定解除とは、契約当事者が契約締結時にあらかじめ合意した条件に基づいて、契約を解除できる制度です。たとえば「納品が1日でも遅れた場合は解除できる。」といった具体的な文言を契約書に盛り込めば、法定解除の要件に該当しない軽微な違反であっても解除できます。
また、違約金の支払いによっていつでも解除できる解約手付(民法第557条)や、損害賠償の金額についてもあらかじめ契約条件に盛り込むことが可能です。
民法改正による契約解除の変更点
2020年の民法改正では契約解除の要件や効果に関するルールが見直され、明文化されました。改正前は解釈に委ねられていた部分が明文化されたことで、実務上の判断基準がわかりやすくなっています。改正のおもなポイントは以下の2点です。
- 解除の要件から債務者の帰責性を削除
- 催告解除・無催告解除の要件が明確化
それぞれについて、以下で解説します。
解除の要件から債務者の帰責性を削除
改正前民法において契約解除が認められるためには、債務者に責任(帰責性)があることが前提とされてきました。しかし2020年に施行した改正民法では、帰責性の要件が削除され、債務不履行があれば帰責性の有無にかかわらず契約解除が可能です。つまり、債務者に帰責事由(故意や過失)がなくても、客観的に債務不履行の状態があれば、契約解除は可能です。
改正の背景には、契約解除の本質的な機能が「契約の拘束力からの解放」にあるという考え方があります。相手方が債務を履行しない状況では、その理由が故意・過失によるものかどうかにかかわらず、契約の目的を達成できないため、契約から離脱する権利を認めるべきという発想です。
ただし、解除によって損害賠償が生じるかどうかは、依然として帰責性が必要とされているため、解除の可否と損害賠償の可否は別に検討する必要があります。
催告解除・無催告解除の要件が明確化
催告解除とは、相当期間を定めて相手方に債務履行を促したあとに行う解除であり、無催告解除は催告なしに直ちに行える解除を指します。改正前の民法では、契約解除に先立ち「催告」が必要とされる場合が多く、その具体的な要件や例外が明確に定まっていませんでした。
これに対し改正民法では、催告解除や無催告解除の要件が条文上で整理され、どのような場合に催告が必要か、あるいは不要かについて実務上の扱いがわかりやすくなりました。
■ 新民法における催告解除が可能なケースと例外(民法第541条)
原則 | 「相当の期間を定めて履行の催告をし、その期間内に履行がないとき」に解除できる。 |
---|---|
例外 | 契約及び取引上の社会通念に照らして「軽微な不履行」に対する催告解除は認められない。 |
■ 新民法における無催告解除が可能なケース
- 債務の全部の履行が不能(542条1項1号)
- 債務の一部の履行が不能(542条2項1号)
- 債務者がその債務の全部の履行を拒絶(542条1項2号)
- 債務者がその債務の一部の履行を拒絶(542条2項2号)
- 債務の一部の履行が不能で、残存部分のみでは契約目的を達しない(542条1項3号)
- 債務者がその債務の一部の履行を拒絶し、残存部分のみでは契約目的を達しない(542条1項3号)
- 債務履行期限の経過(542条1項4号)
- 催告をしても契約目的を達するに足りる履行がされる見込みがない(542条1項5号)
参考:e-Gov 法令検索 民法第五百四十一条
参考:e-Gov 法令検索 民法第五百四十二条
契約解除の効果
契約解除が成立すると、契約は遡って消滅し(遡及効)、当事者は互いに原状回復義務を負うほか、場合によっては損害賠償請求も発生します。これは、解除によって契約関係がなかったことになるため、契約成立後に生じていた法律効果を元に戻す必要があるためです。ここでは、解除の効果について解説します。
契約の消滅
契約解除が行われるとその契約は効力を失い、原則として契約時に遡って消滅したものとみなされます。例外として、継続的契約(賃貸借契約、雇用契約など)の場合は、将来に向かってのみ効力が消滅し、過去の効力はそのまま有効です。いずれの場合も、解除により契約上の拘束力が解消されるため、債務の履行義務も消滅します。
ただし契約解除によって消滅するのは、本来の契約上の権利義務関係のみです。契約書に定められた秘密保持義務や競業避止義務など、解除後も存続すると定められた条項(存続条項)については、解除後も効力が続くことがあるため注意しましょう。
原状回復義務
契約解除が行われると、当事者は互いに受け取ったものを返還する「原状回復義務」を負います(民法第545条1項)。たとえば売買契約が解除された場合、売主は代金を返金し、買主は商品を返還しなければなりません。
使用によって価値が減少した場合や返還が不可能な場合には、代替物やその価値に相当する金銭で返還する必要があります。2020年の民法改正では、原状回復の範囲が「受領した利益」に拡大され、金銭を受け取っていた場合の利息なども含まれることが明確になりました(民法第545条2項)。
なお、解除前に契約目的物を善意の第三者が取得していた場合、その第三者の権利は保護され、原状回復義務の対象外です。たとえば売買契約が解除されても、その前に第三者に転売されていた場合、売主は直接その第三者に返還を求めることはできません(民法第545条1項)。
損害賠償請求
契約解除に加え、相手方に過失や債務不履行があった場合には、損害賠償請求も可能です(民法第545条4項)。つまり、契約解除と損害賠償請求は両立する別個の権利といえます。
たとえば、納期遅延や品質不良などにより契約を解除した場合、発生した損失について、契約解除とは別に損害賠償請求が認められる場合があります。ただし、損害賠償請求は相手方に帰責事由(故意・過失)があることが要件とされ、契約解除が成立したからといって、必ずしも損害賠償が認められるわけではありません。
契約解除の流れ
民法における契約解除は、以下の2つの手順を踏めば法律上有効に成立します。
- 相手方に対する債務履行の「催告」
- (履行がない場合)相手方へ「解除の意思表示」
契約解除の手続きや通知方法について、詳しく解説していきます。
履行の催告をする
契約解除の第一ステップは、相手方に対して契約上の義務を果たすよう「履行の催告」を行うことです(無催告解除の場合を除く)。
債務不履行などの法定解除を求める場合、まず相手方に対して相当の期間を定めて履行を促す催告が原則要件とされます(民法第541条)。商品を納品しない売主に対し「〇日以内に納品してください。」と書面で通知するケースが典型例です。この催告にもかかわらず履行がなされない場合、契約解除の正当な理由が生まれます。
催告の方法は、口頭やメールでも有効ですが、後々のトラブルを防ぐために、書面(催告書)を作成して内容証明郵便などで送付することが望ましいでしょう。
契約解除通知書を作成して意思表示を行う
催告期限までに相手方の債務履行がなければ、解除の意思表示を行うことで契約解除の効果が発生します。解除の意思表示は一方的に行えるため、相手の同意は不要です。
契約消滅の効果は、解除の意思表示が相手方に到達した時点で自動的に発生します。その後、原状回復や損害賠償の手続きへ進みます。
意思表示の方法は、口頭でも書面でも有効ですが、書面(契約解除通知書など)で行い、内容証明郵便を利用するのが一般的です。
契約解除通知書の書き方
民法上、契約解除の効力は、相手方への意思表示によって発生します。意思表示の方法に特段の定めはありませんが、効力発生の証拠や後のトラブル防止のため「契約解除通知書」を作成して書面で通知するのがおすすめです。
契約解除通知書に決まった書式はありません。ここでは、最低限記載すべき項目をご紹介します。
<契約解除通知書の記載項目例>
- 契約当事者の特定
- 解除対象となる契約の特定
- 契約締結日
- 解除の理由
- 解除日
- 解除の意思表示
契約解除通知書の書き方は以下の記事で詳しく解説しています。ぜひご覧ください。
契約解除ができない事例
契約解除は無条件に行えるものではありません。民法上の要件を欠く場合には、契約解除が「無効」と判断される場合があるため、注意が必要です。ここでは、契約解除ができない2つの事例をご紹介します。
契約違反が軽微なケース
債務者の契約違反が「軽微」な場合には、契約解除ができない旨、2020年民法改正により明文化されました(民法541条)。したがって、相手方の債務不履行や契約内容の重大違反といった要件を満たさなければ、契約解除は認められません。
たとえば、100万円の商品購入契約で数百円分の付属品が不足している場合や、納期より1日程度の遅延で実質的な損害が生じていない場合などは、社会通念上「軽微な不履行」と判断される可能性があるでしょう。軽微な不履行と判断されれば、法定解除要件を満たさず契約解除が認められないことがあります。
当事者自身にも債務不履行があるケース
2020年民法改正では、契約解除を求める当事者自身に債務不履行などの帰責事由がある場合、契約解除ができないと明文化されています(民法543条)。つまり、相手方の不履行について自分にも責任がある場合は、契約解除が制限されます。解除を主張する側にも原因がある場合は、契約解除の正当性が認められなくなるためです。
一方的に契約解除ができるクーリング・オフ制度とは
クーリング・オフ制度とは、消費者が一定の条件下で締結した契約について、無条件で一方的に解除できる制度です。訪問販売や電話勧誘販売など、消費者が冷静な判断をしにくい状況で、契約締結した際の救済措置として設けられています。
クーリング・オフ制度は、民法の一般的な契約解除とは異なり、特定商取引法や割賦販売法などに基づいて、債務不履行や契約違反がなくても解除が可能です。契約解除できる期間内であれば、書面または電子メールなどで通知することで解除が成立し、違約金や手数料も必要ありません。
クーリング・オフ制度については以下の記事で詳しく解説しています。
契約解除を検討する際には専門家へ相談を
社会生活を営むうえで「契約」は日常的に発生する法律行為です。契約の解除とは、有効に成立した契約を一方の当事者の意思表示によって遡及的に消滅させる制度を指します。
契約解除に関する知識を深めることは、万が一の契約トラブルに備えるために有効でしょう。とくに契約解除が認められるための要件や、解約、無効、取消しとの違い、解除の手順を理解しておくことが、不当な契約から自己を守るために欠かせません。契約解除の可否は、個別事情によって判断される場合もあるため、わからない点や不安な点があれば専門家への相談をおすすめします。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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