- 作成日 : 2025年4月8日
仮名加工情報とは? 匿名加工情報との違いや具体例をわかりやすく解説
仮名加工情報は、一定の措置を講じて個人情報を加工し、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないようにした情報です。原則、第三者提供が禁止されている点や、他の情報と照合すれば特定個人を識別できる点で匿名加工情報とは異なります。
本稿では、仮名加工情報は個人情報かという点から匿名加工情報との違いまで、具体例を挙げてわかりやすく解説します。
目次
仮名加工情報とは
仮名加工情報は、個人情報を加工して、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないようにした個人に関する情報です。
氏名や生年月日など一般的な個人情報の場合は、当該個人情報に含まれる記述などの一部を削除することで仮名加工情報とすることが可能です。一方、個人識別符号(運転免許証、マイナンバー、パスポートなど個人に割り振られた番号)を含む個人情報を仮名加工情報とするためには、個人識別符号のすべてを削除しなければなりません。
改正個人情報保護法で仮名加工情報が新設
2022年改正個人情報保護法が施行され、仮名加工情報という概念が新設されました。
その背景としては、事業者等が、個人情報の取扱で安全性を確保しながらも、加工をしていない元データと同程度の精度を保って利用・分析したいというニーズが高まっていたことが挙げられます。
個人情報を、特定の個人を識別することができないように加工した匿名加工情報の制度はすでにありました。しかし、匿名加工の基準が厳格で利用が容易でなかったり、匿名加工情報のデータとしての有用性が、加工前の個人情報に劣っていたりするなど、イノベーションの促進の観点から問題があるとされてきました。
そこで、改正個人情報保護法は、個人情報から記述の一部(氏名等)を削除した「仮名加工情報」を創設し、原則第三者提供をせず内部分析に限定することを条件に、より精度の高いデータ活用を可能にしました。
仮名加工情報の具体例
仮名加工情報の利活用の事例としては、以下のものが考えられます。
- オンライン通信販売事業を行う事業者Aが、オンライン通信販売で取得していた個人情報について、仮名加工情報を作成し、ある地域において、どの顧客層がどの商品に関心があるのかを分析するなど、実店舗の出店をする検討用のデータとして利用目的を変更するような事例
- 医療機関Bが診療目的で取得した患者のMRI画像を加工・作成した仮名加工情報について、利用目的を「AI開発目的」に変更した上で、医療用画像処理のAI研究用データとして用いるような事例
- 金融機関Cが個人向けローンの審査を目的に取得した顧客の個人情報から作成した仮名加工情報について、利用目的を「与信審査AI開発目的」に変更した上で与信審査AIの学習用データとして用いるような事例
仮名加工情報は個人情報ではない?
そもそも仮名加工情報は、「個人情報を復元することができないようにしたもの」に加工することは要求されていません。仮名加工情報が個人情報であるかどうかは、仮名加工情報取扱事業者が保有する情報を用いることで、特定の個人を識別できる情報に復元できるかどうかで判断は分かれます。
仮名加工情報取扱事業者とは、仮名加工情報を含む情報を体系的に構成し、特定の仮名加工情報を検索できるようにしたデータベースなどで事業用に利用している者をいいます。
個人情報である仮名加工情報
他の情報と照合することで、特定の個人が識別できる可能性がある仮名加工情報を仮名加工情報取扱事業者が有している場合には、その仮名加工情報は個人情報に該当します。
仮名加工情報の作成元となる個人情報および、その個人情報から削除された記述や加工方法などの情報(削除情報等)を仮名加工情報取扱事業者が保有していれば、仮名加工情報は「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別できる」状態にあるため、個人情報に該当します。
個人情報でない仮名加工情報
仮名加工情報を作成した別の事業者から仮名加工情報の提供を受けた仮名加工情報取扱事業者は、作成元となる個人情報を自ら保有しているわけではないため、「他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができる」状態になく、個人情報には該当しません。
ただし、当該仮名加工情報の作成元となる個人情報や削除情報等をもともと保有している場合は、個人を特定できる情報への復元が可能な状態となるため、個人情報に該当します。
仮名加工情報取扱事業者等の義務
仮名加工情報取扱事業者の取り扱う仮名加工情報が、個人情報か個人情報でないかによって、仮名加工情報取扱事業者等が負う義務は大きく異なります。
また、そもそも仮名加工情報が仮名加工情報データベース等を構成しない情報であるような場合には、その情報を取り扱う事業者は仮名加工情報取扱事業者等にあたらず、本章に記載する義務を負うこともありません。
仮名加工情報データベース等とは、特定の個人情報が以下の状態にあることを指します。
- コンピュータを用いて検索できるように体系的に構成されている状態
- 目次や五十音順の索引を付して個人情報を一定の規則に従って整理することにより、特定の個人情報を容易に検索できるよう体系的に構成されている状態
仮名加工情報データベース等により仮名加工情報を取り扱っている事業者は、以下の義務を負うことになります。
仮名加工情報を作成する個人情報取扱事業者の義務
仮名加工情報を作成する個人情報取扱事業者が負う義務は、以下の2つです。
仮名加工情報の適正な加工
個人情報保護法施行規則が定める以下の3つの加工基準に従って、個人情報を加工しなければなりません。
- 特定の個人を識別できる記述等の削除
- 個人識別符号の削除
- 不正に利用されることにより財産的被害が生じるおそれがある記述等の削除
また、仮名加工情報の性質に応じて、適用を受ける加工基準が変わる点にも注意が必要です。
仮名加工情報および削除情報等の安全管理措置
仮名加工情報および仮名加工情報に関する削除情報等について、施行規則で定められた基準に従って安全管理措置を講じなければなりません。
個人情報である仮名加工情報の取扱に関する義務
個人情報である仮名加工情報の取扱に関する義務は以下の通りです。
- 特定した利用目的(法17条1項)の達成に必要な範囲を超えた仮名加工情報の取扱は原則禁止
- 原則として、仮名加工情報を取得した場合は、その利用目的について速やかな公表をする義務(仮名加工情報作成者には、利用目的の公表義務はありません)
- 利用する必要がなくなった場合のデータの削除
- 委託、事業の承継または共同利用など提供先が第三者に該当しない場合を除き、仮名加工情報である個人データを第三者に提供は禁止
- 本人を識別する目的で仮名加工情報と他の情報を照合する行為の禁止
- 本人への連絡をとるために仮名加工情報に含まれる情報を利用することの禁止
- 保有する仮名加工情報が個人情報である以上、通常の個人情報・個人データと同様、以下個人情報の保護に関する法律の規定が適用されます。
- 不適正利用の禁止(法第19条)
- 適正取得(法第20条第1項)
- 安全管理措置(法第23条)
- 従業者の監督(法第24条)
- 委託先の監督(法第25条)
- 苦情処理(法第40条)
個人情報でない仮名加工情報の取扱に関する義務
個人情報でない仮名加工情報の取扱に関する義務は以下の通りです。
- 第三者提供の禁止等
- 識別行為の禁止
- 本人への連絡等の禁止
- 安全管理措置
- 従業者の監督
- 委託先の監督(委託先に仮名加工情報を提供する場合)
- 苦情処理
安全管理措置については、仮名加工情報の漏洩の防止等安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければなりません。
苦情処理については、仮名加工情報の取扱に関する苦情を適切かつ迅速に処理する努力義務が課せられます。また、苦情処理窓口の設置などの体制整備に関する努力義務もあります。
仮名加工情報と匿名加工情報の違い
匿名加工情報とは、個人情報を特定の個人を識別することができないように加工して得られる個人に関する情報であり、かつ、個人情報を復元しても特定の個人を再度識別できない状態にしたものをいいます。復元できないようにするまで加工しなければならない点に、仮名加工情報との違いがあります。
適切な加工方法
匿名加工情報を作成する際には、以下5つの加工基準に従って、個人情報を加工しなければなりません。
- 特定の個人を識別できる記述等の削除
- 個人識別符号の削除
- 情報を相互に連結する符号の削除
具体的には、分散管理している氏名等の情報と購買履歴(匿名加工情報)の2つの情報を、管理用IDを付すことによって連結している場合、その管理用IDを削除する場合などが挙げられます。 - 特定の個人を識別できる記述等に至り得る程度の特異な記述等の削除
例)年齢110歳など、国内に数えられる程度しか存在しない情報など - その他の措置
必要に応じた項目削除・レコード削除・セル削除など
1、2については仮名加工情報と同様ですが、3~5は匿名加工情報特有の加工基準となります。
利用目的の制限等と作成時の公表
仮名加工情報の場合には、利用目的による制限がありましたが、匿名加工情報にはありません。
また、匿名加工情報の場合は、匿名加工情報の作成が完了した時点で、当該匿名加工情報に含まれる個人に関する情報の項目を公表しなければなりませんが、仮名加工情報は公表の義務はありません。
例えば、個人情報である「氏名、性別、生年月日」のうち、氏名を削除し、生年月日を生年のみにするなどの加工をした場合、「性別、生年」が匿名加工情報として公表すべき個人情報の項目となります。
利用する必要がなくなった場合の消去
仮名加工情報の場合、利用目的を達成するなどして、当該仮名加工情報を利用する必要がなくなった際には、仮名加工情報取扱事業者は、当該仮名加工情報を削除する努力義務がありましたが、匿名加工情報にはそのような義務はありません。
また、匿名加工情報には、仮名加工情報の場合と異なり、本人への連絡等が禁止行為として定められていません。これは匿名加工情報である以上、本人を識別しようがなく、連絡をしようとしてもできないからであると考えられます。
その他、識別行為の禁止と苦情処理の規定は、仮名加工情報と匿名加工情報のどちらも同じ内容で適用されます。
第三者提供時の同意取得
仮名加工情報では、例外要件を満たさない限り第三者提供が禁止されていました。
一方、匿名加工情報は、以下の2つの要件を満たせば第三者提供が認められます。
- 提供する情報の項目および提供方法について公表する
- 提供先に提供する情報が匿名加工情報である旨を明示する
提供する情報の項目は、匿名加工情報の作成完了時に公表しなければならない情報の項目と同様の考え方です。
提供方法の例としては、「第三者が利用できるようにサーバーにアップロードする」などと公表することが考えられます。
仮名加工情報の加工事例
仮名加工情報の正しい加工事例として、以下2例を紹介します。
氏名・住所・生年月日など個人情報の加工
氏名、住所、生年月日が含まれる個人情報を加工する場合、以下3つの加工方法が考えられます。
- 氏名をすべて削除する。
- 住所を削除する。または、○○県△△市と広い範囲にとどめる。
- 生年月日:生年月日を削除する。または、日を削除し、生年月までにとどめる。
自社顧客に関する個人情報の加工
自社顧客に関する個人情報に関して、例えば、会員ID、メールアドレス、顧客がアクセスしたウェブページ URLが含まれる個人情報は、以下の加工が考えられます。
- 会員ID単体で、特定の個人を識別することはできないものの、識別禁止に該当する可能性を減らすために、仮名加工情報を利用する目的達成に不要であれば削除したり、削除した上で整理番号を付したりする
- メールアドレスは個人を識別できる情報を含む場合があるため、削除が望ましい
- 顧客がアクセスした自社ウェブページ のURLについては、他の2つの情報を紐づけても特定の個人を識別できないため、そのままで利用することができる
規制のポイントをおさえつつ仮名加工情報を活用しよう
仮名加工情報の作成は、適切に個人情報を加工することで可能です。仮名加工情報取扱事業者に適用される規制で注意すべき点としては、第三者提供が原則禁止であることと、仮名加工情報が個人情報であるかどうかという点です。仮名加工情報が個人情報であるかどうかにより、適用される規定が異なります。
仮名加工情報はわかりにくい概念といえます。ですが、匿名加工情報よりも加工基準が緩和されているため、データ利活用の点からも、仮名加工情報を適切に活用し、事業活動に役立てていきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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