- 作成日 : 2025年3月25日
民法177条とは?第三者の範囲や物権変動の対抗要件についてわかりやすく解説
民法177条とは、第三者に対して不動産の権利を主張するためには登記が必要であることを定める条文です。不動産を取得したときや喪失したとき、あるいは権利を変更したときは、都度登記手続を実施し、第三者に権利を主張できるようにしておかなくてはいけません。民法177条が適用されるケースや関連する判例を紹介します。
目次
民法177条とは
民法177条とは、不動産に関する物権の変動の対抗要件を定める条文です。
【民法177条】
第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
条文中の「不動産登記法」とは不動産登記のルールを定めた法律です。不動産の登記制度自体は明治時代から存在しましたが、2004年に全面的に改正され、2005年から現行の不動産登記法が施行されました。
同法では、登記に必要な権利や登記順位、登記手続き、登記できる事項などについて定めています。なお、登記手続きとは、不動産やその所有者についての情報を法務局に登録することです。登記手続きを実施することで、不動産に関する情報を不特定多数の人々と共有でき、情報が確かなものとして証明されます。
民法177条の概要
民法177条の1つ前の176条では、「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる」と定めています。物権、つまり物に対する権利は、当事者が言葉や文章で意思表示さえすれば効力が生じることになります。例えば、Aが所有する宝飾品を「Bにやる」と口約束すれば、その宝飾品の権利はBにあるといえるのです。
他方で、民法177条では「不動産に関する物権の得喪及び変更は(中略)その登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と定められています。不動産の権利移転も当事者間では口約束で可能です。ただ、その権利移転を当事者以外の第三者に主張するためには登記が必要であるということです。上記の例でAが所有する不動産(土地)を「Bにやる」と口約束した場合、AとBの間では土地の権利はBにあると言えますが、Bが第三者Cに権利を主張する場合にはその土地の登記を備える必要がるということです。
不動産の物権変動の対抗要件を定める
民法177条では、不動産に対する権利が変動したときは、登記手続きの実施により「対抗」できることが定められています。対抗とは、簡単にいえば主張することです。「建物の権利を譲渡したこと」や「土地の権利を有していること」など、不動産に関する権利を主張するには、対抗要件、つまり主張するための要件を満たさなければいけません。
不動産の対抗要件は登記です。登記手続きを実施することで対抗要件を満たし、第三者に権利を主張することが可能になります。
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民法177条が適用されるケース
民法177条は、不動産の権利を主張される場面で適用されます。例えば、以下のようなケースでは、民法177条に基づいた手続きや判断が実施されます。
- 二重譲渡
- 権利侵害
各ケースにおいて、どのように民法177条が適用されるのか見ていきましょう。
二重譲渡
二重譲渡とは、同一の物を複数人に譲渡することです。例えば、AがBに不動産を譲渡した後で、Cにも同一の不動産を譲渡するなら、二重譲渡が実施されたと考えられます。
民法177条により、不動産の権利は登記によって対抗要件を備えることが定められているため、譲渡の際に登記を実施したかどうかが二重譲渡の解決を導く鍵となります。AがBに不動産を譲渡したときには登記手続きをせず、Cに不動産を譲渡したときに登記手続きを実施していたなら、原則として、登記を備えたCが登記のないBに対して所有権を主張できることになります。
ただし、AがBに不動産を譲渡したことをCが知ったうえで、Bに高額で売りつけてやろうとの目的でAから不動産の譲渡を受けたなど場合は、信義則に反すると判断されるためBはCに対抗できるとされています。この例のCのような人を「背信的悪意者」と表現することもあります。
なお、AがBに不動産を譲渡した際には登記手続きを実施し、Cに譲渡した際には登記手続きを実施していないなら、二重譲渡には相当しないため当該不動産の権利はBが有すると判断することが一般的です。AがBに不動産を譲渡して登記手続きを実施し、BがCに当該不動産を譲渡して登記手続きを実施した場合も、当然ながら二重譲渡には相当せず、Cが不動産の権利を有すると判断されます。
権利侵害
不動産の所有権が侵害されるケースでも民法177条の適用があります。ただし、民法177条が適用されるのは、登記の有無を主張しうる正当な利益を有する第三者との間だけです。
例えば、Aが所有する建物をCに賃借させている状態で、AがBに建物を売却した場合を考えましょう。Bからみると、建物に占有者Cがいることで所有権が侵害されている、所有権に基づいてCに退去を求めるということが考えられますが、この場合にBがCに対して所有権を主張するためには民法177条により登記を備える必要があります。このケースでのCは、賃借人として所有者に対して登記の有無を主張しうる正当な利益があるためです。
一方で、正当な利益がない者に対しては、民法177条は適用されず、登記を備える必要はないとされています。例えば、上記のAがBに建物を売却した例で、Cが無断で建物を占拠している者(不法占有者)である場合、BはCに対して所有権に基づいて建物の退去を求めることが考えられますが、この場合に民法177条は適用されません。Cには建物に対する正当な権限がないので、民法177条の「第三者」には当たらないためです。
民法177条において登記は物権変動が生じる要件?
民法177条では、登記により不動産の物権を主張できることが定められています。不動産を取得したときや手放したとき、所有する不動産を担保として設定したときなど、不動産の権利に関わる事柄が変動したときは、速やかに登記手続きを実施することが必要です。
登記は物権変動の対抗要件
不動産の物権が変動したときは、速やかに登記手続きをしなくてはいけません。ただし、登記手続きをすることで物権が変動するのではなく、物権が変動したことを証明する手続きが登記である点に注意が必要です。
登記は、不動産の物権を第三者に主張するための対抗要件です。そのため、登記手続きを実施しなくても不動産を譲渡・譲受できますが、「譲渡した」「譲受した」ことを第三者に主張するときには登記が必要になります。
民法177条における「第三者」とは
一般に民法における「第三者」とは、当事者と包括承継人以外の者を指します。民法177条は不動産の権利に関する条文のため、「第三者」は、当事者と包括承継人以外で、なおかつ不動産の物権を主張する者を指すと考えられます。
| 第三者にあたる者 | 第三者にあたらない者 |
|---|---|
|
|
なお、ここでいう当事者とは、物権変動により直接影響を受ける者のことです。例えば、不動産の所有者や、物権を担保に融資を実施している金融機関などは当事者にあたると考えられます。
また、包括承継人とは、権利義務を一括して承継する者のことです。当事者が個人であれば相続人、法人なら合併会社などが包括承継人に相当します。
民法177条に関連する判例
最高裁判所での判決においても、民法177条が争点となりました。以下は、最高裁平成8年(1996年)10月20日判決(判例時報1609号108頁)の事例です。
愛媛県のある土地は元々Aが所有していたものです。BはAから土地を買い受けましたが、登記手続きに手違いが生じて未完のときに、CもAから当該不動産を買い受け、さらにDがCから当該不動産を買い受けて登記手続きを完了しています。
登記上はDが当該不動産の所有者ですが、Bは物権を主張したことから裁判が始まりました。裁判の過程で、CはBがすでに代金を支払っていることを知りながら登記手続きが未完であることを利用し、不当に当該不動産を入手したことが明らかになりました。一方、Dについては、Bの不動産登記手続きが未完であることや、未完に至った過程などを知っていたかどうかは明らかではありません。
そのため、DもCが不当に当該不動産を入手したことを知っていた背信的悪意者と評価されるのではない限り、Dは所有権取得をもってBに対抗できるという判決が下されました。裁判のポイントは以下の2点です。
- 登記手続きを完了しているか
- 不動産の物権に関するトラブルを把握しているか
Dは登記手続きを完了しているため、背信的悪意がない限り、自身の所有権を主張できます。しかし、Bは登記が未完であったため、CとDの双方に背信的悪意があることを証明し、なおかつAがBに当該不動産を譲渡したことを示さない限り物権を主張できません。
また、登記手続きを完了していたとしても、登記の際に生じたトラブルをあらかじめ理解してあえて知った事実を隠して登記を実施した場合は、物権を主張する権利を失うことがあります。この事例ではCはBの手続きが未完であることを悪用したことが明白なため、物権を主張する権利を有しません。
不動産の登記手続きを適切に実施しよう
不動産の権利を第三者に主張するには、登記手続きが必要です。正当な代金を支払ったとしても、登記手続きが完了していない場合は、物権を第三者に主張できない恐れがあります。
また、不動産の譲渡・譲受を実施する前に登記内容を確認しておくことも大切です。重大なトラブルがあることを知りつつ、登記手続きに進んでしまうと、当事者自身がトラブルに巻き込まれることになりかねません。場合によっては正当な代金を支払ったにもかかわらず、物権を主張できない恐れもあるため、登記内容を精査し、慎重に売買するようにしましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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